Menu
 > 作品
 > ミ行
 > ミツバチのささやき
 > アラジン2014さんのレビュー
ミツバチのささやき のクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 ミツバチのささやき
製作国スペイン
上映時間99分
劇場公開日 1985-02-09
ジャンルドラマ
レビュー情報
《ネタバレ》 録画されていたのでスクリーンにて再見、やはりこの映画はよく出来ています。博識な人、そうでない人、またストレートな見方をする人も、、いかようにも解釈可能な映画に仕上がっているのはまさに奇跡の映画といって差し支えないと思います。この作風はフランコ独裁下での検閲回避の妙案だったと思うのですが、結果的にこの回りくどい作風のおかげで50年が過ぎた今見ても色褪せていません。ミニシアター系の先駆けとしてもこの映画は高く評価されていますが、実際、音と字幕を消して映像だけ流してもイケますし、幼い姉妹二人を見ているだけでも99分持ちます。
この映画ではどのシーンも肌寒く寂しいですが、これはやはり市民戦争で国が二分した後に発足したフランコ独裁体制の歪さを表しているのでしょうか。時代設定は1940年と丁度第二次世界大戦真っ只中のヨーロッパ。フランコ政権といえば悪名高きドイツのファシズムに近いものがあったとされており、その恐怖感たるや凄まじいものだったと推察します。

この映画が上手いのはアナ(アナ・トレント)と、姉イサベル(イサベル・テリェリア)らの純粋な表情を正しく記録している点です。例えばアナが映画「フランケンシュタイン」を真剣に見ている表情だったり、キノコの話などを真剣に聞いている表情など心底素晴らしいです。また、アナの精神的な成長と死への葛藤に、映画「フランケンシュタイン」を絡ませた点も素晴らしく、もの心がつくギリギリの頃の幼少期のピュアな感情が上手く表現されています。精霊だと信じたアナが姉の嘘を真に受けて小屋に通い、そして本当に出会うのです。この映画が唯一無二な点がここにあります。畳みかけるようなその後の展開がドラマチックで、毒キノコとフランケンシュタインのエピソードが上手く重なり合い綺麗に伏線回収されます。
子供らのシーンは本当に素晴らしく、ここに書ききれないほど。列車のシーン、猫のシーン、火のシーン、アナが井戸の周りで行う儀式めいたシーン、石鹸のシーン、ミルクを飲むシーン、もちろん小屋でアナが隙間から精霊をのぞいているシーンの愛らしさったら!

子供への演出もさることながら、大人のほうもフランコ独裁を声高に否定せずとも静かにかつ情緒的な演出が上手く使われています。序盤、母テレサ(テレサ・ヒンペラ)が手紙を書いて自転車で駅へ向かうシーンはとても印象深いです。手紙の内容は明らかに負けた側の視点で、逃げ延びた友人か家族か同志に宛てた手紙であることが判ります。終盤返事が届いた手紙を読んで不自然に封筒へ戻したうえで燃やすシーンも、【K&K】さんご指摘の通り確かに切手が見えるように燃やしていますので何かの意図があるようです。また、父フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)がミツバチの研究という体で詩的な録音を行っていますが、こちらもメーテルリンクの書物から慎重に言葉が選ばれていて意味深です。書いた文字を横線で無造作に消すシーンも、、まあ・・そういうことなのでしょう。
序盤は寝たふりをしていた妻が、終盤旦那を労わるシーンで前向きな印象を受けますし、同時にラストのアナの強いまなざしもまた未来への希望を抱かせつつ、この映画は幕を閉じます。本当に文句のつけようがない素晴らしい作品です。
アラジン2014さん [地上波(字幕)] 10点(2025-04-10 12:52:12)(良:1票) 《更新》
その他情報
作品のレビュー数 101件
作品の平均点 7.56点
作品の点数分布
010.99%
110.99%
210.99%
321.98%
443.96%
554.95%
687.92%
71918.81%
82524.75%
91716.83%
101817.82%
作品の標準偏差 2.06
このレビューの偏差値 55.74
※この作品のどの当たりの点数に位置するかを表した値
ミツバチのささやきのレビュー一覧を見る


© 1997 JTNEWS