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《ネタバレ》 この作品を初めて観た時に面食らったのは事実だ。設定だけ見ればSFアクション映画を想像させるし自分もそれを期待していたのだろう。ここまで娯楽性に欠ける作品とは思いもしなかったのだ。しかし同時にこの作品の影響下にある作品を多く観た後だったに関わらず今作の世界観や映像、美術の密度に圧倒されたのも事実なのだ。これだけ影響された作品が数多く輩出されて、現代がもう「ブレードランナー」のような世界ではないかと言われるようになっても今作の映像はちっとも古びていない。凄まじいことだ。スタッフの神がかり的な仕事ぶりとリドリー・スコットの妥協のない姿勢と映像センスの確かさだろう。観る度に稀有な作品だと思うようになった。
話はシンプルだ。主人公が依頼された仕事をなんとか完遂し惚れた女と逃げる。ハードボイルド探偵モノのフィルムノワールとして観た方がおそらくしっくりくる。映像はウェットな感覚だが物語や雰囲気はドライだ。面白いのは感情がないとされるレプリカントの方が感情豊かに描かれていること。彼らは仲間で行動し、愛する人もいて、寿命が短いことに怒り、仲間の死を嘆く。人間側のタイレルやおもちゃに囲まれているセバスチャン、主人公のデッカードの方が孤独に見える皮肉。彼らの違いは一体何なのか。 登場人物はどれも個性的だが演じる役者も適役ぞろいで良い演技を見せてくれる。リドリー・スコットの前作「エイリアン」もそうだった。映像がとかく注目されがちな作品だが人物の表情やしぐさ、感情の移り変わりを観察する作品だと思う。その中でも強烈な個性を放っているのはルトガー・ハウアーが演じたロイだろう。狂暴な中にも哀しさを同居させているようなキャラクターで肉感的でもあり詩的でもある。最後に服を脱ぎ捨てデッカードを追い回すシーンは彼の生命の最後の輝きを全身で表現しているようだ。人間を憎み人間に憧れ、そして最後に救う。雨に打たれ自分の記憶を語りながら命を散らせていく。美しい瞬間だ。人を人とたらしめているのは記憶なのだろうか。それが作られた移植された記憶だったとしても。デッカードはレイチェルと街を抜け出す。もう彼女の中には移植された記憶だけではない。惚れた男に愛し愛された記憶や想いがある。ほのかな切なさを漂わせる終盤は本当に秀逸だ。 自分が初めて観たのはディレクターズカット最終版だったのでエレベーターのドアが閉まって終わるラストの方がどちらかというと好みでしっくりくるのだが、劇場版や完全版のラストも味があっていい。暗い世界観から解放された感じがあって良いという声があるのも分かる。あとワークプリントを観て気づかされたのは想像以上にヴァンゲリスの音楽がこの作品の強い位置を占めているということか。黒澤明は映画は芸術形態としては音楽に似ていると言ったが、ヴァンゲリスの音楽が大袈裟にならない形でこの作品にうまく寄り添っていることがどれだけ幸運なことか思い知らされた。 【⑨】さん [ブルーレイ(字幕)] 9点(2017-10-29 17:36:58)(良:1票)
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