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《ネタバレ》 本作は痴漢の冤罪を扱った作品ですが、重きを置いているのは、痴漢ではなく冤罪の方。『やってない』事を証明することが、どれだけ難しい事か。そしてこの事件に関わる多くの人が『やっている』事が前提の対応をしてくる。
乗客の男性、駅員、刑事、留置所の警官、検事、判事。女子中学生が痴漢されたと言えば、周りは徹平が痴漢という“悪”であると決めつけて、正義の行いとして、どんどん徹平の立場を追い込んでいく。この、底なし沼に沈んでいくような怖さから、こちらの胃袋までキュッとしてきます。 希望が現れ、それが消えていく絶望感の演出が、えげつないですね。特に2点、被告に対しても公平で論理的。『正しい判決を出してくれそう』って言える大森判事の、突然の異動。その代わりの室山判事の、被告=有罪であることを最短距離で詰めてくるような恐怖。優しい笑顔で被告をどん底に叩き落す、被告とは住む世界が違う感じの冷徹さを感じました。 裁判官を演じた二人の俳優。一見冷たそうな正名さんに、一見優しそうな小日向さん。それぞれ、パッと見の印象と違う役柄を演じさせたのも巧いですね。 駅員室まで来てくれた目撃者の女性。駅員の杜撰な対応で姿を見失い、母親と親友の粘り強いビラ配りの結果、名乗り出てくれた勇気。証言も記憶も、客観的意見もしっかりしていて、観ていて『あぁ、これで助かった』って思った…にも関わらず。こんな重要で確かな証言が、参考意見程度に流されるなんて、絶望しかありません。 本作の主題は痴漢でなく冤罪の方。なので、真犯人も、真実も解りません。実際、徹平は痴漢をしていないのかは、最後のナレーションの通りだと思うし、須藤弁護士が最後まで担当を降りなかった事から、私たちの目には明らかです。 『十人の真犯人を逃がすとも 一人の無辜を罰するなかれ』優秀な弁護士。親身に動いてくれる親友。同じ冤罪の被告。証人。これだけの後押しがあっても、覆らない判決の恐ろしさ。痴漢の嫌疑をかけられた時点でもう、食肉にされる家畜と同じ運命ですね。 【K&K】さん [地上波(邦画)] 9点(2025-01-20 22:43:24)(良:1票)
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