みんなのシネマレビュー |
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ネタバレは禁止していませんので 未見の方は注意です! 【クチコミ・感想】
143.黒澤の時代劇が娯楽大作なら、これは時代劇サスペンスと言えるような作品。 お話はそのほとんどが武家屋敷の庭で展開されるという、まるで密室サスペンスのような作り。 あっと驚くようなヒネリやオチはないけど、仲代、三國の息詰まる心理戦、 緊迫感溢れる演技に引き込まれ、とにかく画面から目が離せない。 まさしくこれぞ役者!というような重厚な演技対決を存分に見せてくれる。 殺陣のシーンは今イチだが、この時代の武士としての体面や生き様などの描写も見所。 本当に面白い映画だった、という満足感を与えてくれるお薦めの作品である。 【MAHITO】さん [DVD(邦画)] 9点(2011-07-19 12:52:19)(良:1票) 142.《ネタバレ》 これを「重い」という向きがおおいですね。 最近の邦画作品と観客の鑑賞力双方のレベル低下を物語っていると思います。 本作は寧ろ「軽い」のだと思います。 状況とそれに由来する論理性をこれだけ図式的に徹底した劇もそうないでしょう。 (もっともそれすらおぼつかない奇をてらっただけの脚本が最近は多すぎますが・・・) 思考実験的ですらある設定と類型的なキャラクタ造形。 はっきりいって「デスノート」とかわりません。 逆にいえばそれこそが、本作が理知的だが「深み」にかけるゆえんだと思える。 最初に状況設定のポテンシャルでその後のコマ(登場人物)の動因をすべて まかなおうとする橋本忍らしい脚本だとおもいます。 本作は余計な要素をそぎおとして、フォルムとしてできるだけ簡素にしている ところが成功しておりその意味で美しく完成された作品だと思います。 (余計な要素は入りすぎて失敗したのが「砂の器」) 組織の問題性とか武士道の裏面とか、そんなテーマはお飾りにすぎない。 (そこらへんをもって「重い」と評するのは、映画になにか違うテーマ性を かさねあわせすぎだと思います) 本作は端的に非常に良くできた落語なんだと思います。 【ウンコマン】さん [DVD(邦画)] 9点(2008-04-15 00:19:16)(良:1票) 141.《ネタバレ》 いや、ホントに引き込まれるいい映画。白黒で古臭く、音響もほとんどない。でもまず脚本がうまい。回想でだんだんと真実がわかっていくのはホント上手。そして役者陣もみんな演技がうまい。 一応善悪はきちんと分かれているけど、ご家老によってきちんと事実がもみ消されてしまうのは「歴史は勝者が作る」にぴったり。家名の前には家臣もなんら意味を持たず「病死にしておけ」で終わりとは。 千々岩求女、最初と最後と全然違って見える。最初のはだらしない浪人だったけど、最後のほうは腰の座った人という感じが出ている。それにしても竹光で切腹は厳しい。痛そう。見てるこっちまで痛さが伝わってくる。多少しつこいし直接的描写だけど、あのぐらい描くからこそ悲劇性やその後の主人公への感情移入を容易にしているのであろう。 武士道はいろいろと本も出てて、いわゆる普通の武士道イメージと合戦の武士はかなり離れていたらしいが、そんな武士道の虚構性に着目していて、特にその中で切り捨てられていく浪人武士にスポットを当てている。「畳の上の水練」も、実際の合戦(だまし討ち、卑怯な手、はざら)と本の武士道(正々堂々)との差がよくわかる。津雲半四郎も最後はすべてを投げ打ってかかってくる。最後の殺陣はしつこすぎる感もあるけど、こうした思いを反映していると思えば納得できる。 この映画、カンヌでいい評価受けたらしいけど、やっぱり日本イメージを大きくねじ曲げたよね。やっぱ切腹シーン強烈だもの。 【θ】さん [DVD(邦画)] 10点(2007-07-11 20:24:58)(良:1票) 140.大傑作でした。奥の深い内容と、緻密に練られた構成。それと効果的なカメラワークと演出。どれをとっても最高級。もはや文句の付け所のない大傑作。カメラワークに関して言えば、ローアングルや俯瞰ショットの使いどころは最高。さらに、カメラを傾けて心理的な感情を表現するところや、絶妙な照明の当て方も抜群にうまい。小林監督の映画は始めてみるが、相当なテクニシャンであると思われる。武士の情けと誇りが複雑に入り乱れる仲代達也と三国連太郎の駆け引きも絶品。ラスト30分からのチャンバラシーンは、それまでの緊張感たっぷりの展開から一気に解き放たれるだけあって興奮しまくり!!まだまだ褒めるところは一杯あるけれども書きつくそうでないのでこの辺に・・・。10点! 【ジャザガダ~ン】さん [ビデオ(字幕)] 10点(2006-08-19 17:09:07)(良:1票) 139.《ネタバレ》 みなさまの評を読んでこれはと思い借りてみました。映画にかぎらず回想のなかから真実が立ち現れていくタイプの作品には名作が多いと思っていましたが、これは傑作中の傑作ではありませんか!脚本勝負で進行していた物語が、最後に渋い演出とはいえチャンバラになってしまったのがちょっと心残りですが、それをさっぴいてもあまりあるドラマ作りのうまさには昨日までこの作品のことを知らなかったのが信じられないほどの衝撃を感じました。この話にあっては善人たちのあまりの辛さに、普段ばかにしている勧善懲悪的なカタルシスを渇望してしまいました。しかし作り手がそうしなかったのは「作品のテーマを現在の我々のものとして肝に銘じておくべし」ということなのでしょう。このサイトのおかげでこんな名作に出会うことができました。文章が小学生になってすみません。それほどのショックでした。サイト管理者の方、それにこの作品を推しておられる全ての評者のみなさまに深く感謝する次第です。 【皮マン】さん [DVD(字幕)] 10点(2005-04-30 20:10:30)(良:1票) 138.冒頭の若浪士の切腹までは淡々と展開するが、仲代達也扮する主人公がかの若浪士を「いささか拙者の存じよりのものでな」とひときわ据わった声で語り始めるところから、物語の展開がガラッと変わる。そこからは一気に引き込まれた。回想シーンで語られる主人公の主家没落から家族がたどる悲哀の末路には、本当に心が痛む。歴史の影にはこうした悲劇はおそらく無数にあったのだろう。今でこそ努力次第でチャンスはいくらでも開けるが、当時は身分や階層という絶対に乗り越えられない壁が厳然とあったのだ。それゆえに主人公が「所詮うわべだけ」と語る武士の誇りの空しさが一層心に響く。「切腹」という世界的にも特異な作法をキーワードに、本作はその武士の空しさを存分に描いている。若浪士が家族のために自分の差料を竹に代えていたことを知った主人公が、自らこれだけは、と手放さずにいた刀を放り出し「こんなもののために・・」と絶句するシーンが圧倒的に胸に迫る。それにしても、どの役者も腹の据わった力のある台詞まわしで、圧倒された。今の役者に、いや今の時代にない力を感じる。見終わって、いい時代に生れて本当に良かったと思う反面、人間としての強さとは、と考えてしまった。 【田吾作】さん 9点(2004-10-10 12:09:07)(良:1票) 137.普段は構図とかカメラとかムツカシイことには疎いのだが、この作品に限っては最初から構図の美しさが印象的だった。井伊家の壮大な門構え、奥行きのある屋敷内の部屋などが直線的な端正さでもって描かれる。モノクロゆえ一層シンプルで際立っている。これはすでに言及されてるが切腹の庭でも同じ印象がある。話の運びも見事で説得力があり終始緊迫感を持って展開する。仲代達矢はじめ演じる俳優がまた素晴らしい。丹波哲郎などはこんなに 素晴らしかったのかと見直した。みな腰が落ちていかにも侍らしい構えと面構え。時代劇にありがちな聞きづらいセリフを言う者もない。とにかく全てが素晴らしいとしか言いようがない見事な時代劇。主家を取り潰され浪人となった侍は今で言えば倒産した企業のサラリーマンといったところで、しかも転職もままなら ないという困窮と悲哀は今にも通じるところがある。ここで家老のとった前後の処置は家名第一で、そのためには浪人はむろん家臣の命でさえ何ほどのものでもない。恐ろしいほどの見栄と残酷さが寒々しい余韻を重く残す。 【キリコ】さん 10点(2004-04-24 22:02:59)(良:1票) 136.重いがおもしろいという傑作時代劇です。薄気味悪い鎧かぶとが表われる冒頭から、ただならぬ雰囲気を漂わせてくれた。しかも、喰うに困ったみすぼらしい浪人者が、切腹をしたいので庭先を借してくれという着想自体がおかし過ぎて引き込まれる。みなさんがおっしゃるとおり、橋本忍の先が読めそうで読めない筋書きが抜群におもしろく秀逸。(原作は滝口康彦) 監督小林正樹の力量のある演出はもちろんのこと、武満徹の不気味だが渋みのある音楽がこの作品を独特のものに仕上げている。《ネタバレ》この映画では仲代達矢(津雲半四郎)と三國連太郎(御家老)との会話のやりとりが見どころなんですが、個人的には、石浜朗演じる千々岩求女が哀れなてん末をたどる一連のシーンが強烈でしたね。うぐいすの鳴き声が聞こえる中、「ああ、夢のようだ」から一転して奈落の底へ。無念、残念、何という哀れ。介錯人の言う「ぐいっとひけい」「ぞんぶんにひきまわされい」などブラックユーモア調の台詞廻しに加え、津雲半四郎がニッと笑みを浮かべ「明日は我が身ということもある…」の皮肉たっぷりの世迷い言が何とも妙味。また、当時の武士社会の非情さと面目を絶対視する滑稽さ、そしてお家取り潰しとなった浪人の惨めさをもきっちりと浮き彫りにするあたりは、さすが小林正樹監督らしいと思います。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-03-22 14:59:08)(良:1票) 135. 知り合いでこの映画を絶賛してる人がいまして、「ラストサムライ」観た後だったので、本家日本の侍映画も観てみたいと思い、DVDを買いました。レンタルでも置いてないし。で、こんなにすごい映画があったのかと衝撃を受けました。「ラストサムライ」と比べるのもあれですが、ある意味対極にある映画ですね。殺陣がしょぼかったので-1点ですが。ズウィックは観た事あるのかなあ。黒澤以外にもこんなすごい時代劇があるというのを知って欲しいものだ。 【ロイ・ニアリー】さん 9点(2003-12-15 19:28:47)(良:1票) 134.時代劇の面白さといえばやはり殺陣だが、この映画はシナリオに引き込まれる。明かされる真実、そして武士道の本質。こういう映画を傑作と呼ぶのでしょう。 【紅蓮天国】さん 8点(2003-10-12 23:53:30)(良:1票) 133.《ネタバレ》 心に残る映画です。内容の重さもさることながら、画面の様式美といったものにも唸りました(皆さん「リアリズム」の面のみ言及されてますが…)。井伊家中庭のシーンは、整然とした人物配置が能舞台のようです。斬り合いの場面でも、井伊家の「井」の字をあしらった大屏風に家臣が「大」の字の形に倒れ込んで行くシーンがあります。例の「十字の構え」も、以上のようなシンメトリカルな形へのこだわり(笑)と関係するのかと思ってました。こうしたシンメトリカルな様式美は武士道のうわべを象徴し、それがラストの修羅場のような立ち回りで全面崩壊する、という演出かと思いました。それにしても三国のご家老の「ご政道の向きにあい馴れぬ新参の者ならいざしらず、その方のような分別盛りの者までが、なぜ分からぬ!」というセリフにシビれました(笑) 【冬扇坊】さん 10点(2003-08-06 10:02:53)(良:1票) 132. 時代劇初挑戦の小林正樹監督にとって、橋本忍の脚本を得たことが成功の第一歩となった。彦根藩江戸屋敷を舞台に回想が入り乱れる怒濤のストーリー展開は並みのシナリオ作家には到底無理だった筈。石浜朗の若侍(千々岩求女)の竹光による悲劇的な死に様、リアルなお歯黒メイクの若き岩下志麻の熱演等見所も多いが、仲代達矢扮する津雲半四郎が丹波哲郎演じる沢潟彦九郎相手に見せるケッタイな剣法(胸の前で腕を交差させる)だけが何か浮いてしまっており、やや減点。ラスト、半四郎の大立ち回りで家宝である井伊家の赤備えを滅茶苦茶にされ、茫然となる三國連太郎演ずる家老・斎藤勘解由の表情がイイ。武満徹の音楽も秀逸で正に異色の時代劇。 【へちょちょ】さん 9点(2002-12-24 12:11:16)(良:1票) 131.《ネタバレ》 二度目の鑑賞になるか。 天下泰平の徳川時代。いくさがないのはよいことだが、それによって武士の「兵士」とぢての矜持が失われていった。加えて幕府による容赦ないお家取り潰し政策で江戸には食い詰めた浪人が溢れていた。彼らが窮余の一策として講じたのが「切腹詐欺」。腹を切る気など毛頭ないのに、大名の藩邸に出向いて「禄を食むこともかなわず、窮状に陥るばかりで、このままでは武士としての面目が立たないから・・・」などと理由をつけて切腹をしたいので庭先を貸してくれ、と願い出る。藩邸側としては神聖な庭先を血で汚されるのは御免なので、浪人に適当な扶持を与えて引き取ってもらうという対応をとらざるを得ない――という流れを見込んでの「切腹詐欺」が横行していたのは、「侍」としての倫理の退廃を反映するものであった。 本作はそうした「武士道」のあり方はもちろんのこと、「切腹詐欺」を逆手に取られて竹光による屈辱の切腹を強いられた息子の仇討ちに藩邸に乗り込んできた主人公への家老の冷徹な対処にみる官僚主義をも痛烈に風刺している。この一作で「天下泰平」とは裏腹な武家社会における矛盾や非道がよくわかる。 それにしても仲代達矢は撮影当時まだ二十代だろうが、この満座を圧する貫禄は凄まじい。その仲代と火花を散らす家老役の三國連太郎の緩急自在の演技も素晴らしい。観終わってつく溜め息の深いこと。 【あやかしもどき】さん [DVD(邦画)] 10点(2025-01-26 01:53:44) 130.※最高の役者なので呼び捨てにさせてください。 いやー…随分と評価が遅れてしまった…。 んまぁ、遅れた理由ってのは…ちょい体調が悪かったってのと…アレ。 実は…この方を、あまり知らなかった。 ――石浜朗。 調べてみると、いぶし銀の如き役者だった。 日本の映画やドラマを盛り立ててくれた(文字通り)立役者的だ。 けど、俺の学習能力の低さのせいで、あまり詳しくなかった。 本当に申し訳なかったです! なので、今回は所持していた「切腹(1962)」を初観。 いや、相当にカメラアングルっていうか…フレームレイアウトが素晴らしい映画。 黒澤明による数々の過去作もそうだったけど…ある意味で名作コミック並みにカッコいいアングルばっかで(当時を知らない俺は)ただ、ただ驚嘆した。 いや、コレって凄い事なんだよな、マジで。 この作品、メガホンを取ったのは「小林正樹」監督。 作品を観るのは…脚本を担当した「どら平太(2000)」以来かな…? あ、あと「東京裁判(1983)」も、いつか観たいなーと思ってた監督だ。 んで、キャストはまた素晴らしい。 まず、かの「仲代達矢」が主役を張ってる。 いや、語り口調も流石の素晴らし過ぎて「宇宙戦艦ヤマト」の冒頭ナレーションを思い出すわ。 あとは「三国連太郎」と「岩下志麻」(いや、若すぎて最初は気づかんかったんだけどマジ美人やね)も出てた。 あと、好敵手の侍が「丹波哲郎」だったのも見逃せない。 この人、007の時も思ったけど…海外スターのようなオーラがあるな、マジで。 そして、今回素晴らしい演技を見せてくれた「石浜朗」が千々岩求女を演じていた。 武士としての誇りを他者に湾曲されながらも、家族を守ろうと奔走する…その不器用な姿が、ただ涙を誘う。 ともあれ、話の筋は…すっごく簡単だ。 武士は、一人の人間として何を守るのか? 名家を守るために犠牲にするものは何か? そして「誇りある死」とは、一体どこにあるのか? もし興味があれば、ぜひ観て欲しい。 そして、石浜朗のいぶし銀の演技を感じて欲しい。 ――本物を! 本物ってのは、時代が護り続ける。 そして本物は…いつまでも本物だ。 ――そう、永遠に。 【映画の奴隷】さん [ブルーレイ(邦画)] 7点(2022-08-01 02:13:49) 129.《ネタバレ》 最初から最後まで、重厚で緊張感漂う中、一切中だるみがない展開 「武士道」というものをこんな正面からリアルに描いた時代劇観たこと無い 只、最後の派手な大立ち回りはやはり時代劇なんですね 仲代達矢の演技が素晴らしく、恐らく数ある作品の中で最高傑作では? それと、仲代=東宝、丹波哲郎=東映のイメージなんですが、松竹映画なんですね。 【とれびやん】さん [インターネット(邦画)] 8点(2021-09-26 01:55:56) 128.紛れもない傑作。日本のみならず世界の映画史に刻まれてよい作品だと思います。古い白黒映画でありながら、映像は非常に美しくまるで水墨画を鑑賞しているかのよう。セリフも非常にわかりやすく仲代氏、三国氏、丹波氏皆エロキューションが素晴らしい。笑いユーモアのあるシーンは全くと言っていいほど無く、観る者に終始緊張を強いる作品だけに、う~ん、個人的には満点をつけられないが、限りなく満点に近い9点であります。 【代書屋】さん [インターネット(邦画)] 9点(2021-06-18 23:03:58) 127.仲代達矢と三國連太郎が、役者としての格や力量を賭けて正面切って対峙する作品です。二人の大物のぶつかり合いの、ギラギラ感が凄いです。ストーリーも面白いですし、この作品は日本映画の中でも屈指の傑作だと思います。 【wayfarer】さん [DVD(邦画)] 9点(2020-06-14 02:30:49) 126.《ネタバレ》 およそ25年ぶりに再観。と言っても内容は全く覚えておらず、当時から知っていた本作の高い評価に半ば引きずられたように「面白かった」「いいものを観た」という感想のみが残った。 いつか再び観たいと思いながら長い時間が経ってしまった。観た当時はまだ大学生で、社会に背を向けて生きる、極めて未熟な人間だった。あの頃と今で、いだく感想は変わるのだろうか、少しは深みのあるものになるのだろうか。そう思いながらじっくりと観た。 武家屋敷を訪ね、生活の苦しさから庭先を借りて切腹したいと申し出る浪人が多数現れた天下泰平の徳川将軍時代、江戸時代。こういった浪人たちは、その覚悟に感心した武家に召し抱えられること、あるいはそこまででなくとも、彼らにわずらわしさを感じた武士から金を与えられて帰されることを狙っていた。要するに一種のたかりをしていたのだった。そんな折、津雲半四郎と名乗る、やや齢を重ねた浪人が井伊家の江戸屋敷を訪ねてきた。庭先で切腹をしたいと言う半四郎に、井伊家の家老である斎藤勘解由は、先日、同じ用件で訪ねてきた千々岩求女という若い浪人の話を始めるのだった…。 ゆっくりしたカメラワークと、やや引き気味の優美なアングルによって、冒頭シーンから緊張感がみなぎる。それは、井伊家の屋敷の広さと豪華さ、そこに流れる厳粛な空気も見事に伝えてくれる。 仲代達矢の堂々とした迫力。三國連太郎の気弱で神経質、時には虚勢も感じられる言動。丹波哲郎の意地の悪さと強さ、若干感じられる狂気。出番は少ないが、小林昭二や井川比佐志なども含めた豪華キャストのもたらす存在感と重厚な演技。彼らの「静」からにじみ出る雰囲気も、画面に緊張感と迫力を生み出す。 持っていた竹光で切腹せざるを得なくなった求女。なかなか腹が切れないその切腹シーンは求女側から見れば哀れそのものだが、勘解由たち井伊家の武士側から、あるいは我々映画を観ている側から見ると、厳粛さの中に残酷さ、そして何とも言えない美学のようなものさえ感じられ、片時も目が離せない。まるで一種のショーを見るがごときシーンに仕上がっており、二重構造で作品を見せられているような、奇妙な気持ちにさせられる。 本作の上映は1962年。戦後からはそれなりの時間が経っているが、今よりも死が身近にあった時代だったのでは、そうも考えた。 岩下志麻も素晴らしい。登場当初の存在感は薄めだったが、求女との結婚後のお歯黒(!)、そして求女の亡骸と対面した時のわずかな戸惑いと激しい涕泣。僕も目頭が熱くなってしまった。 困窮した浪人はひたすらみじめだ。金を失い、物を失い、家族を失った半四郎を見ていると、もしも僕自身が経済的弱者になったらどうなるだろうと考えてしまい、胸が痛む。 剣劇シーンの静かな迫力も印象に残る。特に切り合う前のポーズが美しい。ただ、刀と刀を合わせるシーンは堂々としておらず、むしろ若干の怯えのようなものが見えたが、これはリアル感を狙ったのだろうか。 浪人の困窮を告発した半四郎は勘解由に一矢報いるが、最後は大立ち回りの末、惨めに死んでいくのであった。 脚本はさすがだ。それぞれの登場人物の言動が簡潔に、武士のイメージ通りに描かれていて、心情の吐露が多くないのに、各々の心のありようがうっすらと伝わってくるのだ。この「うっすらと」が人間らしさを表現しているように思える。武家屋敷内に横溢する大人の世界独特の嫌らしさも、脚本の力が見せてくれているのだろう。 ところで、観終えた今は、25年前と比べると作品との向かい方も観方も、人生を重ねただけ深くなったと思う。大げさな言い方を承知で言えば、生きているうちに観て良かった。同時に、この作品は年配者にも観てほしいと思った。もしも時代劇を○○○○のような予定調和的作品ばかりだと思っているとしたら勿体無い。それはそれで悪くないかもしれないが、かつてはこんな時代劇もあったのだと知ってほしい。 最後に一言。冒頭1分ほど観た時点で声が若干聞き取りにくく、難しい言葉があったので、字幕再生に切り換えて全編を観た。「照覧」「赤備え」「骨柄」など、その後も聞き慣れない言葉が頻出、字面を見たことでそれなりに意味がとらえられたはずだ。字幕が表示できるディスクで観て良かったと心から思った。 【はあ】さん [ブルーレイ(字幕)] 10点(2020-06-06 04:04:58) 125.切腹の歴史は知識あまりないのだけども。 落とし前のつけ方とおもってましたが生き恥を晒したくない武士の死に方としてもあったんですね。 ゆすりとしても非常にリスキー。 津雲半四郎演じる仲代の一語一句の重さが物語る重厚な展開。 まさに残酷の美。語り継がれる映画だとおもいます。 【mighty guard】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-07-23 23:41:01) 124.《ネタバレ》 武士道を論じることはついては他の方に譲るとして、何よりもやはり映像美ですね。 ほんと抜かりがない。日本版フィルムノワールとでもいうような、全編にわたって並々ならぬ雰囲気が出ています。 【あろえりーな】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2017-03-07 20:36:46)
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