みんなのシネマレビュー |
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ネタバレは禁止していませんので 未見の方は注意です! 【クチコミ・感想】
206.《ネタバレ》 イーストウッドは「神への憤り」を常に映画にぶつけてきた。『ミスティック・リバー』はその集大成と言っていい。『ミリオンダラー・ベイビー』ではイーストウッドのもうひとつの印である「打ちののめされるイーストウッド」が究極的に描かれもした。その次の戦争映画では神の代わりに存在したヒーローまでも消し去った。『ミスティック・リバー』以降は一作一作が集大成と言ってもいい。そのうえでまだこんなものを出してくるか!人間を打ちのめす究極の暴力が「硫黄島二部作」で描かれたはずなのに、まだあった。究極が。子供を奪われる母。命を奪われるよりもきつい。そして権力という名の暴力。主人公は何もできない。権力に立ち向かうこともない。ひたすら電話で問い合わせるのみ。結果的に主人公を窮地から救うのは「神」の象徴である神父である。しかしここにきてイーストウッドが心変わりしたわけじゃないことは一目瞭然。神父は彼女を救ったのではなく彼女を利用したに過ぎない。彼女を救ったのは彼女の信念。ラストで事件にある展開があり、彼女はそこで「これで希望が持てる」と言う。この言葉に恐れ入った。今まで「希望」なしでひたすら息子を待ち続けていたのか!イーストウッドの映画の中で最も強い人間が描かれたのかもしれない。『ミリオンダラー・ベイビー』でボロボロに打ちのめされ消えていったイーストウッドがここでまた新たな答えをもって帰ってきた。本当の強さというのは戦って勝つことじゃない。信じることをやめないこと。愛することをやめないこと。そしてその本当の強さを人間は持っているのだと。もうイーストウッドは敵無しだ。早く次が見たい!!! 【R&A】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-03-13 18:20:52)(良:3票) 205.《ネタバレ》 「ママに会いたかった、パパに会いたかった、家に帰りたかった」という台詞だけでもう十分すぎるほどに心を撃ち抜かれた。そしてそれをガラス越しに見つめるアンジーが、まるでスクリーンを見つめる我々観客のようで、そのイーストウッドの客観性に追い打ちをかけられ震え上がった。 そして「希望」を口にするアンジーの赤く染まった口元の優しさ、これほどまでの愛情・・思い出すだけでも感慨深いものだ。 もちろん真のアメリカ映画は昔からアメリカや社会と戦ってきた、しかしこの映画はそれだけのアメリカ映画ではない。それはロス市警の不正を徹底的に追及する映画ではないし、ましてや殺人狂への遺恨を描いた映画でもないからだ。 息子と映画を見る約束を仕事の忙しさから果たすことが出来ず、家を後にするアンジー、そして家に取り残された息子。この時の描き方が、既にこの親子は二度と再会することはないという永遠の別れを物語っている。窓越しに母を哀しく見つめる息子をキャメラがトラックバックしていく、これがあまりにも決定的だ。 更には仕事が長引いてしまった彼女がようやく帰路に着こうとするのだが、赤い路面電車は彼女に車体を幾度となく叩かれるも、そんな彼女の左手など触れてもいないかのように知らぬふりを決め込み走り去ってしまうのだ。そして彼女が「なんてこと・・」というような表情を浮かべた時の少し望遠気味のショット、先ほどの路面電車を正面から捉えていたのが縦位置だとすれば、横位置に回ったショット、この瞬間こそが、彼女の表情から不安感を滲み出させ、後戻りなど出来ない道へと踏み出してしまったと告げているのだ。 この導入部を見れば、これこそが真の映画であると気付くのだし、登場人物の視線、キャメラの視線ということの重大さ、強さ、そしてその真意にはっとさせられるのだ。 アンジーの潤んだ視線や憤りを露にした視線の先には、不正や殺人狂などを越え、いつも必ず息子ウォルターがいるのだ。 「チェンジリング」は圧倒的な視線劇で、徹頭徹尾、愛情を描き貫いている。 【すぺるま】さん [映画館(字幕)] 10点(2009-02-24 23:08:57)(良:3票) 204.《ネタバレ》 とにもかくにも息子を強く強く想う母の姿が胸を打ちます。たとえ相手が敵意むき出しの高圧的態度で迫ってきても、この母親は温厚で保守的であり反撃に転じませんし、悲しくても辛くても嬉しくてもボロボロ涙して泣くのですが(化粧が濃いのが良い)、どんな目に会っても決して挫けずメチャメチャ強いのです。この強さの原動力がアメリカ人の好むような不正に対する正義感からくるのではなく、母の子を想う一途な愛からきているのが良いです。最後に母親と犯人が面会するシーンがあるのですが、薄暗い部屋でアンジーの顔に光が当りまるで聖母のようになります。ところが息子の話が聞けないと一転し、非暴力的な彼女が犯人に対してはじめて手を上げるのです。しかし彼女が怒るのは犯人に対する怒りからではなく息子の生存を信じ、確認したいからであり、この映画が素晴らしいのはまさにそこの所で、最後の瞬間まで一貫してどこまでも息子を想う母の愛を描ききっているから美しいのだと思います。その証拠に正義を代表し大勢を引き連れて闘う牧師ジョン・マルコヴィッチにしっかりと焦点があたるのは、闘う時ではなく母親に警察の悪徳ぶりを教授する時だけなのです。 【ミスター・グレイ】さん [映画館(字幕)] 9点(2009-02-24 18:23:21)(良:3票) 203.《ネタバレ》 イーストウッド監督は、正直言ってそれほど好きではない。たんたんとストーリーが流れていき、初見では何を伝えたいのかが理解できないことが多い。世間一般では評価されているが、苦手としている監督の一人でもある。 イーストウッド監督に対して苦手意識を持っている自分であっても、本作は“素晴らしい”と認めざるを得ない作品に仕上がっている。今まで観てきた映画とは“次元が異なる”と言っていいほどの完璧なデキには驚きを隠すことはできない。 まず、全体に漂う“空気感”が他の映画とはまるで異なる。張り詰めた緊張感は切れることなく持続しており、映画内の世界に完全に引きずり込まされる。あらゆる意味において“現実”よりもリアルさを感じられる。 ストーリーについては、通常のイーストウッド監督作品同様に、たんたんと流れていく。ミスを認めようとしないLAPDを過度に非難するような感情は込められていない。犯人に対する憎悪のような感情も深くは込められていない。クリスティンに対しても、哀れみを誘うような過度な感情も込められていないと思う。 そのような感情は深くは込められてはいないが、被害者の子どもたち、加害者の子どもを含めて“子ども達に対する深い愛情”が注がれていることに気付かされる。 そしてLAPDを非難することよりも、子どもに会いたい、子どもを捜して欲しいという“母親の愛情の強さ”がしっかりとした基盤となり、彼女の強さや行動に対する原点になっていることに気付かされる。 アンジェリーナ・ジョリーの演技はまさにパーフェクトだ。セリフだけではなくて、表情が素晴らしい。表情だけで何もかも語っているほどのレベルになっている。 彼女に対してセリフを語っている者の表情よりも、セリフを聞いている彼女の表情に深く魅入られてしまったほどだ。彼女だけではなく、すべての演者がパーフェクトとしかいいようがないほどのキャスティングには脱帽だ。 ラストに関してもまさに秀逸だ。残酷なストーリーかもしれないが、本作にはきちんと“希望”が描かれている。クリスティンは永遠に“希望”を持ち続けることができたと感じられるものとなっている。救いのあるラストには、まさに“映画らしさ”を感じられる。そしてイーストウッドの映画に対する愛情もまた強く感じられる。 10点を付けられないのは、受け手である自分の未熟さの問題であり、映画自体は満点といっていい。 【六本木ソルジャー】さん [映画館(字幕)] 9点(2009-02-22 21:26:36)(良:3票) 202.《ネタバレ》 好みで言えば間違いなく好みではないのですが、この面白さはなんなんでしょう。希望をもたせるような終わり方なんですが、やはりハッピーエンドとは言いがたいし。ウォルターの生死は結局わからないし。ラストまで見てもスッキリしない映画は本来苦手なのですが、観終わった後のこの満足感はいったい。 それにしても怖い作品です。殺人鬼。警察。精神病院。そのどれもが圧倒的な暴力と悪意に満ちています。この三者に共通するのは、自己の利益のみを追求していること。結果、警察と精神病院の責任者は司法によって裁かれ、殺人鬼もやはり司法によって死刑となる。それがこの映画の『救い』です。それが見終わったあとの満足感につながっているのかな・・? 殺人鬼や精神病院は自分にとってもはやホラーの世界。怖い怖い。本当に怖い。精神病院からの救出劇や、ラストで語られる殺人鬼からの脱出劇は、ホラー映画のハッピーエンドバージョンを見たときに近い安堵を感じます。ついでに言えば、体裁を保つために身代わりの子供を用意するなんて発想を警察がしちゃうってのも怖いシチュエーションです。不服を申し立てれば精神病院送り。否を認めるまで有無を言わさぬ監禁・拷問が続くわけですか。やってることは殺人鬼の彼と変わりませんね。 今の時代にも怖いことはいっぱいありますが、怖さの質が全然違う気がします。この時代のほうが善悪の基準が混濁していて、その不透明さゆえの怖さを感じます。なので、グスタヴ・ブリーグレブ牧師が立ち上がり、クリスティンを救い出し、敏腕弁護士と共に反撃を始めたときに感じるカタルシスは凄い。 この作品で唯一難を言うならば、猟奇殺人、公権力との戦い、人間ドラマとそのどれもが高いクオリティで盛り込まれちゃったため、焦点がどうしても一定しないことでしょうか。それにやっぱり苦手な結論ということもあって、個人的には満点はつけられないのですが、映画の出来としては満点を超える作品です。 【たきたて】さん [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-02-18 11:38:29)(良:2票) 201.《ネタバレ》 凄まじい映画だ。個人的にはイーストウッド監督作品の中でもベスト1、2を争う。重厚な映画だが間延びもなく緊張感が途切れる事もない。約二時間半、釘付けになって、観終わった後も色々な想いが渦巻いている。後味が悪い結末だが、全く希望がないわけでもない。・・・この辺がさすがイーストウッド監督、毎度ながらクセ者だ。恐ろしい現実を描きながら、絶望だけで終わらせる事もしない。完全な絶望なら、それはそれで娯楽映画的なカタルシスも生まれたと思うが、そうはさせてくれない。きっとそれが人生だからだろう。希望を捨てず、楽観も出来ず、強く立ち向かうしかない。実話を基に、それがどの程度まで脚色されているか、もはやそんな事は問題ではない。この映画は特定の事件や時代に限った事ではなく、今の社会にもそのまま通じる、理不尽さと、それに翻弄される人の姿が描かれている。平凡な女性が持つ強さと弱さの間を行き来するアンジェリーナ・ジョリーの存在感が凄い。クラシカルな画面の中にすっかり溶け込んでいるが、時折見せる眼光、特別な意志の強さは他の演技派女優には望めないものだし、それを見越しての起用だったのだろう。完全にハマり役。理解者である牧師を演じるジョン・マルコビッチも、単なる「良識人」的な演技を越えた異様な迫力を放つ。敢えて難を言えば、中盤、猟奇事件に荷担させられた少年の「悪夢」が(ほんの数秒だが)いかにもショッキングなアングルで、映画全体のトーンを乱しているように見えた。 【i-loop】さん [DVD(字幕)] 8点(2012-04-30 04:23:31)(良:2票) 200.《ネタバレ》 実話と知らなければ“馬鹿な脚本書くんじゃねえ”と思っただろうな。たった5ヶ月離れただけで母親が我が子を間違えるわけないだろう。映画見に行こうねの約束を守れなかった、これだけで胸が潰れそうなのにミセス・コリンズの遭遇する苦難はもうこんなもんではなかった。虚像を押し通そうとする警察の乱暴ぶりったら戦慄する。手に負えないとなると精神病院送りってさながら旧共産圏の秘密警察のよう。あまりの理不尽さに歯の根が合わない。かちかち。アンジーと一緒に慟哭しながら、『もしかしたら』のわずかな希望にすがりながら終盤まで一気にもってかれた。正義の役どころの牧師がばっさばさと成敗に至るシーンが黄門様みたいでこの辺はイーストウッドのわかりやすさがまた出たーと思ったりしたけどそれほど鼻白まない。美しく撮られることを放棄したアンジーの役者魂に脱帽。9歳の息子がいなくなったら私も正気ではいられない。サインをしたら、もう捜せなくなる。たとえ精神病院でリンチをうけようと、それは私も絶対闘うだろう。絶対だ。 【tottoko】さん [DVD(吹替)] 8点(2011-09-01 00:46:43)(良:2票) 199.《ネタバレ》 映画館で初めて見た時には劇中のクリスティンの状況に激しく心を揺さぶられましたし、最近改めて見直してからもその点は一切変わりなかったのですが、今回見返してみて漠然と思ったのは、「組織に埋没している人間が一番『非人間的』になる可能性があるものなのだな」という感慨であり、また「そういう点をかなり強調してこの作品は作られている」という印象でした。 それは例えば劇中でニセのウォルター少年が「自分は警察から『ウォルターを名乗れ』と言われたのだ」と叫ぶ場面や、あるいはあの凶悪犯ノースコットさえも、(劇中「警察から」と特定はしないものの)「<誰か>から『ウォルター少年を殺した』とクリスティンに言うこと」を「強要」されているようなそぶりを見せる描写などからも感じられました(それは劇中後半で「ウォルターが逃げ出した」ことが明かされることからも窺えると思います)。さらに言うなら、この犯人と母親との緊迫の対面場面において、僕はむしろ自身死刑が迫っている(何もかもどうでも良いという投げやりな心理になってもおかしくない)身でありながら、それでも「嘘をつきたくない」という信念に基づいて、「ウォルターを殺した」という(事実に反した)言葉を一切口に出さなかったノースコットに、ある種の「誠実さ」すら見てしまうのです。 そして上記ロス市警に属する(ヤバラ刑事を除いた)上層部やあの精神病院の面々の腐敗ぶりの横にこのノースコットを置いた時、(あくまで「映画の中だけ」に限ったことですが)あの凶悪犯でさえ、(遅すぎたとはいえ)「信念に基づいて『真実』に逆らわずに行動している」だけ、僕には何とも「人間的」に見えてしまうのです。 それだけでなく、この作品には例えばノースコットに殺人の方棒を担がされるクラーク少年や、あるいは事件の7年後に初めて名乗り出た生存者の少年のように、「激しく悔いる」人物が登場します。そして彼らに共通しているのは、最後には「自分の気持ち」に逆らわず、それに従って行動をするという点です。そして僕自身はこの点に、作中極めてイノセントに自分の信念を行動に移すクリスティンと他の(組織に属した人々以外の)登場人物を結ぶ「共通の糸」を見る思いがします。 個人的にはこういった点に、「真実を曲げない」という信念を持った人々への製作者側の(あるいは監督自身でしょうか)共感といったものを感じます。もしかしたら実際の事件から色々と脚色が加えられているのかもしれませんが、僕自身はそういう点とは関係なく、「組織(や、あるいは漠然と「自分より大きいもの」)に埋没せずいかに『真実』を曲げずに生きていけるか」という点を切実に思い返す契機となっただけで、この作品は称賛に値すると思えました。 【マーチェンカ】さん [ブルーレイ(字幕)] 10点(2010-08-10 22:00:22)(良:2票) 198.《ネタバレ》 理不尽すぎて何がなんだかわからないような話です。けれどこれに匹敵する話は今も昔も世界中どこにでもあるはずで、そういう人の世を見続けてきたイーストウッドが「こんな酷い目にあい、それでも希望を持って気丈に生きた母親」と今さらストレートに描くとは思えない。オープニングの寒々とした緊張感、これから何をどんなふうに見せられるのかドキドキした。 息子との短いやりとりのほんの2~3のシーンでクリスティンへの違和感を持った、特に息子を学校へ送り届け電車に戻ったクリスティンは一度も息子を振り返らない、有り得ない。そして彼女は息子が消えた後もいつも真っ赤な口紅を付けている、有り得ない。 クリスティンの人物描写のこの厳しさ、その他の大人たちも厳しい目で描かれる、この大人たちの子供への対応は大人げなく、高慢で横暴で自分の都合のみ。偽息子へのクリスティンのそれも例外ではありません。 子供の心情を優先しようとする大人がひとりもいない。死刑執行を間近で見物し、事務的にメモをとっている人までいる、死刑制度そのものより異常と感じるし、そこには瞬きもせず一部始終を凝視するクリスティンがいる。 子供たちがなぜこんな理不尽で残酷な事件に巻き込まれなければならないのか、イーストウッドの子供たちへの愛と心痛な想いがヒシヒシと伝わる。 理不尽な世の中と大人たちの中で子供たちは不安を抱え怯えながらも純粋で健気だ、子供たちのセリフがズシリとくる。 後半、状況が好転し始めた時にクリスティンが学校の前を通りかかる、この時は見えなくなるまで学校を見つめるクリスティン、かけがえのないモノを無くしてから気づくことの大きさは計り知れない。最後までクリスティンに同情するような描き方はされない。観終わった後、印象に残ったのは犯人の従兄という少年の話をきちんと聞いた刑事とクリスティンの職場の上司、ハリスさんでした。 これは昔々こんな酷いことがあったけど正義が勝ったという単純なものではありません、こうなる前に何をもっても、全てを犠牲にしてでもせめて我が子は守り抜けというメッセージを感じます、これは私が子持ちだからかもしれません。 テーマの奥深さ、描き方の公平さ厳しさ、けれどラストには漫然ではない根拠のある希望、可能性があり救われる。イーストウッドのすごさを改めて感じました、パーフェクトな映画だと思う。 【envy】さん [DVD(字幕)] 10点(2010-04-04 12:36:59)(良:2票) 197.イーストウッド作品は時に冗長になりすぎる傾向がありますが、本作は娯楽作顔負けの勢いで物語が進行し、監督作中もっとも面白い作品となっています(楽しんで見るような題材ではありませんが、ここはあえて「面白い」と言います)。ここのところのイーストウッドといえば、人生を知り尽くした御大が、まるで仙人のように淡々と哲学を語る作品が多くなっていますが、本作は観客の感情を刺激するダイナミックなドラマ作品として製作されています。イーストウッドのストーリーテリングは神業の域に達しており、呼吸をするかの如く的確な演出を披露します。わずかな時間でコリンズ親子の強い絆を描き、観客にこの親子を好きにならせる冒頭からして光っています。またアンジーの元にやってきた謎の少年や、臭いものに蓋をすることしか考えないLAPDのイヤらしさときたら見事なもので、見ている間中はらわたが煮えくりかえる思いがしました。それに対するブリーグレブ牧師は、西部劇のヒーローか、ダーティハリーかと言わんばかりの頼りになる男で、「この人が来たからには正義がなされるはずだ」という安心感は抜群。戦うことに迷ったり、弱かったりするここ最近の正義の味方には欠けている魅力を放っています。彼が現れるタイミングも絶妙で、クリスティンが追い込まれて追い込まれてもうダメかという時にやってきて、悪事をなしていた者を黙らせる展開にはアクション映画以上のカタルシスがありました。この辺りは、娯楽作も多く手掛けてきたイーストウッドならではの巧さでしょう。。。子を失った親の物語としては「ミスティック・リバー」と共通していますが、「ミスティック~」に描かれる父親のリアクションが怒りと復讐心を中心としているのに対し、本作に描かれる母親のリアクションは、ひたすらにわが子の生存を願い、その他のことは(憎むべき犯人や、自分を傷つけた警察すら)ほとんど目に入っていないというものでした。権力との戦いはブリーグレブ牧師に任せ、クリスティンがとる行動は全て息子の方へ向いたものとした構成上の判断は的確。普通の監督が撮れば犯人への憤りや警察への復讐を描いてしまうところですが、そうはしなかったイーストウッドはやはり仙人の域に達しているようです。 【ザ・チャンバラ】さん [ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-12-25 15:31:16)(良:2票) 196.《ネタバレ》 学生時に心理学をかじった身としては、元が実話という現実感が肌で感じられて恐ろしかったです。(スタンフォード監獄実験=普通の大学生を「囚人役」「看守役」に分けると後者が前者を虐待し始める。ミルグラム(アイヒマン)実験と同じく超有名な心理実験。wikiにも載っています)羞恥心が欠如した権力者や、罰が与えられないと分った人間は、際限なく残酷になれる。描かれていませんでしたが、偽ウォルターに対し警察の脅迫洗脳があった事や(彼の無表情は戦渦で感情を失った子供のそれと重なる。母親の姿を見てホッとして初めて言いたい事が言えたのだろう)精神病院の『電気治療』において死亡した人がいても「病死」とされて闇に葬られただろう、などが察せられてゾッとしました。絶望的な状況の中で真実を主張し、戦い続けた母親の強さを尊敬します。彼女の崇高さは皆にとっても「希望」だったように思います。だからこそ、多くの賛同者や協力者を得られたのでしょう。牧師さんが普通に良い人で良かった。しかし、彼女は最後まで希望を追い続けても叶えられなかった。彼女の望みは警察の腐敗を暴く事でも、犯人を死刑にする事でもなく、息子を取り戻したかったのに…諦めた方が楽だろうに、希望を持ち続けた彼女は本当の意味で強い人間なのでしょう。少なくとも信じている間はウォルターは生きている。私も、ウォルターはどこかで生きていた、のだと思いたいです。 見事な脚本と演出があったとはいえ、AJの深みのある演技には驚きました。迫力あるシーンや言葉でなく、普通の動作で「心の強さ」を表現できる程とは思っていなかったです。ナイスバディで拳銃ぶっ放す姿しか知らなかったので;反省ですわ; 【果月】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-09-28 10:50:14)(良:2票) 195.型にはまった御都合主義とは程遠いクリントイーストウッド監督作品。しっとりとシリアスで重厚な作品を好む人ならこの作品はドンピシャで大当たりだろう。娯楽の域を飛び越えてひたすら問題提起を訴えてくる作品はそうそうあるものではない。思い出すたびに胸が苦しくなる作品が多いイーストウッド監督モノ。その中でもこの作品は本当に苦しくなる作品であり、人生とは何かを問うてきた監督の現時点で出せる200%が注ぎ込まれた一作と呼んでも過言ではない。見たあとに色々な思いがわいてきて一口に「感動した」といえないほど哲学的な重たい何かを背負わされてしまうが、それこそまさに監督が狙っていたことではないだろうか。現実に起きた事件をベースにしているという点も驚くが、そんな謳い文句など必要ないぐらい素晴らしい完成度だ。これまでイーストウッド監督の作品は淡々としている場面が多いせいか退屈だという声もあった。たが、この作品は絶妙なバランスでエンタメ要素を盛り込んでいる。もちろんそれは大衆に媚ているのではなく、作品の持つテーマ性をより濃く伝えるための手段である。そして特筆すべきはアンジェリーナ・ジョリーの熱演。彼女がこれほどまでに演じられる人だったとは思っていなかったので良い発見だった。 【HARVEST】さん [映画館(字幕)] 10点(2009-04-06 07:19:17)(良:2票) 194.《ネタバレ》 いやー危うくこのすばらしい映画を見逃すところだった。こりゃ今年のベストワン候補だな。映画館でひさしぶりに嗚咽を聞いた。すげー映画。 実の子が神隠しにあい、しかも警察から赤の他人を子供だといって無理矢理押しつけられるという、アメリカ版おしん(おばん)の如く苛められる主人公役を、てっきり色物な人だとばかり思っていたアンジェリーナ・ジョリーが思いきり好演技。見つかったの報せに泣きじゃくるシーンは大竹しのぶかと思ったが、職場では凛とし、裁判所ではか弱く、めりはりがとてもよい。そんなジョリーを苛める警部役もこちらが本当に殺意を覚えるほどの名演で、おかげで後半いかにもアメリカらしいやり方で一気に汚名を払拭していくシーンでは、すさまじいほどのカタルシスを満喫できる。事実にしたがったとはいえ、ありきたりのハッピーエンドじゃないところもいいし。 んで、5年後に見つかった子供が、なぜ今になって名乗り出てきたのか、その理由がまた泣かせる。「母と子の絆」なんぞというテーマをここまで堂々と貫き通せる監督が現在他にいるだろうか。まさかここまで巨匠になっちまうとはなあ。 本当にいいので、未見の方はまだ映画館でやってるうちにぜひ駆けつけをば。某黄色いバッジの映画なんて全然見なくていいから。 【アンギラス】さん [映画館(字幕)] 10点(2009-03-30 01:37:32)(良:2票) 193.《ネタバレ》 一般論として人の命は平等です。でも主観においては違う。見ず知らずの他人より友人の命の方が重い。あるいは親類縁者の方が。より家族の命の方が大事。そして何より自分の命が一番。自分は30年あまりこの価値観で生きてきました。でも今は違います。自分の命より大切な命が存在します。その命がもし奪われたら、自分はどうしたらいいのか。想像がつきません。いや想像したくないというのが本音。母が問い掛ける「私の息子を殺したの?」はこの世で最も口に出したくない言葉です。ただ、現実に悲劇は存在する。これまでも、これからも。事故で、病気で、犯罪で、小さな命が失われる。その時、残された家族はどうしたらいいのか。加害者と被害者の対面。男は母親に真実を伝える事が出来る唯一の人間でした。彼の言葉で、母親は地獄の底に突き落とされるはずだった。しかし区切りをつけることで、救われたとも思う。でも男は真実を語ることを拒んだ。彼女を傷つけるのが怖かったからじゃない。自分の罪を再認識するのが怖かったから。この後に及んで神に赦されて死のうなんて虫がいい。男は最期にコリンズ婦人を生殺しにした。ラストシーケンス。主人公の目には確かな希望の光がありました。僅かでも息子が生きている可能性があるなら、その希望を糧に生きていけるのが親というもの。母親はかくも強い。でもその強さを新たな人生へ踏み出す力へ変えて欲しかったとも思います。彼女の境遇は身につまされる。明日の自分で無いと言い切れない。だから強くあって欲しいと願います。子を想う親の強さ。現実と向き合う強さ。強さとは一体何なのか考えさせられました。希望が在るが故に前に踏み出せないことが、本当の地獄かもしれません。 【目隠シスト】さん [映画館(字幕)] 9点(2009-03-13 20:08:08)(良:2票) 192.《ネタバレ》 ごめんなさーい!私にはこの映画、「微妙……」でした。 イーストウッドはこの映画で何を描きたかったのでしょう?腐敗した公権力へ抵抗することの勇気でしょうか。ただひたすら子を愛する母の心でしょうか。不運にも犯罪者に成り下がった救いのない魂でしょうか。 実話なんだからしょうがないとも思うのですが、あの農場で「起こっていたこと」のほうがあまりに衝撃が大きすぎて、多分イーストウッドがメインに据えようとしたLAPDの非道さとかいい加減さとかそれにも負けない母の愛の偉大さとかが全部吹っ飛んじゃった感じで、なんだがスッキリしなかったのです。 だって、もしも自分の子供があんな目にあっていたとしたら、それこそたとえ助かったとしても私だったらものすごいダメージを受けちゃうと思うのだけど、その辺もなんかサラッと流されちゃっているし。これホントにホントの話なんでしょう?本当にあの母親はあんなに強くありつづけられたのでしょうか? ちなみにWikiによると犯人の誘拐目的は少年に性的虐待をすることだったようですが、その辺にもふれずただの精神異常者っぽく描いているあたり不気味さを余計に掻き立てられてしまいました。そのスルーの仕方も「ミスティックリバー」を撮った監督とは思えない。いっそ実話ってのをやめて農場の事件を省くか、またはそれを入れるなら少なくともchangeling(取り替え子)を中心とする内容としないほうがよかったのではと思います。 全然にブレずにすっきりストレートに響く作品も、小奇麗でいまひとつ面白みに欠けるものなのかもしれません。また事実は小説より奇なるものだから、それを忠実に描くことが新たなる別の感動を生むものなのかもという考えがこの作品に繋がったのかもしれません。 が、少なくとも私にはこの映画のブレは感動を生むに必要不可欠なブレとは思えませんでした。 【ぞふぃ】さん [映画館(字幕)] 5点(2009-03-02 15:58:04)(良:2票) 191.《ネタバレ》 1928 年のロサンゼルス。電話交換士主任クリスティン・コリンズは、息子ウォルターと二人きりのシングルマザー。オフの日に息子と映画へ行く約束をしていたが、欠員で仕事に行くことになってしまい、帰ってくると息子の姿がない。すぐに警察に連絡するも対応遅く、5ヶ月後にイリノイ州で発見され連れてこられた少年は別人だった・・という話。 トーンも暗く、連れて帰ってきた少年も不気味調で、最初はミステリー?オカルト?SF?なんて思ってましたが、クリント・イーストウッドなのでそれはないですね。フライヤーでも実話と書いてあるし。 当時の記事写真では実際のクリスティン・コリンズはもっとか細い感じの女性。今回のアンジェリーナ・ジョリーは、今までのワイルド&セクシー系とは真逆な役。タラコ唇はそのままに白塗りパンダ目の厚化粧に眼光で表現する(ちょっとキモw)、本当にアンジーかい?ってゆー感じですw マルコヴィッチ演じるブリーグレブ牧師が教会の壇上で痛烈に警察批判を述べていて、彼女にも裏事情を明かしてくれる。そこから一気に社会派ドラマの流れに。警察が、官憲の如く威圧的にやり込めてくる。これって多くの冤罪事件を彷彿とさせますよね。戦時下、軍政下で国家反逆罪とかにでっち上げられて捕まったりとか、社会主義国なら今でもありそうな感じですし・・。 権力に対し勇気を持って毅然と立ち向かった女性像という形ですが、でも警察の意見を肯定するということは、二人きりの家庭なのに赤の他人の少年を生涯息子として育てなければならないわけで、普通「はい、分かりました」なんて簡単に受け入れる人はいないですよねぇ。でも自由主義・法治国家のアメリカが舞台とは^^; 強力な助っ人が出現してくれたから良かったものの、全くの単独では抵抗しきれないでしょう。 基本エピソードは実話なのかもしれませんが、確信的に結びついているわけでもなさそうで、偶然が重なった事件ということなんでしょうか。ニセの息子もあんな程度の動機で幼いながらふてぶてしくも赤の他人を生涯騙し通し一緒にいたい(実の母親出てくるしw)とするのは無理あるし、警察がどこまで関与していたのか知っていたのかは不鮮明でしたし・・。 ところで、あの職場にローラースケートは無用だろ!って突っ込みを入れたいところなんですけどw 【尻軽娘♪】さん [試写会(字幕)] 7点(2009-02-15 22:50:05)(良:2票) 190.《ネタバレ》 アンジェリーナ・ジョリーの出演作では、もしかするとこれが一番好きな作品かもしれない。 荒唐無稽な娯楽作への出演も多い彼女だが、今作では終始重厚な演技を披露している。 警察の杜撰な捜査や非人道的な扱いなど、ぞっとする展開が多い本作だが、 殺人鬼にこき使われる少年の描き方が大変秀逸で、印象的だった。 砂埃舞う寂寥とした荒野に立ち、人骨が埋まった地面を掘り返すよう刑事たちに命ぜられる少年。 人骨が見つかり、刑事から制止されてもなお、とりつかれたように地面を掘り返す少年の姿を見て、いたたまれない気持ちになった。 "All Right"と刑事は少年の肩に手をやって宥めるが、そんなこと言う前に少年を抱き止めてやれよと思った。 罪悪感に追い詰められて必死に土を掘り返す少年、誰からも守られることなく、生き延びるために殺人鬼の悪行に加担せざるを得なかった少年を、 大人は抱きしめてやらないでどうするというのだ。 監督がどこまで意図したかは不明だが、このシーンは展開の非情さと対照的に映像が非常に浮遊的で、映画的な美がある。 あくまでサイドストーリーなのだが、個人的には最も印象的な場面で、この場面を描けただけで9点に値する。 【nakashi】さん [ブルーレイ(字幕)] 9点(2019-01-03 12:47:52)(良:1票) 189.《ネタバレ》 アンジーが息子の死を知るちょっと前に、観客にはその悲劇的事実を示す。主観的に演出を出来るシーンをここであえて引いて描く。逆に生き残った子のエピソードのように感傷的に描くシーンは多い。システムが汚職を生み腐敗を呼んで引き起こされたあり得ないような事件を語るにはあまりにも主観でも客観では語れません。それほど怒りのやり場がない事件でした。だからこそイーストウッドは希望をそっと代わりに残します。怒りを希望に。悲しみを希望に取り替える。あくまでそっと。 システムこそが人を蝕み人と人を傷つけ合わせますが、人を救うのは人であると思います。しかしそれは頑張れ、前を向け、それを息子も願っているはずだという強烈な励ましの中に埋もれる、あくまで自分のペースでと気さくに食事に誘う同僚や上司のような励まし。希望なんてない事件に、あえてかつそっと、希望を残しエールを送る今作は声を大にして好きだと言えます。エンドロールは人が歩き、電車が通る平凡な街を画面いっぱいに映す出す。ただそんな平凡の日常であるが奇跡的な日常をアンジーを願っていたかと思うと言葉がありません。 【うー】さん [ブルーレイ(字幕)] 7点(2015-06-13 22:00:33)(良:1票) 188.《ネタバレ》 物語は終始特に盛り上がるでもなく淡々と語られていく。 アンジェリーナ・ジョリー演じるクリスティンは時々怒りで叫んだりするが、基本的には劇中の黒のハイコントラストのような重々しい沈黙を選択する事が多い。 それはありのままを見せるドキュメンタリーといった記録がそうであるように、イーストウッドもあくまで実際の事件の再現に務めている。 真の対象は、事件そのものではなく事件によって人生を狂わされた人々の、怒りを抑圧する事を迫られる苦痛だ。 実際に起きた警察の不祥事、事件ごと揉み消されそうになる人間の実在、そして明かされる連続殺人の影・・・次々に真相が解明されていく瞬間の一瞬“ゾッ”とする感じがたまらない。 クリスティンが子供を捜してもらおうと電話する場面。こっちは急いでいるのに「24時間待って下さい」と言われる瞬間の焦り、恐怖、苛立ち。 誰よりも子供の肌に触れてきた母親が記録や記憶によって疑念が確信に変わる瞬間。 アメリカで“割礼”が拡く普及するのは第二次大戦後の1945年。 息子の捜索はやがて警察との全面対決へと変わっていく。 息子を見つけるため、何より母親としての自分や他人を否定した総てのものを許さないために。 クリスティンを助けてくれたキャロルの辛い過去もまた、彼女に戦わせる力を与えただろう。 今まで消極的な部分が多かったクリスティンに闘志が宿る。電気椅子なんざもう怖くない。 また、クリスティンのために粘り続けたブリーグレブ神父、それに警察として己の正義を貫くヤバラ刑事! 警察の腐敗した部分だけでなく、責任を果たそうとする人間など多面的な部分も描かれていて良い。 ゴードンもまた、自分が“くびり殺される”事など考えていない男だった。 警察も何度サンドバックにされようと歪みがない。 「ミスの批判よりも解決した事を評価して欲しい」じゃあ肝心のミスとやらを失くしてみろよファ●キュー。 論点をすり替え続けた警察がそうであったように、この映画は「自分がそうされたらどうしよう」なんて考える奴はほとんどいない。みんな自分が可愛くて、他人に睨まれるのが怖くて何も言えなくなってしまう。クリスティンは、そんな社会から逃げる事をやめた人間の一人だ。 神父は「神の力だ」とクリスティンに語るが、本当は神とか愛する我が子を心の支えにして戦い抜いた人間の奇跡なんです。 【すかあふえいす】さん [DVD(字幕)] 9点(2014-10-11 01:25:28)(良:1票) 187.《ネタバレ》 1920年代のアメリカを徹底的に再現した構成力と妥協のなさに感服。このおっさん(監督のイーストウッドさんのこと)、手を抜かないのね。とても重厚で緻密に仕上がっていて、だから観終わった後にどっと疲れた。勘違いしないでくださいね、褒めているのですから。ただ、あの偽息子、なんであんなに気味が悪いほど堂々としているのだ?そこがちょっとありえないなぁ、ということで1点減点して7点献上。 【la_spagna】さん [DVD(字幕)] 7点(2013-11-06 18:12:07)(良:1票)
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