みんなのシネマレビュー |
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ネタバレは禁止していませんので 未見の方は注意です! 【クチコミ・感想】
3.出会ってしまった男と女。 刑事と被疑者の二人が、惹かれ、癒やし、慈しみ、そして「崩壊」へと突き進む。 描き出されるストーリーを表面的に要約してしまえば、ありがちなメロドラマであり、古典的なサスペンスに思えるけれど、映画の中の人物たちの心象風景と、卓越したビジュアル表現が織りなす映像世界の情感が、パク・チャヌク監督によるありとあらゆる映画表現で見事に融合し、とてもとても豊潤で複雑な人間模様と世界観を構築している。 観終わった後に、本作がパク・チャヌク監督作であるということを知り、納得と驚愕が同時に生まれた。 全編通して繰り広げられる特異で挑戦的な映画表現は、監督が只者ではないことを雄弁に物語っていたけれど、この淡々とした語り口の映画が、「オールド・ボーイ」や「お嬢さん」等のフィルモグラフィーにおいて血みどろで烈しい映画世界を生み出してきたパク・チャヌクとは直結しづらかった。 主人公の刑事は敏腕で屈強だが血みどろの現場が“苦手”という設定や、これまでの作品と異なり過度なセックス描写を排するなど、これまでの作風とは一線を画する作品づくりからは、監督の自らの作風に対しての挑戦も感じる。 刑事と被疑者、遠くて近い関係性が、純愛を織りなす。 取り調べも、監視も、尾行も、殺人現場の検証も、刑事の男と被疑者の女が共に過ごす時間のすべてが、二人にとっては何にも代え難い逢瀬の一時に見えてくる。 (取り調べの最中、美味しい高級寿司を二人でもぐもぐ食べた後、テキパキと机の上を片付ける阿吽の呼吸で、会って間もない二人の人間的な相性の良さを表現するなど、何気ない描写の一つ一つがとにかく巧い) そこには当然ながら、職責や打算も存在していただろうけれど、事件を通じた逢瀬を重ねるに連れ、そんな思惑すらも相手を想う感情へと同化していく。 主人公の刑事チャン・ヘジュンは、元来殺人事件の被疑者に没入し、彼らを身近な人間と捉えて捜査を進めるタイプで、そんな彼がファム・ファタールのように現れる被疑者の女にのめり込んでしまうのも、必然だったのだろう。 一方の夫殺しの被疑者ソン・ソレは、或る事情で中国から逃れてきた不法移民で、夫からのDVと果たすべき本懐を秘め続ける中で、事件を起こし、ヘジュンと出逢う。 出自も社会的地位も全く異なる彼らは、出逢うべくして出逢い、非業な運命を共にしたようにも見える。 ただ、彼らのすべての言動や感情は、その運命を支配するものから俯瞰されているかのように映し出される。蟻が這う死体の眼球、骨壺の中の遺灰、スマートデバイスの画面……。 ニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」の如く、凝視したり、監視したり、見つめたりする彼らの視線は、常に“何か”から見つめ返されている。 その深淵たる“何か”とは、神なるものかもしれないし、運命そのものかもしれないし、彼ら自身の深層心理かもしれないけれど、それはきっとすべての人間が時に感じる“視線”の正体なのだろうと思える。 そういった人間の本質的な業にも当てはまる或る種の哲学性を根底に敷き詰め、その営みの愚かさや滑稽さや愛おしさもすべてひっくるめて映画表現の中に詰め込んでみせたことが、本作の類まれな豊潤さに繋がっている。 休日の午後に字幕版で鑑賞して、とてもとても一言では言い表せない映画に対する感情に悶々としつつ、その日の深夜に吹替版で再鑑賞した。 無論まずは字幕版で鑑賞すべきだと思うが、本作の映画的物量の多大さは、初見で字幕を追いながらでは本作の本質を処理しきれていないことも否定できなかった。吹替版で鑑賞し直したことでよりすっきりと本作の情感が腑に落ちたことは間違いない。ただ、本当は、韓国語も中国語もある程度理解したうえで、オリジナルを鑑賞できることが理想的だろうと思う。 彼らが辿り着いた決別は、あまりにも切なく、あまりにも哀しいけれど、彼女の隣でのみ深く眠ることができた束の間は、二人にとって何にも代え難い時間だったのだろう。 その一瞬の微睡みのような逢瀬に心が締めつけられる。 【鉄腕麗人】さん [インターネット(字幕)] 9点(2024-02-23 17:06:08)(良:1票) 2.《ネタバレ》 これでまた、韓国エンタメに差をつけられてしまったぁ! 何でこのテーマで、日本映画ができなかったか!? 「ファムファタール」もの。 日本の女優は、芯が通ってる女優が多いし、 またこの何十年不景気で社会問題が頻発していたため、このようなテーマで 映画を撮るのは、いかがなものかという雰囲気もあったかもしれない。 そこを韓国に持ってかれてしまった。 アジアの交流が盛んになる昨今、まさにドンピシャな題材と演出で、この映画は群を抜いている。 取り調べをした刑事に恋をしたから、犯行を繰り返す女!?もう前代未聞な女を 他国の女性に設定して、見事な映画ができました。 日本映画じゃないのが残念だけど、それにしても見事です。 いや、国には国の個性があるとか言ってしまえばそれまでだけど、 邦画も(例えばマルグリッドデュラスとか・・あくまでも一例です)西欧の恋愛を摸して、創っていかないと、 韓国がどんどんいろんなドラマのあり方を自分のモノにして行っているのを、 黙って見ていることになるんじゃないかなぁ・・ 【トント】さん [DVD(邦画)] 9点(2024-01-07 23:02:02) ★1.《ネタバレ》 殺人事件でしか結ばれない刑事と被疑者が愛の迷路に溺れ、破綻していく。 過激な性描写と暴力描写を封印したパク・チャヌク監督の優雅な語り口とトリッキーな映像手法で、 純情なパク・ヘイルと何を考えているか分からないタン・ウェイの恋の駆け引きを盛り上げる。 殺人事件がきっかけとは言え、彼女が彼に惹かれたのは本心であり、 妻がおり離婚されると分かっていても彼女がいなければ生きている気がしない刑事が彼女の"共犯者"になっていく。 でも、事件を解決させないといけない。 「愛してる」と言ったら、終わり。 ラストでタイトルの『別れる決心』が重く響いている。 全てを失った刑事は彼女を求め、これからも"霧の中"をさまよい続けるのか。 ウォン・カーウァイの『花様年華』に近い余韻と肌触りで何度も咀嚼したい作品だと思った。 【Cinecdocke】さん [映画館(字幕)] 8点(2023-02-17 23:58:32)
【点数情報】
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