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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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81.  ハクソー・リッジ 《ネタバレ》 映画人として完全に終わったと思われていたメル・ギブソンが、彼を毛嫌いするハリウッドの住民たちをも納得させてオスカー大量ノミネートと2部門受賞という栄誉を勝ち取った作品こそが本作なのですが、なるほど、本作を観ればメル・ギブソンは映画を撮るという才能に溢れた人物であることがよく分かります。 主人公・デズモンドの人格を形成したものは何だったのか、また軍隊や社会は彼の主張にどう反応したのかが描かれる前半部分は簡潔ながら非常によくまとまっています。メル・ギブソンは実生活では信仰心の厚すぎる人物なのですが、本作では宗教という要素をバッサリと切り落とし、父と子の物語として再構築した辺りの見切りの良さも光っています。ヒューゴ・ウィーヴィング演じる父親は頑固で酒飲みで女房子供に暴力を振るう最低野郎なのですが、その一方で息子が軍刑務所に入れられて窮地に陥っていると知るや、自分のコネを使って何とか息子を助け出そうとする優しさも見せており、善悪では割り切れない複雑な人間性というものがきちんと表現できています。また、当初はデズモンドの信仰を理解できず、彼に対して辛く当たっていた戦友達が徐々に変化していく様も自然に表現されており、人間ドラマとして非常によくできています。 戦場はまさに地獄。そこら中に手足や内臓が散乱し、それらの周囲には血の海ができているという表現は、これまで見たどの映画よりも実際の戦場写真に近いものであり、まさにリアリティの塊となっているのですが、本作が特殊だと思うのが、このリアリティの極限の中に娯楽的な誇張を紛れ込ませているという点です。散乱する死体を左手で引っ掴んで盾のように構え、右手でマシンガンを乱射するという突飛な見せ場や、投げられた手りゅう弾を蹴り返す場面、また文字通り血の雨が降る場面などが登場するのですが、これがリアリティある戦場描写にちゃんと馴染んでいるのです。そもそも全体の構成自体も、史実では一定期間でなされた行為を本作では一夜の出来事として見せており、かなり無理のあるまとめ方をしてはいるのですが、これに違和感を覚えさせられない辺りが脚色や演出の妙なのでしょう。『ブレイブ・ハート』でも感じたのですが、メル・ギブソンはリアリティと虚構を混ぜるのが本当に巧い監督だと思います。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-01-05 20:15:17)(良:1票) 《改行有》

82.  メッセージ 《ネタバレ》 めちゃくちゃに綺麗な映像と、説明台詞のほとんどない静かな展開というドゥニ・ヴィルヌーヴ節全開の作品であり、もはや環境映像と化していることからやたらと眠気を誘われました。また、チマチマと作業をする数人の科学者と、宇宙人への即時攻撃を主張し始める軍部という構図はこの手の映画ではありがちなのですが、人類との間の科学力の差が圧倒的であり、どの程度の反撃を仕掛けてくるのかの予想も立てられない宇宙人相手に最初の一撃を繰り出すなんてことを主張する軍人がいるとは思えず、この辺りでもテンションが下がってしまいました。 ただし、ラストでネタばらしをされると、なんちゅー素晴らしい映画なんだろうかと評価が反転しました。未来と過去が同居し、因果関係が失われた人物の主観が見事に表現されているし、冒頭から挿入されてきた主人公のドラマの断片がここで見事に整合することの気持ち良さも相当なものでした。また、多くを語らないヴィルヌーヴの作風が本作には欠かせなかったこともネタばらしの後で判明し、映画を最後まで見ることって大事だなと思い知らされました。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-01-05 20:09:17)《改行有》

83.  スター・ウォーズ/最後のジェダイ 《ネタバレ》 IMAXにて鑑賞。 『フォースの覚醒』はレイがルークの元に辿り着くまでの物語でしたが、ようやく出会えたルークは『帝国の逆襲』のヨーダ以上の偏屈じじぃになっており、「もう弟子はとらん」といけ好かない態度をとるのみ。前作の冒険を見てきた我々からすれば、はるばる来てくれたレイの話に耳を貸し、その要望は聞けないにしても、じっくり説明くらいはしてやればいいのにと思うところなのですが、とにかく頑なに心を閉じている様にはイライラさせられました。ルークと旧知の仲であるチューイやR2もレイのために口添えしてやればいいものを、いるのかいないのか分からないほどの存在感だったし。 レイはレイでカイロ・レンと感応しておかしくなり、さらにはすぐ隣にジェダイマスターがいるという恵まれた環境にいるにも関わらず今の自分の精神状況を素直に相談しないので、こちらにもイライラさせられました。二人とも、ちゃんとコミュニケーションとりましょうね。 この前半部分の退屈さはシリーズ屈指のレベルに達しており、「こりゃ、『ファントム・メナス』をも下回るシリーズ最低作来たかな」と覚悟を決めました。そういえば、『ファントム・メナス』って邦題は何とかならんもんですかね。『ジェダイの復讐』を『ジェダイの帰還』に変更したのだから、『ファントム・メナス』も『見えざる脅威』に変更すべきではないかと思うんですが。って、本作とは全然関係ない話をしちゃいましたね。そんなことが気になるくらい、本作の前半は面白くなかったってことです。 しかし、後半になると作品は一気に息を吹き返します。レイとカイロ・レンの共闘、フィンとファズマによる元上司・部下対決、ダメ上司かと思われたホルド司令官が見せた男気(性別は女性ですが)などなど、燃える見せ場の連続で頭の毛が抜けそうになるくらい興奮させられました。ファンが愛着を覚えているメカの登場のさせ方、ピンチの際の救援のタイミングなど演出はもうキレッキレで、ディズニーはルーカス以上に『スターウォーズ』の撮り方を掴んできているように感じました。 とはいえ、次回作へは期待よりも不安の方が大きくなりましたが。本作ではキャラの整理が進みすぎており、どう見てもリーダーとしての才覚のないカイロ・レンが率いることになったファースト・オーダーと、ファルコン号に収納しきれる程度の人数しか生き残っていない反乱軍は今後どうやって戦うことになるんでしょうか。[映画館(字幕)] 8点(2017-12-16 15:26:46)(笑:1票) 《改行有》

84.  ジャスティス・リーグ(2017) 《ネタバレ》 IMAX 3Dにて鑑賞。3D効果はまぁそれなりで損した気分にはなりませんでしたが、2Dで見ても情報量はほぼ変わらないと思います。 一定水準の作品を量産する体制を整えたマーベル勢とは対照的に、DC勢はいまだ彼らなりの成功方程式を生み出せておらず、本作についても敵の目的が不明確で恐怖の対象になりえていなかったり、リーグの作戦や勝敗ラインがわかりづらくて盛り上がりを逃していたりと、完璧な娯楽作にはなりえていませんでした。 ただし、それでも私が本作を支持できるのは、キャラクター劇として極めてよく出来ているためです。 ・パラノイア的に暴れまわったBVSを経て真にヒーローとしての自覚を持ったが、同時に生身の自分には限界があることを悟ってバトルでは裏方に徹しているバットマン。 ・能力も実戦経験もチーム随一で、必要な場面ではチームの支柱となるワンダーウーマン。 ・粗暴だがその奥にある気の良さが伝わってくるアクアマン。 ・同類に出会えた喜びを隠しきれないフラッシュ。 ・勝手にアップグレードされていく己の体への恐怖から引きこもりのひねくれ者になっていたが、訳ありメンバーと関わって自分の体の使い方を覚えていくことで徐々に精神が安定していくサイボーグ。 どいつもこいつも良いキャラをしているし、キャラクター間でちゃんと化学反応が起こっています。ジョス・ウェドンはザック・スナイダーが編集したバージョンから1時間も短縮して完成版を作ったようなのですが、この短い上映時間でよくこれだけキャラクターを描けたものだと感心しました。 さらに、スーパーマンが他のヒーロー達とはパワーも存在感も違う、桁外れのヒーローであるという描写になっていた点にも納得できました。そんなスーパーマンの参戦には、ドラゴンボールZのフリーザ編でようやく悟空が戦線復帰した時のような興奮がありました。これぞマンガ映画の醍醐味です。 また、ハンス・ジマーが降板し、その跡を継いだジャンキーXLも降板し、最終的にダニー・エルフマンが音楽を担当することとなったのですが、エルフマンの登板によって全体の曲調が明るくなり、特にバットマンのテーマはエルフマン自身が作曲した1989年版に戻されたので、『バットマン/ビギンズ』以来12年間続いたジマーのドンドコ節に辟易としていた私のような人間は、久しぶりにヒーローらしいテーマ曲を聞けてホッとしました。 その他、ロード・オブ・ザ・リング風の合戦からヒーローバトル、さらには多様なマシーンの登場と見せ場のバリエーションはやたら多いのですが、ヴィジュアルの巨人・ザック・スナイダーはこれらを闇鍋状態にせず、ひとつひとつの見せ場の独自性と全体の調和を見事に両立させています。こちらでも満足感がありました。 決して器用な出来ではないものの、これから始まる各キャラクターの単独主演作への期待を高めるには十分の作品だったと思います。さらには、一通りの単独主演作が終わった後にはジャスティス・リーグPART2が予定されていますが、成長したヒーローたちの再集結も今から楽しみです。[映画館(字幕)] 8点(2017-11-25 03:18:43)(良:1票) 《改行有》

85.  マイティ・ソー/バトルロイヤル 《ネタバレ》 IMAX 3Dにて鑑賞。飛翔シーンや広大な世界観など3D効果を実感しやすい要素が多く、かつ、マーベルは3D技術の使い方も小慣れてきており、3Dで見て良かっと思える仕上がりでした。 ソーはMCU内でも出来がイマイチの部類に入るシリーズであり、特に前作『ダークワールド』はMCUワーストクラスの作品だと思っているので、本作についてもあまり期待をしていなかったのですが、小難しい主張やドラマ性というものをほぼ捨て去り、開き直って純粋に娯楽性のみを追求したことから、これがとんでもなく楽しい作品に仕上がっていました。 アンソニー・ホプキンスやケイト・ブランシェットといったトップクラスの俳優を惜しげもなく投入している上に、今や大作の主演を張るまでに成長したトム・ヒドルストンも本作では変わらず卑怯者のロキを嬉しそうに演じているし、お久し振りのジェフ・ゴールドブラムが最初から最後まで笑わせてくれて、マット・デイモンのカメオ出演まである。これだけ豪華なメンツでもてなしてくれるのだから、2時間はあっという間でした。 また、本編中2度ある『移民の歌』が流れるタイミングの絶妙さや、コーグの救援場面やスカージがヘラに反旗を翻す場面などもバチっと決まっており、完璧なタイミングで燃える要素をぶっこんでくれるのでアクション映画としても燃えました。 ムジョルニアの破壊に始まり、片目を潰されたりアスガルドを破壊されたり、そもそも敵が実の姉だったりと、よくよく考えてみれば本作はかなりの鬱展開なのですが、悩むよりも行動で突破し、どんな苦境の中でも望みを探すという楽天的な姿勢は、非常にソーらしかったと言えます。[映画館(字幕)] 8点(2017-11-10 18:41:14)《改行有》

86.  ゴッドファーザー PART Ⅱ 《ネタバレ》 裸一貫でスタートしながらも、仲間を増やしつつトントン拍子で成功を収める若き日のヴィトーと、金も権力も持った状態でありながら、何かもがうまくいかないマイケルの対比。マイケルは優秀なビジネスマンではあるが、人間というものが見えていなかったのです。だから組む相手を間違えるし、身内のグリップにも失敗してしまう。そして、マイケルの行動原理は一貫してファミリーの合法化であったにも関わらず、事態を収拾しきれずに殺しでカタを付けざるをえなくなるという皮肉な結末。 本作はテーマの打ち出し方が素晴らしかったし、過去パートと現在パートを同時進行で見せるという製作当時としては掟破りの構成が監督の意図した通りの効果を上げているという点で、第一作並みに優れた作品だと思います。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2017-03-18 02:48:40)《改行有》

87.  ゴッドファーザー 冒頭、娘をレイプされた葬儀屋の親父の話をじっくりと聞いてやるヴィトーの存在感。彼がセリフを発する前の時点ですでに、この人に相談すれば物事が解決するのだなということが充分に伝わってきます。このマーロン・ブランドの魅力と、その演技に対して余計な干渉をしないコッポラの落ち着いた演出の凄さは本当に凄いと思います。 本作はキャラクター劇として優れており、ヴィトーをはじめとしたコルレオーネファミリーの面々に、憎たらしい敵対マフィアや汚職警官と、全員がキャラ立ちしています。また、3部作中ではもっとも娯楽性が高く、忍従を重ねたコルレオーネファミリーが、最後の最後に暴力的な手段で問題解決する様には適度なカタルシスが宿っていました。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2017-03-18 02:48:02)(良:1票) 《改行有》

88.  ドクター・ストレンジ IMAX-3Dにて鑑賞。 ひたすらに強く大きくという方向性での進化を遂げ、そろそろお腹いっぱいになりそうなMCUですが、ここに来て従来の作品群とは異なる趣の本作を登場させたことには驚かされました。というか、MCUという枠を超えてアクション映画全般を眺めてもこれほど独創的な作品は珍しく、娯楽映画史におけるベンチマークのひとつになるのではないかとすら思いました。それほど本作のビジュアルは革新的で強烈なのです。発想力の逞しさ、そして、これほど複雑な見せ場をよくぞ作り込んだものだと感心するほどの緻密さであり、もはや芸術の域にまで達しています。今までボンクラだと思っていたスコット・デリクソン監督が、まさかここまで出来る奴だとは思ってもみませんでした。 一方、物語はヒーロー誕生編としてはかなりオーソドックスなものです。ビジュアルこそがメインの作品なのでお話は観客の目を邪魔しない程度でいいという判断があったのでしょうが、それでも、ここ10年ヒーローものを作り続けているマーベルはちゃんと成功方程式に落とし込んで手堅く仕上げています。適度に笑わせ、適度にハラハラさせ、適度に感動させる、娯楽作として過不足なしです。パワーの源や、世界を滅ぼしかねない脅威の説明、長ったらしい固有名詞の羅列に入ると「MCU内に世界の脅威はどれだけ大勢いるんだよ」と少々退屈になるものの、この辺りにも深入りしすぎないのでストレスは感じませんでした。 華と演技力を兼ね備えた豪華俳優陣は、それぞれ説得力のあるパフォーマンスを見せています。作品全体のスピード感を落とさないよう、主人公以外の背景はほとんど語られないのですが、それぞれに演技のできる役者を配置したことで、そのキャラクターの歴史が透けて見えてくるのです。この辺りの塩梅も見事なものだと思いました。 ある程度の割り切りの下に作られているため傑作とは言えませんが、見せ場の独創性で引っ張るかなり印象深い作品でした。[映画館(字幕)] 8点(2017-01-28 00:19:50)(良:2票) 《改行有》

89.  ウォークラフト 《ネタバレ》 まずウーヴェ・ボルがゲーム会社に映画化を持ち掛けたものの、「お前にだけは絶対に撮らせない」と門前払いを受けたというちょっと良い話もあるこの企画。代わって高い評価を受けているダンカン・ジョーンズが脚本と監督を引き受けたことで、本作はかなりレベルの高い作品となっています。中世風の世界におけるファンタジー作品は『ロード・オブ・ザ・リング』関連を除けばほぼ失敗作ばかりであり、ハリウッドにとっては鬼門ともいえるジャンルなのですが、ジョーンズは原作ゲームのデザイナーを多数起用するとともに、ポストプロダクションに20か月もかけてビジュアルを練り上げ、なかなか見ごたえのある世界観を構築しているのです。 話の内容もかなりの熱量を持っています。テンションの高い合戦シーンに、多くの登場人物が誰かしら身内を失うという情念の入り混じったドラマ。また、きっかけは善意とは言え、禁忌とされる力に手を出して世界を危機に陥れたことを後悔しながら死ぬメディヴと、一度は責任から逃げ出したものの、師匠の臨終の場で守護者としての自覚に目覚めたカドガーのドラマには胸を打たれるものがありました。これまでセンス良い系として通ってきたジョーンズが、これほどストレートな娯楽作を作ったことは意外でした。 ただし問題点もあります。主人公の一人であるデュロタンはいち早く闇の陰謀に気づき、不毛な戦争をさせられそうになっているオークと人類を和解させようと奔走し、最後には非業の死を遂げるものの、彼の死が大勢にまるで影響を与えていないのです。彼が命をかけて挑んだ決闘ではオーク達の心を動かしたかのように見えたものの、結局は何も変わらないまま戦争が始まってしまう。同様に、人間側の王の自己犠牲もまるで報われておらず、一部のドラマがうまく流れていません。これらは続編へ向けた伏線なのかもしれませんが、単独作品としての満足度を下げる方向に作用しているのでは元も子もありません。またポリティカルコレクトネスへの配慮からか、ヨーロッパ風の甲冑を来た軍勢の中に黒人や東洋人が混じっていたことは、せっかくの世界観をぶち壊しにしています。有色人種の姿が見えないと脊髄反射的に難癖をつけてくる一部のクレーマーのせいで、映画の完成度が損なわれていることは残念でした。 以上の問題点が祟ってか批評家からは否定的なレビューが目立ち、興行成績は損益分岐点ギリギリという期待外れの結果に終わりましたが、これだけ素晴らしい世界観や高い技術、張り巡らされた伏線を捨てるには惜しい企画です。ダンカン・ジョーンズも続投を切望していることだし、お願いだから続編を作ってね、トーマス・タル。[ブルーレイ(字幕)] 8点(2017-01-14 21:43:11)(良:1票) 《改行有》

90.  硫黄島からの手紙 上品なんだけどどこか残念だった『父親たちの星条旗』からは一転して、姉妹編のこちらは目が覚めるような傑作として仕上がっています。憲兵の振る舞いなど多少の事実誤認はあるものの、そうした欠点以上に見どころの多い作品ではないでしょうか。 日本人が戦争映画を撮ると「戦争とは忌むべきものです」という紋切型の主張がまずあって、戦後視点の後付けの理屈であの時代を描こうとすることから決まってつまらない作品が出来上がってしまうのですが、外国人監督が撮りあげた本作にはそうしたノイズが入っていないことから非常に見やすい作品となっています。あの時代の日本兵たちがどんな状況にあったのかを切り取ることのみに専念しているため、歴史映画として極めて優秀なのです。「天皇陛下万歳!」という日本映画界では決して不可能な一言をすんなりと言わせてみせた辺りに、その真価が表れています。 また、本作を見ているとなぜ日本が敗戦したのかがよく分かります。アメリカとの間の圧倒的な物量差のみならず、現場のリーダーを育ててこなかったという組織論的な問題も大きく影響しているのです。臨機応変な意思決定を下すための訓練を受けてきていない管理職達は厳しい戦況に対応できず、精神論のみに解決策を見出してどんどん内向きな思考となり、いよいよ事態が自身の対応能力を超えると「玉砕させてくれ」と言い出す始末。こちらの計画通りに物事を進められる勝ち戦ならば強みを発揮するが、負け戦で相手に主導権をとられた途端にテンパっておかしな行動を連発し始めます。この辺りは現在の日本の組織にも引き継がれている弱みであり、日本人論としても興味深く鑑賞することができました。[ブルーレイ(字幕)] 8点(2016-11-18 15:46:36)《改行有》

91.  ボーダーライン(2015) 《ネタバレ》 ハリウッドが本格的に製作した麻薬戦争映画は『トラフィック』以来となりますが、見掛け倒しで何だかボヤっとしていたソダーバーグとは違い、本作では”凶暴なメキシコ麻薬カルテルvs戦争慣れした米国防総省”という燃えるカードが準備されています。最高でした。 この戦いの激しさは想像を絶するものであり、例えばFBIの中ではかなりの敏腕だった主人公ケイトが国防総省の特殊部隊では完全にできない奴扱いで、「まぁ邪魔しない程度にやってよ」なんて言われているわけです。いろいろ見聞きする中でケイトなりに怒りを感じたりもするものの、ジョシュ・ブローリン隊長からは「はいはい」と軽くあしらわれる始末。FBIが国内で相手している犯罪者達とメキシコの麻薬カルテルではまったくレベルが違うのです。 そんな麻薬カルテルに対する米側のカウンター兵器として登場するのがベニチオ・デルトロ演じるアレハンドロ。元はコロンビアの検事だったものの、家族を惨殺された恨みから殺し屋に転向したという情け無用の殺人マシーンです。暗殺者を意味する原題は彼を指したものだと考えられますが、検事という畑違いの経歴を持つアレハンドロが、米国防総省からも一目置かれるほどの暗殺者に変貌を遂げた過程ではとんでもない訓練に耐えたのだろうということが想像され、こちらでも燃えました。 本作は多くを語る映画ではないのですが、登場人物達の過去には一体何があって今に至っているのかという含みが多く持たされているためにドラマ性が高いレベルで維持されています。ロジャー・ディーキンスによる美しい撮影とも相まって、あらすじ以上に格式の高い作品に見えています。こちらもお見事でした。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-10-25 15:25:07)(良:1票) 《改行有》

92.  ブルー・リベンジ (2013) 《ネタバレ》 情念のぶつかり合いこそが復讐映画の醍醐味なのですが、本作にはそれがありません。冒頭20分にはほとんどセリフがなく、観客に対する状況説明もなし。虚ろな目をしたホームレスが人を殺すのですが、この時点で観客は誰が誰を殺したのかがよくわからないため、そこには何の感情も起こらないのです。その後の説明で、どうやらこのホームレスは親の仇を殺したということが分かるのですが、当のホームレス自身も復讐による高揚感や、人を殺したことへの後悔といったありがちな感情をほとんど表していないという点が、作品の異様さをより高めています。 本作のテーマは復讐の連鎖であり、対テロ戦争開始後のアメリカ映画ではさんざん扱われてきて若干陳腐化の傾向もあるテーマですが、本作ではかつてなかった切り口でこれが描かれています。主人公は両親を殺されたショックで精神をやられてホームレスとなっていたが、現在の淡々とした表情を見るに、親の仇に対する怒りも時間とともに薄れていたようです。しかし、事前にやると決めておいた復讐は一応果たしに行く、失うもののないホームレスだから刑務所に入れられることも怖くないし。主人公がやり場のない怒りや、どうしようもない使命感に突き動かされているのではなく、ただ何となく復讐に走るという点が異様だったし、そのドラマ性のなさにある種のリアリティを感じさせられました。 しかし、事は一筋縄にはいきません。復讐を果たした自分が服役して終わるだろうという見込みは外れ、加害者家族は警察に被害届を出すのではなく、主人公(と姉一家)に報復するという行動に出ます。ここに、被害者一家と加害者一家の血で血を洗う抗争が始まるのですが、ザ・ホワイトトラッシュといった感じのイカつい風体と重武装、しかも貧困層らしくやたら人数の多い加害者一家に対して、戦闘力ゼロに等しく不意討ちをかけるしか逆転の目のない主人公はモルドールに潜入したホビット同然の存在。この絶望的な戦力差が作品に大変な緊張感を与えており、特に姉宅襲撃場面では『ノーカントリー』を初めて見た時並みにハラハラさせられました。 その後、加害者一家側の事情も明らかにされ、序盤で主人公が殺した相手が実は親の仇ではなかったこと、両親殺害の犯人はすでに死んでいることが判明します。しかし、一度始まった復讐の連鎖は誰にも止められず、第一の当事者である親の世代が全員鬼籍に入っているにも関わらず、子の世代はもはや何の目的かもよくわからない殺し合いを延々と続けます。これを終わらせるには、どちらかの家族が全滅するしかない。アメリカの対テロ戦争やパレスチナ問題など、多くの国際問題に共通する論点を主要登場人物10名程度の小さなドラマに圧縮してみせた脚本の出来が素晴らしく、単なるバイオレンスの佳作に終わらせない含蓄ある作品となっています。 監督のジェレミー・ソールニアーは記事によっては驚異の新人扱いされているものの、実際には本作以前にも10年ほどのキャリアを持つ人物です。長い下積みに終わりが見えず本作を最後に引退しようと考えていたものの、その最終作がカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞を受賞して映画祭の目玉作品のひとつとなったことから、キャリアが一転しました。人生とは分からんものです。次回作の”GLEEN ROOM”も引き続き高評価を得ており、今後、大化けする可能性のある監督として要注目なのです。[インターネット(字幕)] 8点(2016-06-23 18:13:38)(良:2票) 《改行有》

93.  エリート・スクワッド(2007) 《ネタバレ》 最近、テレビドラマの『ナルコス』にハマってしまい、ジョゼ・パジーリャ監督作品を後追いして本作に辿り着きました。ベルリン映画祭金熊賞受賞作品にして、本国ブラジルでは子供たちがBOPEごっこをするほどの国民映画となったという評価はダテではなく、社会性と娯楽性が高いレベルでブレンドされた名作として仕上がっています。 手のつけようのないほど凶悪なギャング、私腹を肥やすことのみに精を出して公僕としての機能を失った警察、違法行為に手を染める市民と、各自が好き放題をしてメチャクチャな状態となっているリオデジャネイロにおいて、唯一、高い規律と目的意識を持って行動しているのが特殊警察作戦大隊BOPEです。BOPEは「ボッピ」と読むらしく、えらい可愛らしい名前の特殊部隊があるもんだと思ったのですが、その実態はわが目を疑うほどの壮絶さです。『フルメタル・ジャケット』や『GIジェーン』をも超えるしごきで入隊の儀式を済ませると、治安組織というよりもむしろクライムファイターのような振る舞いで街の悪人たちを成敗して回ります。女子供だろうが容赦なく拷問して必要な情報を聞き出し、犯罪者を見かければとりあえず射殺。生け捕りにした犯罪者には容赦のない暴行を加え、仲間を殺った悪人はその場で処刑と、「逮捕→裁判→投獄」という一般的な司法制度をまったく意に介さないリアル・ジャッジドレッドな集団なのですが、これが実在する部隊であり、本作の脚本には元BOPE隊員が参加しているという点で二度驚かされます。 こうして振る舞いのみを書き出すとBOPEは悪者であるかのような印象を受けるのですが、本作は前半にてリオの現状がいかに腐っているかを描きだすため、そのカウンターとしてBOPEほどの極端な暴力装置が必要であることを観客に納得させてしまいます。この辺りの構成は実に見事だと思いました。BOPEが全力でギャングを潰しにかかる終盤の爽快感はなかなかのものであり、本作はエンターテイメントとしても非常に優れているのです。 唯一不満だったのは、「遊び人」と呼ばれる大学生がしれっと生き延びたこと。この人物は、表面上は慈善活動を目的とする左翼系サークルを主催しているのですが、同じく表面上は貧困層の支援を目的とするNGOを介してスラムを仕切るギャングとのコネクションを持ち、キャンパス内に麻薬を持ち込んで利益を得ているクズ野郎です。ギャング達にはギャングにならざるを得なかった不幸な生い立ちがあるのですが、一方でこいつは恵まれた環境でぬくぬくと育ちながら、ロクな覚悟もなく軽い気持ちで悪事に手を染めるという、一番同情できないタイプの悪人。こいつのせいでネトは死んだのですが、マチアスが真剣に尋問してもヘラヘラと受け答えをするような腐った性根を持っており、ギャングの世界がいかに怖いかを思い知ってからエライ殺され方をして欲しいところでした。[インターネット(字幕)] 8点(2016-05-23 17:34:05)《改行有》

94.  インベージョン 《ネタバレ》 原作未読、1956年版未見、1978年版・1993年版は鑑賞済です。 おおよそ15~20年毎に映画化され、それぞれの製作年代の社会背景を色濃く反映するこの企画ですが、私が過去に鑑賞した1978年版・1993年版と比較して世相がもっともストレートに反映されたのがこの2007年版だという印象です。 「自我を捨てれば暴力も混乱もない平和な世界が待ってるよ」と言う侵略者に対して、「自我を失えば私は私じゃなくなる。そんな平和に価値は見いだせない」として断固抵抗するのが主人公なのですが、ここで興味深いのが、侵略者側の理屈ってアメリカ合衆国がイラクやアフガンでイスラム教徒に対して言ってることで、「民主主義は良いよ。男女平等は良いよ。欧米の価値観でみんな幸せになれるよ」と宣伝して回り、一見不合理であるイスラム教徒の価値観を頭ごなしに否定して紛争国を無理矢理にでもハッピーにしてやろうとする姿そのものだということです。一方、それに断固対抗する主人公は、「私たちには私たちの価値観があるのだ。それは何ものにも代えがたい」と言って一歩も引かないイスラム教原理主義者の姿と重なります。 思想による侵略の恐怖を描いた1956年版に始まって、この企画はアメリカ社会を被害者の位置に据えることが暗黙の了解となっているのですが、本作は初めてそこを逆転させ、アメリカ合衆国が他国に対して行っている侵略行為をSFというフィルターを通して描く企画となっています。SFを現実社会の合わせ鏡として考えると、これは最高のSF映画ではないでしょうか。さらには、過去の映画化作品を利用して観客の側に先入観を抱かせ、それとは正反対のものを見せてくるという裏切り方もよく、観客の知的好奇心を刺激するという点で、きわめて優れた作品だと思います。この驚天動地の発想の転換は、第二次世界大戦後にアメリカによる占領政策を受け、前世代のやってきたことを全否定する代わりに平和と繁栄を得たドイツ人監督ならではのものではないでしょうか。 ただし、上記の趣旨が上層部の逆鱗に触れたのかどうか分かりませんが、本作は完成後にワーナーから大幅な撮り直しを命じられ、それを拒否した監督は解雇。当時『Vフォー・ヴェンデッタ』でワーナーと仕事をしていたチームがピンチヒッターとして雇われ、ウォシャウスキー兄弟が脚本を、ジェームズ・マクティーグが監督を担当して後半部分をまるまる撮り直すという措置がとられました。その結果、スケールの大きな見せ場は追加されたものの、社会的な考察は薄められたように感じます。前半と後半で作風がまるで変わってしまうことの違和感は相当なもので、これだけ不自然な映画はブライアン・ヘルゲランド監督が解雇された『ペイバック』以来です。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が最初に完成させたディレクターズ・カット版を見てみたいのですが、興行的にも批評的にも大敗した本作では、それも難しいのでしょうか。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-19 15:01:08)(良:1票) 《改行有》

95.  パージ:アナーキー 《ネタバレ》 前作には低い評価を下したものの、続編である本作は実にいけるバイオレンス映画として仕上がっていました。 籠城戦だった前作からは一転して、本作では無法地帯となったロス市街地が舞台となり、ガトリング砲で人をミンチにするわ、固まって避難していたホームレスを火炎放射器で焼き殺すわのやりたい放題。主人公は射撃や格闘に精通し、状況判断にも長けたザ・ヒーローという感じの男で、その活躍は文句なしにかっこよく、「そう、こういうのが見たかったんだよ!」と頑固なバイオレンスファンを納得させるだけのビジュアルを叩きつけてきます。お話の方もユルユルだった前作からは一転してソリッドな仕上がりとなっており、なかなか気が抜けません。状況が悪化し、観客側のフラストレーションが最高潮に達したところで反撃!というテンポの作り方もよく、なかなか見入ってしまうのです。また、これだけの残虐ショーを繰り広げておきながら、クライマックスでは暖かさすら漂うというドラマ部分の味付けも絶妙であり、前作で感じた不満がほぼ解消されてお釣りがくるほどの仕上がりとなっています。 あえて不満点を挙げるなら、政府による介入や、反政府組織の登場など、ちょいと世界観を拡大しすぎで扱いきれていない設定があったかなということは気になりましたが、これについては現在企画中の『The Purge3』の仕上がり次第でしょう。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2016-01-02 00:24:06)(良:1票) 《改行有》

96.  スター・ウォーズ/フォースの覚醒 IMAX3Dにて鑑賞。 全銀河に及んだ戦争もスカイウォーカー家のドラマもEP6で綺麗に終わり、これから先にどんなドラマがあるんだと不安だったEP7ですが、相変わらず銀河は内紛状態で、依然として権力を掌握しているのは暗黒の勢力であるという基本設定には少々ガックリきました。EP6のラスト、帝国倒れてよかったね!のお祭り騒ぎは一体何だったのかと。 しかし、そんな苦しい基本設定を流せば、本編はドラマとアクションが見事に調和した、完成度の高い娯楽作に仕上がっています。物語の大枠はEP4をなぞったものなのですが、ドラマと見せ場の密度、話のテンポは70年代とは比べ物にならないほどのレベルであり、やや長めの上映時間にも関わらずダレ場は一切なし。演出の絶倫ぶりには驚かされました。新キャラクター達はみな魅力的だし、事前の予想以上に旧キャラクター達の見せ場も多く、キャラクター劇としてもよくできています。また、劇中いくつか提示される謎についてもおかしな引っ張り方はせず、本作である程度ネタを明かしてくれるのでストレスなく鑑賞することができました。EP6の続きを作れと言われて出て来る、ベストの作品が本作ではないでしょうか。それほど面白かったです。 細かい点で言うと、兵器やガジェットのデザイン、世界観や用語についてはEP6まででルーカスが構築したものを基礎としており、本作オリジナルの要素を極力持ち込まなかったという点も良かったと思います。EP1~3が不評だった理由をきちんと分析し、ファンが望むスターウォーズを作り上げているのです。 失敗した点としては、観客の興味を引くほどの強烈な悪役がいなかったという点でしょうか。予告の時点で期待されていたカイロ・レンは、登場場面こそ死ぬほどカッコよかったのですが、その後どんどんヘタレキャラと化していき、ラストでは『マイティ・ソー』のロキをも下回るほどの醜態を披露。投影でのみ登場するファースト・オーダーの大親分にもかつてのパルパティーンのような重厚さがなく、頼みのルークが出て来てくれれば簡単に勝ててしまうのではないかという無用な安心感があります。[映画館(字幕)] 8点(2015-12-19 14:06:46)(良:2票) 《改行有》

97.  オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 《ネタバレ》 内容やトーンは違うものの、私はトム・クルーズの『ザ・エージェント』を思い出しました。通常の映画がテーマとする人生の選択は冒頭で早々と処理され、選択の後に待ち受ける厳しい現実との戦いが本編になるという特異な構成が両作に共通しているのですが、結局は綺麗ごとに着地した『ザ・エージェント』にはなかったものが本作にはあり、私にはそこが刺さりました。 主人公・アイヴァンの立場は絶望的なものです。出産予定日より2か月も早く破水し、産婦の状態も良くない。根回しをしながら対応策を固めていくというプロセスはとれなくなり、今ここで、自分の判断のみで選択しなければならないという状況に叩き込まれます。しかも、産婦はたった一度関係を持っただけのおばさんで、彼女を愛しているわけでもない。むしろ、男性からすればお近づきになりたくない性格の女性であり、彼女の元に走ったとしても、その先に幸せな将来など待ってはいません。それでもアイヴァンは不倫相手の元へ行くという、一見すると不合理な道を選択するのですが、その選択の背景は劇中で徐々に明かされていき、物語への興味は途切れません。この辺りの構成の妙には唸らされました。 アイヴァンの意思決定の背景には、父の存在がありました。家庭を蔑ろにした父をアイヴァンは憎んでおり、今回の選択は、そんな幼少期の経験が大きく影響したものですが、その選択の後に襲い掛かってきた厳しい現実を前に、「自分も父と同じ末路を辿るのかも」という恐怖が過ります。かつての父と同じく家庭人失格の立場に置かれたことで、「父にも家庭に帰れない事情があったのかも」ということが見えてしまったのです。 立場が変わったことによる価値観の逆転は、仕事においても発生します。ソリが合わず陰で「クソ野郎」と呼んでいた上司が、この騒動にあたってはもっともアイヴァンの立場を心配してくれたし、彼は仕事に対する思いが強い、良い人間だったことが判明するのです。失った後になって、その有難みを知る。これには辛いものがあります。 起こったことを正直に話し、責任をとる。アイヴァンがとった方法は倫理的には正しいものでしたが、その告白がもたらした影響、彼が失ったものはあまりに大きく、正しい行いが必ずしも良い結果を導くわけではないという、冷酷な現実を突きつけてきます。見る者の人生観にも影響を与える、素晴らしいドラマだったと思います。[DVD(吹替)] 8点(2015-11-04 21:09:50)(良:1票) 《改行有》

98.  ラン・オールナイト 《ネタバレ》 ジャウマ・コレット・セラとリーアム・ニーソンのコンビはこれで三度目ですが、作品のクォリティはどんどん上がっています。本作は、外形的にはB級アクションに分類される作品ですが、その中身は非常に濃厚。ドラマ性と娯楽性を両立させた見事な佳作に仕上がっており、当該ジャンルの作品としてはここ数年で最高の仕上がりだと思います リーアム・ニーソンのみならず、エド・ハリス、ヴィンセント・ドノフリオ、ニック・ノルティと、渋すぎる演技派をズラリと並べたキャスティングには、「B級アクションにこれだけのメンツが必要なのか?」と思ったものの、実際に作品を見てみると、このキャスティングこそが作品のキモでした。長々とした説明セリフを費やさなくとも、彼らの演技や雰囲気を短時間見るだけで、キャラクター達の背景や複雑な感情がきちんと伝わってくるのです。それにより、アクションの勢いを殺さないまま重厚なドラマを描き切れており、作品の絶妙なサジ加減が実現されています。良い演技とはこういうことを言うのだなぁと納得させられました。 偶然が重なって子供同士が殺し合いをしてしまい、その事態の収集を巡って、本来は親友同士である親二人が敵対関係となってしまう。状況からして一方的に悪いのは組長の息子の方であり、このトラブル全体が組長の逆ギレのようにも思えるのですが、その辺りの設定上の不備はエド・ハリスの好演によりしっかりと補完されており、ドラマを破綻させるには至っていません。受けて立つニーソンは、若い頃の狂犬ぶりから家族も友人もみな離れて行ってしまい、組の貢献者でありながら組織内での敬意も得られないアル中老人。しかし、息子に危険が迫っているとなれば黙っておられず、持てる殺人スキルを全開にして逃走経路を作るという、最高に燃える役柄となっています。アクション俳優としてのニーソンのパブリックイメージもキャラクター造形に寄与しており、この親父がとにかくカッコいいのです。ごはん3杯くらいいけそうなほどカッコいいです。また、過去の悪行が原因で息子からいろいろとなじられるのですが、何を言われようが「お前のためだ」と言って愚直に行動し続ける様には感動的なものがありました。現在、こんな哀愁ある殺人マシーンを演じられるのはニーソンかスタローンくらいでしょう。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2015-10-14 15:41:23)(良:2票) 《改行有》

99.  セッション 《ネタバレ》 主人公・アンドリューがフレッチャー教授率いるバンドに参加した初日。休憩時間中にはワイワイ楽しくやってた先輩達が、フレッチャー入室と同時に凍りつき、ヘタに目立ってはいけないと全員が目を伏せる光景から、これはドえらい所へ来てしまったという緊張が走ります。その後、何度も何度も同じパートを演奏させ、「お前の音はズレてるのか?ズレてないのか?」と執拗にデブをいびり倒す辺りから、フレッチャーは本領を発揮し始めます。とはいえ、この状況、この迫力で問い詰められて冷静な分析などできるわけもなく、事実がどうであったかよりも、どう答えれば場が収まるのかを考えてしまうのが人情というもの。可哀そうなデブはそんな魂胆をフレッチャーに見透かされ、バンドを追放されてしまいます。フレッチャーほどではないにしても、どう答えても地獄が待っている無限ループの理不尽な質問責めは多くの人が経験したことがあるだけに、作品のつかみにこれを持ってきた監督の采配は見事でした。ここで私は一気に引き込まれました。 アンドリューの音楽家生命を完全に潰すために晴れの舞台で騙し打ちをしたことから、フレッチャーの人間性が腐っていることは間違いありません。ただし、音楽家としての指導方法の是非については評価に迷います。彼は数十年に一人の天才を発掘し、その才能を開花させることを目標としており、そもそも凡人を相手にしていません。よって、ほとんどの生徒は、彼の指導に付いていけなくて当然なのです。さらに、一般社会と違って音楽は一部の才能溢れる者のみで占められる世界であり、人よりも上手程度ではプロとして生きていけないだけに、彼の目標設定も的外れではありません。また、結果的にその目的を達成して一人の天才演奏家を作り上げることに成功したのだから、その方法は事後的に肯定されえます。新入生クラスで譜面めくりをしていたアンドリューに何かを見出してバンドに参加させたのはフレッチャーであり、音楽家としての慧眼も彼にはあったのです。 ただし、過剰な指導方法は多くの脱落者を生んでおり、本来は才能を持っていた者が、それを開花させる前に道を断念したかもしれないという可能性も否定できません。日本の部活動等でもしばしば取り沙汰される問題ですが、一流の人間を作りたければある程度のしごきはやむを得ないが、どこまでやるべきなのかという難しい線引きについて考えさせられました。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2015-09-19 02:13:48)(良:1票) 《改行有》

100.  黙秘 《ネタバレ》 これは秀逸なサスペンスドラマ。過去と現在の殺人事件が密接な関わり合いを持ち、それらの謎が薄皮を剥がすように明かされていくという観客の好奇心に訴える構成と、明かされた真相にはドラマ性が多分に含まれているというオチのつけ方、どちらも見事なものでした。 本作のキャラクターで私がもっとも興味を引かれたのはマッケイ警部でした。家族はなく、仕事にのみ生きがいを見出しており、10年以上前の未解決事件であっても決して忘れず執念の捜査を続ける刑事。彼は『ランボー』のティーズル保安官や『許されざる者』のリトル・ビル保安官と同種のキャラクターであり、容疑者視点の物語だから悪役となっているだけで、一般的には、むしろ正義の人として描写される人物です。ジョーの死を殺人と見た刑事としての勘は正しく、実娘に対する性的虐待という事件の重要なファクターを知らなかったのだから、彼があれくらい厳しくやってもおかしくはありません。 対するドロレス。彼女には男社会に対する根深い不信感があって(学資預金のトラブルを事前に挿入しておいた構成の妙)、マッチョの権化であるマッケイを自分と娘の協力者として取り込むことはできないと直感的に判断し、「旦那の件はただの事故死」と言って一歩も譲りません。法治国家の原則からすれば間違っているのはドロレスの方なのですが、彼女にあるのは「自分が捨石になってでも娘のための道を作る」という狂気に近い執念であり、それは善悪を超越したレベルにまで達しています。男社会と母性の対立こそが本作の山場ですが、それぞれを象徴するクリストファー・プラマーとキャシー・ベイツの熱演もあって、これが壮絶な見せ場となっています。 無自覚のうちにそんな争いの中心にいたセリーナは、親の心子知らずの極致をいく難役でしたが、JJリーの繊細な演技のおかげで、観客から憎まれないギリギリの範囲内に収まっています。都会でバリバリやってる若者が、教養のない田舎の親をバカにして、ロクに話も聞かない。ちょっと前の私も似たような状態にあったので、彼女の態度に対しては共感とイラ立ちの両方を覚えました。ウザい、ダサいと疎ましく思っていた母親が、実は自分を守るために人生をかけていたことに気付いた時の感動や、それを受けて、マッケイ刑事への反撃を開始する場面の爽快感など、深いドラマ性とある程度の娯楽性を両立させた演出バランスも優れていると感じました。[DVD(吹替)] 8点(2015-09-08 16:07:20)(良:1票) 《改行有》

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