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自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

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1.  逆転のトライアングル 《ネタバレ》 全編にわたって寄せてしまう"眉間のシワ"。 原題は美容外科用語から来ている。 監督の前作『ザ・スクエア』は視聴済み。 2作連続でカンヌパルムドール受賞の快挙らしいが、他に相応しい作品はあったのではないか? 格差社会を描いたテーマは過去にもたくさんあれど、 本作はその対象物(男性と女性、富裕層と労働階級、白人と非白人、健常者と障害者、資本主義と共産主義)を広げすぎてしまい、 ブラックコメディとしての切れ味がイマイチだった。 居心地の悪さと気まずい空気を生み出す巧さは相変わらずだが。 割り勘を巡り、インフルエンサーの彼女と長々と揉める立場の低いモデル男性の卑小なプライド。 「スタッフを休ませなきゃ」という思いつきで無理矢理泳がせるセレブばあさんの偽善。 ファーストフードも高級ディナーも口に入れば、吐瀉物も排泄物もみんな一緒。 無人島漂着時、セレブ全員にサバイバルスキルがないために、唯一持っている女性清掃員が女王に君臨するグダグダな一幕。 どこかで見たことのあるような展開で、いくら皮肉たっぷりに金持ちも貧乏人も全方位的にコケにしたって、 前者からしたら免罪符、後者からしたらガス抜きにしか見えない。 今の資本主義社会の権力者の横柄に"ノブレスオブリージュ"は必要だが本作を見て襟を正す人はいるのか(財○省とかね)。 金で買える"安全な場所"がある限り、ヒエラルキーの頂点に立つ者はどこまでも無礼になれる。 無人島がリゾート地だと判明した瞬間、女性清掃員にはその金がないし、いつまでも平穏は存在しない。 社会構造が転覆しようが、これからもずっと誰かが割を喰らい続ける。[インターネット(字幕)] 4点(2025-03-11 23:46:31)《改行有》

2.  NIMIC/ニミック 《ネタバレ》 わずか12分でランティモス独自の不条理さを堪能できる短編。 チェロ奏者の男が謎の女によって、父親としても、夫としても、演奏家としてもアイデンティティを奪われ、居場所も奪われる。 最低限の台詞と生活感のない無機質な空気が常に緊張感を漂わせながらも、 見た目の時点で性別すら完全に違うのに誰も気づかない、演奏の下手さも模倣している辺りにブラックユーモアを感じさせる。 全てを失い、何も無くなった男は、電車でアフリカ系の青年に話しかけられるが、彼の人生を乗っ取るつもりだろうか? 入れ子みたいな構造でクセになりそう。[インターネット(字幕)] 7点(2025-03-11 22:57:22)《改行有》

3.  TATAMI 《ネタバレ》 2023年の東京国際映画祭で本作が紹介されており、劇場公開を期待していた。 イラン政府の家族や立場を人質に取ってでも棄権を強要するやり口には憤りを覚えるし、 柔道の指針である「心・技・体」の精神に背いていて、国家としての参加資格はないだろう。 スポーツと政治は別物のようでいて表裏一体。 歴史上、国威発揚と言いながらプロパガンダの道具にされたことなど数知れず、現在でも変わらない。 工作員が大会の観客として、スタッフとして紛れ込み、揺さぶりをかけてくる。 信頼していたコーチからも同じチームの選手からも孤立し、 人生を賭けた試合で肉体もメンタルも限界の中、レイラはどう勝ち上がっていくのか。 同時に訳ありなコーチの葛藤や心の機微も綿密に描写しており、もう一人の主人公と言っても良い。 モノクロでスタンダード比率の画面が映像を引き締め、閉塞感を強調する。 (低予算で観客のエキストラを呼べない、チープさを誤魔化したいのもあるが)。 己の立場や面子より試合を続けさせるためにレイラを守ろうとする柔道協会のスタッフの奔走、 一度はレイラを裏切ったコーチが「負けるな!」と応援する展開が熱い。 スポーツにはフェアネスがあり、尊厳があってこそ成り立つものだと認識する。 それでもレイラは準決勝で負けてしまうのだが、もしイスラエルの選手と戦っていたら、 優勝する展開があったら、リアルで大問題になってしまうからか、フィクションとは言えあえて出し惜しみしたのかな。 政府の意向に背いたコーチは拉致されかけるが逃走、柔道協会に助けを求める。 そしてレイラに涙を流しながら自分の嘘を告白し和解する。 国家に利用されるだけの嘘だらけの人生に別れを告げ、一年後、亡命先のパリで難民代表として再スタートを切る二人。 イランに限らず、母国から亡命した人々が祖国に戻れるように、 良い国だと誇れるように少しでもマシな未来になってほしいものである。[映画館(字幕)] 7点(2025-03-01 22:10:19)《改行有》

4.  ANORA アノーラ 《ネタバレ》 大人だからこそ、若さがあるからこそ、大きな困難を乗り越えられると思っていた。 だが、いくら大金を得られてもヒエラルキーからは逃れられない。 そして強大な権力によってどうしようもない厳しい現実に打ちのめされる。 NYのストリッパーで時折性的なサービスも請け負っていたアノーラが求めていたのはお金だったのか、 それとも自分自身を受け入れてくれる代わりの利かない愛情だったのか。 最初で最後かもしれないチャンスに彼女は必死にしがみつく、必死に抵抗する。 大富豪の部下たちの脅しには汚い言葉で打ち負かし暴れまくる。 決して折れまいと毅然とした態度で立ち向かうマイキー・マディソンのパフォーマンスに圧倒された。 ポールダンスからロシア語まで完璧にこなし、アノーラというキャラクターに現実味を与える。 本作では愚かな人間しか登場しない。 勢いでアノーラと結婚した大富豪の息子のイヴァンですら、彼女を置いて逃走して、NYのクラブで泥酔しまくるし、 自分という核がなく流されるがままの幼稚で無責任な青年。 両親を見ても「この親にして、この子あり」な横柄さでロシアという国家そのもの。 その中で寡黙な用心棒のイゴールだけはアノーラに対して距離を置きながらも、彼女を気遣い、見守っていた。 婚約解消のシーンで部外者ながらイヴァンを謝罪させるべきだと進言したのも彼だった。 ある意味、彼だけはファンタジーの住人だ。 当たり役を好演したユーリー・ボリソフに肩入れしたくなる。 夢から醒めたように現実に叩き戻されるラスト。 朝から白い雪が降り続く灰色の世界に、車のエンジン音とワイパー音だけが響いている。 自分に良くしてくれたイゴールへの厚意を性行為でしか示せない悲しさに今まで張り詰めていた糸が切れ、 アノーラは"一人の女の子"として泣き崩れる。 イゴールもやんわり拒否しながらも無言で、 「もうこれ以上、自分を傷つけなくていいんだ、頑張ったよ」と彼女を慰めているように見えた。 アノーラのこれからの物語はどうなるのだろうか? きっと、二人は恋人同士になれなくても、お互いに信頼し合える存在として支え合いながら強く生きていくと思う。 なんたってアノーラはロシア語で"光"を意味するのだから。[映画館(字幕)] 7点(2025-03-01 21:18:50)《改行有》

5.  セプテンバー5 《ネタバレ》 報道が、情報が、人を殺す、社会を捻じ曲げる。 スピルバーグの『ミュンヘン』でも描かれた、 1972年のオリンピックで起きた「黒い九月事件」をアメリカの放送局の視点で描いた社会派ドラマ。 全編の9割がスタジオのみの展開であり、直接的な犯行シーンが一切ないことから、 前代未聞の事件に対する混乱、情報が錯綜するクルーたちの判断が"報道することの重み"を突きつける。 パソコンもない時代、当時のテロップが如何に表示されていたのか興味深い。 注目を浴びたいがためのインパクト重視の報道により、犯人側に重大な情報が提供されてしまう皮肉さ。 情報の裏付けを取らないまま、人質解放のニュースを流し祝杯を挙げたその矢先の急転直下、そして最悪の結末へ…… 未曽有の事態によって生み出された悲劇を教訓に、その繰り返しによって現在の平和が成り立っている。 テレビの報道バラエティで活躍する某ジャーナリストが本作へのコメントを寄せていたが、 別の記事で偏向報道を是として開き直る姿勢に呆れ果てたことがある。 日本のオールドメディアを見ていると、過去からむしろ何も学んでおらず、 フラットな視点もないまま扇動しているとしか思えない。 視聴率さえ取れれば、メジャーリーガーの自宅を空撮しても構わないほど良心の呵責もなく、 自分たちに都合の悪い情報は"報道しない自由"を行使するわけ。 その積み重なった信用のなさがネットやSNSといった新たなメディアへと移行するきっかけになった。 だからといってネットが真実でもなく、プロパガンダもデマもディープフェイクもあふれる世界で、 どれが正しいかを見極め、誰もが情報を発信できることに身が引き締まる思いだ。 テロの生中継という結果的に凶悪犯を喧伝させる事態にさせたこと、そして9億人がその生中継を目撃したということ。 ラストのテロップが静かに重くのしかかる。[映画館(字幕)] 7点(2025-02-24 23:15:13)《改行有》

6.  ブルータリスト 《ネタバレ》 アメリカンドリームが華々しく煌びやかであるほど、あぶれた分だけ漆黒の絶望が広がっていく。 虚栄と強欲にあふれたアメリカで偽りの自由に囚われ、"アメリカ人"として生きていくこと、そして己の帰属意識とは? 「期待はしていない」と常にやつれた顔を見せる建築家。 ホロコーストから逃れても、新天地でも差別され、搾取され、凌辱されて支配される。 緩慢な地獄、そしてシオニズムへの回帰。 ブルータリズム建築物はコンクリートを中心に構成された、どこか無機質で冷たく、コントロールされた印象を受ける。 それはタイトルの語源である"Brutal"="残忍な"を意味する通り、 人間の残忍さだけでなく、狡猾さ、傲慢さ、醜さ、愚かさと卑小さを兼ね揃えている誰にでも持つ本質。 それでもなお、その先にある"到達点"こそ重要であると。 ユダヤ民族の苦渋の歴史を生々しく映しながらも、尊厳としての、抵抗としての建築物を残すこととリンクする。 そこに意思を貫こうとする"美しさ"があった。 (ただ、イスラエルのガザ侵攻を見るに、公開時期的にタイミングが悪いとしか言いようがない)。 215分の長尺であるが2部構成に分け、中盤に15分の休憩時間を差し込むことで、 意識の切り替えと後半への期待を寄せる、故に観客を退屈させない仕組みを構築している。 昔の大作映画にはそういうものがあったそうで、今までにない貴重な体験。 オープニングとエンドクレジットの意匠凝らしに、 クラシックへの回帰だけでは終わらせないアーティストとしての矜持を感じた。 そう、本作の監督はブラディ・コーベット。 ミヒャエル・ハネケのリメイク版『ファニーゲーム』に出演したぽっちゃり系の若者は生き残るため監督へと転身した。 若さ故だからこそ挑発的な作りであり、巷にあふれている消費されるだけの映画業界に対して抵抗を叩きつけた。 粗削りで暴力的とも言える野心たっぷりで、負けてたまるかと言わんばかり。 次世代のアーティストが力で押さえつけようとする時代と戦い続ける限り、これだから映画はやめられない。[映画館(字幕)] 8点(2025-02-21 22:36:03)《改行有》

7.  チャレンジャーズ 《ネタバレ》 テニスプレイヤーの親友の二人が将来有望な一人の女性テニスプレイヤーを愛し合う。 まるで実話みたいな内容だが、本作は完全なフィクションである。 (かつて選手だったフェデラーの妻のしかめっ面から着想を得たらしい)。 親友同士だった二人の試合と10数年にも渡る愛憎に満ちた三角関係の行方を、 ラリーのように現在・過去・現在・過去という具合に時間軸を交錯させていく。 三角関係だったらどこにでもある題材だが、男二人のキスシーンに驚いた。 その二人を止めることなく、笑顔になるヒロインのタシ。 監督がかつて同性愛映画を撮っていたルカ・グァダニーノだから、普通のテニス映画にならないわけだ。 現在で描かれる試合に向けて、テニスでしか生きる意味を見出せない三人がそれぞれ切望しているもの。 試合前日に罵り、不安を煽り、心理面で揺さぶりをかける。 タシは本当に二人を愛していたのだろうか? 選手生命を絶たれ、それでもコーチとして表舞台で注目を浴び続けたい理由付けのためにアートを利用したのか? アートは自分をコントロール下に置くタシに愛想が尽きたのか? パトリックは本当はアートと復縁したいのか? それぞれの思惑が意見の分かれる曖昧なラストに結実していく。 その後の物語は一切描かれていないが、タシの"Come On!"(やった!)を見るに、 あの一瞬の理想のために三人は手に入れたいものを手に入れたのだろう。 テニス映画として見ると、コミュニケーションツールとしての役割でしかなく、別にテニスで描く必要はない、 デヴィッド・フィンチャー映画でお馴染みのT・レズナーとA・ロスのコンビによる スコアの完成度が高かっただけに拍子抜けした。[インターネット(字幕)] 5点(2025-02-15 01:16:04)《改行有》

8.  ビッグ・フィッシュ 《ネタバレ》 10数年ぶりに視聴した。 ホラ吹きと言わんばかりのありえない展開の数々。 でも、ファンタジーだからこそできること、見えるものがある。 父が辿った人生の足跡には、数多くの人たちとの出会いがあり、数多くの宝物を作り出した。 自分をよく見せるためではなく、誰かを幸せにするための優しい嘘。 ぎこちない関係だった父子の最後の願い、そして語り継がれていくもの。 クライマックスのおぼろげだった記憶が甦り、涙を流していた。 自分も親に家族に対して、そこまで向き合えるだろうか。 本作製作当時のティム・バートンは家庭を持ち、父親を亡くしたことから、 彼のパーソナルな要素が多分に含まれているだろう。 その輝きが詰め込まれた代表作の一つと言っても良い。 近年ヒットはしてもピンとこない作品ばかりなので、特大ホームランをもう一回打って欲しい。[インターネット(字幕)] 8点(2025-01-31 23:59:47)《改行有》

9.  ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語 《ネタバレ》 いやぁ、最後までシュールだった。 映画と演劇と小説を合体させた演出手法で、作家から富豪へ、富豪から医師へ、医師から導師へ、 語り手が入れ子のように代わっていく構成が面白い。 徹底したセット撮影と仕掛け絵本みたいなアーティスティックな美術に、 これぞウェス・アンダーソンの映像センスが光る。 嘘みたいな話をみんな真剣な表情で淡々と語るのが何とも可笑しい。 映画の中心人物であるヘンリー・シュガーが意図も簡単に透視能力を得てカジノで大儲けするも、 働いたことのない金持ちのボンボンだから心の充足感がなくて、 イカサマで世界を渡り歩きながら慈善事業に奔走するのがどことなくシニカルで味がある。 40分で気楽に見られて本作でしか得られない栄養素がそこにあった。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-28 22:28:48)《改行有》

10.  ジャックは一体何をした? 追悼デヴィット・リンチ。 長編デビュー作の『イレイザーヘッド』を彷彿とさせる粗めのモノクロ映像に、 尋問する刑事と猿の会話の噛み合わなさがコントのやり取りみたいでもあり、 深く解釈しようにも意味の無いような感じだったりが原点回帰とも言える。 明らかに猿の口元が合成臭さ全開でより歪さを際立たせる。 人間と動物が上手く共存しているかのように見えて、 それぞれの価値観の尺度に齟齬が発生する様は『ズートピア』的である。 このフィクションの世界で"正しさ"とは何か、それは誰が保証して、どこまで許容されるべきか。 現実世界の差別と偏見の本質はそこにある。 …とは言え、変に雁字搦めに考えるよりは、 この意味不明さを堪能することがデヴィット・リンチらしさとも言える。 唯一無二の世界観を作り出した監督の逝去に、一つの時代の終わりを迎えた。[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-27 22:52:07)《改行有》

11.  トランス・ワールド 《ネタバレ》 YouTubeで誤ってネタバレを見てしまったのが残念に思える。 しかし、それを差し引いても無駄が一切ない脚本で、 ほぼ小屋と周辺の森だけの展開なのにも関わらず一気に"魅せる"。 一つ一つの台詞が伏線になって、4世代にわたる壮大な家族の物語になっていく。 映画としての粗やツッコミどころはなくはないが、 運命を変えようと奔走する登場人物のドラマに見応えがあった。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-22 21:00:16)《改行有》

12.  ザ・テキサス・レンジャーズ(2019) 《ネタバレ》 時代に取り残された老いた二人のテキサスレンジャーの目を通して、 『俺たちに明日はない』で暴れ回ったボニー&クライドというアンチヒーローに縋り付くしかなかった、 大恐慌下の絶望の中にいる人たちと背景をディテールを以て描き出す。 治安維持という仕事のためとはいえ、過去に多くの悪党を殺してきた男二人がその業を背負い、 アイドル的存在のボニー&クライドが持て囃される時代の流れに抵抗しながら、 与えられた役割を全うしようとする。 禿げた頭に弛んだ腹、小便は近く、早く走ることもできず、かつて引退したのもあり銃の腕も衰えている。 若造の捜査官が使うハイテク機器に負けない二人にあるのは長年培われた経験と勘。 二人が追う間にも、ボニー&クライドは警察官たちを情け容赦なく至近距離から顔面を撃ち抜く。 『俺たちに明日はない』で描かれていたボニー&クライドの反骨的なアイコンは虚像でしかない。 追跡側のヒューマンドラマなんだから、凶悪犯の素顔もドラマもほとんど映さない潔い姿勢は正解だろう。 捻りもないオーソドックスさで中弛みがあるのは事実だが、製作陣の誠実さが伝わってくる。 かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだったスターのケビン・コスナーとウディ・ハレルソンのいぶし銀の魅力と共に、 過去の存在になっていったテキサスレンジャーの枯れ具合に哀愁を添える。 結末は既に誰もが知っている。 ボニー&クライドが死に、遺体を載せた車には遺品を自分のモノにしようと群がる人々、 葬儀には2万人ものファンが参列した裏側で、カップルによって落ち度のない人々の人生が壊されたのも事実。 1000ドルを受け取る代わりにインタビューを求められるも、「恥を知れ」と断る二人。 殺さないと自分たちが殺される、こうするしかなかったと虚しさと無力感に苛まれるも、 車で帰路につく途中、運転を交代するまでに信頼関係を築いた二人に誇りと感慨を覚える。[インターネット(字幕)] 6点(2025-01-03 12:47:17)《改行有》

13.  俺たちに明日はない 《ネタバレ》 強盗カップルによるロマンチックな逃避行だと思ったら、 「バロウ・ギャング」として複数人で犯行を重ねていたことを初めて知った。 (史実だと幾度か入れ替わりがあったので、多少の脚色はあったと思うが)。 秀逸な邦題通り、軽快で、刹那的で、破滅的。 '30年代当時の禁酒法と世界大恐慌という不安定な時代に鮮やかに犯行を重ねる二人に、 貧しく抑圧されていた者はある種の"義賊"として羨望の的、神格化しているのは大きいだろう。 主演の二人がカッコ良く美化されて、表現の自由の限界に挑戦しているあたりも、 本作製作当時のベトナム戦争等の国家への不満、 反体制・反権力のアイコンとして持て囃されていた暗い時代が重なる。 昔の映画らしくテンポはもっさりしていて、見ていて集中力があまり続かなかったし、 犯罪集団にさして魅力的にも感じなかった。 ただ、リアルで鬱屈や疲弊を抱えている人ほど共感するのは分かる気がする。 アメリカン・ニューシネマの定義通り、どう足掻いても最後は権力によって屈服して潰えていく。 「言いなりになって死ぬくらいなら最後にデカい花火を打ち上げよう」と言わんばかりの、 無敵の人たちが生まれゆく、悲惨で腐敗した時代への嘆き。 因果応報と言えばそれまでだが、唐突なハチの巣状態で崩れ落ちる、 二人が駆け抜けた生き様を永遠のものにさせるラストが鮮烈。 あれを見るだけでも十分お釣りは取れたと思うようにしよう。 追跡側の映画もあるようなので、そちらも見て当時の事件を立体的に俯瞰したい。[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-03 00:28:05)《改行有》

14.  哀れなるものたち 《ネタバレ》 胎児の脳を移植され、甦った女性の魂は胎児のものか、それとも生前の女性のものか。 そのどちらもはっきりしないまっさらな状態のまま、彼女は知恵を得て、世界を見て、猿から人間に変化を遂げる。 そして支配欲に満ちた男が恐れるだろう、凝り固まった既存の常識をなぎ倒し、 愚かな所有物から独立して一人の女性としてのアイデンティティを確立する。 その成長過程をエマ・ストーンが余すことなく演じ切り、主演女優賞は納得。 ところが社会正義に目覚めようが、貪欲に知識を吸収しようが、倫理観と慈悲の心は身に付かなかったようだ。 フェミニズム映画のように思えて、"哀れなるものたち"とは一体誰だったのか。 現代における"正義の顔をした悪"の台頭に、本作はそれすら笑い飛ばしているように思える。 ルールを取っ払えば、男も女も悪知恵だけはある本能に従順な猿に過ぎないのだから。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-01 23:58:00)《改行有》

15.  レイジング・ブル 《ネタバレ》 オープニングの掴みがあまりに美しく完璧すぎる。 荒々しいボクシングの世界にカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲が効果的に流れる。 孤高故に狂暴であり、病的なまでの嫉妬と猜疑心で弟も妻も去っていく、 苦悶のジェイク・ラモッタのありのままの姿をデ・ニーロはストイックに活写する。 リアルに近寄りたくない男ではあるが、 ここまで狂わなければ世界ミドル級王者に上り詰めることなどできなかっただろう。 だからこそ引退後の幸福は長くは続かなかった。 聖書の一節「私は盲であったが今は見えるということです」。 かつての過ちを受け入れ、今日も人生というリングで贖罪を背負うラスト。 贅肉だらけで精巧さはなく、チャンプの栄光は過去のもので知らない人、忘れた人も増える。 家族に暴力をふるっていた"獣"は長い月日と後悔でとうとう丸くなった。 ボクシングを舞台装置にして、人生の真理を鋭く突いた芸術作品。[インターネット(字幕)] 6点(2024-12-30 23:57:32)《改行有》

16.  ドライブアウェイ・ドールズ コーエン兄弟でおなじみのイーサン・コーエン初の単独作品。 LGBTQへの理解がまだ発展途上中の1999年を舞台に、 レズビアンのカップルが車両配送で危険な物品の入った車を受け取ったことから始まる珍道中。 兄ジョエルが撮った重厚な『マクベス』とは対照的に、 超一流の監督と超一流の俳優で撮られた犯罪映画の中身がお下劣B級テイストという落差で、 物凄い無駄遣いしているというか、あれほどの実績を築いたからこそ肩の力を抜いた映画を作りたかったのかな? 徹底的に最後まで下らない内容でもコーエン兄弟らしい含蓄を挟み、 対照的なキャラクターである主演二人は魅力的で、ありきたりなストーリーを乗り切る。 また、一歩間違えば政治利用されやすい同性愛要素はギャグの応酬で深く考える暇すらなく、 85分でコンパクトにまとめたのは正解だった。 でも、自分には合いませんでした。 イーサンの力量なら下ネタ控えめでもう少しサスペンス寄りにできたはずで、ちょっと期待しすぎた。 次回作は兄弟合作に戻るのか、単独で続けていくのかそこが気になる。[インターネット(字幕)] 4点(2024-12-30 23:01:46)《改行有》

17.  ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 「良い映画を見たなあ」って素直に思える。 クリスマス映画の新たな古典誕生。 '70年代を意識したフィルムの質感と演出が、当時のベトナム戦争が影を落とす格差と差別を背景に、 傷と孤独を背負った者たちが如何に現実と向き合うかというテーマを普遍的なものにさせている。 三人が不本意ながら休暇を共に過ごしたことによって救われていく過程に、 たとえほろ苦い幕切れでも前向きに生きていく今後に思いをはせた。 大本命の『オッペンハイマー』がなかったら、アカデミー作品賞はこの作品だったかもしれない。[インターネット(字幕)] 8点(2024-12-27 23:13:26)《改行有》

18.  キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 《ネタバレ》 予想以上に淡々と描かれていく先住民オセージ族への静かな虐殺。 そこには西部劇における憧憬が完全に失われ、強欲と搾取がただの日常になった。 当初、ディカプリオが捜査官役だったそうだが、ヒーロー物語になることを恐れ、本人の希望で断ったという。 そのため、デ・ニーロ演じる有力者の叔父とオセージ族の妻との板挟みで苦悩する、 "平凡な男"という美味しい役どころではあるが、流されるがまま犯罪に加担してしまう時点で感情移入もない。 妻を愛しているのは事実だとしても、家族のために真っ向から抵抗しようとした時には既に手遅れで全てを失ってしまう、 そんな愚かな男の顛末を生々しく炙り出していた。 『羊たちの沈黙』でおなじみのFBIの原型はこうして生まれたのか。 エドガー・フーヴァーの名が台詞で登場したので、彼の伝記映画はいつか見てみたい。 前作の『アイリッシュマン』に並ぶ、3時間半に及ぶ大長編だが、スコセッシのテクノカルな演出と編集は冴えていて、 静かながら最後まで見届けるパワーは相変わらず。 トレンドの若者受け推しキャラアニメ映画、漫画実写化の対極に位置する"骨太な古典"が時代の流れと共に失われていく、 かつての黒歴史が風化されていく、その現実に対して必死に抵抗する巨匠の矜持が伝わってくる。[インターネット(字幕)] 7点(2024-12-21 12:51:09)《改行有》

19.  ブリッツ ロンドン大空襲 《ネタバレ》 タイトルの"Blitz"はドイツ語で"電撃戦"のことを指す。 1940年秋のナチスドイツによるロンドン大空襲を背景に、 黒人の血を引く少年が疎開を拒み、白人の母親の元に帰ろうとするシンプルなストーリーだが、 「戦争はやめよう、人種差別はやめよう」というメッセージの先にあるものがまるでなく、 内容が水のように薄かった。 母役のシアーシャ・ローナンをはじめ、俳優初挑戦の祖父役のポール・ウェラーの好演は言うに及ばず、 潤沢な資金を使った空襲シーンのCGの本気度、格調高い美術セットといった技術面のクオリティは高い。 だからこそ惜しい映画なのだと。 幾度の空襲に耐え抜いたイギリス国民の神話に対して異論を述べたかったのは分かる。 透明人間に近いマイノリティに光を当てたことは、黒人監督であるマックイーン監督ならではだろう。 だが、イデオロギーが強すぎて、物語と登場人物が"多様性社会"と上手く溶け合っていない。 別に祖父を死なせる必要はなかったし、最後に母子が再会しても何の感慨もなく、ただ終わっただけである。 とは言え、ディケンズの児童文学を彷彿とさせる雰囲気があり、ハードな描写が少なめのため、 児童からお年寄りまで家族で一緒に見るには丁度良いかもしれない。[インターネット(字幕)] 5点(2024-12-01 21:18:57)《改行有》

20.  テトリス 《ネタバレ》 一度はプレイしている人は少なくないのではないかという『テトリス』。 シンプルながらゲームボーイでかなり熱中していた世代の一人だ。 それを如何に映画化するともなると、ゲーム単体にストーリーを付けるのではなく、 冷戦末期の旧ソ連で誕生したゲームのライセンス争奪戦というユニークな造り。 本作を見て思い出したのは、 『アルゴ』を彷彿とさせるポリティカル・サスペンスの側面と、 『AIR/エア』で描かれたビジネス映画としての側面だ。 (どちらもベン・アフレック監督作品で、前者で幾分影響を受けていたのではないか)。 実話と言っても、展開を盛り上げるためにかなり誇張している箇所があり、 主人公の家庭が崩壊直前までに追い詰められたり、開発者が起こしたボヤ騒ぎ、 終盤のカーチェイスからのソ連脱出劇はほぼ創作だろう。 最終的に大成功を収めるのは分かるのだが、 駆け引きに、裏切りに、友情に、期待に、失望に、信頼に、と上手く絡まり合い、 ある種のフィクションとして見るならラストまで目が離せなかった。 時折、挟み込まれるゲーム的演出が心憎く、任天堂が深く関わったこともあり、日本への目配せも忘れない。 監視と密告とハニートラップと賄賂が当たり前のソ連体制側においても、 国家の利益のために主人公に手を貸す誠実な者、国家すら信用せず私腹を肥やしたい腐敗した者、 それぞれの思惑があって、いつか国が崩壊するのも分かっている。 共産主義国の恐さと閉塞感がひしひし伝わるも、一つのゲームが歴史を変えた壮大な物語に仕上がっていた。[インターネット(字幕)] 7点(2024-11-18 22:17:34)《改行有》

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