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Web www.jtnews.jp

プロフィール
コメント数 250
性別 男性
自己紹介 サンボリズムとリアリズムのバランスのとれた作品が好きです。
評価はもちろん主観です。
評価基準 各2点ずつで計10点
1.物語の内容・映像にリアリティを感じるか?
2.視覚的に何かを象徴できているか?
3.プロットの構成は適切か?
4.画面に映る動き・台詞や音にリズム感があるか?
5.作品のテーマに普遍性はあるか?

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【製作国 : アメリカ 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
評価順123456
投稿日付順123456
変更日付順123456

1.  オール・ザット・ブリーズ アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の映画MEMORIA メモリアの中で科学と詩を両立させるのは難しいという旨の台詞があったと記憶してますが、この映画はそれを成立させた一つの成功例だと思います。映像はアンドレイ・タルコフスキーの作品を思わせ、ナレーションは解説というより詩的であることを志向しています。印象的なショットがたくさんあります。冒頭暗闇の中ネズミが蠢くゴミ捨て場をローアングルで捉えたショット、街の風景に波紋が重なりそれが水面に反射した像だと徐々にわかるショット、ムカデが水たまりの中から這いあげると上空の旅客機が飛ぶ姿が映し出されるショット。カメラは動物の目線から人間の社会を見つめるよう促し、これほど多くの生き物が同じ世界を生きていることに気づかせます。また動物への愛情や淡々としながらも見え隠れする死や暴力のイメージ・巨視的な文明観といった要素に私は志賀直哉の小説も連想しました。総じてこの映画は今描くべきことと今まで描かれなかった新しさを感じました。この映画はインドだから描けるテーマに留まらず、まさに全人類的な問題を扱えているからこそ傑作だと思います。[インターネット(字幕)] 10点(2023-04-07 23:59:28)

2.  バンビ 動物たちのアニメーションにはデフォルメされながらも実際の動きを再現したような圧倒的なリアリティがあります。しかしこの映画の魅力は単に技術的な達成だけではありません。この映画は生き物が生まれ成長し死んでいく様を美しい四季の光景と共に描き切っています。温かいまなざしと容赦のない厳しさ、両方の目線がここにはあります。ディズニークラシック作品の中でその物語内容が最も古びてない作品と言えます。近年ディズニーは過去悪役を割り当てられたキャラクターを別視点から語り直す作品を何本も作っていますが、この作品にはその必要がありません。なぜなら悪役は人間そのものであり、その時点でこの映画は既存の価値観を揺さぶるものであり続けるからです。実はディズニーの作品の中で最も大人向けの作品なのかもしれません。[DVD(字幕)] 9点(2023-04-14 22:40:02)(良:2票)

3.  ブレードランナー 2049 ドゥニ・ヴィルヌーブがどういう人間かというと、とにかく時代遅れの作家です。キリスト教のモチーフを散りばめ、女性の出産を賛美する、っていつの時代の気分なんでしょう?もう21世紀ですよ。20世紀の時点で宗教なんて散々批判された過去の遺物ではないですか。女性も出産という役割からある程度解放されて自由を手にしていますよ。この映画もまた時代遅れです。とにかくスローテンポでダラダラ展開、眠くなります。いまさらブレードランナーかよと、しょーもない。しかも話が主人公のアイデンティティー探しかよ、しょーもない。レプリカントが買春かよ、しょーもない。しかしこのしょーもなさこそが人間の姿そのものではないでしょうか。レプリカントのしょーもなさはまさに人間のコピーであるからこそなのです。そしてこの時代錯誤感こそまさに現代という時代そのものではないでしょうか。いまだに20世紀の作品のリメイクや続編が多作される映画界を象徴してはいないでしょうか。時代遅れであることがもはや今という時代そのものである、奇跡的にこの映画は現代を切り取った作品になっていると思います。20世紀の人間の行為を模倣し反復し続ける我々現代人のしょーもなさとその悲哀、この映画は切実な茶番劇なのです。[インターネット(字幕)] 9点(2023-04-05 23:48:37)

4.  トイ・ストーリー4 この映画でのウッディの立ち位置はかつてのプロスペクターやロッツォ・ハグベアに近くなっています。自らの規範とエゴのために他者を巻き込んでしまい、過ちを犯す側になっています。この映画は過ちを犯す不完全な存在に対する断罪ではなく共感の物語です。ボニーに対するウッディの共感、ギャビーに対するウッディの共感、そしてウッディに対するボーの共感。悪役に対しざまあみろと言う気持ちにさせる結末ではなく自分と同じ部分を見出し救いの手を差し伸べる物語です。むしろ前作までのストーリーに違和感を感じていた側なのでこちらの方がしっくり来ました。フィクションの存在意義があるとすれば嫌なものがない都合の良い世界を描くことでも、嫌いなものを攻撃して気持ちよくなることでもなく、他者の立場を理解し共感することだと思います。このシリーズがそちら側に変化したことはとても嬉しいことだと思います。[DVD(吹替)] 9点(2023-03-26 22:31:32)

5.  83歳のやさしいスパイ スマホもまともに使えないおじいちゃんが虐待の告発のために老人ホームに潜入する、こう書くと重苦しい社会派映画のようですが作品から受ける印象は真逆で朗らかで優しくかわいらしい感じの映画です。お年寄りって子供みたいなところがありますよね。妙にずれたことを言ったり、またある時は素直だったり、そこがおかしみを生んだり時にはもの悲しさを感じさせたりもします。この映画はチリが舞台ですが日本でもどこの国でもあり得ることでしょう。ドキュメンタリーとは思えないほど絵作りや色づかいは凝っており、ストーリーの構成も明確です。悪く言えばやらせっぽくもあり、そこが気になる方もいるかもしれません。しかしもし劇映画ならば役者の自然な演技が上手すぎますのでやっぱりこれはドキュメンタリーなのでしょう。カメラマンやマイクが映り込むのも演出のうちで、見ているこっちまで本来の目的を忘れそうになるとちゃんと劇中でもツッコミが入ります(笑)。聖フランシスコ特養ホームという名前を見ても舞台はカトリックが運営している老人ホームらしく、あちこちにキリストの十字架や像が置かれており、それが意図的にカメラに収められています。これは宗教的押し付けがましさというよりも、この映画が人間を愛することについての物語だということを象徴しているのだと思います。やさしいスパイという邦題は内容を的確に表現できています。[インターネット(字幕)] 8点(2023-08-28 23:36:28)

6.  黄金(1948) よれよれでボロボロの服、ボサボサの髪や髭の小汚さ、ロケ中心でナイトシーンも明るすぎず自然です。1940年代のハリウッドでここまでリアリティを追及している作品は貴重だと思います。ハンフリー・ボガードほどのスターが文字通りの汚れ役を演じているのも珍しいですが、無名時代は悪役での出演が多かったのであまり抵抗はなかったのかもしれませんね、逆にそれが彼の強みになったのでしょう。この作品に限ったことでもないですが、ハリウッドでも隣国のメキシコ人だと安易に英語を喋らせずにちゃんと現地の言葉を喋らせる傾向がありその点も違和感を感じさせにくいです。ドン底にいる男たちが人生の逆転をかけて人間のエゴを剥き出しにするような営みに参加する、この映画のプロットはいわば現代のデスゲームものに似ているんですよね。そのため現代人でも共感しやすい内容だと思います。デスゲームが現実の競争社会の寓話であるように、黄金探しも良心と欲望の狭間で揺れ動く人間の弱さを描く寓話なわけです。今見ると素朴すぎるきらいもなくはないですがやはり人間の強さではなく弱さを描く物語にはいつの時代にも通じる普遍性があると思います。[インターネット(字幕)] 8点(2023-04-17 23:45:53)

7.  ヴァレリアン 千の惑星の救世主 色彩豊かな画面で繰り広げられる少年少女の冒険活劇、こんなコテコテのものを一切手を抜かず本気で作っただけでも大したものだと思います。リュック・ベッソンの仕事で一番感心したかもしれません。アバターに真っ向から勝負を挑んだような作品って他にないでしょう?ハリウッドほどの予算や技術がないからってみんな諦めちゃっている。出来不出来はひとまず置いといて各国でアバターを目指したような作品が生まれてもいいはずなんですよ。アバターと比べるとこっちはコミックの感覚をそのまま映像化したような作風を試みていると思います。まあ原作は読んだことがないので憶測でしかないんですけど、アメリカ映画や日本のコミックへの影響を通して間接的には摂取していると思いますのでなんとなくは理解できると思います。テーマは本当に人を愛するとはどういうことなのか?それもほとんど台詞で説明しちゃってるから映画の構成・演出としてはダメダメなんですけどね。でも大事なことはわかりやすく言葉でちゃんと伝える意義もあると思います。[インターネット(字幕)] 8点(2023-04-06 23:29:22)

8.  キングコング2 フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラが評価されてこの映画が評価されないのも奇妙な話です。CGが本格的に導入される前の時代において巨大な生物を現実にいるかのように表現するという点では最高峰の出来栄えではないでしょうか。まず冒頭のコングの手術シーン、コングほどの巨大な生き物の手術にはあれだけ大掛かりな装置が必要だという説得力のある美術が素晴らしいです。ほかにも鎖やブルドーザーのようなコングと絡む器具には実物大の大道具を用意しミニチュアと自然に連続性のあるように見せています。コングが谷底の川に流される場面では画面に虹がかかっている、これがミニチュア特撮の良さです。キングコングとレディコングがお互いを思い空を見上げるとき、必ず月がそこにある。愛してるを月が綺麗ですねと言い換える精神は普遍的なのです。美女と野獣の恋はまともに鑑賞する価値があると見なされシェイプ・オブ・ザ・ウォーターのような映画がアカデミー賞を受賞する時代でも、野獣と野獣の恋を描く作品に世間はまだまだ冷たいです。ピーター・ジャクソンやギレルモ・デル・トロのようなアプローチだけではなくギャレス・エドワーズやアリ・アッバシのような作家も存在しているのですから、劇中のリンダ・ハミルトンが言うように人間も猿も同じようなものという境地を理解していく必要もあると思います。[インターネット(字幕)] 8点(2023-03-29 23:38:06)

9.  シックス・センス ヒーローも悪役も出さず、社会や人類を揺るがすような大きな事件が起こるわけでもない。他人に話せない秘密や小さな後悔といったどこにでもいそうな平凡の人たちのありふれた感情を丁寧に描いただけで大ヒットした、そう考えるとちょっと驚異的な達成かもしれないです。仕掛けられたギミックは大衆に訴求する最低限の娯楽性を持たせるために必要だったのでありそれほど重要な要素ではありません。偉大な州の歴史を語ろうとし悲惨な歴史を無視しようとする教師、父母が揃った家族像を前提としたCM、この二つは明らかに批判的に描写されています。マッチョとはほど遠い小児精神科医とシングルマザー家庭を主役に据えたのもハリウッドのメインストリームから距離を取る意図があったと思います。のちのM・ナイト・シャマランの作品はギミックやシチュエーションへのこだわりとドラマのバランスが悪く、物語のリアリティまで失ってしまっているのが残念です。[DVD(字幕)] 8点(2023-03-23 23:29:15)

10.  ターミネーター 冒頭、人の頭蓋骨が機械のキャタピラによって踏み潰される場面はクライマックスでT-800の頭部がプレス器で潰されるのと対になっています。ジェームズ・キャメロンがどの程度意図したかはわかりませんが、未来から武器を持ち込めないという設定は低予算の中でリアリズムを保つためだけでなく、もう既に人間は車や銃のような簡単に人を殺すことのできる機械に囲まれて生きているという事実を浮き彫りにしてはいないでしょうか。最終的にこの映画で人間は現代の機械の力を借り未来の機械に辛くも勝利するわけですが、ターミネーターはいわばその孫にあたるような存在なのであり、悲惨な未来は現代の延長線上にあるのです。次作では残されたマイクロチップがスカイネットの起源であると設定し、それを何とかすれば救われるという安易な解決策を提示してしまったことで、単純なエンターテインメントとしては良いのかもしれませんが文明批評的側面が弱まってしまったと思います。[DVD(字幕)] 8点(2023-03-07 20:12:37)(良:1票)

11.  ハンナ ジョー・ライト監督の作品の中では文学作品の映画化よりも映画らしい内容でいいと思います。シンプルにこの映画の魅力を言いますと主人公のハンナ(シアーシャ・ローナン)がかわいくて強いということに尽きますね。アート風味を利かせているだけで内容はただのアクション映画でしかないんですが、とにかく絵作りと編集に凝っているので常にどんな画面が出てくるか先が読めない楽しさがあります。タイトルの出し方もカッコいいです。冒頭の雪原ではらわたを取り出すのは帝国の逆襲でモロッコのロケーションも妙にスターウォーズっぽかったり、ラストはグリムの家だったりと神話やおとぎ話を連想させるようなところがまたいいんですよね。登場人物に感情移入させるような作りになっていないのも意図してのことではないでしょうか。全体的にストーリーよりも雰囲気を楽しむタイプの作品なのでそこは好き嫌いが分かれるのでしょうけれど私は気に入りました。ケイト・ブランシェットの役はなんだか間抜けでコミカルなところがあります、血まみれの歯磨きとか何なんでしょうか(笑)。[インターネット(字幕)] 7点(2023-09-18 23:46:57)

12.  街の灯(1931) 哀しいですけれど現代が舞台だとマッチングアプリでプロフィール盛ってましたみたいなペーソスもへったくれもない話になっちゃいそうですね(笑)。物語も技法も素朴すぎるのは否めませんが、サイレント映画という古びてしまった形式が却っておとぎ話のようなストーリーに説得力を持たせているとも言えます。既にこの映画の製作時にはトーキーへ主流が移りつつあったのでチャップリンもある程度自覚して生まれた時点で古典でもあるような作品を目指したのではないでしょうか。完璧な映画だとは思いません。観客を飽きさせない工夫としてロマンスやコメディだけでなくボクシング映画やギャング映画の要素まで取り込んだ盛りだくさんの内容になっているのは悪くないのですが、個々のギャグはナンセンスというだけでそれが物語の進行上意味のあるものではなく不要と感じてしまうところも多いです。金持ちの男と何度も遭遇するのも偶然にしてはできすぎていて不自然です。黒人のボクサーがカットによって起き上がっていたり倒れていたりするシーンは明らかに編集ミスです。それでもこの映画のラスト5分間はここだけのためにでも見てよかったと思わせるものです。複雑な心理を描くことに成功した切ないクライマックスです。このラストシーンには台詞を一つ加えることも削ることもできません。[DVD(字幕)] 7点(2023-07-08 23:26:56)(良:1票)

13.  37セカンズ 佳山明のか細い声は彼女の性格と今までの人生が伝わってくるような印象を与えます。ミニチュアのように見えるかのように撮られた空撮シーンがリアリズムから離れた感覚を覚えさせます。子どものように小さく振舞わざるを得なかった彼女の世界を垣間見ているようです。良い意味で普通の作品です。このぐらいの作品が特別な傑作扱いではなく毎年1、2本は作られる状況になるのが理想だと思います。世界レベルの映像作品に必要なのは何も精密なCGや派手なアクションではなく、タブーを恐れない題材の選択と役に合った自然なキャスティング、そしてテンポの良い編集があれば十分なのです。ただ全体としてドラマ性が希薄で各シーンの関連が見えづらいゆるい構成は一般的な日本映画の脚本から大きく逸脱しておらず、障害者も普通の人と変わらないことや37セカンズというタイトルの由来を言葉で説明してしまう台詞への依存度の高さはちょっとダメな日本映画らしさを感じてしまいました。技術的な面や題材の選択という点では優れていても構成力の弱さがこの作品に限らない現代の日本映画の課題とは言えます。[DVD(邦画)] 7点(2023-07-03 23:58:04)

14.  恐怖のまわり道 映画史上最もジム・トンプスンの小説の雰囲気を再現することに成功した作品ではないでしょうか。しかしジム・トンプスンはこの映画の公開当時小説家としてデビューしたばかりなので逆に影響を与えたと考えるべきなのでしょうね。それってつまり当時のパルプ小説の一番文学的な部分を拾い上げることに成功したということであって低予算の中で映画の本質に迫った作品というのはずれた評価だと思います。全編に渡りモノローグが多用されているのも低予算を誤魔化すためでしょうし、この映画の面白さって台詞の良さに大きく依存しているわけです。奇跡的に脚本の出来が良いだけでエドガー・G・ウルマーの演出は当時のハリウッドの中で飛びぬけて優れているわけでも異常でもないと思います。単に信頼できない語り手の手法を用いた映画を求めるだけなら1940年代あたりの文化に思い入れがない現代人ならばメメント等を見た方がいいでしょう。ただアルとスーとの電話では相手の応答は全く聞こえずまるで一人語りをしているように見える演出はすごいですね、これも上映時間を短くするための省略がたまたまそう見えるだけかもしれませんが。トム・ニールの童顔と倦怠感の釣り合わない感じが役のイメージにピッタリで素晴らしいです。アルとヴェラとの口論を見ているとフィルムノワールとラブコメは実は紙一重のジャンルなのかもしれないとも思えてきます。[インターネット(字幕)] 7点(2023-06-04 20:29:04)(良:1票)

15.  ノースマン 導かれし復讐者 ロバート・エガース監督の前作ライトハウスは大した内容もないのに無意味に難解ぶったつまんないアート系映画としか思えずこの映画も全然期待していなかったのですが、今回は下手に捻ったところのない王道の復讐劇で普通にエンターテイメントとしても楽しめる作品に仕上がってますね。アイアムユアファーザーならぬアイアムユアソン、クライマックスの決闘はシスの復讐ばり。ハムレットっぽい展開だと思っていたらハムレットの元となった伝説の映像化なんですね。個人の意思ではなく運命によって駆動する物語、下手に現代的なテーマや視点は持ち込まずに神話の世界を忠実に再現しています。寒々しいモノクロに近い世界に炎の暖色が映えて美しい映像です。妙に芝居がかった台詞に単純な心理描写は冷静に考えるとなんてバカバカしいんだろうとも思えてきますが(笑)、こういう古典劇のような現代人の感覚から距離が取られた作品でしか味わえない感動もあります。[DVD(字幕)] 7点(2023-05-20 21:48:04)

16.  メメント この映画が高く評価されるのは単に構成が練られたミステリーというだけでなく、現実というものに対して人間が持つ認識の再現に成功している点にあると思います。私たちは劇中の主人公のような症状がなくとも日々の生活の中で自分の記憶を信じられずにメモを取ることは珍しいことではありません。一瞬一瞬の現実はそれぞれバラバラの断片でしかなく後からそれをストーリーとして再構築しているわけです。そうした感覚は時代の経過によって古びるどころかインターネット時代になってより高まってすらいるのではないでしょうか。クリストファー・ノーラン監督の作品に関してはむしろ近年の方がフィルムやCGを使わないというこだわりも含めて古臭くどこか時代からずれてきている印象を受けてしまいます。最近の作品がどこか違和感を感じさせるものになっているのはCGを使わないことによる映像の真実性への追求と、記憶や時間軸の不確かさへのこだわりといった作家性が矛盾していることが原因ではないでしょうか。せっかく過去を舞台にしたダンケルクでも記憶と記録の不確かさをテーマに据えずに安直に時間軸操作を加えただけの作りになっていたのにはがっかりでした。ダークナイトが成功して下手に大作志向になってしまったのはこの監督にとって不幸なことだったのかもしれませんね。[インターネット(字幕)] 7点(2023-05-13 23:33:26)

17.  アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 事件についてはほとんど知識がなかったので純粋に一本の映画として見ましたがそれでも面白いですね。対テロ作戦の専門家とうそぶく太ったボディガードなんてさすがに本当はこんな感じじゃないんだろうと思ってたらそのまんまの人物がエンドロールに出てきたのには笑っちゃいました。マーゴット・ロビーは23歳以下の役を26歳で演じていてけっこう違和感があります、母親にその髪型だと若く見えるなんてことを言われたのもメタな皮肉としか思えませんでした(笑)。でもコメディ調の作りなのでこれもアリです、むしろ下手に真実性なんて重要視してないところが好印象です。真実性を追及していないとは言っても、スケートのシーンはおそらくCGを交えながらも違和感のない描写で技術レベルの高さもうかがえます。タバコの火を靴で踏み消すなんてありがちなシーンですがそれをスケート靴のブレードでやると印象に残るシーンになるんですね。トーニャがFBIの取り調べを受ける場面でテディベアを抱えているところも印象に残りました。とにかく人間関係にしろ置かれた地位にしろ不釣り合いであったことで起きた悲劇という感じなんですよね。バカとクズしか出てきませんがそんなバカとクズたちを決して嫌いにはなれない、深刻でありながらも最後には爽快感すら感じられる良質な人間ドラマであります。[インターネット(字幕)] 7点(2023-05-02 23:56:11)

18.  フェイス/オフ この映画の設定は王子と乞食のような古典作品が底流にあるのかもしません。ショーン・アーチャー(ジョン・トラボルタ)は上側の男です。彼の仕事場は高層ビルの上層にあり、親密な人間とコミュニケーションを取る時には人の顔を指で撫でます。顔は人間の体では一番上にある部位です。一方、キャスター・トロイ(ニコラス・ケイジ)は下側の男です。彼が親密な相手とコミュニケーションを取るときには必ず体の下側に触れます(弟の靴ひもを結ぶ、女の尻をさわり、ショーンの妻の脚に触れる)。この映画は下側の男が上へ向かい、上側の男を下へ叩き落そうとする物語です。冒頭の空港のシーンでは飛行機でキャスターは空(上)へ逃げようとしますが、ショーンに妨害され地上(下)へ引きずり落とされます。キャスターがショーンと入れ替わることで上下は逆転します。刑務所で囚人が履かされるブーツはその象徴です。磁場でショーンは下へ固定されてしまいます。ショーンとキャスターが鏡越しに向かい合う場面で鏡はお互いの真実の姿を映し出す、その象徴性も素晴らしいです。鳩は単にカッコいいから出しているとも限りません。クライマックスの葬儀は誰の葬儀か、ラザロです。ラザロといえば聖書に描かれたイエスキリストの力によって死から蘇った男です。別にこの映画でラザロは復活しませんが、ショーンの復活劇の舞台としてこれ以上のものはないでしょう。鳩は明らかに聖霊の象徴です。そういえば息子の名前もアダムですね。ラストのボートチェイスは冗長かつ何の象徴にもなっていないのでマイナス点です。立場を入れ替えることで世界の見え方が変わるところが面白いのですが、最終的には勧善懲悪ストーリーで終わってしまったのは惜しいです。90年代のハリウッドの限界でしょう。インファナル・アフェアはこの映画の影響を受けていると思いますが、その点においてより深く丁寧に描写できていました。格差社会が問題となる現代でリメイクしてみるのも面白いかもしれません。[DVD(字幕)] 7点(2023-03-18 21:33:08)(良:1票)

19.  地球が静止する日 2000年代のハリウッドSF映画では宇宙戦争と並ぶトンデモ駄作扱いの作品ですね。しかし宇宙戦争が同時多発テロの暗喩として理解されるように、この映画もある程度は評価されてもいいと思います。クラトゥ(キアヌ・リーブス)は人間の姿形をとって現れた神、すなわちキリストであり、巨大ロボット・ゴートが虫の大群に姿を変え人間を襲撃するのも出エジプト記のイナゴの災いが元ネタ(最近ではジュラシックワールド/新たなる支配者でも似たようなことやってましたね)。バッハもキリスト教音楽を多数作曲しました。血の繋がらない親子ですが、キリストも処女懐胎によって生まれましたので父親とは血が繋がっておりませんでした。ラストのキアヌ・リーブスの心変わりに納得がいかないという意見も多いですが、親子が聖母子像を意識していると理解すれば自然な成り行きとも言えます。キリスト=クラトゥは最後に人類の罪を背負い去って行きます。この映画は気候変動の危機をキリスト教のイメージをベースに描くことで広く訴えかけるのが目的なのです。伝統的宗教を基盤としてエコロジー的主張を行うのはそう珍しい例ではなく、日本でも神道のアニミズムを環境保護的な思想として理解する向きがあります。近代文明が取りこぼしたものに目を向けるという点では通じ合うものがあるのでしょう。[DVD(字幕)] 7点(2023-03-09 21:45:04)

20.  [リミット] 棺の中だけじゃ絶対画面が単調になるでしょうと侮っていたのですが、なかなかこんな狭い空間の中でも色んな画が撮れるもんですね。ライターのオレンジの炎、携帯の青い画面の光、緑のケミカルライト、懐中伝統の黄色と赤の光、同じ空間でも照らす光の変化で映像の調子が変化していく工夫が成されているおかげで飽きずに見られます。棺の蓋を無視したかのように上から主人公を映すアングルでこれはもうネタ切れなのかと思ったら、そこからワンカットで棺の天井が映るところまでカメラが移動したのにはやられましたね。まあしかし傑作になるには不条理なワンアイデアだけでなくもうちょっとストーリー性が欲しかったところはありますね。イラク戦争批判も臭わせる程度で中途半端な描き方でしかありません。[インターネット(字幕)] 6点(2023-10-24 23:06:20)

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