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1. イングロリアス・バスターズ
《ネタバレ》
大傑作。
スクリーンに映し出される多量の空薬莢とその前に積み上げられたナイトレイト・フィルム。
フィルムが発火し、スクリーンが燃え上がり、観客は撃ち殺され、映画館は爆破される。
映画そのものが燃えて、すべてが灰と化していくのだ。
映画への冒涜、あるいは尊崇。
崩壊していく館内、ショシャナの高笑いだけがサウンドトラックを通して響き渡る。
しかし映画は決して死なない。
やがてスクリーンがあった場所にかつては映画であった残骸たちが白煙となり舞い上がる。
そして蒼白な光が投影される。
そのショシャナの顔は幽霊そのものであるが、またそれと同時に優麗でもある。
これは彼女の復讐劇であり、映画の復讐劇でもある。
糞ったれた史実を、バット一本で完膚なきに滅多打ち、血生臭いフィクションをその上に張り付ける。
生と死の上に積み上げられた、新たなる歴史という名のフィルムは正に映画である。
間違いなくこれが彼の最高傑作。[映画館(字幕)] 10点(2009-12-01 19:15:49)(良:4票) 《改行有》
2. 石の微笑
《ネタバレ》 クロード・シャブロルはここ数年も撮り続けているはずだが、全く日本に入ってこない。困ったものだ。この映画を見ればクロード・シャブロルが枯れ果てた爺様になってなどいない、むしろ年を重ねますます映画が冴えてきているとさえ思えるだろう。こんなにも無駄を排した濃密な映画はなかなかない。
終盤、警察署内の扉が幾度となく開閉され、それを性急なまでに移動し、細かくモンタージュしていく。この辺りからこの映画の終幕へ向けての極度の緊迫感は高まっていく。
「もうしばらく会うのはよそう」とブノワ・マジメル演じるフィリップは、ローラ・スメット演じるセンタ(決して美人とは言えずとも、この怪しげな色香は一体何事か・・)に電話を通して言う(ここでも単純ながらも秀逸なカットバック)。しかしフィリップの衝動は抑えきれない。キャメラは浮遊感たっぷりにセンタの家へと入っていく。自然と玄関の扉は開き、半開きとなっていた地下への扉をくぐり抜け、左へ穏やかにカーブした階段を下りると裸電球がぶら下がっている。この緊迫感に唸りをあげない人などいないだろう。しかしセンタは地下の部屋にはいない。フィリップは階段を上り、義理の母とその恋人がタンゴを踊っている2階を通過し、悪臭が漂う3階へと足を踏み入れる。そしてまたひとつ扉を開けると、そこには椅子に腰掛け、前屈みになり煙草をふかすセンタがいる。この時の戦慄、もはや説明するまでもあるまい。そしてまたひとつ扉を開けると、そこには腐ったネズミではない、あの誘拐されていた少女の死体があるのだ。
この終幕までの10分から15分足らずで、幾度とない扉が開け放たれ、そこにはフィリップが虚構の世界に止めておきたかったものが現実となって広がっていく。勿論、このラストだけではない。この映画は常に扉が開かれること(あるいは閉ざすことで)、そしてその中を、その空間を移動することで物語が展開し、極度の緊迫感を醸し出している。この扉を開ける、閉めるで映画は作られ続けてきた。この扉というたった一枚の板に蝶番がついた装置が、ここまで機能してしまう。映画って凄いな、素晴らしいな、と感じる濃密なサスペンス。[映画館(字幕)] 9点(2008-10-31 02:26:03)(良:1票) 《改行有》
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