|
1. リュミエールと仲間たち
百年前の技術で撮影された映像は繊細な光と影が美しく、詩的だ。もしかして大して力のない人間が適当に撮っても、それなりに深いように見えるんじゃないかと少し疑ってしまった(いや、やっぱり差は出るだろうけど)。四十人の作品の合間に入るインタビューや撮影風景は余計に思えた。作品の撮影開始の瞬間、撮影終了の瞬間を作品に直接つなげるのは感心しない。冷めてしまうし、作品の味を殺している。曲の順番も考えない、数秒の間も置かないアルバムみたいなずさんな編集だ。一分間の異世界の余韻に浸る暇すら与えてくれない。監督への質問も、意味深長にみえて実は中身がない。 映画誕生時の撮影で、たとえ一分以下の時間でも素敵な映画が撮れるのはわかった。しかし総監督のサラ・ムーンのやり方には疑問が残る。贅肉を極限まで削ぎ落とした映画の結晶のような繊細な作品を乱暴に扱い、わざわざ蛇足を継ぎ足している。一時間足らずに収めるべきだったろう。[DVD(字幕)] 6点(2005-12-27 15:46:26)(良:1票)
2. ドッグヴィル
ある小説の一説を思い出しました。「おれは正義など求めていない。何が正義なのかすらわかっていない。ほかの人間と同じように、こうしたいと思うことを、したいだけなのだ。」その小説の題名は『ドッグ・イート・ドッグ』(E・バンカー)。 人間のモラルに期待しちゃダメなのかもしれない。所詮は人間も動物。犬と同じで、どんなに高尚な道徳も、その根底には骨を盗られそうになると噛み付くのと同じ、本能的な怒りがある。 ドッグヴィルの村人たちにはもちろん怒りを覚えたが、かといってグレイスの言葉もすっきりしない。環境が悪いから仕方がない、なんて言い方で許そうとしたかと思えば、子供もろとも皆殺しにしろと命令する。何もかも理解して許そうとする偽善的な態度にもぞっとするが、無差別殺人を命令する冷酷さもおぞましい。 結局は誰一人まちがいなく正しいと言える行動を選択していないし、文句なく正しい選択があったとも思えない。やりたいことをやってるだけ。そして後からどうとでも理屈をつけて正当化する。気色悪いなあ。でもその気色の悪いものが、人間の本性なんだと思う。 そこから目を逸らさず、自分たちが犬同然だってことを自覚して、自分たちを首輪で繋いでおくべきなのかもしれない。そうしないと我慢できずに噛み付いてしまう――首輪をはずされたグレイスがそうだったように。少なくともあのラストにカタルシスを感じてしまう自分には、首輪が必要だと感じる。6点(2005-03-19 07:56:35)
|