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プロフィール
コメント数 1894
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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【製作国 : デンマーク 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
評価順12
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変更日付順12

1.  ダンサー・イン・ザ・ダーク 《ネタバレ》 この映画がどうしてこんなにも人の心を掻き乱し、賛否両論分かれるのか。何度も何度も繰り返し観て(よく自殺しなかったな笑)なんとか自分なりに結論を得ました。この映画は踏み越えてしまっているんです。つまり、主人公セルマは頭のおかしい気の狂ってしまった人間なんです。だから、間違った選択を繰り返し、誰の助けも借りず、最後は息子のためにと幸せに死んでいく。この主人公に「やっぱりお前は馬鹿だ、不幸だ」と誰が言える権利があるでしょうか。そう、この映画のテーマはそこです。人間の幸せは主観的なものであるなら、自分を幸せだと強固に信じる人間を誰も非難できない。つまり、もしかしたら全ての人間の幸せに意味などないのでは、ということです。とても恐ろしい踏み越えてしまったテーマです。この映画が、敢えてその恐ろしい問いに挑戦する武器として、想像力の美しさを選んだことに敬服せざるを得ません。ただ、勝利できたかどうかは観る人の判断ですが。そして、この映画を徹底的に非難するレビューにこそ、僕は感動を覚えます。そこには、全ての人間の幸せには意味があると信じようとする力強さを感じるからです。それこそが人間の想像力の持つ美しさだと思います。敢えて踏み越えてまで、この映画を撮った監督に改めて敬意を表したい。[DVD(字幕)] 10点(2012-05-14 02:27:21)(良:2票)

2.  ハウス・ジャック・ビルト 《ネタバレ》 この12年の間に起きた、5つの出来事で俺の人生を語ろう――。生まれついてのサイコパスにしてシリアルキラーでもあるジャック。分かっているだけで、幼い子供から年老いた老婆にいたるまで少なくとも60人以上を殺し、その死体を自身が所有する冷凍庫にコレクションしていた男。自らが無作為に選んだという5つの出来事が彼の狂気に満ちたモノローグとともに語られる。聞き手となるのは、ヴァージと名乗る謎の男性。道端で拾った高慢ちきな見知らぬ女、夫を亡くしささやかな年金で一人暮らしていた初老の未亡人、二人の息子とともに充実した日々を過ごしていた若い母親、ただ愛されることを望んでいた売春婦、そして何人ものどうでもいい男たち……。創造と破壊、欲望と理性、倫理と芸術、ジャックは自らの思想とともにヴァージに語り続けるのだった。何故彼は人を殺し続けたのか?そして二人はいったい何処へと向かうのか?デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアーの約5年ぶりとなる最新作は、そんないかにも彼らしい挑戦的で自虐に満ちた野心作でした。率直な感想を述べさせてもらうと、いやー、本当に変な映画でしたね、これ。カンヌでも途中退席者が続出したというだけあってかなり人を選ぶグロ描写が続出するのですが、なんだか全体的に変なユーモアがあるのが彼の鬼才たるゆえん。いかにも殺してくれと言わんばかりの高慢高飛車女をジャッキで殴り殺す冒頭のエピソード(ユマ・サーマンの無駄遣い!笑)から摑みはばっちりで、続く強迫性障害のせいで何度も殺害現場へと舞い戻ってしまうエピソードなんて思わず笑っちゃいました。母親の目の前で幼い子供を射殺するシーンなどはあまりにも倫理観を逸脱していて逆に清々しいくらい。おっぱいをえぐられちゃうジャックの彼女?の話あたりまで来るとなんだか神経が麻痺しちゃいますね。合間に挟まれるジャックのフリップ芸なんて、あまりにもシュール過ぎてR‐1でも通用するかも?!そして辿り着く驚愕のエピローグ。もはやぶっ飛びすぎてて終始唖然(笑)。何ですか、あのルネッサンスの油絵みたいな変な世界観は。文字通り地獄に堕ちた彼へと、エンドロールで「もう帰って来るな!ジャック!」とノリノリの曲調で歌われた日にゃもはや笑うしかなかったです。鬱病を患っていたころの陰鬱で重苦しい作風から抜け出し、前作辺りからトリアーはこんなヘンテコな世界へと辿り着いたのですね。うん、何処までも付いていきます!9点!![DVD(字幕)] 9点(2020-02-02 23:44:03)(良:1票)

3.  ニンフォマニアック Vol.2 《ネタバレ》 「何も感じない…。私、何も感じなくなってしまったの。信じて…、いくらセックスしても、私、もう何も感じない」――。そんな衝撃の言葉を残して静かに幕を下ろしたVol.1から続く、生まれついての“ニンフォマニア(色情狂)”ジョーの性遍歴の物語もいよいよ後半戦。愛を信じず、セックスで得られる快感だけが生きる支えだった彼女に突如として降りかかる不感症という名の災厄(笑)。Vol.2では、冒頭からそんなセックスの快感を再び取り戻そうとするジョーの苦難に満ちた紆余曲折が描かれていきます。言葉の通じないアフリカ人に抱かれたらどうだろうと安ホテルの一室に身を投じてみたものの、やって来た2人の黒人は訳が分からない議論に明け暮れてことに及ばず(黒人男性2人の勃起したペニスに挟まれて佇むジョーの姿はなかなかシュール!笑)、最終的に辿り着いたのはアパートの一室にある秘密SMクラブでした。ちなみにこの間、ジョーは自分の処女を奪った男性と再会して一緒になってちゃっかり男の子を出産してます。でも、そんな最愛の息子が居るにも関わらず、ジョーは超ドSな男に鞭で調教されゆくうちに久し振りに性的快感を取り戻しいつの間にか濡れていた自分を発見するのでした。子供の世話なんかそっちのけでSMクラブ通いを止められなくなるジョー。ここらあたりから、それまでジョーを演じていた若い女優から一転、くたびれた身体のシャルロット・ゲンズブールというおばさん女優へとバトンタッチされるので、もはや目の保養すらなくなってただひたすらイタい展開となっていきます。このセックス大好きおばさんジョーという本作の主人公ほど反発も共感も感じさせない、見事なまでの性的ピエロを僕は初めて見たような気がします。もう完全に喋るダッチ・ワイフ(笑)。ところが、彼女の長い話をずっと聞き続けていた〝男〟が実はこれまで性経験が一切ない汚れなき童貞であることが判明します。そんな奔放な彼女と対極をなす〝汚れなき男〟が、最後に語りだす男と女のセクシュアリティの違い、そしてその違いから端を発する性差別の歴史…。最後に暗闇から聞こえてくる銃声は、結局この社会を形作る倫理観の壁は男どもにとって都合の良いように築き上げられたもので、そんな道徳的な顔をしながら裏側では「女は男の性欲を満足させるための穴でしかない(でも、子供を産み育ててくれる)」と無意識のうちに思い込んでいる男どもへの、女性たちの復讐なのでしょう。トリアー監督って、女性の心からの味方でありながら、それでも自らにもある女性たちへの醜いまでの性欲を自覚している、絶対に友達にはなりたくないタイプの超面倒臭いペシミストなんだろうね。でも、そんな彼が僕は大好きです。[DVD(字幕)] 9点(2015-08-10 01:47:27)

4.  奇跡の海 《ネタバレ》 僕の思想信条に多大な影響を与えたと言っても過言ではない傑作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を撮った、暗黒の虚空に燦然と輝く天才映画作家ラース・フォン・トリアーによる哀切極まりない人間ドラマ。そんな本作を語る前にあらためて「ダンサー~」で描かれたテーマについて述べたいと思う。それは結局人間の幸せは全て相対的なものでしかなく、自分がいま幸せかどうか、自分の存在に本当に価値があるのかどうかを判断するのは最終的には自分の主観でしかないということだ。もしそんな自分の主観では到底受け入れられないような不幸な境遇に追い込まれたり、あるいは自分の幸せを守るために取り返しのつかない罪を犯しそうになったとき、人の心は果たしてどのようにその危機を回避しようとするのか?きっと、自分以外の第三者によって自分の挫けそうな心を補強してもらいたいと願うはず。そう、その第三者こそが〝神〟に他ならない。ではもしこの世に神が居なければ、この残酷な出来事で溢れ返る醜い世界で、人はどのようにして生きていけばよいのか。また、キリストの如き真の心優しき人間は最終的には人々の悪意によって十字架に掛けられ襤褸布のように死んでゆくしか道がないのではないか?ドストエフスキーが「白痴」などの大作群で追求したそんな深甚なるテーマを、トリアーは映画という手法でもって現代に受け継いでいる。「ダンサー~」では、神を持たなかった女の悲劇を追及していたが、本作の主人公ベスは見れば分かるとおり、冒頭からはっきり神へと縋り付いている。セルマもベスも宗教的に言えばどちらも〝聖なる愚者〟。だが、トリアーはこの世に神など居ないということを、ベスが完全なる善意でもって売春婦となる過程でつぶさに炙り出してゆく。〝神〟とは人間が造り出した生きる為の、そして数々の罪から目を逸らす為の理由付けに他ならないとでも言わんばかりに。そんな残酷な現実を突きつけながらも、トリアーは最後に鳴り響く鐘の音に「それでも人間は生きるために神へと縋りつくしかない」という人間本来の普遍的な切なさをぎりぎりのところで肯定している。「この世に神が居ないなら、どうして人は自殺しないで生きていけるのですか?」これはドストエフスキーの「悪霊」の中の言葉だが、本作にはそれへの答えが――完璧ではないにせよ――提示されている。その後、トリアーは「ダンサー~」を撮ることでその思想を根底から覆してしまうのだが…。正直、「ダンサー~」が僕に与えた影響があまりにも大き過ぎて、その姉妹編とも言える本作を観ることでその影響に揺るぎが生じるのではないかと懸念し、今まで鑑賞してこなかったのだが、それは僕の杞憂に過ぎなかった。こちらも人間の愚かさと美しさを冷徹に見つめた傑作と言っていい。[DVD(字幕)] 9点(2015-03-14 22:02:26)

5.  ドッグヴィル 《ネタバレ》 アメリカ、ロッキー山脈の寂れた高山地帯にある小さな村、ドッグヴィル。15人の住民と7人の子供たちが暮らすこの質素な村にある日、ギャングに追われた美しい女性グレースが逃げ込んでくる。村のリーダーを自認する倫理観の強い青年トムは、行き場がないという彼女を匿い、しばらく村に滞在してもいいと提案するのだった。次の日、村の集会場でトムは、集まった住民たちに多数決をとる。どこの馬の骨か分からない女に当初は難色を示した住民たちも渋々トムの提案を受け入れ、満場一致でグレースを受け入れることに――。そうして始まったグレースと村人たちの共同生活。戸惑いつつも次第にお互いのいいところを見つけ、少しずつ心を許してゆく彼ら。和気藹々と平和的に暮らしていた住民たちだったが、ちょっとした些細な出来事をきっかけにそんな平和な日々が歪み始める。村人たちは自らも自覚していないような悪意の目をグレースに向け始め、やがて村は悪夢のような世界へと変貌を遂げるのだった……。数々の問題作を撮り続けるデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーがニコール・キッドマンをはじめとする実力派の役者陣をそろえて描き出すそんな地獄のような寓話劇。体育館のような閉鎖的な空間に白線を引いただけのセットに役者たちを閉じ込めて描き出された3時間を超える物語は、その長さを全く感じさせない濃密なものでした。とにかく脚本が素晴らしい。最初はみな純朴で優しくて善良な人のように見える人たちが、後半、その心の奥底に隠していただろう嫉妬や憎しみ、欲望といった醜い悪意を弱い立場のグレースに向け始める。この展開に少しも無理がなく、人間なんてこんなもの、そればかりか同じような立場に立たされたら自分すらこうなってしまうかもと思わせるところが見事としか言いようがない。トリアーさんはやはり人間が嫌いなんでしょうね(笑)。ニコール・キッドマン演じるグレースが村の人たちにいいように利用され、男たちは暇さえあればレイプするようになり、女たちは嫉妬心から蔑みの対象にする。大人たちに感化された子供たちまでグレースを物のように扱い始める。逃げ出そうとしたグレースを連れ戻した住民たちは、2度と逃亡しないように首輪を嵌め村に縛り付ける。もはやグレースは犬と変わらない。それを誰もが正しいことをしていると信じて疑わないところが怖い。まさに、地獄。そんな悪夢のような世界を唐突に終わらせるラストのカタストロフ。「どうだい、スカッとしただろう。クソみたいな人間は殺して当然なんて思っている君たちも結局、他人から見ればこのドッグヴィルの住民と大して変わらないんだぜ」とまるで画面の裏側でほくそ笑んでいるような監督の悪意……。人間の愚かさをこれでもかと見せつけてくるラース・フォン・トリアーの傑作でした。[DVD(字幕)] 9点(2013-05-03 15:33:06)

6.  わたしは最悪。 《ネタバレ》 彼女の名は、ユリヤ。今年で30歳。高校卒業後、何となく進学した医学部を自分のやりたいこととは違うと途中で退学、新たに心理学を学びカウンセラーを目指すも相変わらずの詰め込み教育に嫌気がさし、これまた途中で退学。書店員をしながら今は直感的に向いていると感じた写真家への道を目指している。彼氏もその場のノリと勢いで付き合ったために上手くいかないことばかりですぐに破局。今は偶然知り合った漫画家の彼氏と何となく同棲している。それでも子供が欲しい彼とまだいらない自分との意見の違いから揉め、最近はなんだかギクシャク。何もかも中途半端に人生をぼんやりとやり過ごしていたら、気づけばもはや30歳。自分はいったいどうなってしまうのだろう――。本作は、そんな何処にもでいるような拗らせアラサー女子の日常を、序章と終章、そして12章からなる短い断片で切り取ったポートレートだ。とにかくこの主人公ユリヤのトホホ感に満ちた日常が魅力的でした。変に美化するわけでもなく、極端に自虐的にみせるわけでもない、彼女の生活を一歩引いたところから見つめるスタンスがなんとも心地良い。偶然紛れ込んだ知らない家のパーティーで出会う、のちの彼氏とのエピソードもすんごくトホホ感満載。お互い一線を超える勇気はないけれどそれでも酒で気が大きくなって思わずしたこと、それはお互いのおしっこしている姿を見せあうことでした。「これって浮気じゃないよね」って、いやそんなん浮気以前に人としてアカンやろ(笑)。そんなどうしようもないリアルな日常を延々描いていたかと思ったら、まさかの世界の一時停止!人々が動きを止めた街で惹かれている男に会いに行くシーンはもうこの監督のセンス爆発!空想の世界で彼とのデートを堪能し、そして元の彼氏との日常へ戻るところは大人の女心を繊細に描いていてすんごく良かったです。その後、彼氏に別れを告げるシーンはリアルで切なく、お互いの気持ちが分かる分、自分は過去の色んな思い出が蘇ってきて思わず泣きそうになっちゃいました。そして後半に明かされる元彼の現在……。実は末期癌に犯されていたという普通の映画だとお涙頂戴展開になりそうなところを、あくまでそうしなかった監督の絶妙な匙加減が素晴らしい。そんな場合じゃないのに、過去の浮気の真相を聞こうとする元彼の心理が何ともリアルでシニカル。最後、そんな2人が迎える切なくも哀しい別れ。でも、主人公の日常は続いてゆく…。1人の女性の人生を通して、生きることの辛さと幸せを優しく見つめた、なかなかの良品だったと思います。[DVD(字幕)] 8点(2023-10-02 09:08:12)

7.  ビバリウム 《ネタバレ》 そこは一度迷い込むと二度と出てこれない新興住宅地――。トマとジェムは、結婚を間近に控えた若いカップル。まだ収入も安定していないし子供も居ないが、それでもこれから幸せいっぱいの生活が待っているはずだった。将来を見越し、新居を購入しようと彼らは街の不動産屋へと足を運ぶことに。対応してくれた何処か風変わりな営業マンの案内で彼らは郊外の新興住宅地「ヨンダー」へとやってくる。そこは、同じような緑の家が何処までも立ち並ぶ生活感の一切感じられない謎めいた町だった。無事に内見を終え、すぐに帰ろうとするトマとジェムだったが、いつの間にか営業マンの姿が消えていた。不審に思いながらも自らの車で帰途に就いた二人。だが、いつまで経っても元の街並みへと抜け出すことが出来ず、気付いたら紹介された9番地の家へと舞い戻っていた。戸惑いながらもその9番地の家で夜を明かした二人に、更なる異常事態が襲う。なんと家の前に置かれた段ボールに、誰の子か分からない男の赤ん坊がいれられていたのだ。しかもそこには「無事にこの子を育て上げたら開放する」との謎のメッセージが。果たしてここは何処なのか?突然の不条理な事態に二人の精神は次第に崩壊してゆく……。カッコウが他の鳥の巣に自らの卵を産み育てさせるといういわゆる托卵という習性をモチーフに、突然異常な状況へと陥った若いカップルを描いたシュルレアリスム劇。そんな期待せずに今回鑑賞してみたのですが、いやいや、これがなかなかエッジの効いた演出の力が光る不条理劇の逸品に仕上がっておりました。とにかく映像のセンスが抜群に良い!どこまでも続く生活感を微塵も感じさせない緑色の住宅、マグリッドの絵を髣髴とさせる作り物感が半端ない雲、まったく美味しそうに見えない食事…。どれもが不気味で生理的嫌悪感がいい意味で凄いです。特に、二人が育てることになる男の子。言っちゃ悪いですけど、よくここまで可愛くない子供を見つけてきたもんですね。この子がずっと自分たちの物まねをしたり、思い通りにいかないことがあると金切り声をあげたり、意味の分からないテレビの映像に延々と見入っていたりともはや殺意を覚えるくらい可愛くない(笑)。極めつけは、途中でカエルやある種の鳥のように喉を膨らませて雄叫びをあげるシーン。こんなに気持ち悪い映像、久しぶりに見ましたわ。肝心の内容は典型的ないわゆる不条理劇なんですけど、そこに何処か乾いたユーモアがあるところはカフカよりも安部公房に近いのかな。後半、物語はまさにこの訳の分からなさをどんどんと加速させ、徐々に崩壊してゆきます。文字通りぐちゃぐちゃに空間が捻じれてしまった家の中での主人公と子供の追いかけっこなんてセンス抜群!いやー、面白かったですね、これ。まあ悪趣味全開ですけど(笑)。今から将来が楽しみな新たな才能に出会えたような気がします。[DVD(字幕)] 8点(2021-08-21 01:31:14)

8.  ニンフォマニアック Vol.1 《ネタバレ》 「聞いてくれる?十代のころ、私は仲間たちとある会を作ったの」「どんな会だ?」「ファックと好色でいる権利の会よ。みんなで一緒にオナニーとかするの…。恋人は持たない。同じ男とは2度とヤらない。私たちは反抗的だった」「そうか…。で、そんな君たちは何に反抗してた?」「愛よ」「愛?」「そう、愛。愛なんてくだらないものに取り憑かれたこの世の中と闘っていたの」――。雪が舞い、冷風吹き荒ぶ寒い冬のとある夜。〝男〟は、道端に痣だらけになって捨てられたある〝女〟を発見するのだった。救急車も警察も要らない、ただ温かい紅茶が飲みたいと願う彼女を〝男〟は躊躇うことなく家へと連れて帰ってくる。〝女〟の名前はジョー。自らを生まれついての“ニンフォマニア(色情狂)”だと言う。雪が降り積もる音まで聞こえてきそうな静かな部屋の中で、ジョーは〝男〟にこれまでの性にまみれた自分の人生を赤裸々に語り始めるのだった…。人間の愚かさや社会の不条理をその冷徹なまでの視線で持って見つめ続けてきた鬱映画の巨匠ラース・フォン・トリアー監督の最新作は、そんな人間の性の醜さをシニカルに描いた意欲作でした。いやー、相変わらずこの人は人間、及び人間の生きる源泉であるはずのリビドー(性衝動、性欲)が嫌いなんでしょうね。なんだか中二病をこじらせた挙句にオナ禁している日本の若い男と精神構造的に似ているような気が…(笑)。でも、本作はそんな自分の言ってしまえばしょーもない悩みをまるで自己戯画化するような視線があって素直に面白かったです。きっと、そんなニンフォマニアであるジョーの話に、倫理観を一切持たずに耳を傾ける聞き手の男は、トリアー自身の投影なのでしょうね。観終わって、僕は遥か昔に読んだ18世紀フランスの自然主義文学の大家モーパッサンの代表作『女の一生』の中に出てくる神父のことを思い出してしまいました。その神父は、とても厳格で保守的でセックスこそが諸悪の根源であると妄信していて、道を歩いていた妊娠中の普通の雌犬を「この淫乱め!」と蹴り上げてしまうのです!馬鹿ですよね。セックスは人間が生きる上での重要な営みであるけれど、だからといって誰彼構わず何処ででもセックスするのは許されない。だから人は、その中間に倫理観という線を引くのだけど、この線引きの位置がいつの世も曖昧なものだから人間は何処までも愚かで社会から不幸な現実はなくならない…。そんな曖昧な線引き(もしかしてその位置を愛と呼ぶのか?笑)なんか完全に無視しちゃっているジョーのセックス遍歴の旅路は観ていて爽快ですらありました。そんなセックス大好きっ子だったジョーが最後に呟く衝撃の発言…(笑)。Vol.2も期待して観てみようと思います。[DVD(字幕)] 8点(2015-08-08 01:56:51)

9.  ソング・オブ・ザ・シー 海のうた 《ネタバレ》 母親が謎の失踪を遂げ、以来父と幼い妹とともに小さな島で暮らす少年、ベン。家族以外誰も住んでいない辺境の地で古い灯台を管理しながら質素に暮らしていた彼だったが、都会に住むお婆ちゃんの強引な助言もあり、生まれて初めて都会で暮らすことに。母親の失踪の影響か、生まれて以来ずっと口を利いたことのない妹シアーシャと二人で、ベンはお婆ちゃんの家へと越してくるのだった。だが、新生活を始めたものの、偏屈な性格から何かというと嫌みを言うお婆ちゃんにベンの気持ちは沈み込んでゆくばかり。我が儘放題のシアーシャも彼の不満をますます増幅させるだけ。「もう嫌だ。元の家へと帰りたい!」――。そんな思いを強くしたベンは、ある日、お婆ちゃんの家を飛び出すのだった。ところが知らぬ間に妹のシアーシャも彼の後を付いてきていた。戸惑う彼を不思議な現象が襲う。なんと老人の顔をした小さな妖精たちが、妹をさらってしまったのだ。果たして妹は何者なのか?妖精たちの真の目的とは?そして、海へと帰っていった母親が彼らに遺した歌に込めた想いとは?アイルランドの伝承を基に、妖精にさらわれた妹を求めて異世界を彷徨う兄をファンタジックに描いた幻想譚。昔懐かしのアニメ「日本昔話」ならぬ「アイルランド昔話」とも呼ぶべき本作、特徴的なのはやはりその独特の画のタッチでしょう。まるで絵本の世界をそのまま映画にしたような独自の雰囲気に最初は戸惑ったものの、それもすぐに慣れ、最後はどっぷりと浸っている自分がいました。いや、なかなか良かったですよ、これ。可愛さとグロテスクさの絶妙の間を突くこの監督のセンスは自分には完全にツボでした。特にあのお爺さんの顔をした妖精たちのキモ可愛いフォルムとかナイス!すべての記憶が髪の毛に刻み込まれた妖精なんてなんともユーモラスで最高でした。悪役となるフクロウ魔女もけっこうキャラが立ってましたし。まあお話としては至極単純ですけど、それもこれくらいの尺ならぎりぎり大丈夫。主役となるお兄ちゃんが妹に見せる屈折した愛憎も僕には魅力的に感じました。まるで絵本のような独自の世界観を持つアニメーション、うん、なかなか面白かったです。7点![DVD(字幕)] 7点(2021-05-03 18:00:12)

10.  THE GUILTY ギルティ(2018) 《ネタバレ》 「私の名は、イーベン。今、元夫の車に拉致され何処かへと向かっている。私、このままじゃ殺される、お願い、助けて」――。ある日、緊急通報センターに掛かってきた、そんな一本の電話。通報を受けたのは、少し前にここに配属されたばかりのオペレーター、アスガーだった。追い詰められたような彼女の口調に緊急性の高い案件であると直感した彼は、すぐさま警察と連携を取り、発信元である高速道路にパトカーを向かわせる。だが、正確な位置も車両ナンバーも分からないため、パトカーはその車を発見することは出来なかった。事態は一刻の猶予もないと判断したアスガーは、携帯の登録情報を元に彼女の実家へと電話を掛けてみる。電話に出たのは、イーベンの長男である幼い子供だった。詳しく話を訊いてみても、血だらけの自分のママが父親に連れ去られたと泣き叫ぶだけ。どう考えても異常な事態。居ても立ってもいられなくなったアスガーは、警察とは別に独自の行動を取るのだが……。緊急通報センターの狭い一室を舞台に、拉致監禁事件へと巻き込まれた一人の女性を救うために孤軍奮闘するオペレーターの姿を描いたサスペンス。登場人物はほぼ主人公であるこのオペレーター一人のみ、あとは電話の向こうにいる幾人かの人々とのやり取りのみで描くという挑戦的なスタイルで描かれた本作、これがなかなか緊迫感に溢れたサスペンス・ドラマの佳品に仕上がっていたと思います。同じような設定の作品はすでにハル・ベリー主演の過去作にあったのですが、あちらは設定こそ秀逸だったものの後半はかなり残念な仕上がりになっていたことを思うと、本作の後半の展開はけっこう考え抜かれていて素直に面白かったですね。何より、驚愕の展開を見せるクライマックスはこちらの予想を遥かに上回ってきました。「まさか、そう来るか」という感じです。そこに主人公の過去に起こした罪を絡めてくるところなんかも巧い。こんなにも地味でこんなにもお金が掛かっていないのに、ここまで面白いドラマを創れるんですから、この監督の才能はなかなかのものなんじゃないかと思います。まあここまでオペレーターが好き勝手に電話できるのかという脚本の突っ込みどころはありますが、それも僕的には許容範囲内。ハリウッド・リメイクも決定したということで、今からそちらも楽しみな逸品でありました。[DVD(字幕)] 7点(2020-01-06 01:46:57)

11.  テルマ 《ネタバレ》 厳格な両親に過保護に育てられた少女、テルマ。大学進学とともに大都会オスロで一人暮らしを始めた彼女は、生まれて初めて体験する様々な事柄に戸惑いを隠せない。初めての友達、初めての自炊、初めてのパーティ、初めてのお酒、そして初めての恋――。自分なりに折り合いをつけ、新生活にも少しずつ馴染んでいくテルマ。そんな中、彼女は学校で原因不明の発作を起こし倒れてしまう。偶然居合わせた同級生の女の子に助けられたテルマは、次第に彼女と仲良くなってゆく。やがて自分が彼女に恋をしていることに気付いてしまうのだった。そして、そのことをきっかけにテルマの回りで不可解な現象が起こり始め…。ノルウェー発、そんなミステリアスな若い女性の隠された真実を巡るサイコロジカル・ホラー。いかにもヨーロッパ的な静かで淡々と進むアーティスティックな作品なのですが、この監督の研ぎ澄まされた感性はなかなかのものですね。孤独な少女テルマの宗教的な葛藤がやがて説明できない不穏な事件を引き起こすまでを、北欧的な乾いた空気の中で先鋭的に描き出すことに成功しています。身体に纏わりつく蛇の悪夢や明滅するストロボ、氷の張った湖の底で泳ぐ魚など印象的なシーンも多く、特にプールで溺れかけたテルマが水面めがけて泳いでいったらそこが水底だったというシーンは忘れがたい印象を残してくれました。また、ストーリーの宗教的なバックボーンの扱い方もうまく、個人の感情と社会の倫理観の相克など深いテーマをさらりと開陳させる手腕の鮮やかさも見事。テルマは現代のキリストとして新たな価値観を作り出すのか?奇跡の力を手にした、そんな彼女の今後を想像させるラストなども深い余韻を残してくれます。調べてみると監督はデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーの親戚だとのこと。なるほど、この神経病資質な感性は血筋なのですね(笑)。若干思わせ振りが多すぎて、幾分か冗長な面もなきにしもあらずだけど、このシャープで研ぎ澄まされた感性は一見の価値ありです。[DVD(字幕)] 7点(2019-05-12 22:54:02)

12.  アクト・オブ・キリング 《ネタバレ》 1965年、インドネシア。軍部によるクーデターが発生し、軍事独裁政権が誕生した。政府に逆らう者は共産主義者として告発され、西側諸国の支援のもと、100万人を超す“共産主義者”が1年足らずの間に殺された。虐殺や拷問の主な実行者は〝プレマン〟と呼ばれる、ほとんどヤクザと変わらない民兵集団だった。当時、彼らは権力者として敵対するものを容赦なく迫害。驚くべきことに、彼らは今も罪に問われることもなく国民的英雄として幸せに暮らしているのだった。今回、取材に応じたそんな殺人者たちは、かつて自らが犯した残虐行為を誇らしげに語り始める。どうして彼らはそんな鬼畜にも劣る行為を嬉々として実行できたのか――。その理由を知るため、本作のスタッフたちは、彼らに当時の拷問や虐殺を自由に再現し撮影して1本の映画として完成させるよう依頼する。本作は、その過程を追い、そんな殺人者たちの形成過程を記録したドキュメンタリーである。主な出演者は、当時プレマンと呼ばれ残虐の限りを尽くしたものの、今では地元の権力者として住民から英雄視されている初老の男たち。つまり当事者自らが当時のことを再現してみせるのだ。例えるなら、本物のナチスが多くのユダヤ人をガス室に送った工程を自ら演じてみせるようなもの。こういう今まであり得なかった手法で撮られた本作は、もうそれだけで観る者の知的好奇心を否応なく刺激してくる。映画を撮るために、久々に集った当時の仲間たちが、まるで学校の同窓会のように抱擁を交わし、そして当時の虐殺の様子を楽しそうに語り始める姿は観客の倫理観に挑戦状を叩きつけてくるようだ。「俺たちは当時正しいと信じられていたことをやっただけだ。それを言うなら、アメリカだってイラクで同じようなことをした。戦争犯罪は勝者が規定するものさ。殺人を責めるなら〝カインとアベル〟からやれ。俺たちは勝者だ、自分の解釈に従う」と主張する彼らに、真に有効な反論をいったい誰が有しているだろう。人間の倫理観の規範となるべき根拠の脆弱性を鋭く問う本作のテーマは、なかなか深いものがある。ただ、後半における「そんな彼らも当時のことを再現する過程で罪悪感に目覚めていった。きっと人間の本質にあるのはやはり〝善〟だ」という既存の道徳観に(無難に)収めていく展開は、残念ながら監督の“逃げ”と捉えられても仕方ないだろう。日本が世界に誇るカルト・ドキュメンタリーの怪作『ゆきゆきて神軍』における奥崎謙三が放っていた真の狂気性には到底及ばない。監督には彼らの心にいまだ眠っているだろう真の闇に、徹底的に肉薄して欲しかった。そうしたら、歴史に残る傑作になり得ただろうに。惜しい。[DVD(字幕)] 7点(2015-07-28 16:02:14)

13.  隣人 ネクストドア 《ネタバレ》 都会の平凡なアパートで恋人のイングリットと同棲生活を送る青年ヨーン。だが、とある些細な喧嘩をきっかけに彼は思わず暴力をふるってしまい、当然のようにイングリットは部屋から出て行ってしまうのだった。まだ彼女のことが忘れられない失意のヨーンは、ある日、偶然エレベーターに乗り合わせた怪しげな隣人である若い女性に声をかけられる。「あなた、未だ彼女のことが忘れられないんでしょう?壁が薄いからずっと聞いていたわ…」そう話す彼女に隣室へと招き入れられるヨーン。そこには、かつて3人の男たちに暴行されたという哀しい出来事をきっかけに引きこもりとなった妹も居たのだった。何もかも分かったような怪しい言動を繰り返すそんな姉妹たちに、次第に心を掻き乱されるヨーン。まるで深い迷宮に迷い込むように、彼はどんどんとその淫靡で怪しげな隣室へとのめり込んでゆく…。この後、「チャイルドコール-呼び声-」という、オチはちょっぴり残念賞だったもののその全編に横溢する暗鬱でミステリアスな雰囲気と全く先の読めないストーリーとでなかなか見応えのある作品を撮ることになる監督のデビュー作である今作。こちらも低予算ながら、いかにもこの監督らしい練られた脚本と随処にセンスを感じさせる映像とで不穏な雰囲気が濃厚に漂うダークミステリーの佳品に仕上がっておりました。いやー、良いですね、これ。いったいこのアパートは何LDKやねん!ってくらいあり得ないほど部屋がいっぱいあるこの隣室で繰り広げられる、過去と現在、愛情と性欲、サディズムとマゾヒズムが複雑に交錯するストーリーは今回も見応え充分でした。良い意味で、嫌~な余韻が残る胸糞悪いラストシーンもグッド!ただ…、オチはやっぱり今回も容易に読めてしまう凡庸なものだったのが少々残念でしたけど。この監督さん、風呂敷を拡げるのは物凄く上手いのに、それをたたむのがちょっと下手みたい(笑)。でも、このデビット・リンチを分かりやすくしたような、この監督らしいシュールな世界観は今回もなかなか堪能できたっす!次は、オチをもっと頑張ってね(笑)。[DVD(字幕)] 7点(2014-07-28 09:11:30)

14.  偽りなき者 《ネタバレ》 子供と酔っ払いは決して嘘を吐かない――。離婚して愛する息子と離れ離れに暮らしている保育士ルーカスだったが、それでも小さな村の中で仲の良い親友たちに恵まれ、同僚の素敵な女性とも恋仲になり、職場の保育園でも素直で純粋な子供たちに囲まれ、ささやかながらも幸せな生活を謳歌していた。そう、想像力豊かな女の子クララが、些細な嘘を吐いてしまうまでは。突然、幼児への性的虐待を疑われたルーカス、それまでのささやかな幸せに満ちた彼の生活は瞬く間に一変してしまう。仕事を首になり、村人たちから侮蔑の目で見られ、信じていた親友からも絶交され、さらには愛する息子との同居計画も白紙に…。少女の些細な嘘から、絶望のどん底へと墜ちてしまう、一人の男の苦難の遍歴を淡々と描いた痛切な人間ドラマ。いやー、暗かったっすね~。見れば見るほど気が滅入ってしまう暗鬱なストーリーなのですが、そんな人生の落とし穴がかなりリアルに描かれているため、決して他人事とは思えず最後まで惹き込まれました。それにしても、人間って何処まで愚かで残酷になれる生き物なのでしょう。独善的な正義を振りかざし、一人の男を何処までも追い込んでいく園長やスーパーの店員の姿を見ていると、あらためてそう思います(何の罪もない飼い犬にまで手を出すなんて!)。もし、僕が同じような状況に追い込まれたらきっと心が折れて自殺しちゃいますよ、こんな悲惨な現実。それでも必死に生き続け、ときには自暴自棄に陥りながらも、少しずつ信頼を取り戻していくルーカスの姿に、最後は一縷の希望を感じ取ることが出来ました。とっても暗いですけど、なかなかの良作だと思います。お薦め。[DVD(字幕)] 7点(2014-03-26 10:52:34)(良:1票)

15.  メランコリア 《ネタバレ》 相変わらずの鬱病監督、ラース・フォン・トリアーの比較的メジャー(ハリウッド俳優を多数起用)な最新作。それでも、内容は相変わらずの悶絶鬱映画で、人類なんかみんな滅びてしまえばいいのに、という鬱特有の寂寥感溢れる結論でありました。でも、やっぱりこの監督は悔しいけど才能があるんだよね。前半のぐだぐだな結婚式では、鬱な花嫁が健常な人々から侮蔑の念で見られていたのに、後半、人類が滅びると分かったとたん健常者が次々と絶望に追いやられて狂っていく。そして反対に鬱な主人公は健やか心で現実を受け入れる。初めから希望なんかなければ、絶望なんかしない。とても暗鬱な美しさに満ちた作品でした。死にたくなるけど(笑)。[DVD(字幕)] 7点(2012-12-18 19:42:38)(良:1票)

16.  アナザーラウンド 《ネタバレ》 「血中のアルコール濃度を常に0.05%に保つと生活や仕事の効率が高まる」という説を実際に実行した4人の男たちの顛末をほろ苦いユーモアを交えて描いたヒューマンドラマ。この監督の前作『偽りなき者』が印象深かったのとアカデミー外国語映画賞に輝いたということで今回鑑賞してみました。確かに、こんな地味な登場人物たちが織りなす地味な物語でテーマだって地味なのに最後まで淡々と見せ切る演出は巧み。マッツ・ミケルセン演じる主人公が酒の力を借りて次第に生きる活力を取り戻してゆく姿はリアリティ抜群で、彼が調子に乗ってどんどんと酒の量を増やしてゆくところはアルコール中毒者の生成過程を見ているようでひやひやさせられちゃいますね。ただ、観終わってこの作品の描きたかったテーマが「お酒は楽しく適量を」くらいしか伝わってこず、自分はそこまで得るものはなかったです。[DVD(字幕)] 6点(2023-01-27 11:07:43)

17.  バグダッド・スキャンダル 《ネタバレ》 『石油・食糧交換プログラム』――。それはイラク戦争開戦前夜、欧米の経済制裁によって苦しむイラク国民を救うために国連主導で行われた人道援助だ。当時まだ独裁者として同国に君臨していたサダム・フセインによる大量破壊兵器開発を防ぐため、国連が窓口となって豊富な石油資源を市場価格で売却し食料や医薬品と交換してイラクへと還元させる。多くの人命を救うための人道的プログラムのはずだった。だが実際は、フセイン政権による横領や横流しが相次ぎ、さらには先進国の大手企業がその利権を巡って多くの不正行為に手を染めていた。驚くべきことに、監視者であった国連職員にまで汚職が蔓延していたのだ。若き職員マイケル・サリバンはその事実に気付き、すぐさま上司に報告するも実態は公にされることなく握りつぶされてしまう。だが、様々な国の思惑が複雑に交錯する国際情勢の中、やがてそれは国連を大きく揺るがす一大スキャンダルへと繋がっていくのだった……。本作は、200億円にも及ぶ大金が闇に消えたという実話を基にして描かれた硬派なポリティカル・サスペンスだ。主演を務めるのは若手俳優テオ・ジェームズ、他に制作も務めたというベテラン、ベン・キングズレーが名を連ねている。確かな取材や時代考証に基づいたであろう骨太な物語はなかなか見応えがあった。ニューヨークの国連本部から当時混乱を極めたイラクの首都バグダッドにまで拡がるそのスケールの大きさにも圧倒されるものがある。何より、この弱者を救うためのプログラムを利用し甘い蜜を吸い続けた、欧米各国の行き過ぎた資本の論理には戦慄させられる。人間とは、かくも欲深き生き物なのか――。「民主主義に汚職はつきものだ」と言うベン・キングズレーの言葉が重い。そんな醜い国際情勢によって翻弄される、主人公の国連職員とクルド人女性通訳との儚い恋物語は強く印象に残った。丁寧な手腕が光る政治サスペンスの逸品と言っていいだろう。ただ、こういう作品なので仕方ないのだろうが、お話として地味すぎるのが自分には少々退屈に感じてしまった。もう少しドラマティックに脚色しても良かったのではないか。世界の実態を知るという点では充分観る価値はあったが、人間ドラマとしては幾分か物足りなさの残る作品であった。[DVD(字幕)] 6点(2020-02-17 23:10:59)

18.  ヒトラーの忘れもの 《ネタバレ》 1945年、デンマーク。降伏したナチス・ドイツは、この国の広大な海岸線に何万もの地雷を埋めたまま敗走。連合軍の上陸を阻止するため海岸の砂浜に大量に埋設されたそれを完全に除去するには、多大な労力を要することは明白だった。復興を担うデンマーク軍が目を付けたのは、捕虜となったナチスの少年兵たち。「これから三か月、真面目に作業に従事すれば無事に国へと帰してやる」――。選択の余地などないドイツの少年兵たちは、碌に食べるものもない劣悪な環境下で、ただただ死と隣り合わせの作業に従事してゆく。降り注ぐ太陽の元で何時間にもわたって地雷を捜し出し、その信管を抜く作業。少しでも手順を間違えれば手足は吹っ飛び、下手をすれば即死と言う最悪の事態に。ぎりぎりの状況下で、少年たちは黙々と地雷を処理してゆくのだが……。第二次大戦直後のデンマークで起こった、そんな歴史的事実を背景に少年たちの過酷な真実を描いたヒューマン・ドラマ。アカデミー外国語映画賞にノミネートされたということで今回鑑賞してみました。舞台となるのはただひたすら美しい景色が続くのどかな砂浜、だがそこで地雷除去と言う作業に従事する少年兵たちからしたら地獄としか言いようがなく、このギャップが彼らの悲愴感をより際立たせているのがなんとも切ない。先の見えない精密作業に徐々に神経を擦り減らしていく彼らの姿には、ただただ胸を衝かれるばかりでした。体調を崩しているのに作業を休ませてもらえず、ちょっとしたミスから両手を失ってしまった少年が「家に帰りたい!」と泣き叫ぶ声が今も頭から放れそうにありません。歴史の闇に埋もれていた事実の重みに言葉を失ってしまいます。ただ、一本の映画として観ると少々物足りなさを感じたのも事実。あまりにも淡々と物語が進行していき、しかも主人公となる少年たちの各々の個性や背景が充分に描かれていないせいでうまく感情移入が出来ないのです。食料調達に困り家畜の餌にまで手を付けていた彼らの食糧事情がその後どうなったのかをあやふやのまま、物語を進めていくのも如何なものか。「小説の神は細部に宿る」とはあるベテラン作家の言葉ですが、これはそのまま映画にも当てはまると思います。もう少し彼らのドラマを丁寧に描いてほしかった。最後の取って付けたようなハッピーエンドなんて、僕には無理やり話を終わらせるためのものにしか感じません。少年たちの過酷な任務は物凄い緊張感に満ちていただけに、肝心のドラマ部分がなんとも惜しい作品でありました。[DVD(字幕)] 6点(2020-01-11 23:53:27)

19.  ヘッドハンター(2011) 《ネタバレ》 予備知識ほとんどなし、ただ15禁の映画だという情報だけで観た。最初のほうはまだ映画作りに慣れていないのか、とても説明不足のまま進んでいくので「うーん、これははずしたかなぁ…」と思ったものの、途中からの逃亡劇へと移行するあたりから、どんどんとそのソリッドな演出が効いてきて、ユーモアとシュールさが絶妙なバランスで配合されたよく出来たエンタメ映画に仕上がっていた。面白い。もっと、映画としての基礎が整っていれば、完成度の高い作品に仕上がっていただろうに、そこがちょっと残念だったかな。[DVD(字幕)] 6点(2013-07-16 12:57:02)

20.  アンチクライスト 《ネタバレ》 ラース・フォン・トリアーらしい、非情に悪趣味な作品。さすがのカンヌでもブーイングの嵐だったと聞いたけど、それも納得。あのなまいきシャルロットに激しいマスターベーションをさせて、その挙句にあれ……。この監督はいったい何処に向かっているのだろうかと、他人事ながら心配になってしまう。もう、この路線を突っ走っていつかとんでもなく悪趣味な傑作を創り出してくれることを、期待したい(消極的にだけど)。[DVD(字幕)] 6点(2012-04-24 13:41:14)

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