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1. 黒い画集 あるサラリーマンの証言
《ネタバレ》 他の松本清張作品にも「証言するしない」「他人を貶めたようなことが自分にも降り掛かる」といったことが描かれているが、ワンパターンにならずにそれぞれが独自の作品に仕上がっている。
言うも地獄、言わないのも地獄という不倫中年サラリーマンの苦しみがよく感じられる。
因果応報、負の連鎖は見ている者には面白く、かつ教訓を得られるようなところがある。
殺人事件には発展しないだろうが、保身のためにつまらない嘘を付くということは我々にも起き得るシチュエーションかもしれない。
愛人を作るなとは言わないが、状況に応じては正直にならなくてはいけないようだ。
本作を観ると、女性も意外と怖いなと感じられるところがある。
課長に正直に証言しろと迫るわけではなくて、逆にアリバイ作りには熱心となる。
脅されたとはいえ相手に体を許して、別の男性と簡単に結婚までもしてしまう。
男性のズルさというのももちろんあるが、女性の割り切り感も凄い。
その辺りをもうちょっとクローズアップしてもよかったかもしれない。
課長の煮え切らない小心者らしい態度と、OLの割り切り感のよくポジティブな態度が事態をより一層に泥沼化させていくという流れでもよい(実際の女性にはネガティブ思考も多いが)。
凡人ならば、釈放されずに刑に処せられるというオチに持っていくところだが、釈放されるところがある種のポイントかもしれない。
社会的な信用を失い、家族を失い、愛人も失ったであろう主人公には刑務所に入るよりも悲惨な人生が待ち受けている。
この辺りの落としどころは上手いと唸らざるを得ない。[DVD(邦画)] 7点(2009-12-21 23:26:15)《改行有》
2. クライング・ゲーム
《ネタバレ》 事前情報を全く知らずに鑑賞したため、かなり驚かされることとなった。
ファーガスがジョディ(ウィテカー)に「(ディルと)結婚しているのか?」と問い掛けたときのジョディの返答から、確かに違和感を覚えたが…。
鑑賞中は「写真よりも実物は意外と大したことないなぁ」と思っていたが、その直感は間違いではなかったようだ。
だが、単なる驚きを与えるばかりではなく、「性を越えた恋愛」、「人間の性(さが)」などをきちんと描いた傑作だ。
ジョディはファーガスが「カエル」だと分かっていたのだろう。
だからこそ、ファーガスにディルを託したのではないか。
ディルはまさに「サソリ」だ。
「カエル」がいなければ、人生という名の川を渡れない。
もし、ディルの秘密が分かったとしても、ファーガスは自分の背中からディルを振り落とすような真似はしないと、ジョディは分かっていたのではないか。
ファーガスは「カエル」だが、ただの「カエル」ではない。
「サソリ」に刺されても、「サソリ」とともに川の底に沈むのではなく、「サソリ」も生かして、自分も生きようとする「カエル」だ。
この「サソリ」と「カエル」のカップルは、肉体的には結び合えないかもしれないが、感情面においては、強く結び合っているのが、よく分かるラストだ。
誘拐した側と誘拐された側ですら、分かり合えたのであるから、ファーガスにとってはディルと分かり合うことなど難しいことではない。
それこそがファーガスの性(さが)だろう。
一番分かり合えなかったのが、自分の同志というのが、皮肉な結果となっている。
それにしても、フォレスト・ウィテカーが凄い。
「ラストキングオブスコットランド」でアカデミー賞主演男優賞を獲得できたのは伊達ではないようだ。
「ラストキングオブスコットランド」の演技よりも、本作の方がインパクトがあり、非常に印象に残る素晴らしい演技だった。[DVD(字幕)] 8点(2008-01-10 21:35:27)《改行有》
3. グッドナイト&グッドラック
《ネタバレ》 この映画の主題である「赤狩り」は、エリアカザン監督のアカデミー賞名誉賞受賞の際にも問題(「赤狩り時代」に仲間を売ったとされ、表彰時にブーイングが浴びせられた)になったが、今なおハリウッドに影を落とす問題である。この映画を通して、その歴史の一端を学ぶことができる点では評価できるかもしれない。
しかし、確かに歴史的に非常に価値ある映像はみせてもらったとは思うが、どうにも物足りなさも覚えた。
この映画では「赤狩り」の首謀者であるマッカーシー上院議員を糾弾するという趣旨は全くないため、比較的客観的・中立的な立場から描かれていると思われる。
そのためか、いまいちエド・マローの内面やその葛藤、苦悩をうかがいしることができなかった。
また、この映画を通して、「表現の自由」とは、「報道の自由」とは、「思想の自由」とは、「国家による思想の弾圧に対するメディアの在り方や我々自身の対応」とは、など色々と考えられるテーマが散りばめられていると思うが、あまりそれらを考える手がかりにはならなかったと思う。
一言でいいあらわせば、映画をみたというより、歴史の勉強をしたというのが正直な感想であった。[映画館(字幕)] 5点(2006-05-02 21:30:13)《改行有》
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