みんなのシネマレビュー
ザ・チャンバラさんのレビューページ[この方をお気に入り登録する

◆検索ウィンドウ◆

◆ログイン◆
メールアドレス
パスワード

◆ログイン登録関連◆
●ログインID登録画面
●パスワード変更画面

◆ヘルプ◆
●ヘルプ(FAQ)

◆通常ランキング◆
●平均点ベストランキング
●平均点ワーストランキング
●投稿数ランキング
●マニアックランキング

◆各種ページ◆
●TOPページ
●映画大辞典メニュー
●アカデミー賞メニュー
●新作レビュー一覧
●公開予定作品一覧
●新規 作品要望一覧照会
●変更 作品要望一覧照会
●人物要望一覧照会
●同一人物要望一覧照会
●関連作品要望一覧照会
●カスタマイズ画面
●レビュワー名簿
●お気に入り画面
Google

Web www.jtnews.jp

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

投稿関連 表示切替メニュー
レビュー表示レビュー表示(評価分)
その他レビュー表示作品用コメント関連表示人物用コメント関連表示あらすじ関連表示
コメントなし】/【コメント有り】
統計メニュー
製作国別レビュー統計年代別レビュー統計
要望関連 表示切替メニュー
作品新規登録 / 変更 要望表示人物新規登録 / 変更 要望表示
要望済関連 表示切替メニュー
作品新規登録 要望済表示人物新規登録 要望済表示
予約関連 表示切替メニュー
予約データ 表示

【製作国 : イギリス 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
評価順123456789
投稿日付順123456789
変更日付順123456789

21.  ブーリン家の姉妹 《ネタバレ》 「ヘンリー8世って離婚をバチカンに咎められ、逆ギレして英国教会を作った人ね」「ブーリン姉妹・・・誰?」という高校世界史レベルの知識で予習もなしに本作を鑑賞したのですが、それが正解でした。次に何が起こるのかサッパリわからないので終始ハラハラドキドキさせられ、ブーリン家の命運尽きたかと思われた後の、アンの娘は後のエリザベス女王でしたというオチにもびっくり仰天で、続いて『エリザベス』も見たくなりました。往々にして、歴史映画は史実を知らなければ楽しめない場合が多いのですが、本作は珍しくその逆のパターンをいっています。 上昇志向の強い長子が失敗し、無欲の次子がたまたま成功を掴むという兄弟・姉妹あるあるは興味深く感じました。人生とはそういうものです。また、失敗の経験から成功に対してより貪欲になり、目標達成のためには手段を選ばなくなったアン・ブーリンの性悪加減などはかなり怖く、彼女が本作のドラマ性やサスペンス性を高めていると同時に、カトリックからの離脱という英国史上屈指の大イベントの仕掛け人になったことへの説得力も与えており、歴史的事実と目の前のドラマをうまく融合させているものだと感心させられました。 演技派として認められようと必死だった頃のナタリー・ポートマンを姉役に、天性のカリスマ性で黙っていても巨匠との仕事が次々と舞い込んでいたスカーレット・ヨハンソンを妹役にあてたキャスティングも絶妙であり、この2人が作品を大いに盛り上げています。[インターネット(字幕)] 7点(2016-12-05 15:28:22)(良:1票) 《改行有》

22.  ミッシング・ポイント 《ネタバレ》 有望なイスラム青年が突如としてアメリカ式の利益至上主義から離脱したので「イスラム原理主義へ傾倒したか」と思ってCIAが工作員を送り込んでみたら、実はイスラム原理主義にも染まっていませんでしたというお話。一見すると意味不明な原題(直訳すると「気の進まない原理主義者」)の由来が明かされるラスト5分のみ面白かったものの、そこに至るまでのドラマが長い割に面白くなくて何度も寝落ちしかけました。 物語の背景にアメリカ人教授の誘拐事件を置いているにも関わらずタイムリミットサスペンスとしての方向性は完全に切り捨てられており、回想と会話のみでダラダラと進んでいきます。さらには、主人公のイスラム青年に共感できるような要素が少なかったこともあって、ドラマへの没入感はかなり低かったです。 その国籍と風貌を理由に911直後のアメリカ社会でえらい目に遭わされたとはいうものの、あれだけの大事件の後で敏感になった捜査当局が過剰な行動をとったり、心無いバカが嫌がらせをしてくるなんていうことは容易に予期できるものであり、主人公は母国を離れて暮らしている人間に必要なメンタルを備えていないように感じました。さらには、そんな厳しい環境下でも最大限の支援とチャンスを与えてくれて、国籍ではなく能力を重視して異例の出世までさせてくれた上司に対する不義理もビジネスマナーとしてよろしくなく、この主人公には感情移入できませんでした。 また、主人公がアメリカ社会に見切りをつける決定的な原因のひとつとなった彼女の言動についても、いまいちピンときませんでした。「こんな世の中でもムスリムの彼氏と付き合ってる私」自慢を芸術にして個展で発表するという、一般人には到底理解できない行動で主人公と観客をドン引きさせますが、さすがにこれはアメリカ社会云々の話ではなく、主人公の女選びが致命的に悪かったという結論にしか至りませんでした。『あの頃ペニー・レインと』と比較して顔の大きさが倍くらいになったかのようなケイト・ハドソンの劣化ぶりもあって、この彼女と主人公とのロマンスは不要だったように感じます。[インターネット(字幕)] 4点(2016-11-18 15:49:03)《改行有》

23.  コン・ティキ ノルウェー映画史上最高額の製作費をかけ、本物の海で撮影することに拘ったというだけあって、映像の説得力が違います。また、要所要所ではVFXも使用されているのですが、こちらについても実際の風景との境目がまったくわからないという凄まじいレベルに達しており、よくぞここまでの映画を作ったものだと感心させられました。ビジュアルに関しては完璧であり、本作の監督達が同じく海洋映画である『パイレーツ・オブ・カリビアン』新作の監督に抜擢されたことにも納得がいきます。 ただし、残念ながら内容の方はビジュアルに追いついていません。コンティキ号漂流記を知った人の最大の関心事は、いつ死んでもおかしくない状況下で100日間も大海原を漂流するという大変なストレスをクルー達はどう乗り切ったのかという点だろうし、オスカーを受賞した1951年のドキュメンタリーも存在する中であえてドラマ作品として映画化することの意義は、クルー達の内面描写を充実させることにあったと思います。しかし、本映画化企画はクルー達のドラマをあっさりと流してしまうため、どうにもピント外れな内容となっているのです。このままではイカダが分解して全員死ぬから金属製のワイヤーで船体を固定させてくれと言うエンジニアに対して、航海技術に係る知識のないヘイエルダールが「説立証のためには古代になかった素材は一切使えない」と狂気に近い主張をしてワイヤーを海に投げ捨てるくだりなどは、掘り下げればかなり面白くなったと思うのですが。このあっさり感については、死去するまではヘイエルダール自身も映画化プロジェクトに関わっていたことから実在の登場人物達を悪く描けなかったという制約条件が働いたためだと推測されますが、保守的な描写を選択したために映画化企画そのものの意義が没却したのでは元も子もありません。 クルーは冷蔵庫のセールスマンに無線技士にドキュメンタリーのカメラマンと海の素人揃いで、当のヘイエルダールに至っては幼い頃の事故のトラウマから水恐怖症で泳げないというポンコツチーム。結果から振り返ると、専門家なら絶対にやらないような無謀な航海に無知ゆえの大胆さで挑戦してみたらたまたま成功したという話であり、ならば本作はクルー達の準備不足や不見識を見せることで観客の緊張感を煽るという方向性を志向してもよかったと思うのですが、この航海の困難性の煽りなどが不足しているため、気が付けば目的地に到着しておりましたという感じで冒険映画としても大きな山を作り損ねています。さらには、起こる危機が鮫関係ばかりという点も作品の単調さを助長しており、総じてイベントの詰め込み方が甘いように感じます。[インターネット(字幕)] 5点(2016-10-07 15:41:31)《改行有》

24.  コードネーム U.N.C.L.E. ナポレオン・ソロ役には当初トム・クルーズが予定されていたものの自前の企画『ミッション:インポッシブル/ローグネイション』を優先して降板し、代わってジェームズ・ボンド役の最終候補にまで残った経験のあるヘンリー・カヴィルが登板ということで、スパイ映画って意外と少ない人数で回してるのねということが印象的だったのですが、カヴィルのハマり具合は素晴らしく、次期ボンド役は彼でいいんじゃないかと本気で思ってしまいました。高級スーツがよく似合うし、スーパーマンも演じる肉体派だけあってアクションをやる時の身のこなしには説得力があります。さらにはユーモアのあるセリフをサラっと言えるため、どんな時にも涼しい顔をしていられる超人的な役柄にピタりとハマっているのです。 また、相手役のアーミー・ハマーは190cm超の巨体を活かしてソ連の堅物役になりきっているし、アリシア・ヴィキャンデルは『黄金の七人』のロッサナ・ポデスタのような魅力があって、60年代のおしゃれなアクションコメディの雰囲気を身に纏っているかのようです。『オースティン・パワーズ』や『オーシャンズ11』など60年代の娯楽作の復活を目指した作品はいくつかありますが、時代の雰囲気の再現度という点では、本作がベストではないでしょうか。 時代の再現度、それが本作の問題でもあります。いま時のスパイ映画に慣れてしまった身としては、結局事態は解決するのだろうという予定調和な雰囲気の中でいつでもヘラヘラと笑っていられる安心感により、スパイアクションに期待される緊張感を奪われている点が残念でした。主演二人は自らスタントをこなしており見せ場のクォリティは高いものの、それが見る側の高揚感には繋がっていません。ダウニーJr版『シャーロック・ホームズ』でも感じたのですが、ガイ・リッチーの作品は雰囲気ものの領域を出ないように感じます。他方、リッチーの元パートナーにして、元祖ナポレオン・ソロを演じたロバート・ヴォーンの息子だと言われていた(後にDNA鑑定で否定されましたが)マシュー・ボーンは、『X-MEN/ファーストジェネレーション』や『キングスマン』にてレトロな様式美と現代風アクションの折衷に見事成功しており、本作もその領域にまで達して欲しいところでした。[ブルーレイ(吹替)] 6点(2016-08-12 18:48:16)《改行有》

25.  ザ・ガンマン 《ネタバレ》 これまで娯楽作への出演を避けてきたショーン・ペンが、突如ジョエル・シルヴァー製作、ピエール・モレル監督というコッテコテのアクション映画に主演。しかも自分で脚本を書くほどの熱の入れようということで、事前にはどんな映画になっているのか見当もつかなかったのですが、雰囲気だけはメチャクチャによくできています。『ブラッド・ダイヤモンド』や『ザ・バンク』のような重い社会性を帯びた娯楽作であり、本編はB級アクションらしからぬ重苦しい雰囲気に覆われています。また、ひとつひとつの仕草にまでこだわり抜いたと思われるほどアクションシーンにおける主人公の行動は洗練されており、きちんとプロの傭兵に見えるだけの説得力があります。それを演じるショーン・ペンの肉体改造は凄まじく、体脂肪率の低そうなバッキバキの肉体を披露。『エクスペンダブルズ』の面々ですらここまで体を作ってきている者はおらず、御歳55歳にしてアクション俳優としてのキャリアが開花しそうな勢いなのです。 ただし、お話しの方がまるで面白くありません。主人公は8年前の暗殺事件を発端とした国際的な陰謀に巻き込まれて命を狙われ、その黒幕を探し始めるのですが、イマイチ観客の興味を引くような流れを作り出せていません。怪しい奴を捕えると、こちらが聞きもしていないことまでベラベラと話してくれる。本編はこれを何度か繰り返すのみなので、面白いわけがありませんね。ラストの展開などは噴飯もので、主人公が持つ証拠動画と、敵に囚われたヒロインを交換しようという取引がなされるのですが、いくらでもコピーできる動画ファイルをわざわざ受け取りに現れる敵一味が間抜けにしか見えません。また、犯罪を首謀した行為の隠蔽がそもそもの目的だったにも関わらず、追い込まれたラスボスは公衆の面前で銃を振り回して女性を追い駆け回すというアホな行動をとり始める始末であり、仮に過去の犯罪行為を隠蔽できたとしても、新たな罪状で逮捕されるだろと呆れてしまいました。 主人公とヒロインの悲しい恋愛や悪人との三角関係、主人公の重病設定も本筋のサスペンスを盛り上げることには貢献しておらず、無駄な枝葉になってしまっています。ショーン・ペンを含めてオスカー受賞者が3人もいるにも関わらず高いレベルでの演技合戦を楽しむことはできず、専ら不自然な展開を誤魔化すために彼らの演技力が費消されているという点も残念でした。[ブルーレイ(字幕)] 6点(2016-08-10 20:36:34)《改行有》

26.  トランセンデンス(2014) 《ネタバレ》 生命倫理の問題や、テクノロジーが神の領域にまで達しようとすることの是非、環境問題など、この映画にはとにかくいろんなトピックが盛られています。監督と脚本家は恐らくこれら全部を語りたかったんでしょうけど、キャリアの少ない彼らではこれを扱いきれず、ただのひとつも観客の興味を引くことなく終わっています。難解な題材を華麗に調理するクリストファー・ノーランという天才の下でしばらく働いてきた撮影監督が、「ノーランほどではなくても、それに近いものは自分にも撮れるのではないか」と考えてしまったことは致し方ないところですが、もっと地に足のついた、まずはワンイシューで勝負するところから始めていれば、映画としてはきちんとまとまったのではないかと思います。 監督はあまりに多い構成要素を捌くことにいっぱいいっぱいで、血の通った物語にしきれていません。元は人質として囚われていたポール・ベタニーにどんな心変わりがあってエコテロリストの参謀を務めているのかが不明だったり、一貫して自己中の悪人にしか見えないエコテロリストのケイト・マーラが途中から正義の扱いになることの違和感、モーガン・フリーマンの存在意義など、キャラクターの動かし方が総じておかしいのです。何より問題なのは、誰がどう見ても怪しさ全開の行動をとるAIウィルが、実は良い人でしたというオチに納得感が薄いこと。超越的な知能を持ち、文明社会の森羅万象を動かす力を持っているのだから、人類から猜疑心を抱かれないよう、もっとうまくやれよと思ってしまいました。これと併せて、遠隔操作可能な改造人間を作り始めるに至って、ようやく「最近のウィルって何だか気持ち悪いわ」と感じるようになったエブリンの異常な鈍さにも付いていけず、バカ夫婦の起こした珍騒動という印象が強くなっています。 そんな感じでトピックの扱いでも、人間ドラマでも失敗している本作ですが、救いはビジュアルの美しさで観客の目を楽しませることには成功していること。ノーランの映像美を最前線で支えてきた監督は、ここではきっちりと仕事をしています。 また、脚本レベルでは中盤以降、FBI、民間セキュリティ会社、エコテロリストの連合軍がウィルの要塞に攻めてくるという何とも燃える展開を準備してきますが、この下世話な部分が面白かったので、本作は憎めない作品となっています。人類側は「ハイテク兵器ではウィルに乗っ取られるから、旧式の銃火器で乗り込むぜ!」とやってくる。対して、ウィル側は障害者を改造して作り上げた不死身の強化人間軍団で陣地防衛。前半の真面目な雰囲気をぶち壊すこのバカさ加減には、私の中のB級魂が騒ぎました。また、結構真剣にテクノロジーを扱ってきた作品なのに、このパートではナノマシーンがほぼ魔法の道具扱いになっていて、このヤケクソ加減も私のツボでした。キューブリックの脚本をマイケル・ベイが監督したかのような歪さを楽しめるかどうかが、本作の評価を分ける点なのでしょう。私は嫌いじゃありません。[ブルーレイ(字幕)] 6点(2016-01-28 19:24:07)(良:1票) 《改行有》

27.  イングリッシュ・ペイシェント 《ネタバレ》 文芸作品としての上品な風格とハリウッド映画らしい大作感を両立した作品であり、そのルックスはほぼ完璧。「これは何か賞をやらなければ」と思わせるだけの仕上がりだし、一方で同年には他に突出した作品がなかったこともあって、作品賞を始めとするオスカー大量受賞には納得がいきます。アカデミー会員が求めるものを、ほぼパーフェクトに充たした作品なのですから。ただし「面白いか?」と聞かれると、これはちょっと微妙と言わざるをえません。 ざっくり言うと不倫で身を持ち崩した男の話なのですが、その舞台が第二次大戦前夜というキナ臭い時代だった上に、登場人物達の背景に国際的な諜報戦も絡んできたことから悲劇は雪だるま式に折り重なっていき、最終的には大勢の人の死に繋がっていくという劇的な展開を迎えます。そのまま映画化すればさぞや面白かろうという内容なのですが、厄介なことに、監督とプロデューサーは恐らく意図的に娯楽性の高くなりそうなポイントを外してきています。本作の評価はこの点をどう受け止めるかにかかっており、この手の文芸作品が好きな人にとってはストーリーテリングにおけるこの独特な取捨選択がハマったのかもしれませんが、それ以外の観客にとっては、盛り上がりそうで盛り上がらない中途半端な展開にフラストレーションが溜まる結果となっています。 具体的には、足を負傷したキャサリンを砂漠の洞窟に残して救助を求めに出て行ったアルマシーが、その国籍ゆえにスパイ容疑をかけられてキャサリンを助けに戻れなくなるというくだり。タイムリミットサスペンスの要素とも相まって、詳細に描けばかなり面白くなったであろう展開なのですが、監督は驚くほどアッサリとこのパートを流してしまいます。その過程において売国行為にまで手を染めるという、アルマシーにとって分岐点となったイベントも簡単なナレーションのみで片付けられており、その意思決定の時点でアルマシーが抱えていたジレンマはほとんど描かれません。監督によるこの取捨選択には大きな疑問を持ちました。 他方、無駄に感じたのが看護師ハナの物語全般です。映画は現在パート(1944年)と回想パート(1938年)を行き来しながら進行するのですが、現在パートにおけるハナと爆弾処理兵キップとの恋愛が本筋にうまく絡んでいない上に、この物語がさして面白くもありません。ハナとキップは登場させず、間接的に加害者となってしまったアルマシーと、アルマシーの売国行為によって重大な損害を受けたカラヴァッジョの対話を現在パートの基礎とした方が全体的な話の通りは良くなったような気がします。[ブルーレイ(吹替)] 6点(2016-01-18 19:18:00)《改行有》

28.  リピーテッド 『メメント』と同様に前向性健忘(新しいことを覚えられなくなる記憶障害)を扱った作品なのですが、本作ではさらに設定が追加され、主人公は40歳であるが意識は20歳の状態で、間の20年間の記憶がないというお話となっています。新しいことを覚えられない上に、過去の記憶も大幅に失われている。これはなかなか怖い設定で、例えば私は30代なのですが、朝目覚めた時には自分は中学生だと当然に思い込んでるわけですよ。でも鏡を見ると、確かに自分なんだけど異常に老けた顔があると。そして隣で寝ていた知らない人から「君はもう30過ぎなんだよ。で、うちらは夫婦なんだよ」と言われる。さらに、いかにも怪しい医者から電話がかかってきて、「僕らは秘密の治療をやってるから、今日も迎えに行くね」と言われる。何を信じていいのか分からないが、疑っていても物事が進まないから、とりあえず言われるがままに動く。しかし、自分は良いように操られているだけではないのかという不安は常に付きまとう。自分のバックグラウンドを解明しようとしても、記憶は一日しかもたないから情報の積み上げができない。本作冒頭は、この「何が何だかわからん」という空気感や主人公の抱く不安が見事に描写されており、なかなかの滑り出しとなっています。 ただし本編に入ると、短い上映時間の割には退屈さを感じさせられる内容となっており、サスペンス映画特有の緊張感も作り出せていません。序盤の素晴らしい空気感は維持されているし、メインキャスト3名の演技も素晴らしいので作品は破綻していないものの、大きな山場を作り出せておらず、すべてが淡々と進んでいくのです。 本作の問題点のひとつとしては、寝ると記憶がリセットされる主人公に焦りがないという点が挙げられます。寝たら終わりというサスペンスは、過去にキッドマンが主演した『インベージョン』と同様のものなのですが、生物にとって避けられない睡眠というイベントからどうやって逃げるのかにフォーカスしてなかなかの緊張感を生み出していた『インベージョン』と比較すると、本作の主人公は睡眠を普通に受け入れているため、ひとつの山場を逃しているのです。 また、上記の通り記憶の積み上げができない以上は、一日で真相まで辿りつかねばならないというタイムリミットサスペンスの要素も持った作品でもあるのですが、そんなおいしい部分も素通りしてしまっています。過去20年間の主人公の歴史を辿る物語に重きを置いてしまったために、前方性健忘というもうひとつのコンセプトが希薄化したという印象を受けました。[ブルーレイ(吹替)] 5点(2016-01-15 12:03:37)《改行有》

29.  エベレスト 3D IMAX3Dにて鑑賞。 邦題に3Dを冠した作品だけあって3D効果には素晴らしいものがあって、エベレストの美しさと恐ろしさを存分に味わわせてくれます。急斜面から下を見下ろすショットが何度か出てくるのですが、これが高所恐怖症ではない私でも脇汗をかかされるほどのド迫力であり、『ゼロ・グラビティ』にも匹敵するライド映画となっています。その視覚効果の凄さは、設備の整った映画館で見なければまったく無意味と断言できるほどであり、もし迷っているならすぐに映画館へ足を運ばれることをオススメします。 他方、ドラマの方はかなり淡泊です。比較的最近の事故であるため存命中の関係者が多く、さらには生存者間でも事実認識が割れている点がいくつかあることから、脚色にあたって相当な制約を受けたことがその原因のようで、いろいろと無難に収められています。登山ガイドの隊長、顧客の医師、なけなしの金を持って参加した郵便局員の3名が物語の中心となるのですが、これら中心人物達ですら背景の描写は最小限にとどめられており、その豪華キャストから『ポセイドン・アドベンチャー』のような濃いドラマを期待すると、少なからずガッカリさせられます。 また、登場人物が多いことに加えて、吹雪の中では顔の判別が付きづらいこと、途中からパーティーがいくつにも分割してそれぞれの位置関係の把握が難しいこともあって、誰が何をやっているのかの把握が非常に困難であり、内容を正確に理解しようとするとかなり混乱します。ラスト30分で突如救助隊の中心人物となるサム・ワーシントンなんて、「あなた、いましたっけ?」と言いたくなるほどの唐突感だったし、総じて登場人物の交通整理はうまくいっていません。「少々のことはわからなくても大丈夫」と早めに割り切り、登山の追体験に専念することが正しい鑑賞姿勢だったのかもしれません。[映画館(字幕)] 6点(2015-11-09 15:34:13)《改行有》

30.  オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 《ネタバレ》 内容やトーンは違うものの、私はトム・クルーズの『ザ・エージェント』を思い出しました。通常の映画がテーマとする人生の選択は冒頭で早々と処理され、選択の後に待ち受ける厳しい現実との戦いが本編になるという特異な構成が両作に共通しているのですが、結局は綺麗ごとに着地した『ザ・エージェント』にはなかったものが本作にはあり、私にはそこが刺さりました。 主人公・アイヴァンの立場は絶望的なものです。出産予定日より2か月も早く破水し、産婦の状態も良くない。根回しをしながら対応策を固めていくというプロセスはとれなくなり、今ここで、自分の判断のみで選択しなければならないという状況に叩き込まれます。しかも、産婦はたった一度関係を持っただけのおばさんで、彼女を愛しているわけでもない。むしろ、男性からすればお近づきになりたくない性格の女性であり、彼女の元に走ったとしても、その先に幸せな将来など待ってはいません。それでもアイヴァンは不倫相手の元へ行くという、一見すると不合理な道を選択するのですが、その選択の背景は劇中で徐々に明かされていき、物語への興味は途切れません。この辺りの構成の妙には唸らされました。 アイヴァンの意思決定の背景には、父の存在がありました。家庭を蔑ろにした父をアイヴァンは憎んでおり、今回の選択は、そんな幼少期の経験が大きく影響したものですが、その選択の後に襲い掛かってきた厳しい現実を前に、「自分も父と同じ末路を辿るのかも」という恐怖が過ります。かつての父と同じく家庭人失格の立場に置かれたことで、「父にも家庭に帰れない事情があったのかも」ということが見えてしまったのです。 立場が変わったことによる価値観の逆転は、仕事においても発生します。ソリが合わず陰で「クソ野郎」と呼んでいた上司が、この騒動にあたってはもっともアイヴァンの立場を心配してくれたし、彼は仕事に対する思いが強い、良い人間だったことが判明するのです。失った後になって、その有難みを知る。これには辛いものがあります。 起こったことを正直に話し、責任をとる。アイヴァンがとった方法は倫理的には正しいものでしたが、その告白がもたらした影響、彼が失ったものはあまりに大きく、正しい行いが必ずしも良い結果を導くわけではないという、冷酷な現実を突きつけてきます。見る者の人生観にも影響を与える、素晴らしいドラマだったと思います。[DVD(吹替)] 8点(2015-11-04 21:09:50)(良:1票) 《改行有》

31.  キングスマン 古典へのリスペクトと現代風のオリジナリティー、そしてユーモアとスリルの完全なる調和。 普段はダラダラと長文レビューを書く私ですが、本作についてはコネる理屈も思い浮かばないほど夢中になって鑑賞しました。 最高!!以上![映画館(字幕)] 10点(2015-09-11 21:06:03)(良:1票) 《改行有》

32.  ディアトロフ・インシデント 《ネタバレ》 B級映画としては上位クラスの仕上がりではあるが、大作と比較すると何だか物足りない内容。本作の評価は、レニー・ハーリンに何を期待するのかという軸により変わってくると思いますが、ここ10年のハーリン作品を見てきた私としては、本作には好意的な評価をしたくなりました。 ハーリンの手腕は序盤から冴え渡っています。若者たちが意気揚々と登山への抱負を語る導入部が終わると、続く場面では「アメリカ人の大学生が遭難しました」というニュース映像の挿入により悲劇的な結末へと一気にジャンプし、最中に何が起こったのかという観客の関心を大いに引き付けます。こういう掴み、私は好きです。本編に入ると、しばらくはアメリカ人学生が悪ふざけをしながらタラタラと登山する場面が続きますが、悲劇的な結末が観客にインプットされている分、「でも、この人たち死ぬんだよね」という寂しさが襲ってきます。さらに、その合間には不気味な兆候がいくつも挿入され、それが観客の脳内で結末部分とシェイクされて、余計に恐怖が増幅されるといううまい仕組みとなっています。また、雪山の美しさや過酷さの描写、雪崩のシーンのド迫力など、手間と金をかけるべき部分を的確に判断しており、少ないリソースをうまくやりくりして、それなりの大作感を出している点でも感心しました。 いよいよ明かされる恐怖の正体には意外性があって、そのアイデアは気に入りました。また、荒唐無稽になりかねないオチに対しては多くの伏線が張られており(被害者は9人ではなく11人とした老婆の主張や、時空の歪みの発生を示唆したいくつかの小さな事故等)、観客に「んなアホな」と思わせない作りとなっています。B級ながら、丁寧に作られた良作だったと思います。[ブルーレイ(吹替)] 7点(2015-09-08 16:06:14)《改行有》

33.  イン・ザ・カット 《ネタバレ》 これは女性の性の開放を描いたフェミニズム映画ですよね。主人公姉妹が対になっていて、妹は結婚願望・愛されたい願望の塊で、既婚男性に騙されたのに相手への思いを断ち切れず、ストーカーになってしまいます。女性から見たバカ女ですね。一方、姉は異性との付き合いなんて厄介事が増えるだけだし、基本オナニー、時々セックスで欲求が満たされれば充分と考えています。そのため、愛を求めてくるケビン・ベーコンは捨てられ、セックスだけのマーク・ラファロは残されました。また、女性に対する暴力に対して、男への精神依存度の強い妹は負けましたが、自立した女性である姉は勝った。本作では随所に対立構造があり、それらによってテーマがわかりやすくなっています。そういえば、本来はJJリーが姉役でメグが妹役だと思うのですが、あえてその逆をいった配役も面白いですね。 この映画になぜメグ・ライアンという意見もあるようですが、私はメグの出演は必然だったと思います。 90年代のメグはロマコメ(死語)の女王だったし、落ち目だった頃のデニス・クエイドに寄り添い、彼をヤク中から立ち直らせた良妻としても評判でした。しかし、『プルーフ・オブ・ライフ』の現場でラッセル・クロウと不倫したことで、そのパブリックイメージは崩壊。それまでの陽のイメージが強かった分だけ不倫の反動は強く、ビジネス的にはもうロマコメをやれなくなったのですが、一方で個人的には「10年も良妻をやってきたのに、たった一度の不倫でここまで叩かれるの」という思いもあったことでしょう。そこに、女性の性の開放を訴える本作がやってきたわけです。これはニコール・キッドマンが95年から温めてきた企画であり、彼女の初プロデュース作でもあります。そんな大事な企画でありながらも、今のメグが演じるべきとして気前良く譲ったニコールの男前っぷりには感心します。 問題は、映画として全然面白くなかったこと。猟奇殺人事件とそれに絡む犯人探しがどうでもいい上に、主題にもうまく馴染んでおらず、さらにはドンデン返しにも大したサプライズがなくて、メグが脱ぐシーン以外では眠くて仕方ありませんでした。隠語を吐き、全世界に裸をさらした挙句に「痛々しい」だの「乳が垂れてる」だの言われたメグはお気の毒でしたが、人生、ダメな時はそんなもの。一方、7年も企画に携わりながらギリギリでイグジットした当時のニコールの強運には驚かされます。[DVD(吹替)] 4点(2015-08-30 01:58:16)《改行有》

34.  ステート・オブ・グレース 《ネタバレ》 製作当時は伸び盛りの若手・中堅俳優を集めたつもりが、今になって見返すと錚々たるメンツが顔を揃えたクライムドラマ。『ゴッドファーザー』以来とも言えるほどのキャストの充実ぶりで、俳優のパフォーマンスを楽しむ映画としてはかなりレベルが高いです。 中でも突出しているのがゲイリー・オールドマンで、やっちゃいけないことをやらかして事態をどんどん悪化させる狂犬役なのですが、それと同時に情に厚く、さらには持って生まれた愛嬌からどこか憎めない魅力を放っているという極めて複雑な役どころながら、オールドマンはこれを完璧に演じています。彼の隣に座れば、ショーン・ペンすら脇役に甘んじてしまうほどの圧倒的な存在感とパフォーマンスであり、彼が作品の要となっています。 それだけに、オールドマン退場以降は映画全体が急激に失速しました。ショーン・ペン演じる主人公・テリーの苦悩は表層的だし、ロビン・ライト(本作ではやたら脱ぐ)との関係にもロミオとジュリエットのような痛々しさが足りておらず、いろいろと中途半端。そのようにいろんな要素が少しずつ欠けた状態だったため、ブチ切れたテリーが二丁拳銃で殴り込むクライマックスには唐突感があり、何とも消化不良でした。 また、敵役となるエド・ハリス演じるフランキーの人物像もうまく定まっていません。若いボスであるため隣町のイタリア系大親分からはボクちゃん扱いされている上に、そもそも貧弱なアイリッシュ系組織をまとめあげることにも苦労しており、内外からの批判にあっている不遇の存在。その苦悩はある程度描かれているものの、一方で人間性に問題があるともとれる言動も多く、同情すべき悪党なのか、断罪すべき悪人なのか、作品中での位置づけがよくわからないのです。彼が弟や幼馴染に対して抱く感情もはっきりと描写されていないため、組織防衛のための苦渋の決断にもドラマ性が伴っていません。エド・ハリスによる演技は悪くなかっただけに、脚本レベルでの掘り下げが不足していることが残念でした。[DVD(字幕)] 5点(2015-08-15 02:27:27)《改行有》

35.  戦場のメリークリスマス 日本人監督が撮ったとは思えないほど日本人キャラクターが薄っぺら。帝国軍人として一般に連想されるまんまの人物が出てきます。本作の4年後にスピルバーグが作った『太陽の帝国』の方が、まだ日本人キャラクターに奥行きがあり、ステレオタイプ化を避けようとする努力が見られました。しかも、切腹やら武士道精神やら、外国人が関心を示しそうな要素を前面に押し出していることもマイナスで、西洋文化と東洋文化の衝突というテーマを扱う割には、文化の比較方法が表層的で感心しません。だいたい、切腹なんて明治時代にはとっくに廃止されていて、以降は一部の高級士官がパフォーマンス的に切腹することは稀にあっても、軍隊内の処分として切腹を命じるなんてことはありませんでした。監督は象徴的な意味合いで切腹を出してきたのでしょうが、世界市場を意識した歴史もの映画なのだから、こういう大きなウソをつくことは好ましくありません。 また、録音が悪いため、セリフが聞き取りづらかった点もマイナス。日本人キャストのセリフすら分かったり分からなかったりの状態であり、カタコトの日本語を話すローレンス中佐(安倍晋三似)なんて、何を言ってるんだかほとんど聞き取れません。字幕スーパーがつく英語パートがオアシスに感じました。 評価できるのは意表を突くキャスティング。勝新太郎と監督が対立したからビートたけし、沢田研二のスケジュールが合わなかったから坂本龍一、ロバート・レッドフォードに断られたからデビッド・ボウイと、出演したのは当初意図されていたキャストではないのですが、プロの俳優に断られたから、ならば他ジャンルの巨人達を集めてきて主要キャラクターを演じさせるという思い切り。監督のこの判断は神がかっていたと思います。ビートたけしも坂本龍一も演技はうまくないのですが、それぞれの生きるジャンルではトップを走っているという、そのカリスマ性は映画にきちんと反映されています。各キャストの不得手を隠そうとするのではなく、のびのびとやらせて各々の強みを見せる。素晴らしい演出だったと思います。さらに、主要3人の不安定さを補うために配置されたローレンス中佐役のトム・コンティの縁の下の力持ちぶりも見所です。主要3人とは違って地味。一応はタイトルロールなのに見せ場も与えられずほとんど印象に残らないという損な役回りではあるものの、そのポジションを堅実に守りきっています。[DVD(邦画)] 5点(2015-07-29 17:59:52)《改行有》

36.  誰よりも狙われた男 《ネタバレ》 何の予備知識もなく鑑賞したので、フィリップ・シーモア・ホフマンはドイツ駐在中のCIA職員か何かだと思っていたのですが、途中でドイツの公務員であることに気づいてビックリ。ドイツ訛りの英語を話すアメリカ人俳優をドイツ人とみなすというハリウッド式の無茶設定は、そろそろやめてもらえませんかね。その他、主要登場人物は設定上の国籍に関係なくアメリカ人が演じているのですが、これまたややこしいのがロビン・ライト演じるCIA職員の存在であり、ドイツ人役を演じているアメリカ人俳優と、アメリカ人役を演じているアメリカ人俳優が同時に出てくるため、なんとも妙な気持ちにさせられます。 内容は地味です。007やミッション・インポッシブルのようなカーチェイスも銃撃戦もなし、主人公は中年太りのフィリップ・シーモア・ホフマンだし。テロの黒幕の正体を暴くといった類の謎解きもありません。怪しい奴はすでに分かっており、人権や法律といった社会的制約条件、さらには監督省庁間の縄張り争いもある中で、これをどうやって追い込むかという点が本作のハイライトとなっています。同じくジョン・ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』もそうでしたが、手続きがじっくりと描かれているのです。アクション映画のような瞬発力はありませんが、「ほ~」と納得しながら見ることはできました。 また、「テロリストを捕らえる」という命題に向かってどのような方法をとるのかについて、アメリカとヨーロッパとの違いが描かれている点も興味深く感じました。正常な範囲内でのナショナリズムや愛郷心を刺激されてテロ協力者にはなっているが、本人に反社会性はないというケース。ヨーロッパ当局は彼らをターゲットとはせず、真の悪党を捕まえるための協力者としてこちらサイドに取り込み、成功の暁には元の社会生活に戻してやるという方法をとります。これはテロ協力者に対する温情ではなく、当事者の本質を見極めた上で、もっとも効率的と考えられる方法なのです。一方でアメリカはこれら悪意のないテロ協力者でも片っ端から捕まえて回り、その結果、第一目標であるテロ首謀者にはたどり着けないわ、本来悪人ではない人間を本当のテロリストに変えてしまうわと、即効性があるように見えて実は物凄く非効率な方法をとっています。こんなことしてれば、いつまで経っても対テロ戦争は終わらないわなと、妙なところで納得してしまいました。[DVD(字幕)] 6点(2015-07-28 16:05:27)《改行有》

37.  アンダー・ザ・スキン 種の捕食 《ネタバレ》 捕食対象だった人間に情が移ったために弱くなってしまったエイリアンの物語。溺れた夫婦を助けようとして自らも力尽き浜辺で気絶した青年を石で殴り殺す、その夫婦の赤ちゃんを浜辺に残して去るなど、非情の限りを尽くしていたスカヨハエイリアン。この頃の彼女は無敵だったが、絶望的な孤独の中で生きるプロテウス症候群の青年(特殊メイクかと思いきや、本物の患者を起用している)の姿を通して自分の孤独を認識したことから、人間への同情を抱いてしまいます。そこから彼女(女性かどうかは不明ですが)は防戦一方となり、最後にはレイプ魔に焼き殺されます。悲しいかな、人間の世界は依然として力により支配されており、他者への共感は躊躇を生み、それが弱みになってしまうという、非情な真理を描いた作品と私は解釈しました。 エイリアンを演じるスカヨハは、まさに体を張った名演技を披露。これまで多くの映画でセックスシンボルを演じながらも脱ぎの仕事はやってこなかった彼女が、この低予算映画でアッサリ脱いでしまうという気前の良さ。また、女優さんであれば美しい体を撮って欲しいと願うものですが、彼女はあえてタルんだ体に仕上げてきています。肌の下”Under The Skin”に本体が隠れているという設定を再現するためには、贅肉を落とした美しい体ではなく、ダボダボの体が必要だったのです。ここまでやってしまう女優根性には恐れ入りました。 また、独創的かつ美しい映像にも見ごたえがあり、総じて見所の多い作品なのですが、その一方で緩急のない語り口が曲者であり、途中で飽きてしまうという点が問題でした。映像のコラージュだけでいくなら90分以内で収めるべきであり、それ以上の上映時間でやるならもっと饒舌な語り口とし、娯楽性への目配せも必要だったと思います。[DVD(字幕)] 6点(2015-07-02 00:52:41)《改行有》

38.  レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで 《ネタバレ》 エイプリルについては「自分探しをこじらせた女」との評価がありますが、それはちょっと違うと思います。パリ行きを言い出した時、彼女は自分を二の次にして、専らフランクがどうするのかを考えていました。私が働くから、フランクはやりたいことを探してくれとまで言っており、彼女の中心にあるのは常にフランクだったのです。恐らく、エイプリルはヒモを抱え込むタイプの女性です。どんなに貧乏をしても、暴力を振るわれても、それでも夢を語る時だけはまっすぐな男に憧れており、彼女が愛したのは地位も金もないのに大口だけは一人前だった若い頃のフランクなのです。仮にパリ移住を決行して、その結果、一家が貧乏暮らしとなっても、彼女だけは幸福を感じたはずです。しかし、そんな彼女の嗜好とは裏腹に、フランクはマトモになり続けている。時には常識人の顔をして説教までしてくる。もはや、彼女が愛したフランクは消えかけています。 他方、フランクは家族のため真面目に働くという自己の側面が嫌悪されているなどとは考えもつかない。それは世間的には美徳だし、会社でそこそこ評価され、人よりもちょっと良い家を買った自分に満足すらしている。このズレが悲劇の元凶でした。フランクはエイプリルが何を問題にしているのかが分からない。分からないから、自分の人格すべてを否定されていると思い込んで余計にストレスを抱え、たまに頓珍漢な対応をしてしまう。ディカプリオによる素晴らしい小市民演技と相まって、フランクには心底同情しました。 本作は終始気が滅入る内容なのですが、中でも夫婦喧嘩の描写は天下一品。ヒステリックに捲し立てる嫁→旦那のイライラはピークに達するが、かといって暴力を振るうわけにもいかず、感情のやり場を失って半狂乱となる→その無様な姿を見て勝ち誇った顔をする嫁。うちでもよくあります笑。また、夫婦喧嘩の翌日、当てつけのように良い妻を演じる嫁の姿もよく見かけます。本作のエイプリルは女優経験がある分、その演技には真に迫ったものがあり、それを見たフランクは彼女の真意をすぐには掴み損ねます。あそこでエイプリルが期待したのは「それは君じゃないよ」の一言だったのでしょうが、最終的にフランクがその演技を額面通りに受け取ってしまったことが、最後の悲劇を生んでしまいます。[DVD(吹替)] 8点(2015-07-02 00:51:03)《改行有》

39.  それでも夜は明ける 《ネタバレ》 人種差別問題を扱った映画には、あまり傑作がありません。白人によるごめんなさい映画が多数を占め、歴史映画の皮を被りながらも、その内容は極端に惨い面ばかりを強調し、当時の一般的な社会情勢を描写できていないためです。この辺りの事情は、我が国において近現代史をまともに扱えた作品がない点と似ています。センシティブな問題であるがゆえに、製作者がどのポジションをとるのかに注目が集まってしまい、結果、事実関係が二の次になってしまうのです。 そこに来て本作ですが、アメリカ資本により製作された人種映画としては、過去最高の出来だったと思います。奴隷制度を抱えていた当時の社会をきちんと描けているのです。従来の作品群で私が疑問に感じていたのは、映画で描かれている通りの暗黒一色の人生ならば、黒人奴隷が反乱を起こして社会は大混乱するのではないかということでした。白人農場主と黒人奴隷の間には持ちつ持たれつの関係があったはずなのですが、何が何でも白人を悪にしなければならないという製作側の事情から、そうした描写がスッポリと抜け落ちてしまっていたのです。その点、本作は実際に奴隷生活を経験した黒人運動家による著作を原作とし、イギリス出身の黒人監督を起用、さらには脚本家にも黒人を入れるという念の入れようであり、アメリカ出身の白人監督がやれば「奴隷制度を肯定している」との批判を受けかねない描写にも果敢に挑んでいます。多くの農場主は財産として奴隷を大事に扱っていたこと、中には奴隷と主人という関係を超えた信頼関係を結ぶケースもあったことが、きちんと描かれています。また、同胞が理不尽な扱いを受けても、他の黒人奴隷は見て見ぬフリをしていたという黒人側の問題にも言及されており(最終的には、主人公も他の奴隷を見捨てて行く)、これにより当時のアメリカ社会が随分と理解しやすくなりました。感情的になりすぎないマックィーン監督の演出も、本作のアプローチには合っていたと思います。 気になったのは以下の2点。まずはブラピの登場場面。ヒーローの如く颯爽と現れ、長年主人公を捕え続けていた問題をいとも簡単に解決してしまうのですが、彼だけは現代の価値観で発言するため、作品から完全に浮いています。次は、12年という時間の重みを描けていない点。予算や撮影スケジュールに余裕がなかったとはいえ、経過時間を示す演出が皆無というのは良くありません。[ブルーレイ(吹替)] 7点(2015-05-10 02:50:10)(良:3票) 《改行有》

40.  ファーナス/訣別の朝 ウディ・ハレルソンのキ〇ガイ演技が素晴らしすぎて、彼が出ている場面には目が釘付けになりました。次の瞬間に何をしでかすか分からない怖さは『グッドフェローズ』のジョー・ペシに匹敵するレベルであり、製作陣もこの男の底知れぬ魅力に気付いていたのか、その登場場面を作品の冒頭に持ってくるという大盤振る舞い。これまたすごいのが、この登場場面が本筋にまったく影響を与えていないという点であり、作品の冒頭が一人の脇役を紹介するためだけに存在していたことには二度驚かされました。脇役をここまでフィーチャーした映画が他にあるでしょうか。 その割を食ったのが主人公であり、強面俳優がひしめく本作において、主人公は空気同然の存在感となっています。クリスチャン・ベールはいつも通りの深刻な顔で、演技に変化がありません。このままいくと、ハリソン・フォード並みのワンパターン演技の俳優となってしまう恐れがあります。 作品全体の空気はなかなか良くて、こういうガサガサした映画は私好みなのですが、前述した通り脇役が強烈すぎて、相対的に主人公の出ている場面がつまらないという点と、作品の要となるような強烈な場面を一つも作れておらず、結局は雰囲気もので終わってしまっているという点が残念でした。[DVD(吹替)] 6点(2015-05-08 00:55:25)(良:1票) 《改行有》

全部

Copyright(C) 1997-2024 JTNEWS