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21. ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
《ネタバレ》 公開終了間際、滑り込みで映画館にて鑑賞。
”ダンケルク”補正がかかっており+2点追加で8点としている事を予め書いておく。
俯瞰ショットが多用が光る映画で、特に映画冒頭、当時のモノクロ映像からの議場を俯瞰するショット及びタイトルの映し方は、BGMと相まって素晴らしい出来だった(その議場に不在の主人公、という流れも含めて完璧)。
ゲイリー・オールドマンの演技や役への没入ぶりは、オスカー獲得も当然というレベルだった。
目元はゲイリーだが、身振りや口調は完全にチャーチル本人になりきっていたと言っていい。いささか大仰ながら格調高い文章をボソボソと聞き取りづらい口調で話す様子や、興奮した際の独特の抑揚のつけ方、猫背気味の立ち姿は本人そのものに見えた。事前に相当な研究を重ねたのだろう。
冒頭での見事な演出があったように、脚本や演出の出来もある程度満足できるレベルだった。ただ、ゲイリーの演技面での奮闘に較べれば、少し脚本や演出に文句をつけたい個所がある。
脚本面で言えば、地下鉄での市民との会話。さすがにあれはフィクション要素が強過ぎる。譬えは悪いが、それまでの史実に沿った話からいきなり”暴れん坊将軍”の松平健が市井の人々と触れ合う場面を見させられているような気になった。
あの場面よりも確執のあった国王との和解・協力を濃く描いた方がリアリティもあって、伏線の回収という意味でもよかったのではないだろうか。
演出面では、ゲイリー/チャーチルのような大物的キャラクターは、表情をあまり見せないか、内面をあまりわかりやすく描かない方が良かったと思う。ゲイリーの名演によってチャーチルの強さや弱さは描けていても、史実におけるチャーチルの老獪さ、どす黒さまでは描き切れてないような気もした(心情がわかりやすい分、多面性が感じられないというべきか)。
CGも予算不足なのか、ダンケルクのリトルシップの映像は明らかにCGとわかるレベルのものだったのが残念(”ダンケルク”が実写に拘っていた分、粗が目立つ)。
文句もいろいろと書き連ねたが、偶然にも本作は”ダンケルク”と表と裏をなしており、私は”ダンケルク”に大変高い評価をしているため、その補正により、本作は6点+2点追加で8点とした。
できれば本作と”ダンケルク”、セットでの鑑賞をお勧めする。その後はもちろん”空軍大戦略”へ。[映画館(字幕)] 8点(2018-05-09 19:27:05)《改行有》
22. インターステラー
《ネタバレ》 公開時に劇場で見よう見ようと思っていたが、結局見逃した一作。
正直IMAX画面でブラックホールや氷の惑星の美しさを体感したかったと後悔せずにはいられなかった。
宇宙に旅立つまでの描写が長く、説明的で、ここがこの映画の弱いポイントだと個人的には思った。
伏線を張るために仕方ないのかもしれないが、もうちょっと序盤にメリハリのある展開が欲しいと思った。
宇宙空間に突入してからは、ノーラン作品お決まりのノンリニアストーリー(時系列通りに進まない、直線的でない物語)、カットバック盛りだくさんの演出、重厚華麗なヴィジュアルでごり押しする展開に、否が応でも引き込まれた。
文系人間の私には、登場する理論がさっぱりわからなかったが、とりあえずあの開き直ったかのような五次元空間の表現の仕方については、感動というか自然と笑いが零れてしまった。”現代の科学では検証不能、だから俺の好きなように演出するぜ!これがおれのかんがえた五次元空間じゃい!!”というノーランの叫びが聞こえてきた気がした。あの表現や展開について唖然とする方も多いと聞くが、個人的には苦笑いしつつ、まあ検証不能だからそういう可能性もあるかもしれないと思えた次第である。
何にせよ、鑑賞後は宇宙の広大さや深遠さに思いを馳せるいい機会になった。宇宙の未知の領域に対する希望、関心、それから少なくない恐れ。
技術が発展した現代で、その技術で人は宇宙に向かうのでなく、パソコンの画面や携帯の画面にくぎ付けになっている。そうした状況への反発と、もう一度宇宙に対して関心や希望を持ってみないか、というのが本作の隠れたテーマでもある。本作は冷静知的なノーラン監督らしからぬ、熱いメッセージが込められた映画なのだ。[ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-05-05 16:05:07)《改行有》
23. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 本作はアート的傑作である。
とある海外評の中に、本作を「印象派の傑作」とした批評があったが、まさに正鵠を射ていて、本作は、まるで絵画作品のように登場人物たちの語りが極端に少なく、ましてや映画的カルタシスは排されており、観客が映し出された絵と、僅かに語られる内容から、そのバックグラウンドを想像することが必要な映画であるのだ。
この映画を退屈に感じた人はぜひこのバックグラウンド(撤退に至るまでの歴史的背景、登場人物の背景など)に意識して観てほしい。すると、語らぬ人物たちによるこの語らぬ物語がどれほど雄弁で感情に満ちているかが、見えてくるはずだ。
絵画は、絵画そのものが語らぬ、絵画に込められた様々な意図に観る側が思いを馳せた瞬間、その魅力が全開になる。この映画もまさしくそうした絵画的な要素がある。考えてみれば、映画草創期の頃の作品は皆そうであった。技術的制約で語りが少ない分、映像から様々な想像を巡らせることが必要だった。
今の時代に敢えてサイレント的要素を盛り込む、古典回帰的な演出をしたノーラン監督には頭が下がる。
確かに従来の戦争映画に較べカルタシスが排されており、鑑賞後には、様々なものを削りに削ったゴリゴリと武骨な作品だったという印象を抱いたのは事実である。
そういう意味では本来8点くらいなのだが、現代に敢えて客の想像力に訴えかける映画を作ったノーラン監督への賞賛を送りたい。
よって8点から2点追加で10点とした。
≪追記・補足≫
日本と海外では本作の評価にかなり差があると感じた。
歴史的背景が日本人には馴染みがないものだから、ということだろうか。
本作を楽しむには、⓵歴史的背景の理解(せめてナチスのフランス侵攻は知っておかないと…)、②古典映画的演出への慣れ(西部戦線異状なし、恐怖の報酬、エイリアンは観ておくと◎)がもしかすると必要かと思う。
知識もなしに楽しめる映画も存在すれば、知識があってぐんと面白くなる映画も存在する。
本作は後者だろう。[映画館(字幕)] 10点(2017-11-28 09:50:51)《改行有》
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