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【製作国 : オーストリア 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
1. 恋人までの距離(ディスタンス) 《ネタバレ》 友人と深夜までお酒を飲んでいたりすると話題が妙に哲学チックになったりするものだ。異国で出会った二人の会話も日常生活とは違ったテンションで進み、自然と親密な空気に包まれていく。教会や墓地を巡りながら思い出話をするうちに、やがて生と死について語り合うようになる(この辺の何気ない展開が上手い!)。話題が生真面目になったと思ったら男がふざけ、ふざけすぎると女が引き戻す、まるで古い友達同士のように息が合っている。二人が打ち明ける悩みごとがまた真実味があって、とくに(自分の性別のためか)男性の吐露する心情には頷ける部分が多かった。相手が誰でもそうだが、会話が深くなるのは決まって夜明け前の、一日でもっとも静かな時間帯なのだ。 ここに描かれている出会いが永く続き得る真実の愛なのか、というと大いに怪しい。しかしまったくの偽物で、浮かれ気分に生じた勘違いでしかないと判断するのも寂しいし、フェアではないと思う。むしろ性格の異なる二人が非日常で会ったことで、本来なら成立するはずもなかった共感が生まれたのだとしたら、それはそれで素晴らしいことじゃないだろうか。「もし魔法があるとしたら、それは人が人を理解しようとする力のこと」という台詞があった。ロマンティック過ぎる言葉だけれど、自分は素直に感動してしまった。 二人が旅先ですれ違ったなんてことのない人たちが見せる、不自然ではない程度の優しさがまた良い(ただしあのエセ詩人は、自分が客の立場になったら「は?」ってなるかも)。素人俳優に占い師に詩人にダンサー、と冷静に考えると癖の強い人ばっかりだ。忘れてはならないのは初対面の旅人にツケでワインを出してくれるあのバーテン。旅先でああいう人が一人でもいると、思い出のつやがぐんと増すんだよね。 久々にいい恋愛映画を観た。それに実は、恋愛だけがテーマではないだろう。これは何よりも会話を楽しむ映画であり、言葉を交わすことの価値について、人と人のつながりについての映画だ。たとえ短い時間のことであっても、心が通い合ったことが嘘になるわけではないのだと、この作品は優しく教えてくれている。[DVD(字幕)] 8点(2009-09-06 01:30:22)(良:3票) 《改行有》 2. 隠された記憶 《ネタバレ》 ラストシーンは正直、気がつきませんでした。観直そうとも思わない。多少ハードルが高くてもその難解さに意味があるのならちょっとは努力しようと思えるけれど、これは別に……。理解できてもさしたる感動はなさそうで、どうでもいいというのが率直な感想です。 監督はインタビューで「真相は重要ではない」と語ってましたが、人間の関心っていうのはどうしても隠された部分に向かうもので、本当に重要じゃないならこういう描き方はどうかと思います。人が罪とどう向き合うか、という大切な主題は、むしろブレてしまったのでは。 ただこの作品のすごいところは、物語としてはほとんど緩急がないのにも関わらず、張り詰めた緊張感がまったくといっていいほど緩まないこと。長回しを多用しつつもだれがない。つまらない映像でも音楽があれば誤魔化しが効くそうだけれども、あえて完全に排されている。 カメラワークを勉強した訳ではないので詳しい理屈はわからないけれども、映像の文法を知り尽くした人によって、完璧に制御された映画であることは明らか。物語としては平坦でも、視点の運動によってリズムが生み出されている。だから無理に集中しなくても自然と引き込まれるし、話の割には飽きが来ない。これって何気にすごい。 ショッキングな自殺の場面も、観る側の呼吸の間隙を突いた、いやらしいまでに絶妙のタイミングで差し込まれる。間の計り方、微妙な匙加減が憎いほどに上手い。かといっていかにも不自然に芸術ぶった構図があるわけでもなし、本当に、卓越した技巧だと思います。手放しに絶賛はできないものの、非常に見応えのある作品であったことは確かです。[DVD(字幕)] 7点(2009-05-08 20:32:45)(良:1票) 《改行有》 3. 石のゲーム 主要登場人物は「石」のみ。でも可愛いんです。楽しいんです。きれいなんです。そしてちょっと可哀そうなんです……単純だからこそ、シュヴァンクマイエルの魔術の素晴らしさを実感できる作品。[ビデオ(字幕)] 7点(2006-01-12 09:57:59) 4. ワイズマンとのピクニック 《ネタバレ》 家具の皆さんが記念写真を撮っているのには笑いました。普通の家具なのに、シュヴァンクマイエルの手にかかるとなんだか可愛らしい生き物になってしまう。観ていない人は信じてくれないだろうが、「椅子」が可愛いんですよ! あの「椅子」が! そしてラストのどんでん返し。何があったんだワイズマン(笑)。家具たちが反乱を起こしたのでしょうか?? ただ欠点をあげるとすれば、他作品に比べてやや地味なところだろうか。瞼に焼きつく鮮烈な映像がなく、脳みそに新しい回路を作られるようないつもの斬新さがない。だからこそラストが生きるのかもしれないが、華に欠ける感は拭えなかった。[ビデオ(字幕)] 6点(2006-01-11 16:07:59) 5. ルナ・パパ 絵本を開いたような可愛らしい映像ばかり。タジキスタンって不思議な場所だな、と思いながら鑑賞していたが、実はこの映画を撮るために巨大なセットを作ったそうで、いろいろな場所のいろいろな時代の建物を集めて創造された村らしい。 描き方はファンタジックでユーモラスだが、実はとても過酷で現実的な物語。アーヴィングやボリス・ヴィアンの小説を思い出した。ときどきファンタジーを厳しい現実に向き合うための一つの方法論として使用する作品があるが、この映画はそのもっとも成功した例だろう。楽しく可愛らしく描かれる、哀しく醜い物語。監督は人生が過酷で悲惨なものだと知っていて、それでもなお人生を愛したいと思っているんじゃないだろうか。ラストシーンでは奇跡が起きて主人公が閉鎖的な村から脱出することができるが、そこには作り手の願いが込められているようで、なんだかとても切なかった。6点(2005-02-19 00:02:58)(良:1票) 6. ピアニスト 主人公は、ものすごーくイタくて、滑稽で、コミニュケーションのど下手くそな人。悪い意味でオタクっぽくて、おそらくは人間関係の基本というものがわかっていなくて、ろくな友達も恋人もおらず、ポルノに耽溺して変態的な妄想をすることで生きている。日本人にも多そうなタイプ。 美男子に言い寄られて大チャンスなのに、最初は戸惑いのあまり拒絶して、相手が離れていくと一気に怖くなってすがりつく。人との距離の取り方が、全然なってない。イタいイタい。ほんとに痛い。 でもすっごく可哀そうでもある。現実の悲劇というものは大抵の小説や映画よりもかっこ悪くて、醜悪で、どうしようもなくまぬけだったりするものだ。同情する以前に引いてしまうような、心の歪み。ある種の人間は本当に辛いことがあると、幸福な人間には想像もつかないような変てこな方向に行ってしまう。まともに愛されたことのないゆえに心が崩れ、他人に嫌われ、そしてかえって愛されたいという願いばかりが膨らんでいき、さらにバランスを崩していく。 これが『電車男』なら、オタクが更生(?)してめでたしめでたし、というハッピーエンドだったけど、ミヒャエル・ハネケはそんな甘い結末を用意しない。もっとも幸福なオタクの人生が『電車男』にあるとしたら、もっとも不幸なオタクの人生がこの映画だ。 そして残念なことに、不幸な物語の方が現実には多いだろう。だって正直な話、こういう人が周りにいたら、自分でも敬遠するんじゃないかと思う(恋愛対象としても友達としても)。彼女のような人間を愛してくれる誰かが、この世に存在するんだろうか? そしてまったく救われないラスト。変に聞こえるかもしれないが、自分はこの結末に監督の優しさを観たような気がした。だって、これが現実なんだもの。どこにでも孤独に苦しんでいる変人はいる。彼らが苦しんでいても普通の人々は見て見ぬふりをするか、バカにするだけで、手を差し伸べたりはしない。彼らはけっして救われない。監督はそんな彼らの苦しみを本当に理解している。 そして見て見ぬふりを決め込んでいるわれわれに、これでもかとばかりに見せ付ける――「お前ら、目を背けてんじゃねえぞ」、と。彼女のような人間と、彼女を侮蔑するか拒絶するかしかしない普通の人々。本当に醜いのはどちらなのか?[映画館(字幕)] 9点(2004-02-24 02:30:13)(良:2票) 《改行有》
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