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自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

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【製作国 : フランス 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
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1.  Flow 《ネタバレ》 なぜ人類は文明を残して滅んだのか、そして大洪水が引き起こされたのかは最後まで明らかにされない。 なぜなら高度な思考も言葉も持たない動物たちが主役だから。 台詞はなく、擬人化も最低限で、映像がより雄弁に語り、没入感を深化させる。 数多くの余白に想像を掻き立てられ、語りたくなる。 異なる存在に目もくれない自分勝手な同胞よりも、辛苦を共にした異なる種族の仲間の大切さに気付かされる。 この先、再び洪水が訪れて、終着点のない旅路を流れ続けることを匂わせつつも、 今までいつも一匹だった黒猫はもう孤独ではない。[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2025-03-14 23:58:06)《改行有》

2.  逆転のトライアングル 《ネタバレ》 全編にわたって寄せてしまう"眉間のシワ"。 原題は美容外科用語から来ている。 監督の前作『ザ・スクエア』は視聴済み。 2作連続でカンヌパルムドール受賞の快挙らしいが、他に相応しい作品はあったのではないか? 格差社会を描いたテーマは過去にもたくさんあれど、 本作はその対象物(男性と女性、富裕層と労働階級、白人と非白人、健常者と障害者、資本主義と共産主義)を広げすぎてしまい、 ブラックコメディとしての切れ味がイマイチだった。 居心地の悪さと気まずい空気を生み出す巧さは相変わらずだが。 割り勘を巡り、インフルエンサーの彼女と長々と揉める立場の低いモデル男性の卑小なプライド。 「スタッフを休ませなきゃ」という思いつきで無理矢理泳がせるセレブばあさんの偽善。 ファーストフードも高級ディナーも口に入れば、吐瀉物も排泄物もみんな一緒。 無人島漂着時、セレブ全員にサバイバルスキルがないために、唯一持っている女性清掃員が女王に君臨するグダグダな一幕。 どこかで見たことのあるような展開で、いくら皮肉たっぷりに金持ちも貧乏人も全方位的にコケにしたって、 前者からしたら免罪符、後者からしたらガス抜きにしか見えない。 今の資本主義社会の権力者の横柄に"ノブレスオブリージュ"は必要だが本作を見て襟を正す人はいるのか(財○省とかね)。 金で買える"安全な場所"がある限り、ヒエラルキーの頂点に立つ者はどこまでも無礼になれる。 無人島がリゾート地だと判明した瞬間、女性清掃員にはその金がないし、いつまでも平穏は存在しない。 社会構造が転覆しようが、これからもずっと誰かが割を喰らい続ける。[インターネット(字幕)] 4点(2025-03-11 23:46:31)《改行有》

3.  タバコは咳の原因になる 《ネタバレ》 タバコに含まれる5種類の有害物質で悪の軍団と戦う「タバコ戦隊」は今回も敵を退治するも、 地球滅亡を企むラスボスのトカーゲに立ち向かうには結束力が足りない。 そこでネズミ司令官の命令で湖畔の基地で合宿を行うのだが…。 日本の戦隊ものをリスペクトしているのか、茶化しているのかよく分からないゆる~い空気に、 本筋とはかけ離れた怪談話ばかりして、時折牙を剥くグロ描写。 ダニエルズとは別のベクトルのシュール&ナンセンスさに戸惑いを感じてしまう。 5人ともほぼ同じスーツで色さえ分けてくれたら少しは楽しめたかも。 本作の本質とはズバリ"恐怖"。 合宿先で特殊なトレーニングを受けることもせず、ヒーローものとは無関係な怪談話に花を咲かせる。 しかもどれもこれも中途半端でオチがない、ただ消費されるだけ。 つまるところ、自分たちが負けたら地球が滅亡するという本筋=最悪の恐怖から逃げているとも言える。 だから、トカーゲの計画が前倒しになったとき、狼狽して何もできないので新たなサポートロボットに頼る。 ところが、その最後も脱力したくなる展開で、トカーゲは夕食で妻子に毒を盛られて死ぬことになり計画は中止、 サポートロボットの時代逆行機能も一向に起動することなく、前のロボットの方が有能だったという。 今までの話は、怪談話はいったい何だったのか…… 戦隊5人でタバコを吸いまくり、プカァーって煙を浮かべるラストシーンに哀愁が漂って笑える。 喫煙で頭がボーッとしていって、後ろ向きな脆い絆とひたすら現実逃避し続ける人間の弱さがそこにあった。[インターネット(字幕)] 4点(2025-02-28 22:50:13)《改行有》

4.  24フレーム 《ネタバレ》 映画の1秒とは【24フレーム】で作られている。 その一瞬を4分半に引き延ばし、全24章に構成された固定カメラによる映像は美術館の絵画のように並べられている。 凡例としてピーテル・ブリューゲル作『雪中の狩人』が提示される。 静止画に村の煙突の煙が立ち上り、鳥や犬といった動物の鳴き声が聴こえ、雪が降り積もる。 タルコフスキーを意識しているのか、残りの23フレームにキアロスタミの完璧な構図と映像美が全編台詞なしで静謐に語られる。 映画館で上映されていたら確実に眠りに誘うものばかりで、1ショットに集中するにも2分くらいが限界だろう。 次のショットは何が来るのかを期待してしまっているため、現代美術館のビデオアートで1ショット別々に展示されても違和感がない。 ドキュメンタリーのようでいて、かと言って本物と見紛うCGアニメの合成もある。 静止画と動画が混在している。 物語は存在していない。 でも、現実はその集合体で、我々は当たり前のように"見ていない"だけで足を止めて目を凝らせば"物語"に光が当たる。 現実と虚構の垣根をあっさり壊す彼ならではの演出だ。 ラストのフレームでは机の上に突っ伏して寝ている人がいる。 本作を見て寝ている人がいることを想定しているように。 それでも構わない。 映画の見方に数多くの可能性があり、こうあるべきという強制はしていない。 手前のモニターには映画のワンシーンが流れ、THE ENDのテロップが表示される。 キアロスタミと呼ばれる名匠の人生はここで幕を下ろした。 美しいものを遺して旅立っていった。[インターネット(字幕)] 6点(2025-02-28 21:42:57)《改行有》

5.  はなればなれに(1964) 《ネタバレ》 タランティーノの製作会社名の元ネタで有名な作品を観られる機会ができたので忘備録として。 ゴダールの初期作品ではかなり敷居が低く、影響を受けるのも納得なシーンのオンパレード。 アメリカへの憧憬に、ゴダール本人によるメタフィクション的なナレーション、 登場人物が沈黙すると周囲の自然音もかき消される遊び心満載の演出、 カフェで突然踊り始めるマディソン・ダンスも、3人でルーブル美術館を走り抜けていくゲリラ撮影も、 その自由すぎる撮り方が瑞々しく輝いている。 終盤のサスペンスフルな展開でもどこかとぼけた味があり、一筋縄ではいかない。 軽快で刹那的な犯罪ロマコメの佳品。[インターネット(字幕)] 7点(2025-02-26 23:03:44)《改行有》

6.  黒猫・白猫 《ネタバレ》 一度見たら忘れないアクの強いキャラクターに、逆立ちしても撮れない唯一無二のシーンの数々、 ブレーキの壊れたハイテンションで臭いも生活感もあふれるエネルギッシュな世界観。 クストリッツァならではの強烈なパワーが感じられるが、 前作の『アンダーグラウンド』から"悲苦"と"政治"を抜いたら物語の緩急がなくなって、 一本調子で終わってしまったのが本作。 列車から石油強奪をするわけでもなく、大物のワルを出し抜くコン・ムービー的な要素もないので盛り上がりに欠ける。 クライマックスの望まない結婚からの延々と続くどんちゃん騒ぎがあれど、必要以上に長くダレてしまう。 クセの強さがはっきり分かるものの、前作が奇跡的なバランスで成り立っていたからこそ、本作には乗れなかった。 タイトル通り、幸せも不幸も、吉も不吉も同一で、切っても切れない関係。 それをひっくるめて人生はなるようにしかならず、全身全霊で人生を楽しんでいくしかないじゃないか。 故国の苦難の歴史を味わってきたクストリッツァの人生観が垣間見えた。[インターネット(字幕)] 4点(2024-11-30 18:47:10)《改行有》

7.  パリ、テキサス 《ネタバレ》 愛が深いほどお互いのことが分かりすぎてしまい、傷つき、現実と折り合いを付けられなかった元夫婦のすれ違い。 全編英語、アメリカロケながら西ドイツ・フランス合作なあたり、ヴェンダースのアメリカへの憧れと郷愁があるだろうが、 その広大で空疎とも取れる風景が家族の歪さ・脆さを内省的に、より引き立てている。 ただ、共感できるかは別の話で身勝手な男女に振り回される息子と育ての親である弟夫婦が不憫すぎる。 ロードムービー要素はそこまでなく、中盤から最後まで出番なしの弟夫婦へのフォローがないまま、 息子を妻に押し付けて再び旅に出て終了。 ケジメを付けるためとは言え、これは無責任すぎるのでは? 結局、妻は息子を弟夫婦の元に返して、振り出しに戻りそうな気がする。 劇伴のギターも相成って'80年代のアメリカンな雰囲気に痺れるも、 冷静に見たら主人公が一方的に掻き回しただけの自己陶酔にしか見えない。[インターネット(字幕)] 4点(2024-11-09 14:12:15)(良:1票) 《改行有》

8.  ベルリン・天使の詩 《ネタバレ》 子供は子供だった頃──。 ノートで書き出したシーンから始まる詩は、 確実に死を迎える人間になることを選んだ天使に開かれた世界そのものである。 美しいモノクロで紡がれた天使と人間のメルヘンチックなラブストーリーであるものの、 舞台がベルリンであることに大きな意味があるように思える。 かつて多くの子供たちも命を落とした第二次世界大戦の記憶が風化していき、 いつ戦火が上がるか分からない冷戦の象徴であるベルリンの壁が東西を分断している。 この舞台装置が本作を唯一無二の独特の雰囲気へのし上げている。 人々の悩みや想いを読み取れる、太古の時代より生きていた天使たち。 だが、彼らは人間に触れることもできず、ただ見守ることしかできない。 生きる喜びとは無縁の、無機質でモノクロな世界が眼前に広がっている。 やがてブランコ乗りの女性に恋をしたダミエルは、限りある命を持つ人間になることを選ぶ。 モノクロからカラーに移り変わり、存在の重さを知り、色を知り、コーヒーの温かさを知り、 好奇心というスポンジで新たな驚きを吸収していく。 それは詩で描かれていた子供たちの世界そのものだ。 先輩にあたる元天使が刑事コロンボでおなじみのピーター・フォーク本人役なのが良きアクセント。 この人が天使から俳優になった経緯を想像したくなる。 一度見ただけでは理解できたとは言えない。 眠気に襲われるときもあるだろう。 だが、寂しさによって自分自身を認識できたからこそ、誰かに心を開ける。 きっと楽しいことばかりではない、醜く汚い現実を知ることになっても、 前向きに歩いていくことのメッセージが感じられるヴェンダースの人生賛歌。 ふと思い出して見たくなる一本の一つに加わった。[インターネット(字幕)] 7点(2024-10-22 22:32:22)《改行有》

9.  ポトフ 美食家と料理人 《ネタバレ》 小鳥のさえずり、葉が擦れる風の音、虫の鳴き声が外から聞こえ、 調理場には野菜が切られ、肉が焼かれ、鍋のスープが沸き立つ、自然と人工の音のアンサンブル。 全編にわたって長めのワンショットと少ない台詞によって調和が貫かれ、細やかな所作に適度な距離と緊張感が伝わる。 なぜ料理を作るのか?という問いかけ。 20年間、公私ともにパートナーだった美食家ドダンと女性料理人ウージェニー。 やがて結婚するも彼女が病で先立たれ、喪失感に打ちひしがれた彼が如何にして料理への情熱を取り戻していったか。 そこには哲学があり、愛情があり、物語がある。 調理場を滑らかに捉える、カメラの360度パンから回想シーンに移行していく。 ワンカットで時空を超越させるアンゲロプロスの演出を彷彿とさせる。 生前のウージェニーがドダンに問う。 「私はあなたの料理人? それとも妻?」 ドダンが導き出した答えは……もちろん分かっているだろう。 複雑なストーリーもない、意外な結末もない、伏線回収もない、さらには人物の背景や説明すらない。 まるで当たり前であるかのように、営みは誇張なしにただそこにあれば良い。 「映画にこれ以上の何がいるのか?」と本作は気付かせてくれる。 ただ無駄に豪華で贅沢な素材を使っただけの皇太子がもてなしたコースより、非常にシンプルなポトフにこそ真髄が宿る。[インターネット(字幕)] 8点(2024-10-05 23:48:22)《改行有》

10.  風が吹くまま 《ネタバレ》 物語の行く末を左右する100歳越えの老婆は最後まで姿を見せることなく、 独自の風習が残る村の葬儀目当ての都会人であるテレビマンが振り回される。 携帯電話で会話するにも電波が届く、くねくね曲がる道の先の丘まで車で走らなければならず、 他方で村の人々はのんびりマイペースな分、滑稽に映る。 とは言え、一見美しい黄金の麦畑が広がる長閑な村でも、 家族への忠誠のため、面子のために辛い因習に従わざるを得ない現実がある。 死を待っていてもやって来ることなく、苛立ちを隠せないテレビマンが、 村人の生き埋め事故を切っ掛けに人命を救う側に回っていく。 このまま放っておけば珍しい葬儀を取材できるのにである。 撮影して放送して、ただエンタメとして消費されるだけ。 裏側を見ない我々は普段提供されているものに対して、それを期待しているのではないか? そこに人間の矛盾と不可思議さが感じられる。 キアロスタミの芳醇な会話劇は今作も健在で、医者の詩の引用にハッとさせられる。 「天国は美しい所だと人は言う、だが私にはブドウ酒の方が美しい」。 "風が吹くままに"生きられたらどれだけ素晴らしいのだろうか。 仕事に雁字搦めのテレビマンは執着を手放し、現実に折り合いをつけてこれからの人生を生きていく。[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-20 23:59:02)《改行有》

11.  消えた声が、その名を呼ぶ 《ネタバレ》 「娘に会いたい」。 処刑から生き延びるも声帯を切られ声を失った父親が地球半周を渡り歩き、生き別れの娘たちを追う8年間。 シリアスドラマからコメディまでジャンルを分け隔てず活動する、 ファティ・アキンのフィルモグラフィーの中では最もスケールが大きい。 1910年代のオスマントルコによるアルメニア人虐殺を題材にしたあたり、 加害者のトルコをルーツに持つ監督の思いはあるだろう。 アルメニアはキリスト教を国教と認めた初めての国であり、 オスマントルコでも富裕層として成功して政治にも関わる影響力があったものの西ヨーロッパとの関係を強固にしたことで、 オスマントルコ側のムスリムとしてのアイデンティティーが脅かされる恐怖が虐殺の背景にあったようだ。 これがアルメニア人のディアスポラになった。 信仰で救われることなく強制労働で次々に倒れていく同胞、生き残るためなら簡単に棄教する現状を目の当たりにし、 死にかけの義姉を手に掛けなければならない苦しさに、宗教がどれだけ愚かで虚しいものであるかを突き付けられる。 避難先のアレッポで初めて見たチャップリンの無声映画に自分の境遇と重ね合わせ、 娘たちが生きていることを知って、生きることの根源を取り戻していく。 たとえ盗みも暴力も働き、獣に墜ちてしまおうとも、死ぬわけにはいかないという執念。 いくらでも傑作になりえた題材なのに、国家の罪と罰をストレートに描かなければならないわけではないが、 最終的に単なる親子の感動ドラマにスケールダウンしてしまったのが惜しい。 娘と再会するまでの過程が終盤につれて偶然で片付けられていく脚本の杜撰さが鼻につくし、 心震わせることなく次第に冷静に見てしまいました。[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-08 23:20:15)《改行有》

12.  TITANE/チタン 《ネタバレ》 レビューを見て戦々恐々だったが、覚悟して挑んだら何とか見れた。 痛覚を刺激するショッキングな暴力描写で見る者の思考を停止させ、 そこからジェンダー観を云々語って、メタリックベイビー出産シーンであたかも神聖で高尚な映画であるかのように見せる。 これではカルト宗教がやってることと変わらない。 そういう意味では確かに"カルトムービー"だが。 血の繋がりのある両親からの愛情を受けられなかった女性が感じた、赤の他人である消防隊長との疑似的な親子関係。 行方不明になった息子が女装している写真を見るに、これは"受容"の物語なのだろう。 如何なる姿でも、実の息子でなくても、孤独を埋めてくれる存在への無償の愛を描きたかったかもね。 ただそれだけです。 カオスで斬新で奇を衒ったユニークさだけで観客不在。 そりゃ賛否両論のエブエブですら弱者への優しい視線はあるけど、本作にはそれがない。 どこか絵空事のような上から目線を感じるが、まあ嫌いではない。[インターネット(字幕)] 5点(2024-09-06 23:19:23)《改行有》

13.  VORTEX ヴォルテックス 《ネタバレ》 人生とは、夢の中の夢なのか? それを象徴するかのような老夫婦の最期の数日間とその後。 ギャスパー・ノエらしいセンセーショナルな表現はほぼなく、 オープニングを除いて分割画面で生々しく淡々と綴っていく。 心臓病を抱えた夫が映画評論の仕事に打ち込む間に、他方、認知症の妻は人知れず街に出て徘徊している。 夫が妻の扱いに苦悩している間、妻は混濁した思考でガスの元栓を開き、一方的に夫の原稿を破り捨ててしまう。 息子は老人ホームの移住を提案しても、父親は家を離れたくないと意固地で平行線を辿ったまま。 「このような光景はあなたの家族にもいつか起こることですよ」とノエは容赦なく突きつける。 通常なら一画面で撮れそうなシーンですら分割画面であり、人は常に孤独であることと分断を強調する。 夫がストレスから心臓病の悪化で旅立ち、妻も孤独の中で後を追う。 粛々と葬儀が行われ、二人の生きた証だった、雑然としたアパートの部屋も跡形もなく片づけられる。 生きることはモノが多く積み重なることだが、死んでしまえば関心もなくなりモノは無価値になる。 人は思い出しかあの世に持っていけない。 その無常さの中で如何に人生を全うしていきたいか再確認する。[インターネット(字幕)] 6点(2024-08-31 02:27:12)《改行有》

14.  蛇の道(2024) 《ネタバレ》 1998年のオリジナル版と筋書きはほぼ同じ。 オリジナル版を難解にさせていた数学教師の設定から精神科医に変更されたことで、 分かり易く洗練された演出で生まれ変わったリメイクのお手本。 主人公を男性から女性に変更した理由。 凄惨な過去で心が壊れた女とその過去から逃げ続けようとする男たちの対比を、 循環性の象徴である"ウロボロスの輪"に例えたのだろう。 何度も読み上げられる娘の死、繰り返される復讐行為が廻りに廻って日常になっていく。 だが、男たちは馴れ馴れしく、常に都合の悪い話をはぐらかそうとする。 女は延々に廻り続ける生き地獄から絶対に逃がさない。 結末における芯の冷え切った台詞の数々がそれを象徴している。 オリジナル版と比べてダミアン・ボナールの影が薄く、 むしろ柴咲演じる主人公の掘り下げが増えたことを考えると合点がいく。 蛇のように低体温でじわじわ嬲っていく主人公の果てしない闇と虚無が視線から発せられるラスト。 全てが終わっても心穏やかに過ごせるわけでもなく、西島演じる患者のような末路を迎えてしまうのか。 復讐という名のウロボロスの輪に囚われ続けなければ生きていく理由を失ってしまうのかもしれない。 見ていて答え合わせしている感じは否めないが、 黒沢清の作風がフランス映画と親和性があり、ヨーロッパで評価されている理由に納得した。[映画館(字幕)] 7点(2024-06-14 22:44:02)《改行有》

15.  落下の解剖学 《ネタバレ》 有罪か、無罪か? 自殺か、他殺か? そんなものはどうでも良くて、裁判によって暴かれる夫婦の拗れを中心に据えている。 親密な夫婦仲でも所詮は赤の他人。 交通事故による息子の視覚障害から始まる生活苦、作家志望の夫の嫉妬と余裕のなさ、他方では妻の成功、やがて… ある家族の一年間を断片的に見て、分かった気になって、 エンタメとして消費しているだけでしょ?と問われている気がした。 そう考えると筋書きは至ってシンプルで下手したら何も起こらない。 勝手に期待して盛り上がっている傍聴席の我々に対するフランスらしい皮肉が効いている。[映画館(字幕)] 6点(2024-02-23 23:59:35)(良:2票) 《改行有》

16.  ヴィーガンズ・ハム 《ネタバレ》 衝動的に殺した過激派ヴィーガンの肉を勘違いで売ってしまい、繁盛してしまう肉屋の夫婦。 グロはあれど臓物系・欠損死体なし、作り物感も強く、90分未満の上映時間でテンポ良く進んでいく。 さしずめ『スウィーニー・トッド』をもっと軽くポップに仕上げたブラックコメディ。 (どちらかと言えば、『シリアル・ママ』に近い)。 …と題材は面白そうだけど、期待が大きすぎた。 笑えるシーンはあれど、後半から失速して妙にシリアスになってしまったのが原因。 元から冷めているようで次第に狂気を帯びていく妻に、殺人に葛藤していく内に戻れなくなっていく夫。 経営も結婚生活も破綻寸前で、過激派ヴィーガンの言動と嫌味な同業者夫婦に一線を越えていく説得力はあるけれど、 もっとコメディに振り切っても欲しかった気がする。 ラストの一言である「ウィニー」に全てが詰まっている。 心臓病を抱え不遇な境遇を持った善人であり、彼の死で止めるか、エスカレートしていくかの分水嶺だった。 過去の発言を悔い、価値観の異なる人たちを理解して歩み寄ろうとした娘の彼氏もいたが、 夫婦にとって肉付きの良い女子供すら食糧としか見ていない皮肉。 極端なヴィーガンも問題だが、その逆も同レベルでしかない。 カニバリズムによる食欲減退で菜食主義者になりそうなメタな構図を鮮やかに切り取る。 元々胃腸が弱く、お腹に溜まりやすいので肉は消極的だが、思想を押し付けず、黙って命を頂くとしよう。[インターネット(吹替)] 5点(2024-01-07 00:21:26)《改行有》

17.  デリシュ! 《ネタバレ》 今でこそよく見られるレストランという形式が如何に誕生したか。 18世紀末のフランス革命前夜まで、美食は貴族のものであり、 庶民は飢餓と隣り合わせで食べることに必死だった。 旅籠には簡単な食事が提供されることはあれど、 それまで貴族も庶民も一緒に、個別のテーブルで、メニューから料理を選択することが今までなかった。 この視点でレストラン誕生の経緯を知ることがなかったので目から鱗である。 天に近い食材ほど至高で、土に根差したジャガイモやトリュフというポピュラーな食材が かつて貴族から豚の餌扱いされていたということも。 主人公と女性の織り成すロマンスは控えめで、 抑制された色遣いによる絵画のような映像美が美味しい料理を引き立てる。 そして傲慢な伯爵への強烈なカウンターパンチ。 封建社会の理不尽を受けてきた先人たちの努力によって新たな活路が見出され、 食文化が成熟・変遷していったかを興味深く見られた。[インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 22:24:42)《改行有》

18.  サンセット 《ネタバレ》 監督は前作の成功体験で味を占めたのか、情報を遮断されたヒロインの一人称で 帝国末期の閉塞感と混沌を描く試みは見事に失敗している。 登場人物たちの思わせぶりな台詞と一向に進まない展開、消化不良のまま残る謎など、 ひたすらヒロインに寄り添う撮り方が本作の舞台とミスマッチ。 ホロコーストという強烈な舞台装置があった『サウルの息子』はその焦らし方が効果的だっただけに、 監督のメッキが剥がれた形だ。 難解と言えば聞こえが良いが、逆に言えば「何を描きたい?」とも言いたくはなる。 歴史の闇を描きたいのか、激動の時代を生きようとするヒロインの強さを描きたいのか。 ヒロインが何を考えて行動しているのか分からず、妄想も幻覚も入り混じり、 最後は第一次世界大戦に兵士として従軍している。 帽子店が存続のため貴族に女性従業員を捧げている、性奴隷を匂わせる嫌悪を見るに、 彼女も過去に似た被害を受け、女性の殻を脱ぎ捨て、兄から憑依されるように同化したと解釈できるが。 当時のハンガリー史を知っていること前提。 帽子店を訪れた皇太子夫妻が翌年どうなったかは言うまでもない。[インターネット(字幕)] 4点(2023-10-19 22:19:15)《改行有》

19.  8 1/2 レジェンドの映画監督たちがマイベストに挙げているように、自分事として刺さるのだろう。 傲慢で繊細な映画監督の逃げたくても逃げられない立場の重さによる現実逃避。 本人の意思とは関係なく映画製作が進み、まずます混沌に拍車がかかるあたりとか、 「映画とは何か?」を問うた草分け的存在として今後の映画史に多大な影響を与えたのは事実。 普通はこんな奇をてらう映画は観客に受けるわけがないと思いつつも、 コントみたいな結末に名作たる理由はなんとなく分かる気がした。[インターネット(字幕)] 5点(2023-08-15 00:25:09)《改行有》

20.  blue(2018) 《ネタバレ》 屋外なのか室内なのか分からない夜の静寂の中、虫の音、犬の遠吠えが遠くに聴こえ、 景色の描かれた垂れ幕が巻き上げと巻き戻しを繰り返す。 やがて女性の眠るベッドには燃え盛る炎が重なるように映し出され、映像と環境音がレイヤーのように連なって映画は完成される。 いつまでも眠れない熱帯夜に見る白昼夢を表現しているようだった。 この緩慢さが眠りに誘い、映画と同化していくことが監督の狙いかもしれない。 アピチャッポン・ウィーラセタクンの長編を覗きたければ、この短編を見て自らふるいにかければいい。[インターネット(字幕)] 5点(2023-06-12 23:25:01)《改行有》

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