みんなのシネマレビュー |
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1. 市民ケーン 天邪鬼な私としては、誉めなきゃいけない義務感に負けたような気がして非常に悔しいところなのだが、正直、この作品にはごめんなさいと言おう。負けました。確かに傑作だと思います。何しろ映像が恐ろしいくらい凄い。この作品が1941年に撮られたということを抜きにして考えても、やっぱりこれは凄い。ということは、1941年に撮られたということを考慮に入れたらもう、想像を絶するくらい凄い。綺麗なパンフォーカス。白い壁。薄靄の中に佇む豪邸。何もかもが凄い。決して観客に媚びず、着いて来たい者だけ来なさい、というスタンスで物語を運びながら、嫌でも食いついて行かされてしまうストーリーも凄い。こういうエネルギーって、傑作と言われる作品を観ていても滅多に感じられるものではない。あまりにも多くの人から、長い間傑作と絶賛され続けている作品。こういう作品を誉めることはまったく本意ではないのだが、いかに天邪鬼な私でも、この作品に意地悪なツッコミを入れられる余地が全然見つけられないのは悔しさの極みでもある。でも凄い。「完璧な映画」はあり得ないというのが私の持論であるが、この映画は少なくともそれに限りなく近いと言えるだけのものは持っている。映画を発明した人々がこの作品を観たら、自分たちの仕事には間違いなく意義があったと、きっと泣いて喜ぶだろう。この作品のためだけにでも、映画は存在した価値がある。 10点(2003-12-20 02:30:20)(良:2票) 2. ブレア・ウィッチ・プロジェクト 後にも先にも、究極の「やったもん勝ち」映画。アイデア勝負の一発芸としては、とにかく新しモノ好きな私のワクワク感を誘うだけ誘ってくれた作品。あまりにも意味深な予告編第一弾から、「観た~~~い」ムードは高まるばかり。要するに「観る」ことだけに意義がある作品なわけで、だから何だと言われればグゥの音も出ない。観る前の期待感と、観た後でああだ、こうだと謎解きをする楽しみ、ある意味ロールプレイングを楽しんでいるような妙な面白さはありましたね。映画の形を借りた一つのイベントとして充分楽しめる物ではありましたが、後々になって自宅でビデオで観て、じゃあ楽しいかと言われたら絶対に違う。誰もまだ観たことのない、思いっきり新しいモノを見知らぬ人たちで集まって楽しむ趣向で初めて価値のあるモノなわけで、映画としての価値は正直ゼロだと思います。ただし、どんなもんかがわからなければ何とも言えないと思うので、一見の価値があるとだけは言っておきたい、それだけのための6点です。正直、公開を待っていた間の期待感の方がずうっとオイシイ映画でした。でも観なかったら後悔していたと思う。この世界にポン!と飛び込める人は楽しめると思います。6点(2003-11-30 22:04:58)(良:2票) 3. ツイスター なんとなく頭の悪い映画が観たくなったので。たぶん竜巻がスゴいんだろうなあ、牛が飛ぶんだとか言ってたな、なんてぼんやり観ていたら牛どころではなくタンクローリーまで飛んでいたのですっかり嬉しくなってしまった。この手の映画を個人的には「大盛り」と呼んでいるのだが、要するに量だけスゴくて奥行きもへったくれもなく、ただもうスケールのデカい天変地異だけを見せるために作られた、あってもなくてもどうでもいいようなストーリーとしては、離婚届にサインするばかりの夫婦とその夫の新しい婚約者という組み合わせは(あくまでも、この手のモノとしては、だけど)なかなかひねりが利いていて良く出来ていたのではないかと思う。わたしはヘレン・ハントが大嫌いだし、ビル・パクストンは大根中の大根だと信じている。にもかかわらずそれなりにおもしろくなったのは、この二人が主役を食おうなんてバカな気を起こすにはあまりにも影が薄いから。だいたい予想通りの映画だったが、この種の作品でこれぐらい期待に応えてくれればまあ合格点と言えるのではないだろうか。ひまつぶしにはもってこいのほどほど感と、見る前からわかっていたような安心感が良い。大画面向き。あくまでも大盛り。6点(2004-09-23 01:34:07)(笑:3票) 4. エボリューション はっきり言って、これは傑作ではないでしょうか。おバカさ加減でもう一つ突き抜けた感じはしないのですが、未知なる物と向かい合った人間の姿としてはシリアスなSF映画よりよっぽどリアルだと思いました。人類って意外とこの程度じゃないかという気が私はするんですよね。いつもながら無表情なデビッド・ドゥカヴニーが能面のような顔のままジュリアン・ムーアを口説きまくるところとか、対象的に表情豊かなオーランド・ジョーンズが目線一つで笑わせてくれるところとか、頑張ってスラップスティックに挑戦してるのにちっともおかしくないジュリアン・ムーアとか、とにかく配役のバランスにお腹をかかえて笑いました。アイヴァン・ライトマンって役者に対してはある意味ムゴいですが、自分で演技をしないだけあって目線がすごくクール。主観的な面白さより、お客を楽しませる工夫に力を入れてくれる稀有な存在だと思います。全体的に、スケールアップした「ゴーストバスターズ」という印象は否めませんが、ちゃんとスケールアップしてるからOK。進化を続ける宇宙生物はなかなか愛嬌もありますし、彼らの動きだけで吹き出してしまったシーンも多々ありました。真剣に語ってしまう私も私ですが、スケール感もあり派手な仕掛けもあり、シリアスでも充分通用するだけのネタとキャストでここまでバカがやれてしまったことに対する驚嘆はデカいです。実はお正月用に山ほどDVDを借りて来てしまったのですが、これしか観ないことになりそうで怖いです。ブラボー。[DVD(字幕)] 10点(2003-12-30 10:11:38)(良:1票) 5. スネーク・アイズ(1998) デ・パルマだから、映像の魔術師だからってついつい大目に見てしまう周囲もイケナイとは思うが、俯瞰で長回しでミラーでスプリット画面、というデ・パルマ得意技の集大成と思えばけっこう笑える作品ではある。目撃者14,000人、容疑者14,000人という大仕掛けのわりにストーリーが5人ぐらいの間でチマチマとまとまっているのが非常に気になるが、要するにどんなに容れ物を大きくしてもこの人に見合ったスケール感というのはこのぐらいがちょうど良いのでしょう。本来「群集」という物の持っている圧倒的なエネルギーがまったく伝わって来ないあたり拍子抜けは避けられないのだが、なんだかデ・パルマだしなぁ、で許せてしまうのは世代的にちょっとデ・パルマに甘すぎるんでしょう。どう考えても意外性もへったくれもないゲイリー・シニーズのいかがわしさとか、良くも悪くも期待を全く裏切らない凡作にすぎないと思うのだが、「いやぁ~。デ・パルマ節健在ナリ」と思わず頭を垂れさせられてしまう問答無用さを評価してあげたい。だってやっぱり、周囲に惑わされずわが道を行く人っていまどき貴重じゃないですか?7点(2003-12-20 14:17:12)(笑:1票) (良:1票) 6. ズーランダー すごいなあ。私こういうの大好きです。ベン・スティラーが本気出したらこのぐらいは、と思ってた人、けっこう多いんじゃないでしょうか。これまでもいろんな映画で、いい味も出して来たしみっともなさもさらけ出して来た彼ですが、ここまで本気の彼はなかなか見られることがなかったので、はっきり言って胸のすく思いがいたします。カメオで登場したキャストの豪華さも、彼の築き上げて来た人脈の厚さを伺わせます。お父さんのジェリー・スティラー、アメリカでは知らない人のいないぐらい超有名なコメディアンですけど親子共演はこれが初めてではないでしょうか。もちろん芸の道では全然格が上、存在してるだけで笑いが取れるスーパーお父さんなわけですが、息子と本気で渡り合っているところもプロ同士の心意気を見せられた気がして楽しかったです。ちょっと声が出ていなかったなあ、トシなのかなあ。ガソリンかけのシーンでは思わず声を出して爆笑こいてしまいました。あの無駄な清々しさ、爽やかなハッピーさ、たまりませんです。あと最後のショーの場面で舞台に出る直前と出た後のデレクのメイクが思いっきり違っているのとか、ネタなんだかグーフなんだかわかんない仕掛けも意外と細かく落ちている。もうちょっと研究の余地はありそうなので当分ハマりたいと思いますが、とりあえずベン・スティラーに敬意を表して10点。ここまでやられたら満点献上しなければ。10点(2004-02-17 01:23:19)(良:2票) 7. フォーガットン ある程度柔軟性を求められる映画だと思うがこういう世界にファイト一発で乗れる人ならそこそこ時間潰しにはなると思う。やはり特筆すべきはこういう映画にジュリアン・ムーアやゲイリー・シニーズ、アルフレ・ウッダードといった濃いメンバーを放り込んだことであって、異種格闘技的な醍醐味は充分。スター隠し芸大会だと思って楽しむのが一番だが、ジャンルを見誤ったり乗り遅れてしまうと後半はかなり辛い展開となるだろう。要するに豪華メンバーが正月の企画番組でXファイルごっこをやってると思えばこんなに楽しい企画モノはない。はっきり言って久しぶりの真性立ちくらみ系作品だと思うが、個人的にはこういう現場が楽しそうな映画は大好きだ。ビデオで見たらサラッと見流してしまいがちな映画ではあるので、どうせなら踊る阿呆として当日券払って劇場で立ちくらみたい。しかしジュリアン・ムーアはそれなりに老けた。15年前のメリル・ストリープぐらいの力量は充分ある女優だと思うのだが、この人のある種ふっきれた芸人根性にはひたすら感服するばかり。だからこそこういう映画がスゴくなっちゃうんだけど。[映画館(字幕)] 7点(2005-06-12 19:43:59)(笑:1票) 8. チョコレート(2001) 出来すぎた偶然と見るか、究極のリアリズムと捉えるか、いずれにしても現代のアメリカが心の底から飢えている癒しがこれなのだろう。不幸は振り重なるものだし、孤独な魂は惹かれ合うもの。「アフリクション」がダイレクトに攻め込み過ぎて今ひとつ余韻を残せなかったACの苦悩と再生への過程が、黒人としてのハリー・ベリーを抱え込んだことで物語に新しい世代に与えられた選択肢の広がりという奥行きと広がりを見せた。ここに描かれるのは二世代に跨る二組の父と息子、その支配の連鎖と一つの時代の終わりである。アメリカ社会最大のタブーと言われた異人種間セックスを扱った問題作「ジャングル・フィーバー」で脚光を浴びたハリー・ベリーがここではその当事者として登場しているのも興味深い。人種を超え、肉親のしがらみを断ち切って剥き出しの魂のみで生きて行くことを決意するビリー・ボブ・ソーントンの姿は、決して声高に叫ばれることのないこの物語の最大のテーマを余すことなく語っている。彼の孤独、彼の絶望、彼の惨めな人生は貧しい黒人の寡婦に跪き愛を乞わせる。聖女レティシアは受け取り手のなくなった溢れ出る愛情を彼に与える機会を得、非現実的な絶望感の中で二人はそれぞれにとって必要としている「愛の代用品」を見つけるのである。黒人で初めてのオスカー主演女優賞に加え、ここまで激しいファックシーンでオスカーを手にしたのも彼女が初めてではないかと思われるが、ここはひとつ最後まで涙を流す素振りさえ許されなかったビリー・ボブ・ソーントンの抑えの演技に手放しの拍手を贈りたい。関係ないけどヒース・レジャーってグレン・クローズの息子じゃないかと本気で思うほど似てますね。ホントに何の関係もないんですか?10点(2004-03-20 03:19:02)(良:1票) 9. ファーゴ ちょっと小金を手に入れようと企んだ小悪党が、不幸な偶然から泥沼にはまり込んで行くストーリーは比較的ありがちで語り尽くされて来たテーマと言えるが、天性の悪党顔でどこまでも情けなく突っ走り抜いたスティーブ・ブシェミのカール役はこれまでのダメ男達の中でも一見に値する存在と言えるのではないか。犯罪者の生い立ちや背景まで持ち出して役柄に奥行きを持たせる方向へ逃げず、あくまでも事件の中で見せる表情ひとつで人間性まで浮かび上がらせてしまったブシェミの力量には頭の下がるものがある。金持ちの舅と嫁、女房殺し(ここでは誘拐だが)で遺産を手にしようとする夫というこれまた描き尽くされたキャラクターを泣きの演技で引っ張り続けたウィリアム・H・メイシーの底力も見事。ここに登場するのが妊娠8ヶ月、ベタベタのサウス・ダコタ訛りで「ヤー、ヤー」を連発する中年の婦人警官フランシス・マクドーマンドで話が一挙に新しくなった。こういうドス黒くも高尚な笑いはコーエン兄弟の得意とするところだが、笑いのツボを観客の選択に委ねたところにこの映画の評価の高さが納得できる。名声に頼らない実力ある演技者たちの個性のせめぎ合いが、一歩間違えば実録犯罪シリーズ的なチープな内容を独特のテンションにまで押し上げている。日ごろ抑えた脇役に回ることの多い役者たちの技量が冴え渡る佳作。もちろんコーエン兄弟のこだわりの演出も忘れてはならないところだが。唯一マイク・ヤナギタの登場が余計に思えたので減点、これさえなければ完璧だったのに。9点(2003-12-31 12:22:16)(良:2票) 10. 愛しのローズマリー すみません。どうしても納得が行きません。外見だけで人を判断してはいけない、って言いたいんだろうと思うんですが、この映画だけを観てると、むしろ外見だけで人を判断しろ、と言ってるように思えるんですよね。だいたいコレではまるで、人の性格が「良い」と「悪い」の2種類しかないみたいじゃないですか?実際はもっとカラフルですよね。それに主人公だって、本当にローズマリーを愛してるんなら、何とかして痩せるように努力させるべきですよ。だってあれじゃあ健康とは言えないでしょう。ローズマリーは贔屓目に見ても卑屈で不健康な精神の持ち主で、確かに心は優しいかも知れないけど、もう美しくなりたいなんてことは諦めちゃっていて、フルサイズのケーキを半分食べちゃったりしてますよね。そんな彼女の心のどこがそんなに美しいのか、ちょっと理解に苦しみました。それに彼女はハルの長所に惚れ込んでるワケじゃなくて、見苦しい自分に興味を持ってくれたという希少価値にしか目を向けてないでしょう。そんな情けない恋愛をして本当に幸せなんですかね?私はローズマリーほど太ってるわけじゃないけど、もし自分がそうだったら、この映画を観てバカにされたような気がしてかなり頭に来たと思います。唯一、病院で出会う顔に大やけどした女の子のエピソードだけが救いでした。こういうのをブラックユーモアというのかなあ。私はかなりひねくれた話でも喜んで笑いますが、この映画には笑えませんでした。ジャック・ブラックにはかなり期待しているだけに、残念さで一杯です。2点(2003-12-06 22:51:05)(良:4票) 11. カラーパープル(1985) 背景と作品は別のものと考える立場から、スピルバーグが全身からオスカーちょうだいオーラを発し始めたという点を意図的に無視して考えれば、なかなか良くできた佳作であるとは言えるのだが、この映画でトップスターの座に踊り出たその後のウーピー・ゴールドバーグの見苦しいはしゃぎぶりや、スピルバーグのその後の優等生化にうんざりさせられたことを思うにつけ、作品そのものよりもむしろ前後の経緯から否定的な見方しか出来なくなって来ている自分に気づく。原作となったアリス・ウォーカーの小説はまごうことなき傑作であり、映画はそれを完璧とまでは言えないまでも非常に原作に対して誠実に、きちんと一生懸命作られている。アメリカ社会の底辺に暮らし続けて来た黒人たちの生活が実際にはどうだったか、真摯な態度で作られた映画としては周囲の状況がいくらなんでもヒドすぎませんか。この映画で主人公の義理の嫁を演じたオプラ・ウィンフリーは今やアメリカワイドショー界のゴッドマザーだ。ウーピー・ゴールドバーグはハリウッド版女武田鉄也と化してお涙頂戴映画からキツいコメディまで来た役は一つも断らない活躍ぶり。スピルバーグは一作毎にオスカーくれくれと叫び続け、今やオスカー像を増やすためなら家族さえ売り出しかねない勢い。これだけボロクソにけなしておいて8点献上する私も相当イカれているが、映画自体はとにかく非常に良い映画だったし人類にとって必要な映画。実の父親から子供を生まされ、さらに父親ほど年齢の違う見ず知らずの男と無理矢理結婚させられるセリーが、夫の愛人シャグとはぐくんで行く不思議な感情、そこから芽生える自立への希望。こういう時代から100年も経たない現在に生きる全ての女性たちにとって、一度は観ておく価値があると私は考える。いい映画なんだけどなあ。既成概念を捨てないとキツいですね。8点(2003-12-13 00:00:19)(良:1票) 12. バッドサンタ いいなあ、この映画。わたしはありきたりじゃない話が好きだし、先が読めない話が好き。新しいな、と思える話が好きだし、その話にぴったりの俳優がその時たまたまちょうどいい年齢だったりするとものすごく嬉しくなってしまう。ビリー・ボブ・ソーントンはけっこうどんな役でもこなせる俳優だと思うけど、この役はまさにハマリ役だったんではないでしょうか。何しろ史上最悪のサンタさんですからね。 そんなに意表をつく展開か、と言われると意外にそうでもない話なんだけど、ありそうでなさそうな絶妙なズレ加減がいい。笑いのツボはかなりブラックで、ひねりもオチもけっこう辛口。決してファンタジーにはならないシビアな姿勢も非常に好感が持てました。いろんな意味で、オトナ向けの作品ですよね。 どう考えてもロクなものにはなりっこないウィリーのくそったれな人生が、決してある日突然バラ色に姿を変えるわけでもなく、突然魔法のように立派な人間に生まれ変われるわけでもない。彼の人生をそのまま肯定するわけでもなく、さりとて否定するわけでもなく、ただ「いいじゃんそれで」に帰結するところが凄い暖かいと感じました。ある意味断崖絶壁まで追い詰められているウィリーを、悲壮感に走らず淡々と演じ切ったビリー・ボブ・ソーントンの上手さが際立つ一編です。好きだなあ、こういうの。9点(2005-01-02 23:55:31)(良:1票) 《改行有》 13. 処刑人 《ネタバレ》 わりと観た映画のことを忘れやすい私ですが、この映画のことは生涯忘れないでしょう。映画としての出来は、正直ダメダメだと思います。ストーリーはいい加減だし、終わり方は唐突だし、ロッコの死なんかオイオイ本当にそれでいいの?って感じだし、各キャラクターの描かれ方の配分とストーリーに占める重要度がイマイチ合ってない感じがする。そういうムチャクチャさを含めて、「すげー!」と思わせてくれるのはやっぱり手腕なんだと思うし、仮に単なる計算違いというか素人の仕事なんだとしても、この当たり度はセオリー通りにキチンとやろうとしてる人にはなかなか出せないものですよね。ウィレム・デフォーは一人で勝手に楽しんじゃっているし、これでいいのかと言われたら答えはノーなんだけどとにかくこれは好き。続編が作られるっていう噂を聞いたけどヘタに欲を出しちゃったらこういう映画はたぶんダメでしょうね。大手製作会社がシルベスター・スタローンとブラピで作ろうとしたって聞いたけど、これ本当にウィレム・デフォー無しで成立できたんだろうか。10点(2003-11-22 17:58:45)(良:1票) 14. ラスト サムライ 《ネタバレ》 率直に、ハリウッド映画の実力を見せつけられた気がしました。渡辺謙、真田広之がこれほどまでに伸び伸びと、思う存分本領を発揮できる映画がこれまで日本から出て来たか、と思ったら、もう2人には申し訳ないくらいです。時代考証、武士道精神の解釈(というか方向性)、たしかにかなりおかしいです。ただしこの程度のデフォルメは、現代のアメリカ以外を舞台にした作品の場合なら普通に行われていることで、この映画が正しい歴史を伝えようとしているのならもちろん議論の余地はありますが、あくまでもファンタジーとして描かれている以上、ある程度物語に都合の良いお膳立てとしての誤りには目クジラを立てなくても良いのではないかというのが私の考えです。そもそもトム・クルーズにサムライ役をやらせよう、ぐらいのコンセプトで始まったものだと思いますので、ここまでのレベルの物を期待していなかった人がほとんどでしょう。今どき日本人でも滅多に理解することのない「武士道」スピリッツを、ここまできちんと描き切ったことは立派だと思います。そして戦闘シーンの迫力は、かつて日本で「大作」と言われたどんな作品も太刀打ちできるものではありませんでした。真田広之は現役の日本人俳優としては殺陣の第一人者だと私は思っていますが、彼の本領もいかんなく発揮されていてその姿に涙が出ました。欲を言えば、あれほどカツモトのサムライスピリッツに共鳴したオールグレン大尉には、ラストでカツモトと一緒にハラキリしてもらいたかったところです。まあそこはファンタジーですから。渡辺謙は、アカデミー助演男優賞を獲れるのではないかと本気で思います。素晴らしかったです。今年はもう「S.W.A.T.」どまりか、と本気で諦めていましたが、これはもう文句なく私の本年度ベスト1作品だと思います。 【追記】渡辺謙さんゴールデン・グローブ賞ノミネートおめでとうおめでとう。10点(2003-12-15 00:13:10)(良:2票) 15. アメリカン・ビューティー 《ネタバレ》 家族として機能していない家族、これは現代のアメリカが抱える最大のテーマなんだろうと思います。なんだかヤケに元気な奥さんと、魂を抜かれたサエない中年男、全ての迷える中年男性にとってレスター・バーナムこそ等身大のヒーローなのでしょう。ケビン・スペイシーはソーラ・バーチやウェス・ベントレーのみずみずしい存在感に圧倒され気味で、「なんだ、この程度だっけ?」と観ている時にはちょっと落胆したんだけど、よくよく考えてみたらこれこそレスター・バーナムという男だったわけで、そういう意味でケビン・スペイシーって本当に上手い、わきまえた役者なんだなあと納得。若手を食ってしまうこともやろうと思えば出来ただろうけど、レスターという男はそういう男じゃないんですよね。私自身は、冴えない中年のアメリカ人男性だったことは今まで一度もないんですけど、彼の痛さはとってもよくわかる気がした。映画は時代を映す鏡だ、という言葉があるけど、この映画はたった3人の非常にミニマムな世界を通して、少なくともこの映画が作られた時点でのアメリカという国を徹底的に描き切っていると思う。国際紛争でも政治でもなく、ホームドラマという形でこういうことも描けるんだということを伝えてくれたという意味でも、評価したい作品だと思います。9点(2003-11-22 20:13:22)(良:1票) 16. “アイデンティティー” 「ユージュアル・サスペクツ」以来のあざとさですね。一堂がモーテルに辿り着くまでの、カットバックを多用した構成は上手いな、と思いました。序盤から中盤にかけてはわりと普通のサスペンス・タッチで進むんですが、見ている間にどんどんジャンルが変わって行きます。クロスオーバー・スタイルというか、複雑に幾つものミステリやドラマが絡まり合って全然違うところに不時着して行くあたりは目新しさもあって飽きません。アマンダ・ピートは圧倒的に可愛いですし、どう考えても普通に終わるワケないレイ・リオッタも、何かあっても何もなくても違和感のない不思議な存在感のジョン・キューザックも、顔合わせの妙に加えて「どこで期待を裏切ってくれるんだろう」的な期待をちゃんと裏切らないですし、全体的に質感の高いニューウェーヴという印象を受けました。もうちょっとおバカなありきたりのミステリー・サスペンスを想像してたのでひねりの効き具合に好感度高いです。いかにも何かありそうで結局何もないB級ミステリーみたいな作品が多い中で、何もなさそうでちゃんとタネも仕掛けもあるというのは意外に凄いことだと思います。これはたぶん、一見の価値はあるんじゃないでしょうか。けっこうお買い得な気がします。8点(2004-10-18 02:18:43)(良:1票) 17. ギルバート・グレイプ ごくたまにだが、その作品をビデオで上映することで、作品そのものが風景の一部となり、あるいは自分がその風景に溶け込んだまま、静かに時間だけが通りすぎて行くような映画がある。自閉症の弟は他人との距離感を知らず、太りすぎた母親は自分の力で起き上がることもできない。世間とはまったく違う時間を生きる一つの家族が、この映画の中で風景として、ただ淡々と時の過ぎるのを眺めている。欠陥家族と呼んでしまえばそれまでだが、ギルバート・グレイプはこの家族を家族として受け入れ、愛し、力まず淡々と毎日を送ることで自然に家族を支えている。苦労話は尽きないだろう。彼の人生は辛く惨めなものだろう。それでも必要以上の悲壮感をこの作品が与えないのは、彼が確固とした自我を持ち、絶望もせず行き過ぎもせず、一日一日をキチンと積み重ねているからだ。人は環境を選べないが、環境は人を殺せない。人間として、自分に責任を持ち、与えられた環境を受け入れて行くことがいかに幸福なことであるかを、この映画は非常に控えめなタッチで伝えてくれる。ラッセ・ハルストレムの作品は、いつでも清潔な極上の干草の香りがする。この作品もまた、映像の形を借りた一つの詩なのだ。 8点(2003-12-03 23:32:29)(良:4票) 18. 素顔のままで これって、本当にわざわざ時間とお金をかけて観なきゃいけないようなシロモノ?予告編だけはまあまあおもしろかった記憶があるけど・・・だからナニ?確かに私はヒマだ。ヒマでヒマでしょうがないから毎晩シネマレビューに膨大な時間を費やしている。たまには罵詈雑言を書き連ねるためだけに10分も費やしていることもある。もうちょっと建設的な時間の過ごし方ってあるよなあ、とこのレビューを書き始めて心の底から改心することが出来た。少なくとも当面、「素顔のままで」のことは思い出さないようにする。0点(2003-12-18 23:35:57)(笑:2票) 19. 遊星からの物体X SFXに特化した潔さが非常に小気味良い快作。20年経っても古びないこの映画の特殊メイクは、まさに金字塔と言って良いでしょう。かなり強烈に好きな作品なのですが、自宅でこのビデオをかけていて犬の顔がぱっくり割れた瞬間に訪れた、当時ちょっと気になっていた同級生は二度と家に遊びに来ることはなかったです。気をつけましょう。9点(2003-11-30 02:18:13)(笑:1票) 20. 2001年宇宙の旅 映画は大衆の娯楽であるべきで、よっぽどのばか以外はそれなりに支払った代価に見合う楽しみが得られることを前提とするべきです。そういう制約の中で、優れた主張や価値あるメッセージを一部の知性ある人々に向けてきちんと発信できる作家も大勢います。わからないばかは帰れ、という姿勢は、映画という芸術そのものが歩んで来た道のりを否定するものであり、映画という存在そのものを否定するものであります。仮に私一人が理解できる作品に出会ったとして、その感動を分かち得る相手がこの世に一人も存在しなかったとしたら、映画を観る楽しみはほとんどなくなってしまうでしょう。この映画に感動する人々を私は非難しませんが、この映画を理解できなかった私にもきちんとわかるような説明を与えてくれる心優しい人を私は知りません。たとえばロダンの彫刻であっても、無人島に置き去りにされていればただの石ころであるのと同じように、映画も多くの人が楽しんでこそ、初めて成立するものであると私は信じます。これまでこの映画について現実的に私にも理解し得る解説をしてくれたのは、今年還暦を迎えた私の母ただ一人です。「この人は死んだから星になったのよ。人間は死んだら星になるっていう映画じゃないの」というのが彼女の意見ですが、そう言われてみればそのようにも受け止められます。私は「メリー・ポピンズ」を観ていて長いと感じたことはないですが、この映画はいつも非常に長く感じられます。幸いにして、この映画があるおかげで私が不眠に悩まされることはありません。そういう意味では、使える映画であるとは思います。2点(2003-12-09 00:30:28)(笑:3票) (良:8票) |
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