みんなのシネマレビュー |
|
1. 舟を編む 《ネタバレ》 原作は未読です。松田龍平さんの演技が作りすぎ、といった意見もあるが、私は彼が役者として新境地に挑戦したとしてここは好意的に受け取りたい。95年頃と言えば、パソコンが飛躍的に普及する直前の時代。まだ多くの人が辞書を手に取って言葉を探したあの時代です。今となっては、言葉を検索するならパソコンの方が圧倒的に早くて便利なのだが、辞書には確かに存在した手作りの温かみはそこには一つも感じられません。利便性を最優先して何から何まで機械化、自動化も結構ですが、手作業で辞書を作るような、それこそ大海原に舟を編むような気の遠くなる作業に誠心誠意励む、こういった日本人が誇れる文化を後世に残していくことも大切なことではないか、と思います。今回、"大渡海"作成に携わった人たちを見ているうちに、なぜだか自分が日本人であることが心から嬉しくなりました。鑑賞後に、本棚にある辞書を改めて手に取ってみました。ずしり、と重たい。一冊の辞書が完成に至るまでの時間や労力を知った今では、それが歴史の重みのようにも感じられてひときわ感慨深いものがありました。[ブルーレイ(邦画)] 8点(2014-05-24 19:45:40)(良:5票) 2. とらわれて夏 《ネタバレ》 次々と映し出される片田舎の風景。風にざわめく木々。そして不安感をあおる音楽。この片田舎で何かが起こりそうなことを充分に感じさせ、あっという間に視聴者を物語の中に引き込む、先ずこの冒頭から素晴らしい。 母子家庭の親子と脱走犯の交流。この奇妙な共存関係が成立し得たのは、親子には足りなかった父親の愛情、フランクには足りなかった家庭の温もり、このぽっかりとあいた心の隙間を、お互いが与え合い満たされていくことによって得る安堵感が、脱走犯と人質という関係からくる緊迫感に勝ったからと思います。 野球、車といった素材や会話によって伏線を張り、要所要所でそれを回収していく展開の中、特に "ピーチパイ" はただの小道具ではない何かを感じさせたが、まさかヘンリーの人生を変えて、フランクの未来をも救ってしまう代物であったとは驚きました。 映画の内容には満足でしたが、唯一残念なのはこの邦題です。原題も内容のよさも全く伝わってこない、この安っぽいメロドラマのようなネーミングは毎回いかがなものか。[映画館(字幕)] 8点(2014-06-08 20:22:15)(良:4票) 3. mellow メロウ 《ネタバレ》 まず喜ばしいのは、最近は作風も変わりつつあった今泉監督が、原点回帰の (ユルくて愉快な) 映画を撮ってくれたこと。待っていました、こういうの。恋心な男女数名が、お花屋とラーメン屋と学校の屋上で、そしてたまに青木家で、好きだ、キライだ、愛がなんだと語り尽くします。ロケーションが限定されているという、さながら舞台劇でありながら、次の展開が待ちきれないという素敵な脚本。冒頭のラーメン屋の別れる別れないの押し問答、ここからすでにらしさ全開で。シチュエーションはシリアス、でも会話の内容はどこかピントが外れていて、そしてムダにだらだら長いのが確信犯的で笑えます。そしてそして、、今泉監督の信者にとっては、青木家の場面こそが真のクライマックスといえるでしょう (笑) ともさかりえたちの変態夫婦っぷりには、大いに笑わせていただきましたよ。ホントは笑っちゃいけないところだからなおさら。 (三人も笑いこらえて演技するの大変だったろ、これ) 女子高生三人の微笑ましい関係なども好きでした。・・にしても、三人という状況にやたら執着しますね、昔から。そしてお花と花束の使い方、初めから最後まで素敵でしたね。みんなギリギリでハラハラしましたが、その滑稽さは相手を想う自分の気持ちに正直すぎるゆえ、だからその気持ちを今泉監督は全て肯定します。そして、このフワフワっとした爽やかな気持ちたちにまだ名前がないなら、僕は "mellow" と呼びたい。 今泉監督よ、ありがとう。どうかこれからもたくさんの迷える気持ちたちを救いたまえ。[映画館(邦画)] 8点(2020-01-20 17:43:16)(良:4票) 4. 君の名は。(2016) 《ネタバレ》 大ヒットのようで今すごく話題になっていますね。私も観てきました、「時をかける少年」。 タイムリープ、男女の入れ替わりといった設定は、映画のストーリーとしては大外れのない鉄板で、これは観る前から面白いことが約束されたも同然なのです。でもその反面、ストーリーを一つの矛盾もなく組み立てるのが難しいゆえに、この設定は諸刃の剣でもある、と言えるでしょう。超常現象X2+隕石落下!! もう途中からは、粗探しはやめてピュアな気持ちで楽しもう (笑) と割り切ることにしたため、おかげで最後までかなり楽しむことができました。それに突飛な設定の数々はあくまで映画を形成する (壮大なる) モチーフで、根は実にシンプルな青春映画。 "SF" の二文字を書いて、それを青春ファンタジーと考えれば、細かい矛盾は気にならず理屈抜きに楽しめます。 大林監督「尾道三部作」への想い、今回の設定はもちろん、特に "階段" が重要な場面で使われているあたりは監督の傾倒ぶりが伺えました。プラスの設定、"隕石落下" はまさにアニメでしかできないこと、言わばアニメーション作家である新海監督のこだわりであり、誇りです。 最後に、本作を観た若い方たちにも、ぜひこれを機に「尾道三部作」を知ってもらえたらうれしいですね。[映画館(邦画)] 8点(2016-09-11 18:29:08)(良:4票) 5. ヘレディタリー 継承 《ネタバレ》 これはヤバい、本当に怖い、、。さらに嬉しいことに、平日レイトショー、ガラガラの映画館で貸し切り状態だ (泣) 個人的には好みであるクラシックなオカルトホラーの雰囲気があり、心理的にじわじわとくる恐怖、総毛立つ怖さを久しぶりに実感しました。監督の演出しだいで陳腐になるか大化けするかのジャンルと思っていますが、僕は (古き良き名作と同様に) 後者に転んだように思う。 伝統的にみて「家」 が怖いのは常套だし、実はストーリーはありがちです。だから本作は母親 (T・コレット) の演技力につきる、と思う。僕が本作で最高の恐怖を感じたのは、チャーリーに憑依された彼女の顔、声、そのしぐさです。そして、家族で食事中に取り乱した彼女の表情。 ホラー映画の良し悪しは主演女優の演技力にかかっている、と言っても過言ではありません。エクソシストのE・バースティン、オーメンのL・レミック、シャイニングのS・デュバルしかり。 ホラー映画の歴史は、(ただでさえ) 怖い顔した女優たちの絶叫演技が支えてきた歴史。T・コレットは見事に受け継ぎました。ホラー映画史を彩る名女優たちの神髄を余すところなく、文字通り "継承" したと言えよう・・!![映画館(字幕)] 8点(2018-12-05 18:10:27)(良:4票) 6. アメリカン・ハッスル 《ネタバレ》 クリスチャン・ベイルがハゲを忙しく隠している。あっという間に見破られる。と言うよりは、とっくのとうにバレている。天才詐欺師が楽々と嘘を見破られる、この冗談のようなオープニングが皮肉まじりで何とも可笑しい。ハゲすら隠し通せない天才詐欺師さんよ大丈夫か、と心配に思いつつ鑑賞。 展開が矢継ぎ早で、状況の理解が難しい場面もありましたが、豪華出演者たちの演技合戦を楽しむだけでも観て損はない好作であることは間違いありません。 女優二人は本当にパワフルで、女はあれぐらいでなければ裏社会では生き抜けないということか。 デ・ニーロの登場は映画ファンには嬉しいサプライズ。演じた役柄もお得意のもので、まさに余裕綽々、貫禄の演技でありました。 人生はめくるめく騙し合い。騙すか騙されるかの世界であることはよくわかっておりますが、詐欺師になることも詐欺に合うこともご遠慮したい私は、やはり平凡な人生に価値観を見い出したい。[映画館(字幕)] 7点(2014-02-04 20:47:41)(良:3票) 7. キャロル(2015) 《ネタバレ》 現役女優の中でも最高峰の大女優と、近い将来にその仲間入りをするであろう女優、その二人の奇跡の共演を観てきました。 これは一言、"目は口ほどに物を言う" 映画。ケイト・ブランシェットの魅惑的な視線、ルーニーマーラの羨望や敬慕の視線。二人の目の力によって成立した映画と言ってもよいほど、目の演技に圧倒された映画でした。そして、優雅で完成された美とまだ若々しく完成を心待ちにする美。対象的な二人の "美" をうっとりと見惚れる至福の2時間でもありました。 その対象的な二人の個性を一層華やかに際立たせた衣装、1950年代のニューヨークを完璧に再現した街並み、画面の細部まで拘りが行き届いた美術、本作は衣装や美術スタッフの素晴らしい仕事にも拍手を送りたい。 展開は覚悟をしていた内容でしたが、これはレズビアンや同性愛のたった一言で括れる愛の形ではなく、もっと奥が深い感情だと思いました。人が人を愛すること。それは理屈では決して説明はできません。きっとキャロルとテレーズもこの感情を言葉で説明することはできないでしょう。だから、これは恋愛映画であり、真っ当なミステリー映画。人が人を愛すること、これは解き明かすことのできない深遠なるミステリーであり、そして女は永遠に "謎" なのである。この謎は、今までもこれからも、僕らを永遠に惹きつけてやまないのだ。[映画館(字幕)] 9点(2016-02-14 19:13:35)(良:3票) 8. ラ・ラ・ランド 《ネタバレ》 スクリーンから溢れ出す心躍る映像と音楽の洪水、この感動はもはや理屈じゃ語れないだろう。本当に、映画館で映画を観る悦びに満ち溢れている。ミュージカルシーンのダンス一つ取っても、飛んだり跳ねたり、頭のてっぺんから指先つま先まで、そのリズミカルな動きは、観客たちが一緒に心弾むように完璧に計算されている。これこそミュージカル映画だ。シェルブールの雨傘や往年の名画はもちろん、目をこらせば、(500)日のサマー、ファビュラスベイカーボーイズ、ミッドナイトインパリなど近年に監督が愛した映画たちへの想いも見逃せない。これは二つの類希な才能が、人生のほんの一時の間だけ並走し、支え合い、ぶつかり合い、愛し合い、高め合い、その結果、愛よりはお互いの "才能" にとって最良の選択をした話、と思っている。この結末は、男が女の幸せを第一に考えたように見えるが、真実は自分が幸せボケによって "感性" を失うことを何よりも恐れたから、と思う。間違いなく一つ言えるのは、何も結婚して幸せになることだけが愛ではない、ということだ。かつてジャック・ドゥミは言われた。映画はおとぎ話だと。終わらないおとぎ話はない。そして、覚めない夢は、ない。映画が終幕し、まさに夢から覚めたようにふらふらと暗い夜道を一人帰路に着く。現実に戻されると、映画の二人にとっても、そして自らにとっても夢のような時間であったと改めて思う。また明日から平凡な日々が待っている。でも映画を愛した人には、いつかきっと夢の続きが待っていることを信じよう。[映画館(字幕)] 9点(2017-03-03 00:03:35)(良:3票) 9. 渇き。(2014) 《ネタバレ》 グロさと暴力描写が尋常じゃない。時折インサートされるアニメーションやポップな場面がなければ、これは園子温監督の映画?と錯覚してしまうほどです。作品を根本から否定する意見になりますが、加奈子が明らかな人格異常者であることを、親たちがこの年齢になるまで全く気が付かない、という事実に違和感を感じました。幼少の頃から何年も共に暮らしていれば、奇行の数々はあるだろうし、その兆候は少なからず感じるはず。特に母親です。その辺にいる不良とはワケが違う、このような犯罪者と一つ屋根の下で暮らしていて、何も知らなかったではあまりにも不自然です。藤島の行動に全く賛同できないことも大きなマイナス。娘をこれだけ愛しているならば、娘のためなら何をしても許される、では日本中が犯罪者で溢れてしまいます。過度な暴力描写は他の監督に任せて、「下妻」「嫌われ松子」路線をもう一度。渇きではなく、これは私の渇望です。[映画館(邦画)] 2点(2014-07-03 23:43:48)(笑:1票) (良:2票) 10. 釣りバカ日誌 《ネタバレ》 本作の公開日は、1988年12月24日。つまり、「昭和」時代に公開された、唯一の「釣りバカ日誌」ですね。この時点で、長いシリーズの中でも、特別な一作であることを物語っている気がします。 シリーズを通して、大企業の社長 (スーさん) と万年窓際族の平社員 (ハマちゃん) の二人が、釣りという「趣味」によって、まるで上下関係が逆転したような姿は喜劇的であり笑えます。 ・・・でもね、この姿は本当は「普通」なんですよ。休日を返上してまで、早朝からお偉いさんや取引先の自宅までお車でお出迎えして、一日中、釣りやゴルフでゴマすり接待。そういう関係が常態化した日本の会社社会、この二人の関係が目新しいと思うこと、、むしろそれが "異常" なのかもしれません。 批判覚悟で言ってしまうと、長いシリーズのなかで、本当に良かった、と言えるのは本作だけです。もちろん、大きな理由があります。スーさんがハマちゃんの正体を知り、ハマちゃんがスーさんの正体を知ったこと。二人は驚愕し、悩み、、そして、それでもなお「釣り仲間」として今までの (対等な) 関係を続けたこと。シリーズ全てを観てはいませんが、これ以上に心打たれて感動するエピソードは、この先にはないと確信したから。 先日、西田敏行さんが逝かれました。 長い間、本当にお疲れさまでした、そして、邦画界にもたくさんありがとう。 どうかそちらでも、スーさん (三國連太郎さん) と、思う存分、釣り三昧してください。[地上波(邦画)] 8点(2024-10-18 22:22:03)(良:2票) 11. スター・ウォーズ/フォースの覚醒 《ネタバレ》 まるでキーラナイトレイにデンゼルワシントンにアルパチーノ、おまけに仮面を取ったらジョンルーリー?個性と魅力に乏しいメインキャスト陣は過去の作品を彩った個性派の面々と比べて明らかに物足りない。ただし、娯楽映画としてはまさに王道で楽しめましたし、ハン・ソロとチューイを二人揃って登場させたり、ルークの"特別枠"的な扱いなどはやはり昔からのファンにとっては嬉しく、同時に監督の旧作への敬愛も充分に感じました。個人的には、SWの続編としては低評価、娯楽映画としては高評価、なのではっきり言って採点が悩ましい映画。と言いつつも、過去の名作群と比べるとどうしても評価が厳しくなるのはシリーズモノの宿命か。ちなみに私、レイア姫が美人だと思ったことは一度もありませんでしたが、もっと年老いた姿を想像していたせいもあり、今回初めてとても美人に感じました。彼女だけゆっくりと時間が流れていましたかね。フォースの恩恵、実は意外なところにあり。[映画館(字幕)] 7点(2016-01-24 02:53:32)(良:2票) 12. 横道世之介 《ネタバレ》 87年といえば私は中学生。あの頃自分の頭の中は、期末テストの順位、部活でレギュラーを取ること、同じクラスの気になるあの娘のこと、そしてドラクエのレベルを上げることくらいであったか。あ、ジャンプの発売日っていうのもあったな。視野が本当にせまくて、世間はバブルで浮かれていたなどと当時は気が付きもしなかった。(というか、自分のことで精一杯で世間に目を向ける余裕などなかった、というべきか) 前置きが長くてスミマセン。この映画で秀逸だったのは、当時の雰囲気を完璧に再現していることは言うまでもありませんが、やはり、横道さんは誰なのか? を視聴者にアナウンスするタイミングでしょう。あえて冒頭でもエンディングでもない部分に持ってきたところに監督のセンスを感じます。ここを分岐点に以降は映画自体がセピア色した全く別の姿に変貌します。時折映し出される現在の光景もお見事で、彼のいない虚無感が恐ろしいほど蔓延していました。前2作も良作だった沖田修一監督、私の中ではこの監督の作品は品質保証マークが付きました。まだお若いし、この先が本当に楽しみな監督であります。[DVD(邦画)] 8点(2013-12-09 14:32:55)(良:2票) 13. この世界の片隅に(2016) 《ネタバレ》 戦争を題材にしたよくあるアニメーション映画だろう、と軽い気持ちで鑑賞に臨んだことを後悔するほど、心に強い衝撃を受けました。この映画、"戦争"を題材にしながらも人間の狂気は見えません。あくまで物語の中心はその時代の人々の生活、戦争はあくまでそこに存在した一つのできごと。まるで"日常"のように、近くで軍が大砲の演習をして、夕焼け小焼けではなく空襲警報が鳴り響く。悲しいことに、人々は誰もが悲劇が"悲劇"である感覚を失っていた。でもそれが戦争の本当の恐ろしさでもあると思います。アニメならではの見どころも多く、特に防空壕の中で感じる空襲の生々しさなどは、想像をより掻き立てる分、ある意味で実写よりよほど恐怖をそそるかもしれません。草木や花や海の繊細な優しさ、戦艦の雄々しいたくましさ、終戦後に部屋に灯る希望の明り。絵から一貫して伝わってくるのはあの時代を強く生きた、先人たちの"心"です。そして、人生に必要なものは、勇気と想像力とほんの少しのお金。先人たちは生活の中にそれを心得ていた。この映画は日本人の心の歴史そのもの、どうか後世に伝えていきたい。[映画館(邦画)] 9点(2016-11-24 23:11:44)(良:2票) 14. 街の上で 《ネタバレ》 やはり、今泉監督はご自身で脚本を書いたオリジナルの恋愛群像劇が絶対にいい、うん。 今回は恋愛トークはもちろん、特に、あっと驚く脚本と人間相関図が秀逸だ。あの主要な面々がバッタリ出くわすあの修羅場の何と楽しいこと。笑っちゃいけないところだから、なおさら笑えるという (笑) またご自身の脚本だけあって、キャスティングも完璧。おそらくあて書きだろうお二人、若葉竜也はもちろんのこと、有名人の成田凌は実にハマり役だったように思う。女優たちも、本当に下北を歩いていそうな (古着通の) 女性たちばかりで、さすが監督はよくわかっていらっしゃる。(ここは、プラダやヴィトン持ってサングラスを頭に乗せた女が歩く街ではない) そして、今回のテーマはズバリ、「成就できなかった "想い" たちよ、永遠に」。 それは、彼の映画出演カットのエピソードからわかるように、お蔵入りした演技や映像フィルムにも向けられています。思えば、出演シーンのお蔵入りは失恋とよく似ている。相手に一方的に「NG」をもらって、その映画やその人の人生から立ち去るしかないから。でも、その後に城定さんが田辺さんにフォローした言葉を私は忘れません。「私には映っていたよ」(だったかな?) それはつまり、成功した本編と同等の価値がある、と思ってよろしいでしょうか? 今泉監督。いいんですね、ありがとうございます (泣) これで、今までの失恋とお蔵入りによって傷ついた私の心たちは安らかに成仏できそうです。[映画館(邦画)] 8点(2021-04-12 23:14:22)(良:2票) 15. ブルージャスミン 《ネタバレ》 あくまでC・ブランシェット演じるジャスミンが主役ですが、映画としてはアレン監督お得意の群像劇。ジャスミンを含めて、自分だけは真面、と思い込んでいるちょっと変わった人たちが数多く登場します。そして今回は、冒頭の機内で居合わせた老婦人から始まり、妹のジンジャー、そして妹の恋人チリなど、ジャスミンという人間を第三者の口から多く語らせていたのが特に印象的でした。ジャスミンの自己評価と第三者の評価のギャップが面白く、これこそが人が人と良好な関係を築こうとする時の弊害になっているものだと感じます。彼女は、美しく虚栄心に満ちた、鼻持ちならない女ではありましたが、頭が悪く空気が読めない、恋には一途、といった愛すべき一面も持ち合わせていたので、私はこのジャスミンという女を心底から嫌いにはなれませんでした。しかしラストは、残念ながらあまり後味のよい終わり方とは言えません。人間、その強欲が知らず知らずのうちに他人を傷つけていて、そのツケはいつか必ず返ってくる、といったアレン監督の訓示のようにも感じました。本作も監督の鋭い人物描写はさすがで、どこか滑稽な人間たちを、愛ある目線で描くアレン印は健在、、というよりはむしろ年齢を重ねるにつれてその切れ味は増すばかり。面白おかしい人間ネタをいったいあと何人分温めているのでしょうか・・。これからの作品も期待しています。[映画館(字幕)] 7点(2014-05-11 02:41:59)(良:2票) 16. さびしんぼう 《ネタバレ》 JACの俳優さん、いったい何回まわっただろうか、宙返り。でも尾道でよかったね、坂も階段もそこらじゅうにあるから。たんたんたぬきのキン○○にスカートめくりは、笑うべきなのだろうか。 こうして前半は、根が真面目な大林監督らしいお笑いコント、しかしハッキリ言ってしまえば、笑えない寒いギャグが延々と続きます。(スミマセン!) でも昭和のあの頃、よく自作のお好みカセットテープを作ったでしょう? 本作も同じで、たぶんA面とB面の二部構成なんです。前半 (A面) はノリのよい曲を並べて、後半 (B面) は泣きのバラード集。前半は失笑でもいい、笑っていてください。その代わり、後半は存分に (独りで) 泣いてください。 ショパンの「別れの曲」を聴きながら、懐かしい尾道の風景とともに、大林監督の世界を堪能してください。 「さびしんぼう」たる素晴らしさ、それはスクリーンの二人は完全にヒロキと百合子 (とさびしんぼう) であり、尾美としのりと富田靖子を感じさせないこと。 そのヒロキが自転車を押して百合子さんを送る場面、二人を照らす夕陽の何という美しさ。私にとって、ここが大林監督映画のベストショットです。ここに大林監督という作家と、ヒロキと百合子さんと、尾道という場所と、昭和という時代と、まるで時間が止まったまま、収まってる。もちろん、この瞬間がヒロキにとって幸福の絶頂ということもあるのだけれど (笑) 実は数年前、尾道を訪れて本作のロケ地を巡りました。舞台である西願寺は、忘れ去られたように映画の面影はもうなくて、何だかさびしそうでした。 最後に、大切なことを一つ。「さびしんぼう」は、男が感傷的であることを、それは大丈夫だからとやさしく肯定してくれました。だから本作を初めて観てから、私は変わりました。自分はこれでいいんだ、と安心できるようになりました。 だから言わせてください。 大林宣彦という偉大な "映画作家" であり、私のこころを救ってくれた恩人に感謝をこめて、ありがとう。[ビデオ(邦画)] 10点(2020-04-12 23:04:12)(良:2票) 17. パンとバスと2度目のハツコイ 《ネタバレ》 そもそも、フランスパンで女を殴る女からすでに可笑しくて、この監督面白いなと。始まって数分にして、この映画当たり、と早くも確信しました。総じて、人物たちに対する視線は優しいのですが、主演のふみ (深川麻衣) が少しだけピントがずれている、というのが本作最大の肝で、彼女を軸にクスッと笑える場面がワンシーンに一つ、必ずあるんですね。彼女の一挙一動にハラハラドキドキ、、でも大丈夫、そんな彼女も不思議と目薬のピントは外しません。 (言っちゃった) 次のシーンが楽しみだ早く観たいぞ、その心境のまま始めから最後まで楽しく観させていただきました。たもつ (山下健二郎) はこの歳でバツイチ子持ち、車持ち。だから当然、洋服に散財できるはずもなく、毎度の上等じゃない服は納得で。ふみにいたっては、何度もナイキの同じスニーカーを履いて登場しましたね。こういったさり気ない気配り、重要ですね。付き合っていても、結婚していても、別れの予感はついてきます。だからその一歩手前の、これからそれを迎える期待感で胸いっぱいであること、ハツコイの心境であり続けること、それが何より幸せかも知れませんね。主演女優、ストーリー、音楽、ロケーション、そしてパン、バス、絵や洋服といった小道具 (美術) に至るまで、その全てが奇跡的に相性良くて、映画らしくない不思議な現実感 (空気感かな) がありました。(↓3737さまの) 全然大したお話じゃない、についても全くの同感です。ちなみに、わが行きつけの立川シネマシティ前の散策路が登場しましたね。(たぶん) よってプラス1点。 →2025/1/6 追記。 再鑑賞して感じたこと。ふみの妹さん (志田彩良) は、姉さんに恋愛感情を持っておりますね。ふみの「絵」を描く、という理由をつけてはいますが、その真意は姉さんをずーっと見ていたいだけ。その熱っぽい視線でバレバレなんです。 たもつ役の山下健二郎は、本作ではミスキャストな気がしました。演技の問題ではなく、雰囲気そのものが、今泉監督の映画 (世界) には合っていない感じ。スポンサーの一押しでご出演かな?[DVD(邦画)] 8点(2019-02-18 23:27:34)(良:2票) 18. インターステラー 《ネタバレ》 実はSFという題材すら映画を形成する一つのモチーフに過ぎず、要するには人間の愛の物語だと思います。正直に言うと、飛び交う会話は私の凡庸な頭脳では理解できないものも多かった。瞬時では状況が呑み込めない場面もいくつかはあった。それでも、170分という尺の長さは全く感じさせないし、観終えてみれば大満足だ。結局はこの内容を超一級娯楽映画に仕上げてしまう、クリストファー・ノーランの手腕なのだろう。映像美に圧倒され、広大な宇宙へのロマンに思いを馳せ、人間の愛の偉大さに涙する。そして高揚感と余韻冷めやらぬまま映画館を後にする。思わず、あたりの光景を見渡してみる。夜空の星は美しく、あたりには砂塵なども舞ってはいない。さっきまでの体験が映画の世界であったことに安堵する。まさに至上の映像体験でした。[映画館(字幕)] 9点(2014-12-23 17:15:40)(良:2票) 19. アヒルと鴨のコインロッカー 《ネタバレ》 伊坂幸太郎氏の原作を先に読みました。氏の作品の中では特にお気に入りの一冊です。映画化にあたり、本ならではの叙述トリックをどう料理するのか?と楽しみ反面、少々不安でしたが、これはうまいです。素晴らしいとしか言いようがない。基本、映画においては時系列で物語が進むべきで、回想シーンの多用はNGと思っています。でも本作の大半は実は回想ではなく、"ドルジ" を "河崎" と思い込まされた、椎名の解釈 (想像) なんですよね。山形人の存在により彼が事実を知った時、ペット店や動物園等々、彼の解釈はだまし絵に姿を変えドルジの回想 (真実) によって上書きされます。「椎名」の存在を最大限に活かした、映像による叙述トリック。監督の手腕に唸らされました。思えば彼はこの切ない物語の唯一の部外者 (巻き込まれ役) です。映画が初見の方は真実を何一つ知らず、いつの間にか彼と一緒に物語に巻き込まれ、そして一緒に騙される。すなわちこれは視聴者参加型の映画なのだと思う。映画が発信する言葉については言うまでもありません。"風に吹かれて" は、音楽という言葉の壁を越えて理解する普遍的な感動。アヒルと鴨は、見た目や肌の色ほど変わらないその本質。そして河崎とドルジと琴美の関係。そのどれもが、愛や友情に国境はない、といった大きなメッセージだと思います。[DVD(邦画)] 8点(2017-09-21 12:02:55)(良:2票) 20. トイ・ストーリー4 《ネタバレ》 まず感じたのは、シリーズの中では圧倒的にロケーションが素晴らしい。古き良き遊園地にアンティークショップ「セカンド・チャンス」、このレトロでノスタルジックなロケーションをおもちゃたちが所狭しと走り回る光景は、否応なしに心躍ります。だから視覚的にはシリーズ最高ではないでしょうか。しかし内容としては、このサイトのレビュアーさんの投稿を読んで、鑑賞中に感じていた違和感がスッキリしました。確かに、このシリーズは人間とおもちゃの関係 (ルール) があってこそ。何だかウッディたち、飼い主の手を自ら離れた野良犬、、いや野良おもちゃになっちゃいましたね。トイ・ストーリーであることのポリシー (こだわり) を簡単に捨てたことは残念。しかしそれ以上に残念なのは、、名作「トイ・ストーリー3」が本作の登場によって色褪せたこと。続編がないこと、いや、ないと思っていたからこそ、あの終わり方は最高の結末でした。ボニーとおもちゃたちの、短いが幸せであろう "これから" を想像してワクワクしたもんだ。 (それがあっという間に飽きられて、フォーキーってねぇ・・) これからはもう、大好きな「トイ・ストーリー3」を観直しても、ラストの感動はもうない、これが続きではきっと素直に感動できない。[映画館(字幕)] 7点(2019-07-26 21:47:42)(良:2票) |
Copyright(C) 1997-2025 JTNEWS