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1.  アイアンクロー 《ネタバレ》 アイアンクローはもっともプロレスらしい技だと思っている。顔面をつかむだけで,相手は激痛に悲鳴を上げながらのたうち回る。やがて血が流れ、失神してピクリとも動かなくなる。そのまま3カウントが入ることもあるが、レフェリーがかけられているレスラーの手を持ち上げ、だらんと下がるのを繰り返して意識がないのを確認し、ゴングを要請するのが定番だ。 顔を手で締め上げられると、エイリアンに襲われた宇宙飛行士のように意識を失うなんて、どれほどの威力だと子供心に震え上がったものだ。 使い手のフリッツ・フォン・エリックも怖かった。2メートル近い巨体に、眼光鋭い冷酷そのものの無表情。ジャイアント馬場の顔面をわしづかみにして場外を引きずり回す怪力に加え、ドロップキックも軽々とこなす身体能力。悪夢を具現化したような男だった。 相手が顔を手で守ろうとした時に、がら空きになった腹部をつかむストマッククローも怖かった。あまりそういうことをしないアントニオ猪木が、顔をゆがめてもがく姿にはぞっとした。 当時のテレビ解説では「胃そのものをつかむのではなく、胃の裏側にある太陽神経叢という神経の塊をつかむために激痛が走るのです」と説明していた。何という恐ろしい技だろうと思った。後に知ったのだが、太陽神経叢は自律神経なので、つかんでも痛みは感じないらしい。アイアンクローで血が出るのは、フリッツが後年インタビューで、とがらせた爪で額を切っていたと話している。その辺も含めてプロレスらしくて好きだ。 映画では、題名にしておきながら、その技にスポットを当てなかったのが残念だ。兄弟で一番レスラーとして成功したケリーの見せ場は、ハーリー・レイスの倒れ込み式ヘッドバットをタイガークローで迎撃するところなのだが、それも出てこない。 ケリーがケビンより小さいのも納得がいかない。ケビンが報われなかったのは、体と、レスラーとしての線が細かったのが原因なのに、このマッチョぶりでは無理がある。フリッツがデビッドとケリーに期待をかけた理由は、体の大きさを見ればすぐに分かるのに、これではさっぱり理解できない。 アップ画面を多用したファイトシーンに迫力がないのは仕方ないとしても、ケリーの成功を含め、レスラーの華やかな面をきちんと描いていないので、明暗がはっきりしない。一族最大の悲劇、ベイビー・フォン・エリックと言われた末弟のクリスが登場しないのも、物語のメリハリを欠く要因になっている。 最後もどうせ空想シーンを入れるなら、デビッドにもケリーにも不幸が訪れず、弟たちには遅れたものの、ケビンもようやく世界王座を手に入れ、「やったな兄貴」「お前たちのおかげだよ」とリング上で喜び合い、マイクがバンドで演奏しながら祝福するという、明るい夢にしてほしかった。[映画館(字幕)] 6点(2024-04-17 16:48:01)(良:1票) 《改行有》

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