みんなのシネマレビュー |
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1. 地獄の逃避行 胸の内が灰色になるような実話を、空の青色で染めている。あっさりと美しい色でまとめられた景色の中に際立つ、マーティン・シーンの狂気。理由など無い、誰にも理解できない彼の内面に踏み込んで立ち入ることもせず、それでも延々と追いかけていく画。普通のようで普通ではない常軌を逸脱した地獄の時間に言葉もなく浸った。[DVD(字幕)] 9点(2015-03-28 19:06:07)(良:1票) 2. 少年は残酷な弓を射る エヴァ母さんが「あたくしとケヴィンは、ええ、あの子が生まれたときから……」と裁判で証言しているような、そんな映画だった。息子との距離の取り方を探りつつ試しつつ、という、どこかよそよそしく一歩下がったスタンスの母親に、常に向けられる赤くて太い矢。この先この親子に一切光が差すことはないだろうけど、ケヴィンの想いはいつか成就するのだろうか。監督リン・ラムジーの感覚は、鮮やかな色彩で二人を包みながらもずっと「第三者」の視線を保った冷ややかなもので、この残酷な世界にはぴったりに感じた。[DVD(字幕)] 8点(2012-12-09 01:05:12) 3. 人生はビギナーズ 孤独で寂しくて悲しくて。そんな人たちの手のひらに、そっと小さな花を乗せてくれるような優しさがある作品だ。人は、悲しみを経験しないと人に対して優しくなれないんだよ、とある人が言っていたのを思い出して泣いた。人を想うってことは一方通行の矢印で、本来とても孤独なものだ。そして、それは時たま、それを見守る第三者の心をグラッと揺さぶるほどの美しい光を放つ。[DVD(字幕)] 10点(2012-08-05 03:37:43)(良:1票) 4. 少年と自転車 《ネタバレ》 少年は跳ね回る。まるでネズミ花火のように、やり場のない気持ちをバチバチと弾き飛ばしながら。父を求めて突き進み、危なっかしく自転車を飛ばし、ヤバいと分かっていながらバットを握る。その溢れるパワーと悲しみを、全部包み込むサマンサの逞しさ。偶然出来た縁から親子になるまでの道筋はあまり詳しくは描かれないけれど、サマンサの揺るがない態度がシリルの心を満たし、お互いを受け入れるシーンには心地よい暖かさを感じた。最後、着信音に今度はしっかり応えようとする少年に光を感じる。[映画館(字幕)] 7点(2012-06-12 22:23:29)(良:1票) 5. 白いリボン 《ネタバレ》 冒頭10分くらいで「子どもの映画だな」と解った。真一文字の口に薄い唇のゲルマン顔でいっぱいの2時間半。居丈高な男とただ黙ってそれに従う女、その様子は台詞でも態度でも過剰なナレーションでもいろいろと伝えてくる。けれど、そこから出る膿を吸った子どもの内面はほぼ見せず、その顔だけで攻めてきた。内容は意外にありきたりで解りやすく、これだけ時間を掛ける必要もないだろう。私のハネケ作品へのやや偏重した期待は裏切られた気がしたが、新しいタイプの子ども映画にも思えてきた。鑑賞しながら「白いリボンなんて大人の屁理屈だね。」と思ったけれど、その言葉がそのまま自分に向かってきた。長時間全く飽きなかったのも思い返せば不思議なこと。点数はまだ伸び代を残して付けておこう。[DVD(字幕)] 9点(2011-08-30 14:23:20) 6. 17歳の肖像 《ネタバレ》 ミニーマウスとバブラブなんて気味の悪い呼び名を囁く、責任のないただ甘いだけの日々がどうも鬱陶しい。親もだらしがなく、その点見ていて勉強になった。痛い思いをしたけれど、一念発起で有名大学に入学して大人しく暮らしております、と映画は終わってしまい、それで一件落着なのか、彼女は出来事から何を学んだのか、あの眼鏡の先生から勉強以外に学んだことはなかったのか、と見たかったところは飛ばされていて不満が残った。ロザムンド・パイクのおつむの足らないバービー役は、なかなか可愛らしかった。[DVD(字幕)] 5点(2010-10-25 18:40:31) 7. シャネル&ストラヴィンスキー 《ネタバレ》 綺麗な映画だった。ファッションや音楽の響き、個性的な邸宅と庭の緑などすべての美がバランスよく映されていた。冒頭「春の祭典」のシーンは、再現された舞台と怒号の様子、そして悩めるニジンスキーに感激。前衛芸術家どうしの恋愛話だけれど、二人の気持ちが境界を越えてしまった時など曖昧で、常に緩い感覚がつきまとっていた。これなら、二人の関係に終始し妻の姿にあそこまで迫らなくてもいいかもしれない。最後やはり「春の祭典」に向かって情熱を傾けるストラヴィンスキーを見て、むしろ主役はこの曲かもな、なんて思った。[DVD(字幕)] 8点(2010-07-31 11:14:52) 8. JUNO/ジュノ スイマセン、期待が大き過ぎたのか、そんなに面白くなかった。内容のどこかにカチンと来たとかでなく、「良かったんじゃない?」以上の感情が出てこなかった。大人になりきれない人と本物の子ども達の、サラッとその実大変な出来事。でも、なんだかありふれた話でそう目を見開くようなシーンもなかった。「素直に自分らしく」なんてよくあるテーマだし、親が子どもを想い親身にサポートするのは当然といえば当然なわけだ。エレン・ペイジ始め脇まで役者さんはみんなよかった。ジェニファ・ガーナーなんて見直したくらいだ。私が擦れてるか、字幕が悪いのか、アメリカがこんな暖かい話に飢えているのか。[映画館(字幕)] 6点(2008-06-16 20:36:10)(良:1票) 9. 心中天網島 白と黒、光と影、男と女、運命を呪う人々とそれをそっと見守る黒子達、岩下志麻と篠田監督。それぞれの綱引き加減がうまいこといってこの出来栄え。しかし心中ものの寒々しさは堪えるなあ。[DVD(邦画)] 7点(2007-06-03 02:39:14) 10. 七人の弔 《ネタバレ》 作品としては未熟なものを感じる。ミステリーにもブラックコメディーにも社会派ドラマにもなりきれていない宙ぶらりんな空気。所々荒いプロット。名の知れた役者さんが数多く出ているのに、個性も生かされていない。ただ一人、胡散臭い移植コーディネーター(?)役そして監督であるダンカンくらいしか印象に残らなかった。脚本、演出ともまだまだもっと頑張って練り上げて欲しかった。しかし、この物語のテーマは良いと思う。賛否両論が起こるほどの強烈さは感じなかったが、今の時代に見ておくべきものだと思う。救いようのない大人なんぞは踏みつけて、子どもよ前に進んでいけ。その胸の痛みは一生癒えないだろうけど…。[DVD(字幕)] 6点(2006-03-05 00:14:28) 11. ジーパーズ・クリーパーズ 《ネタバレ》 怪物のヤツ、ラストでいやにのんびりお裁縫してたじゃないか。特典映像で観た怪物役の役者さんが男前だったので彼に3点。やっぱ怖いのは性に合わないらしい…。[DVD(吹替)] 3点(2005-08-06 01:27:12) 12. 下妻物語 ベースは結構ベッタベタな友情物語だけど、着眼点とか舞台下妻の描写がとっても面白い。これは嶽本野ばら氏の力かな。そして主演二人のお嬢の炸裂が気持ちいい。大仏バックに「いてまうどこらァァァァァァァ!!」だって。同じ田舎モンとしてはジャ○コの重要性は頷けるっぺよ。[DVD(字幕)] 7点(2005-07-17 04:05:35) 13. 真珠の耳飾りの少女 《ネタバレ》 美術はさすがの美しさ。暗い中から浮かび上がる色や、出演者たちのブルーやパープルの瞳が光を含んで輝く様子など本当に美しい。ただ、お屋敷の中の画は(実際そうだったのかもしれないが)かなり狭くガチャガチャと混み合って見えて、優雅さに欠ける感もあった。S・ヨハンソンの風貌は絵の少女そのままで驚いてしまった。で、物語はというと、一枚の絵にまつわる、プラトニックかつ官能的なエピソード。お互いの心が求め合った結果が、あの美しい絵だった、ということでしょうか。芸術家に一途で純粋な永年の愛を求めてもムダですよ、奥さん、とお嫁さんの肩をたたいて言ってやりたくなった。でも、モデル業を終えて肉屋の彼氏を求めて走っていくのは反則だ。何となく気持ちは解るけれど。あのシーンがなければ、二人の関係が崇高なままでラストを迎えたのに、品が落ちてしまった。[DVD(字幕)] 6点(2005-05-01 18:45:29) 14. 16歳の合衆国 そうだな、言葉で説明するにはとてつもなく難しいことを、映画にしてしまったという感じがする。若い者も大人も、みんなして悩んでいる。喪失の悲しみ、過ちを犯したことの苦しみ、主人公の心のフィルターでは、重すぎて浄化しきれない世界の空気。彼はこんなに穏やかで優しいのに、瞳に映る全てはこんなにも寂しいものなのか。ラストは、主人公だけでなくみんなの気持ちがインスパイアして泣けてきた。ライアン・ゴスリングを始めとする若い俳優たちが、みんなよい雰囲気を醸し出している。時を置いて何度か見返し、彼の感じる悲しみの傍らに座り、共鳴や同感でなく理解をしたいな、と思う。[DVD(字幕)] 9点(2005-04-30 11:31:27) 15. シャイニング(1980) シンメトリーな構図や鏡など、印象深いパーツと計算された色遣いで作られた画は極上の美しさ。その中を人の目線でズルズルと進むカメラワークの不気味さ。この映画、スゴイ。人の血や叫び声の恐ろしさではなく、四方八方からしんしんと迫ってくる、どうにも抗えない魔力のようなものの怖さを伝えている。人の魂は尊ばなければいけない、そして人間では到底かなわない自然の霊力にも、恐れながらも敬意を持つべきなんだろうな、と私はそんなことを思った。キャスティングも絶妙で、家族三人はこの人達以外は考えられない。原作は未読で、作者キングは映画の出来に不満だったらしいけれど、凝り性キューブリックが作り上げた彼ならではの世界は、充分多くの観客を魅了している。私もその中に仲間入りした。傑作と呼べる映画。9点(2005-01-29 13:37:22)(良:2票) 16. 女王フアナ 最近好んで歴史物を観ているけれど、中世の城を入れたカットや衣装など、画の重厚感がひときわ高く美しかった。狂女と言われたカスティーリャ女王フアナの「女の人生」を追っている。狂おしいほど夫一筋の女と、浮気性の男。時代にかかわらずよくある話、悲しい愛のベクトルを描いている。けれど、君主としてのフアナの姿はほとんど見られず、夫に固執して妊娠する彼女の姿ばかりが映し出され、歴史的背景の書き込みが非常に薄くて、私としては物足りなかった。絵にもなっている、夫の棺との旅の部分もあっという間に終わってしまった。残念。映画で描かれたとおりのあの程度であれば、狂女ではなく単に情が厚いというだけのような気もするが、この時代でここまで情が厚いと、君主には向かない要因にもなるのだろう。夫一筋があだになるとは、人間という妙で深い生きものの歴史には驚かされる。6点(2005-01-23 10:47:03) 17. じゃりン子チエ 子どもの頃TV放映されていたときは正直あまり面白く感じなかったけれど、こうやって大人になって観てみると、下町情緒とか、独特のホノボノ感やくだらなさがすごく良い具合に絡み合っている。チエ達家族3人で電車に乗るシーンが大好き。チエがたまらず歌を歌い出すところで胸が詰まっちゃいます。何ともいえない子供心を上手いこと表現したなあ、と感心しました。原作が良くできていることもあるのでしょうが、ドタバタに陥らない人情アニメなんて貴重だと思うし、親子揃って楽しめる良質なお話だと思います。8点(2005-01-09 21:34:32)(良:1票) 18. 昭和歌謡大全集 《ネタバレ》 まあまあ面白かったんですけど…。オバチャングループも青年グループも、脇にちょろっと出てくる人もみんなしてマッドな感じ。そしてラストの爆弾ボバーンまでその狂った空気を貫いていたのも良い。お互いのグループの妙に強い連帯感など、微妙にイカれた人たちを冷たい視線で眺めている映画でした。原田芳雄の「マダム嫌い親父」なんて笑えました。でも、血がぴゅーぴゅーほとばしるのが苦手ですし、説明セリフが多いのにちょっと興ざめ。そして上手い役者と下手な役者がくっきりと分かれてしまい、観ちゃいられないシーンもありまして…。松田龍平の歌声には痺れました。悪い意味で。6点(2004-12-23 18:58:38) 19. ジョゼと虎と魚たち(2003) 雰囲気は嫌いじゃない。大阪の下町の風景や光の使い方、『くるり』を音楽担当にしたところも全て狙ったもの。ほわんとした和製ノスタルジックの空気の中に、ぴんと一本、すごく細いけれど確実に張られた絹糸のような寂しさ。でも、この物語に私の心が寄り添っていかなかった。恒夫とジョゼが、お互いを慕う気持ちがどの表情や行動に織り込まれていたのかよくわからなかった。二人の刹那な時間の中にあるはずの機微が、特に妻夫木聡からは感じられなかった。出会って触れあって離れていく、いわば恋愛映画の王道のような気もする話だったが、優しいキラキラとした時間だけ映されるよりはもっともっと葛藤する場面があってもいいかと思った。まあそれは好みなのでしょうが。脇はみんななかなか良くて、だからこそ主演の力が浮き出て見えた気がする。5点(2004-12-20 01:56:49) 20. 白いドレスの女(1981) みんな、汗掻きすぎ…。顔もボデーもやりすぎなほどにぬらぬらと光っていた。異常熱波が到来している町の設定だからだが、それにしちゃ表のパームツリーが風でワサワサ揺れてるじゃんよ。話は、まあこんなもんかな。瑞々しいミッキー・ロークと美しいキャスリン・ターナーに会えました。利点と言えばそんなくらい。5点(2004-10-19 01:21:41)
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