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1. 出発
《ネタバレ》 カーアクションも勿論だが、モッズコートを羽織って跳ね回るジャン=ピエール・レオーの軽快な動きでもって映画が疾走する。
路面電車の軌道すれすれのポジションで危険なスタントなども披露し、随所で驚かせてくれる。
レオー自身は運転してはいないという事だが、凝ったアングルとポジションによって彼の運転シーンも迫真でまるで違和感がない。
モーターショーのシーンなど、ゲリラ撮影と思しきショットも多々あるが、
堂々と落ち着きのあるカメラのおかげで場面がそこだけ浮き上がるなどということはない。
ほどよい即興の感覚によって街が活写されている。[DVD(字幕)] 7点(2017-06-09 23:42:36)《改行有》
2. 新・七つの大罪
1952年のオムニバス『七つの大罪』から10年後、「新しい波」の面々が撮る『新・七つの大罪』。
第一部の『憤怒の罪』は、アルジェリアからベトナムへと続いていく動乱の60年代を予見するような展開だが、ナレーションもフォローするように、以降は軽快な作品が続く。
いずれも、街路の往来を捉えるキャメラが新鮮だ。
『貪欲の罪』に映し出される夜のパリの繁華街。『大食の罪』の長閑な一本道。『怠惰の罪』の車窓を流れていく街路の光景。
中でも『淫乱の罪』で、ガールハントしながら街中をぶらつくローラン・テルズィエフを軽快に追いかけていくアンリ・ドカの縦横無尽なキャメラがいい。人波と陽光の出入りが開放的で若々しい。
(『憤怒の罪』の往来は少々作為が露でつまらない。)
そして短編集はやはり、キャストの魅力も要だ。
『傲慢の罪』での髪形の変化が艶めかしいマリナ・ヴラディ。
『怠惰の罪』で運転席のエディ・コンスタンティーヌをさり気なく誘惑するキュートなニコール・ミレル。
そして、取りを努める『貪欲の罪』の高慢風なダニエル・バロー。
彼女が、初心なJ・C・ブリアリに対して最後に見せる嬉しそうな笑顔が実に素敵だ。
[ビデオ(字幕)] 7点(2011-05-31 22:11:13)《改行有》
3. ジャン・ルノワールの演技指導
楽屋裏のテーブルで向かい合った監督兼主演女優のジゼル・ブロンベルジェに対し、まずシナリオの台詞を棒読みすることを要求するルノワール。
曰く「感情を込めずに。」「電話帳を読むような感じで。」
相手を一心に見つめ、彼女の語りにわずかでも感傷のニュアンスを察知すれば即座に指摘し、やり直しを求める。
それは紋切り型の演技や経験則や先入観に囚われることなく、自分独自の表現を創造させるためだという。
その中で、「髪をかく仕草が良い。」とアドリブの所作を褒め、即興を取り入れつつ協同で演技を創り出していく。相手の無意識の小さな癖まで見抜く細やかな人間観察力、的確な助言による協同作業は、画家がモデルの魅力を最大限に引き出していくかのようでもあり、これがピエール=オーギュスト・ルノワール譲りの資質かと思わせる。
物語構成や主題を犠牲にしても、まず役者自身の人間的魅力を生き生きとフィルムに乗せることを第一義とするルノワールの映画術。
それが鮮やかに実践されていく様にただ魅入ってしまう。
最後のショットは、「エミリー」の役を生きるジゼル・ブロンベルジェの長台詞。
見届けたルノワールの台詞「tres bien」の温和な響きにその人柄が偲ばれる。
[DVD(字幕)] 9点(2010-11-22 19:34:56)《改行有》
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