みんなのシネマレビュー |
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1. 動くな、死ね、甦れ! 《ネタバレ》 前情報がない状態で見たのですが、白黒映画で、かつ、フィルムの痛みが激しいことから、1930~40 年代の作品と思いこんで見ていました。後で調べたところ、1989年と比較的新しい作品でした。作者(1935年生まれ)の幼少時の風景や空気を再現するために、その時代に入り込んで撮影したかのように仕立てる。トリッキーとも取れますが、それを凌駕する、映像の凄みを感じました。主人公の少年が住むのは、炭坑と収容所の村。地面はぬかるんで、泥の上に人が集まり暮らしていて、舗装された道はなく、自動車もなく、辛うじて他の町に通じる鉄道があるだけです。住人は、汚れた長屋に、寄り集まって暮らしており、人は多く、叫び声や喧噪はあれど、活気がまるでない。この「不毛」感は、凄いです。主人公も通っている学校は意外と立派でした。公権力の出先として力を入れた結果でしょうか。村の外れでは、抑留された日本兵が強制労働をさせられていて、よさこい節や、炭坑節が聞こえてきます。おそらく作者の望郷には欠かせないものなのでしょう。よどんだ世界の中で、どこか優雅で達観した響きを感じました。そんな中、主人公の少年は、鬱屈感からか、学校のトイレの汚物槽にイースト菌を入れて溢れさせたり、列車を脱線させたりの問題を起こします。その都度、一緒の長屋に住む少女に助けられます。この少女は、非常に賢く、したたかに生活に順応していて、なかなかの人物だなあと感心してしまいました。この作品の中では、唯一の光と言える存在です。時代の停滞した陰鬱な空気を再現して、フィルムに封じ込めたことは評価できるのですが、娯楽としてみると、正直、それほど面白くはないです。娯楽性の高いロシア映画も見てみたくなりました。[映画館(字幕)] 6点(2024-12-04 20:16:00) 2. 雨月物語 《ネタバレ》 戦国時代。人が集まる町では、節度ある町民たちによって、繁栄が保たれているものの、農村は落ち武者の襲撃に会い、道中は賊が跋扈する混沌とした世界設定。時代の動乱の中、農村に暮らしながらも、野心を胸に、動かずにはいられない男たちと、平和と安定を望む女たちを描いているのですが・・・最終的に女の生き方の強さを、まざまざと感じさせる作品ですね。常に焦燥感に駆られて足掻いている男の生き方ってなんなの的な。あと、とにかく、映像がすばらしいです。農村から町に向かう道中、船で漕ぎ進む先の霧に煙る水面の幻想的風景。主人公が迷い込んでしまう、朽木屋敷での妖艶な誘惑。直接的な表現を排して、なお妖しく艶やかなところは、海外作品では、なかなか見られない日本映画の真骨頂でしょうか。シーンのつなぎでの地を這うカメラワークは印象的でした。また家屋内での、蝋燭を光源とした光と影の繊細なコントラスト。白黒映画で、これだけ幻想的魅惑的表現が可能なのかと驚きました。日本映画のスペクタクルに付き物の安っぽさが微塵も感じられないことも驚きでした。もう、日本映画は新作でも半分は白黒でいいんじゃないかと思ってしまいました。[DVD(字幕)] 8点(2024-10-10 18:23:27) 3. Winny 《ネタバレ》 ファイル共有ソフト「winny」の開発者が著作権法違反幇助の容疑により逮捕されたwinny事件をテーマにした作品。ファイルのダウンロードという身近に感じられる行為が、著作権などの知的財産の侵害だけにとどまらず、社会が抱える闇を暴いてしまうような、思いもよらないほどの大きな影響を及ぼしたことに興味がそそられ、作品に引き込まれ、楽しむことができました。著作権の侵害を阻止すること自体は、知的創作的活動を活性化するためにとても重要なことですが、そもそも親告罪である著作権侵害を、警察が躍起になって、開発者の逮捕にまで至ったのは何故なのか?前述のような高邁な目的と警察とは無縁であろうことを考慮すると、警察内部のwinny利用が内部情報の漏洩をもたらしたことから、とんでもないものをつくりやがってという報復、および、この調子で警察の闇が暴かれたらたまったもんじゃないという予防措置または見せしめのためのターゲットにしたのでは?というようなことを強烈に匂わせた作品となっています(実際に悪さをしたのはwinnyではなくウィルス、またはウィルスをダウンロードした警察内部の不届きものなわけでw このことが、むしろ逆ギレ魂に火をつけてしまったのかも知れませんw)。これまでの警察の醜聞や組織としての行動パターンなどを考慮すると、実際そんなところなんだろうなと思わせる説得力しかないところが、困ったものだなと┐(´д`)┌。警察の中の人間の問題というよりは、警察というシステムの設計の問題なのだと思いますが(システムが一定の傾向の人間を集めやすい、排除しやすいことも含めて)、手に余る問題なので、ここでこれ以上の深入りはしません。裁判対決ものの作品に仕立てるにあたって、もちろん脚色も多くあると思いますが、ことさらわざとらしくドラマチックにしたてるような力みは感じられず、開発者と弁護団の交流を丁寧に描いていたのは好感が持てました。[インターネット(字幕)] 8点(2024-09-06 18:38:13) 4. ウェルカム・トゥ・サラエボ 《ネタバレ》 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年~)の一断片を、戦場ジャーナリストの体験にもとづき映像化した作品です。戦争の当事者でないイギリス人による作品ですが、部外者がわきまえるべき“分”を踏み外すことなく、脚色すべきところは脚色し、うまく作品化しているのではないかと思います。主人公は、イギリス人の戦場ジャーナリスト。紛争の惨状を伝えるのが仕事ですから、殺傷の情報が入ると、現場に駆けつけて撮影をします。こうして、主人公の視点で、紛争の悲惨な状況が映し出されていきます。主人公がカメラマンを引き連れて、街の通りに駆けつけると、凄惨な実録映像につながり、一瞬にして、銃撃を受けた市民達が、道端に転がり、うごめく地獄絵図の世界に放り込まれました。ゾクッときました。[DVD(字幕)] 7点(2024-05-08 19:30:24) 5. 運命じゃない人 《ネタバレ》 マンションを買ったものの女に逃げられてしまった冴えないサラリーマン。その友人の探偵と、探偵に素性をつかまれた女詐欺師。そして、暴力団組長。失恋したサラリーマンのたどたどしくも新たな恋を予感させるストーリーをベースに、裏の世界が少しずつレイヤーを重ねるように順に追加されていき、まったく違った様相を魅せてくれます(この内田は魅せてくれる内田ですね)。時間を少し巻き戻してから重ねていくので、前のストーリーと時間が重なったときのちょっとした驚きと、なるほど感が心地よいです。あと、霧島れいか、いいですね。[DVD(字幕)] 9点(2024-04-14 17:28:43) 6. 打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?(1993)<TVM> 《ネタバレ》 テレビドラマとしてはフィルムライクにつくられていて、画質は汚いけど、映像は綺麗なので、言われるまでテレビカメラとは気付かなかったです。内容ですが、小学校高学年の男の子達が、花火を横から見たら丸いか平べったいかを言い争い、実際に確かめるために、灯台へ向かうという話です。とここまで書いたところで、「スタンド・バイ・ミー」に似ていることに気付きますが、同時代の日本人の私としては断然こちらに共感しました。うまく郷愁を誘うものが詰め込まれています。ヒロインが奥菜恵なのですが、この人は思春期の子役として輝いていた人だったのですね。これまでこの人の立ち位置が理解できていなかったのですが、晴れて納得しました(思春期に驚くほど艶っぽかった人の例として、他には松たか子などが挙げられます)。主人公は山崎裕太(あっぱれさんま大先生)で、大人の脇役が、麻木久仁子や石井苗子(TVタックル)や蛭子能収など、ちょっと不思議な配役で楽しめます。[DVD(字幕)] 5点(2023-11-22 17:48:58) 7. ウィスキー 《ネタバレ》 ウルグアイのしがない中小靴下工場のオーナー工場長(兄)のもとに、ブラジルに打って出て、靴下工場で一山あてた弟が、久しぶりに故国に戻ってきて再開することに。独身の兄は、幸福な結婚を偽装するために、長年勤めた女従業員に妻役を演じることを依頼するが・・・といった話。兄、弟、妻役の何とも言えないぎこちなさの機微をうまく捉えています。巨匠を思わせる渋く落ち着いた作品だなぁと思って見ていたのですが、監督は30歳の若者と聞いて驚きました。本作品公開の2年後には自殺したとのこと。惜しい才能を亡くしたものです。[DVD(字幕)] 7点(2023-08-22 19:13:42) 8. WINDS OF GOD/ウインズ・オブ・ゴッド(1995) 《ネタバレ》 今井雅之が特攻隊ものを舞台劇でやっていて、海外でも評判が良かったというような話は聞いていました。舞台を見に行くのはハードルが高いので、映画版を見ておこうかなと。やはり舞台で場数を重ねているだけあります。脚本がシンプルで、無駄なく、無理なく、よく練れてます。笑いと涙のバランスが絶妙です。出戻りしてきた隊員の戦闘機を奪うところなんか絶妙です。漫才師の漫才はクソつまらないのですが、それも演出の内でしょう。キャストも、よくハマっているんですよね。童顔でなかなか使いづらいかなと思う小川範子もはまり役でした。[DVD(字幕)] 9点(2023-04-26 17:53:49) 9. ウルフ・オブ・ウォールストリート 《ネタバレ》 原作小説は未読。ちょっと、ホリエモンとかがブイブイ言わせてた頃を連想しましたが、ITバブルは、それでも、多少なりとも中身が少しありましたが、こちらは、すべてが虚業ですからね。主人公のディカプリオは、それなりに名の通った証券会社に就職して、その会社の売上No.1男から、ヤクでテンション上げて売上成績も上げる方法を学びます。胸を叩きながら低い声で歌いテンションを上げることを学びます(ラグビーのハカみたいなものでしょうか?)。その後、ブラックマンデーで勤めていた会社は倒産。電話で口八丁で低位株を売りつける方法で復活。徐々に、地道に、派手に会社を大きくしていく物語です。前にNo.1男から学んだとおりにヤクは常用してるし、職場にストリップ嬢、風俗嬢を呼んで乱痴気騒ぎをしたり、とにかくメチャクチャで基地外で破滅的なのですが、でも、社員慰労会をやる日本的経営と言えなくもないなと思ったり。仕事の内容に魅力は感じませんでしたが、刺激になりました。[DVD(字幕)] 7点(2023-03-06 18:30:58) 10. 裏切りのサーカス 冷戦中のヨーロッパが舞台で、いかにもヨーロッパらしい色見のない渋味のある街の景色、IT化前のモダンなオフィスインテリアなどが興味深く、映像的には飽きることがありませんでした。ということで良質な映画だということはわかるので、気力を集中して鑑賞したのですが・・・なかなか頭に入ってこないんですよね。結構早い段階で、初見ですべて理解するのは無理だとあきらめてしまいました。登場人物が多く、でもそれぞれがあまり大きな役を負ってなくて、キャラが立っているわけでもなく、しばしば回想場面が挿入されるので混乱させられるし、リアルタイムでの緊張感があまり感じられない。そして、結局のところ、諜報組織のうちわもめという、とても狭くて閉じた世界の話なので、迫ってくるものがないんですよね。エンターテインメントとしてみると、消化不良です。だからといって、もう一度見たくなるようなミステリアスな謎も感じられない。でも、雰囲気は嫌いじゃないし、ロシア娘はイイ![DVD(字幕)] 5点(2023-02-17 18:03:07) 11. ウインド・リバー 《ネタバレ》 ネイティブアメリカンが住む、雪に閉ざされた村で起きた殺人事件の話。捜査の進捗を、ミステリータッチで追っていく作品ですが、最終的には、ミステリーではなく、胸糞悪い現実であるというところに、ちょっと複雑な感触が残りました。エンターテインメントとしては食い足りなさが残るけど、現実を訴えているのなら、まあ致し方ないか、でもなあというような・・・。これだけ人口密度が低くて、村全体が顔見知りという土地柄で、結構な密度で悪いやつがいるのは地獄だなと率直に思う反面、でもその環境自体はかなり特殊で一般性がなく、その一方で事件そのものは、特殊性に関係なくどこででも起こる類いのもので、社会的な問題提起という側面から見ると、迫力に欠けるというか、むしろそちらに結び付けることに違和感を感じると言うか・・・。娘を失った父親に対して、主人公がかけた言葉が、心に響きました。個人的には、そこが本作品のクライマックスです。蛇足:「ウォーキング・デッド」のシェーン役 久しぶりに見た。なんだかとても懐かしい気持ちになった。[インターネット(字幕)] 5点(2023-02-13 18:38:55) 12. 牛久 作品としての評価が、なかなか難しいですね。行政の実態の暴露という意味では大きな意義があり、取材のための労力や時間がかかっているのは事実なのですが・・・。例えると、生の素材が並べられたものを、料理としてどう評価するのか、そもそも評価すべきなのかというような悩ましさがあります。本作に関して言えば、多くの人に周知することよりも、入手した生の情報を、まずは下手に手は加えず、まずはオープンにして、それにより、現状を変化させることに重きを置いた戦略なのかもしれませんね。暴かれた日本の難民対策の実態について言えば、普段、不法入国者を扱うことが多い職員たちに難民を扱わせれば、まあこうなってしまうんだろうなと思うところもあり、難民受入に対して状況に応じた特別な措置を講じなかった面で、行政が判断を間違えたという事なんだと思いますが、その判断ミスそのものより、判断ミスの結果起きてしまう状況を常にチェックして、フィードバックする機能がないことこそが問題だよなと思いました。[映画館(字幕)] 7点(2023-02-07 19:17:02)
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