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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
1. 冷たい雨に撃て、約束の銃弾を 《ネタバレ》 東洋人と西洋人が映画の中で絡むと不協和音が生まれがちなので心配していたが、ラテン系だとそうでもない。というか、本作では異邦人ということが、記憶が薄れていくことと重なってイキている。すべての人間社会にとっても異邦人になっていきつつあるということ。ラストシーンがテーブルでニコニコしている主人公なのにはちょっと肩透かし感があったが、あれはつまり孫の記憶が完全に消え去って、その代わりに孫のような子どもたちと団欒をしている映像が入り込んできた、って感じなのだろう。ジョニー・トーらしい丁寧さが出たのは、銃撃戦よりもスパゲッティ食べながらの銃を巡るやりとりのとこ。しだいに男がただものではないと分かってくるあたり。サッと投げられる皿の気合い。その皿の行方にただのシェフでない証明があり、その皿は後のシーンのリング状のフリスビーにつながっていく。そしてゴミ捨て場での銃の試し撃ち、自転車がカラカラと動いていくとこ。記憶が消えていく男との約束をボスとの契約より優先するって「男の美学」は分かるんだけど、ちょっと命を粗末にしすぎてないか。ゴミの野での銃撃戦にもう一工夫ほしかった。ボスの卑劣さを観客に得心させる描写にも。[DVD(字幕)] 7点(2011-06-20 10:25:50)(良:1票) 2. 劔岳 点の記 《ネタバレ》 昔は山岳映画というジャンルがあった。つまり秘境は秘境というだけで映写する価値があった。今ではテレビでほとんどの秘境が開拓されてしまっており、どうかなあと思っていたが、でもけっこう見せるのだ。切り立った峰を人々が歩いていく臨場感なぞ、ゾクゾクッとくる。現場での実写にこだわった愚直さを(ちょっと押しつけがましく感じるところもあるが)、メデてやろうという気になった。そういうふうに、おもに記録映像として鑑賞していたようなのだが、ただ一ヶ所、間違いなく映画を意識させられたところがある。ノブの役どころは、軽はずみをして危険を導くといういかにも物語を単純にならしてしまうものなのだが、実際に彼が岩肌を這い登って行くところには記録映像としての息遣いが感じられる。その彼が斜めに滑り落ちる。さすがにここはリアリズムにこだわれず、現実の転落とは違う何やら「優雅」な滑空を見せてくれるのだ。ああ映画だ、と瞬間思った。たとえばミュージカルで主人公が踊り出すタイミングにも似た、リアリズムからそれ以上のものに跳躍するときめきが、ここで一瞬感じられた。音楽はヴィヴァルディ、バッハ、アルビノーニなどバロック名曲集。登頂の時は『バリー・リンドン』のテーマ(ヘンデルだったっけ)が高鳴る。[DVD(邦画)] 6点(2010-10-14 09:56:29) 3. つぐない 《ネタバレ》 名作といわれるメロドラマがしばしば戦争を背景にしているのはなぜか、という疑問があったのだが、これはその一つの答え。メロドラマは鎮魂なんだな。戦争で恋を成就できずに死んでいった若者たちに代わって、スクリーンの上で恋愛をさせてあげてるんだ。また、恋愛とはその人がまさにその人でなければならない状況、戦争は逆に個人が誰でもいい一個の部品になる状況、その対比もドラマに効果をあげてるんだろう。ただこの作品のカップルの場合、不幸の原因として戦争よりも語り手の関与が大きいわけで、この“つぐない”で許せるかどうかは観客の度量の広さに左右される。話者の、裁かれたかった相手についに裁かれなかったことの後悔の深さ・重さは伝わったけど。唐突に出来事があってから少し巻き戻して説明していく話法が、ラストでもちょっとずるく使われた。あと、姉セシリアが水のモチーフで統一されたこと。タイプライターのリズムが、これが書かれた物語であることを強調していたこと。海岸での長回しは見事だったが、つい撮影の大変さのほうに気が行ってしまったこと。[DVD(字幕)] 7点(2009-02-23 12:11:28) 4. ツォツィ 《ネタバレ》 映画に登場する不良にはパターンがあって、1ふてくされている、2世間に対してたかをくくった態度をとる、3馬鹿にしたうすら笑いを浮かべる、といったところ。なのにこの主人公はそのどれもしてくれない。常に硬い表情を張りつめ崩さない。世間に対してどちらかというと怯えているようでもあり、それを無理に鼓舞して向かってる感じ。車椅子の男に「なんで生きているのか?」と尋ねるあたり、からかいも皮肉もなく、僧に疑問をぶつける求道者の真剣さすら感じられる。彼の表情がこの映画のすべてだ。話の段取りは、母の記憶や女性のたしなめなど、陳腐に落ちかねないぎりぎりのところで進むが、射殺されるドラマチックなラストを採用しなかったことは成功だった。彼の被害者であるブラザーの声に励まされ、みっともなく手を上げる姿で切り上げる。おそらく求道者が道を見いだしたときの姿というのは、そのみっともなさが神々しいこんな姿なのじゃないか、という気にもなってくるのだ。[DVD(字幕)] 6点(2008-01-16 12:20:25)(良:1票)
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