みんなのシネマレビュー |
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1. 無限の住人 《ネタバレ》 冒頭モノクロシーンのメリハリの利いたコントラストから快調。 補助照明に極力頼らず月明かりや蝋燭などの光源に限定しながらリアリズムを追及しつつ、 キャラクターの相貌や瞳の輝きをしっかり画面に浮かび上がらせる夜のカメラがとてもいい。 殺陣の荒々しい画面も寄り引き織り交ぜてパワーがある。 一方で「兄ちゃん」「兄様」のやり取りをする川原のシーンでは、木村・杉咲の近づき・突き放しの距離感をフレームを よく活かして撮っている。 クライマックスの立ち回りが冒頭と被ってしまうのが勿体無い。例えば『七人の侍』の土砂降りの雨といったもう一押しを望むのは酷だろうか。[映画館(邦画)] 6点(2017-05-04 12:17:52)《改行有》 2. ムーンライト 《ネタバレ》 巻頭で波音が響いてきたかと思う間もなく、カーステレオからの音楽がそれに被さる。それはいいとして、 ラスト近くの二人のツーショットでも波音が静かに二人を包んで響いているところに、劇伴を重ねてしまう。 ダイナーでジュークボックスの曲を台詞の代弁として使っているのも直截すぎてかなり野暮ったい。 そこは作品のスタイルからして、二人が共有するメロディの慎ましい追憶であるべきではなかろうか。 随所にブルーを配置した色彩の設計は終始一貫していて統一感がある。 再会した二人の夜、湯を沸かすためのガスコンロが点火され、青い炎がふっと燃え上がる。そのような細部にも色彩が活かされている。 廃屋の窓を開けてくれたマハーシャラ・アリ。レゲエ男への復讐の意を決して自らドアを開け放ちつつ突き進む主人公。 そして彼を受け入れるガラス張りのダイナー、そのドアの呼び鈴のアクセントと、ドアのモチーフも充実である。[映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2017-04-07 01:20:05)《改行有》 3. 麦子さんと 時折挿入される、昭和期を思わせる解像度の粗いフィルム風映像。 その中に映し出される、青春時代の母親を演じる堀北真希の美貌が ノスタルジックに映える。 彼女のこれまでのフィルモグラフィにも拠るのだろう。 あからさまな時代の演じ分けをしない分、彼女の二役は違和感がなく新鮮だ。 あるいは中森明夫の書く通り、彼女のスター性ゆえかも知れない。 カラフルな柄物のカジュアルウェアが、一方で黒い礼服姿のイメージを引き立たせる。 そうした衣装の演出に関しても吉田監督の拘りがうかがえる。 が、音楽の入れ方、特に挿入歌の大仰な使い方などは想定通りすぎてつまらない。 余貴美子の手料理を噛み締める堀北。 そしてその料理へのお返しにスーパーで肉を買い、パン粉を付け油で揚げる彼女の横顔。 そういう黙々とした、淡々としたさりげないシーンの積み重ねでこそ泣かせて欲しい。 [映画館(邦画)] 6点(2014-01-09 23:51:43)《改行有》 4. ムーンライズ・キングダム 一方で『ダイ・ハード』最新作のようなタフな役柄があるからか、 ブルース・ウィリスの人間味滲む警官役が実に新鮮に感じられる。 ちょっと小生意気な感じの少年少女たちとの相対効果もあろう。 冴えない彼とジャレット・ギルマンの、テーブルを介しての対話がユーモラスだ。 そして青いシャドウが印象深いカーラ・ヘイワード。 彼女が覗く双眼鏡も映画の小道具としていいアクセントである。 二人の逃避行に幾度か訪れる危機。追いつめられて絶体絶命となる少年。 その突破方法にせめてもう少し工夫が欲しい。 これでは安易すぎて、単にはぐらかされただけのようにも見える。 『ナイト&デイ』等のように、その出鱈目さが味になる作品もあるが、 ここではそぐわないようだ。 結果的に活劇にもなり損ね、クライマックスのサスペンスにも繋がっていかない。 [映画館(字幕なし「原語」)] 6点(2013-04-19 23:57:04)《改行有》 5. 無人の野 作中での人物のクロースアップはかなり頻繁だが、 それは構図から逃避するための安易なものでは決してなく、 一個の生命の個性を、感情を強固に描写するためのものに相違ない。 米軍のヘリが落とした照明弾用パラシュートを見つけては喜び、 米軍兵士を見事に威嚇し退散させた大蛇を振り回しては喜ぶ ラム・トイとグエン・トゥイ・アンの農民夫婦。 そのパラシュートを利用して衣服を縫う。大蛇の皮を剥いで太鼓を作る。 ヘリに見つからないよう、木々の枝を揺すって炊事の煙を拡散させる。 赤ん坊をビニール袋に包み、共に水中に隠れて空襲から守る。 そうした生活の一部としての戦争描写もまた、 彼らの印象的な表情と共に、丹念かつ具体的だ。 同時代の体験者ならではの顔であり、居住まいであり、リアクションである。 同時に米軍パイロット側のと表情のドラマも並行することで、 ラストにおいてその妻子の顔写真と、それが燃える様を見つめる グエン・トゥイ・アンの表情が胸を打つ。 そして、時に詩的な趣きをみせるメコンデルタの葦原の情景描写も瑞々しく 素晴らしい。 ヘリに狙撃されるシーンの仰角・俯瞰のカメラワークが醸成する迫真の緊迫感は、 『北北西に進路を取れ』のトウモロコシ畑にも決して負けない。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-06-17 00:01:03)《改行有》 6. 群れ れっきとした劇映画だが、アンカラへ向かう列車から撮られた風景の点描や、 アンカラ市内のゲリラ撮影的な街頭ロケが土着的な音楽の数々と共に非常に生々しい。 手狭な列車内などでは人工照明も不十分なため、 明度も様々な粗い映像となって即物的なリアルを浮き上がらせる。 街中を行進する羊の群れと民族衣装を纏う主人公たちに好奇の眼差しを向ける 市民の表情やリアクションは、演技ではないだろう。 強盗によって喉を掻き切られる羊のショットなども強烈だ。 そうした、フィクションの中に度々介入してくるノンフィクション的なショットとの 絡み合いの構造が、同時代の批評となると共に被写体に緊迫した存在感を与えている。 口をきけなくなりながらも夫を慕う病弱の妻の身振り、籠の中の鳥を慈しむ姿。 長旅によってさらに衰弱したその彼女を背負い、人混みの交差点を彷徨う 夫の献身の姿。そして彼女の死を侮辱され半狂乱となる痛切な姿もまたそこで際立つ。 具体的に提示される羊の数、貨幣の金額もこの映画では重要な要素だ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2012-06-15 23:56:40)《改行有》
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