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1. 4ヶ月、3週と2日
《ネタバレ》 カンヌのパルムドール受賞作品はさすがに凄い作品だ。こんな映画を過去に観たこともない。既存の映画の概念を完全に崩しているのではないだろうか。この映画を撮れる監督は現代には存在しないのではないかというほどの凄まじい才能を感じられる。
ストーリーははっきり言って「どうでもいい」ものであり、高い技術が使われているわけでもない。
ルーマニア人が金も掛けずに撮ったつまらない映画とジャッジする人がいてもおかしくはないが、音楽を一切用いず、長回しで撮り続けることにより、その場にいるようなリアリティ、臨場感を産み出している。
リアリティだけではなく、微妙な空気感の演出に上手さを感じられる。
「医者が帰ったあとのホテルに残された二人の重苦しい空気感」「恋人の母親の誕生日に呼ばれた際、はしゃぐ身内に囲まれたどうしようもない孤独感や、堪えられないほど苦しい状況下にあるのにそれが分かってもらえないという切なさ」などの演出が尋常ではない。
ストーリーが大したことないのに、まったく飽きることの無い映画だ。
ストーリーはどうでもいいと思っているが、監督が伝えたいメッセージは何かしら感じられた。
妊娠した友人を見て「こいつはバカじゃないのか!」と思う観客がほとんどだろう。
自分のせいなのに、何もやらず、場を乱すことばかり行い、肝心なアイテムも忘れるという、かなりいい加減な女性だ。
しかし、恋人宅で主人公と恋人との会話を聞くと、妊娠した女性とそれほど変わりがないことに気付く。
そして、胎児を捨てに行く際の彼女の挙動不審っぷりをみると、妊娠した女性と全く変わりがないと確信できる。
「人間はパニックに陥ると訳の分からない行動にでる」「人間はそれほど強いわけでも、偉いわけでもない」ということを通して、“人間の本質的な部分”を描きたかったのではないかと思っている。
妊娠した女性は単なるバカではなく、いわば我々と同類だ。
医者ももちろん同類だ。偉そうなことばかり言っているが、その根は単なるエロオヤジであり、IDもフロントに置き忘れるという間抜けなところもある。
このオヤジも実は内心パニックで、一目散にホテルから逃げ出したのではないか。
また、主人公と妊娠した女性は、恐らくいつまでも親友でいられるのではないかと感じさせたラストでもあった。
あの終わり方を見て、この監督はすべて計算でやっていると確信できた。[映画館(字幕)] 8点(2008-03-23 22:37:24)《改行有》
2. 容疑者Xの献身
《ネタバレ》 原作未読。1ページも読んでいない。
原作は相当に素晴らしいのだろうなというのが第一印象。
堤真一が演じる石神が素晴らしかった。
自分の才能を活かせる場がなく、自分の人生に絶望していた際に、愛する人たちのために自分の才能を活かせる場を与えられたことに対する喜びのようなものが伝わってきた。彼は初めて生きることへの意味を見出せたのではないか。
彼が唯一失敗したとするならば、あまりに“美しい回答”を求めすぎたことだ。
石神がただ単にアリバイ作りや遺体処理をしただけならば、恐らく花岡靖子も彼に最後まで従っただろう。
自分の組み立てた方程式が崩れたときに、泥臭く泣き崩れる姿が印象的だった。
いかに天才であろうとも、人間の感情までも計算どおりにはならないということか。
また、意外だったのは湯川が真相を暴いたことだ。
鑑賞中は友人のために真相を闇の中へ葬るのかと思っていたが、暴いたことでさらなる“深み”が増したような気がした。
友達のために真相を暴くべきではないという苦悩や葛藤、真実を明らかにしなくてはいけないという使命、同じ志を持つ同士として頭脳を犯罪に利用したという怒り、そういった複雑でどうしようもならない感情が湯川には渦巻いていた。
本作において影が薄かったところがある湯川だが、内海を冷たくあしらったり、内海に打ち明けたりと悩める深みのあるキャラクターには仕上がっている。
そして、本作で一番伝えたかったことは、人間の不可思議さということではないかと感じられた。石神が罪を犯そうとした心理、花岡が最後に取った行動、湯川が真相を暴こうとした理由、どれも論理的ではない。
科学や数式や論理では解明できないのが“人間の感情”ということなのがよく分かる作品だ。
本作において問題になりそうなのは、演出ではないか。
冒頭の実験やドッペルゲンガー的な分身といったシーンはあるものの、“過剰な演出”は極力避けようとしているように思われた。恐らく原作の良さを殺さないようにという意図を込めて、ニュートラルな状態を保とうとしたのだろう。
確かに、原作の良さは殺していないのかもしれないが、原作の良さを活かし切ってもいないようにも感じられた。
もうちょっと自分らしさを出してもよかったような気もする。[映画館(邦画)] 7点(2008-10-20 23:19:10)《改行有》
3. 夜になるまえに
キューバ革命に翻弄された、作家であり、ゲイであるレイナルド・アレナスの人生がきちんと綴られている。
ハビエル・バルデムの演技が素晴らしいとしか言いようがない。
彼の演技によって、見事にレイナルド・アレナスの人生を深く感じ取ることができる。
アカデミー賞にノミネートされるだけのことはあり、これこそまさに怪演といわざるを得ない。
ゲイでもなければ、作家でもないので、彼の苦悩をしっかりと共感することは難しいが、それでも彼の苦悩が伝わってくる。
ハビエル・バルデムも素晴らしいが、ジュリアン・シュナーベル監督の才能には脱帽する。
彼の撮り方は簡単に真似できるものではない。
注意深く見ると、ひとつのシーンの撮り方でも凡人とは違う撮り方をしているのが分かる。
徐々に対象物に近づくように撮っているのが面白い手法だ。
[DVD(字幕)] 7点(2008-03-16 02:16:45)(良:1票) 《改行有》
4. 陽気なギャングが地球を回す
《ネタバレ》 原作は未読。伊坂作品のいかなる作品の1ページも読んだことはない。
原作は読んだことがないが、原作者が本作を見たら何と言うのだろう。
設備が整った厨房で最高の食材を“素人”が調理したら・・・こうなるのかなという作品。
おでんの中からステーキが出てきたというようなぶち壊し感で溢れている。
おふざけが酷すぎるだけではなくて、ストーリーの繋がりも悪く、個人的には全く合わなかった。
苛立ちしか覚えなかったのでこのような評価となった。
「そろそろ勘弁してくれ、さすがにもうすぐ終わるだろう」とDVDプレイヤーの表示をみたら、たった60分しか過ぎていなかったときには絶望を味わった。
監督の努力は認めたいが、努力だけでは評価に繋がらない。
『俺ってセンスいいだろう』と声を大に自慢げに言われると、うっとうしく感じるのは仕方がないのではないか。
本当にセンスが良ければ賞賛を与えたいが、センスがなければ痛々しさが加重的に増加していく。
本当にセンスが良い者は『俺ってセンスいいだろう』というようなことを言わないようなセンスを持ちあわせている。
また、本作のセンスは監督のオリジナルのセンスではなくて、他の映画やドラマからの引用やマネのような気がする。
自分が本当に身に付けたセンスではないので、しっくりとこないのではないか。
「ラストはラブストーリーあり、裏切りあり、大どんでん返しありの誰も見たことのない凄いものにするぜ」という声が聞こえてくるが、バランスが悪く、美しさもロマンも何もないただのごった煮という仕上り。
本作にこれほどの俳優が揃ったことが不思議だ。
“伊坂原作”という点に惹かれたのだろうか。
それとも脚本は読まずに原作を読んだのか。
ただ、出演者たちが楽しそうに、きちんと演技をしていただけが救いだった。
薄っぺらなキャラクターになんとか深みを出そうと懸命に努力をしているだけに監督の罪は重いかもしれない。
ファッションについてはそれなりに楽しめるので、この点だけは評価したい。[DVD(邦画)] 1点(2010-02-03 23:44:04)(良:1票) 《改行有》
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