みんなのシネマレビュー |
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21. 真空地帯 《ネタバレ》 「組織保身の為には個々の人間性や感情は無視される」「目的達成のための効果的かつ合理性に基づいたものではない、ただ末端に至るまで感情を引き上げる為の前時代的な押し付けで運営されている行動規範」「責任の所在が不明瞭なままの組織戦略」軍隊生活の非人間性を訴えたこの古典のテーマが、2023年の今に至るまで問題提起されてるのは、どういった了見なんでしょうかね...。少し録音が聞き取りづらいところがあったので(独立プロ作品なので大手よりはリマスターの機会少ないのかな)その点がマイナス。[映画館(邦画)] 7点(2023-08-13 10:48:30) 22. 地球防衛軍 《ネタバレ》 結局、ミステリアンが地球侵攻失敗した理由って 日本をターゲットにしたからなのではないか。 土地だってもっと広い場所もあるだろうに。 白川由美さんの入浴シーンでドキドキしちゃったのかな。 日本の盆踊りに惹かれちゃったのかな。 この頃から日本、インパウンド的に魅力あったんだろな。 それはともかく...地球滅亡の危機たるもの、 H・G・ウェルズ「宇宙戦争」なり、「インディペンデンス・デイ」 的な侵略側の絶対的力を誇示する等の大緊張が あってしかるべきなのだけど、モゲラの鉄橋橋踏み外し・ マーカライトファープ光線への頭ぶつけ、では幻想譚としても なんか膝カックンな展開が繰り広げられる点が、歯がゆい。 その反面地球移住への条件として「種の保存」を要求し 地球人女性を捕えて基地に連れてゆくってのは妙に 生々しさを感じて、気恥ずかしい。 ただ今回スクリーンで鑑賞して良かったのは、 「現実に有り得るのではないか」と感じさせる 小松崎茂デザインの各種兵器。そして 私が「東宝・伊福部昭3大マーチ」と勝手に名付けてる (あとはゴジラのテーマ/怪獣大戦争マーチ) 地球防衛軍のテーマを大音量で聴けた事。 得した気分に、なりました。[映画館(邦画)] 6点(2023-08-04 20:03:37)《改行有》 23. アルゴ探険隊の大冒険 《ネタバレ》 今年度の「午前十時の映画祭」で一番楽しみに してたの、もしかして本作品かもしれない。 人生初のハリーハウゼン、劇場体験というポイントで+2点。 個人的に好感が持てるのは、映画の肝がハリーハウゼンの特撮 である、と認識した上で演出/編集/音楽等がそれを盛り上げる為 のフォローを惜しまなく実行している事。モンスターの行動に対して いちいち演者がリアクションをするカットを律儀に入れていたり、 おどろおどろしさ溢れるベタな音楽もスクリーンで聴くと心地よい。 常日頃から「ハリーハウゼン=文楽(歌舞伎)」説を主張し 私は友達から馬鹿にされているのだが、あえて力説しておきたい。 彼の造形したモンスター類はモデルアニメなので、滑らかな 動きを要求される。この作品自体、ストップアニメの撮影等で 2年の年月をかけて(特にラストの骸骨剣士×7体とのバトルは 4ヶ月かけたそうな)るのはそういった自然な動きを求めてのもの。 ただ彼のモデルアニメの演出には決まって「溜め」の動きがある。 プラスチックのモデルに命を吹き込む作業として彼は、実際の 動植物の動きを参考にし、クリーチャーが動く直前のコンマ秒を 「溜め→瞬発→起動」の流れで撮影してる、そこに「藝」を感じる。 そしてそのワンテンポ留まった瞬間が私にとって文楽や歌舞伎の 「見得を切る」仕草に被るのだ。後世に残るだけの映像作家っぷり。 今回劇場で拝見してヒュドラの顔(7つ首)がそれぞれ表情が異なる 細やかさ、あと骸骨剣士の持っている盾や刀、槍の造形の違い あとタロス像の間抜けっぷり(笑)がより堪能できたのも好印象。 さあ、そこな映画ファンの皆様、 劇場に足を運び心の奥底から叫ぼうではないか、 「よっ、ハリー、千両役者!!」と。 てか、おじさんには最近のCG表現の乱雑ぶり、疲れるんだよな...。[映画館(字幕)] 8点(2023-08-04 19:22:07)《改行有》 24. 遊び 《ネタバレ》 「2023年:大映4K映画祭」関連企画で初めて劇場鑑賞。 私が増村監督を知ったのはテレビドラマ:山口百恵主演「赤い衝撃(’76〜)」、 堀ちえみ&風間杜夫主演「スチュワーデス物語(’84〜)」(脚本)位から。 少年期の私からすれば「なんちゅう暑苦しく、クドイ作品なんだ」と感じてたけど、 彼の経歴を辿ってみればTV界における彼の業績は「才能の出涸らし」でしか なかった事がわかる今日この頃。そりゃ「盲獣(’69)」みたいな世界観、 より大衆性を求められるテレビでは絶対に出来るわけないもんね。 青春映画「くちづけ(’57)」で監督デビューした彼にとって 最後の大映作品となったこの一本が青春譚になったのは 大映在籍時にやりたい事全てやりつくしただろう彼が、 生涯のテーマ「感情を露わにする、近代的人間像 を日本映画に打ち立てる」への原点回帰として 取り上げたのではないかな、と個人的には感じてる。 アメリカンニューシネマから影響を受けたと思われる 若者二人の逃避行を描くこの作品、突然挿入される わかりづらいフラッシュバック(過去の回想)とか 大門正明の台詞廻し等、鬱陶しい展開の上 「若さ故のあやまち」から来る悲劇感ありあり。 でもなんかその若さがその悲劇を打破してくれる、 という希望も感じさせる雰囲気に包まれてる作品で 自分にとって好印象なのでこの点数。 それを強調しているのがこの年16才(!)の関根恵子 のヌード/濡れ場シーンとボロ舟を押しながら川へ流れゆくラスト。 日本青春映画の佳作としておすすめ。機会があれば。[映画館(邦画)] 7点(2023-06-20 19:56:33)《改行有》 25. 腰抜け二刀流 《ネタバレ》 神田・神保町シアターにおける「生誕110年・森繁久彌特集」にて初鑑賞。NHKのアナウンサーから始まった経歴は今でいう「マルチタレント」の先駆けであり、「当時の世間では一段下に観られていた喜劇役者が本格的な演劇役者に成り上がる」系譜の道筋を作り上げた人物として、最後は国民栄誉賞まで受け取ったのだから凄い才能であった、と思うのであります。そんな彼にもはじめの一歩はあった訳で、それが30代で初主演となったこの作品。ある大名の御家騒動に巻き込まれた鉄火肌の飲み屋女中とそのパートナーになる、剣豪:宮本武蔵と勘違いされた偽物香具師、この二人が巻き起こす時代劇ミュージカル。題名からわかる通りノーマン・マクラウド「腰抜け二丁拳銃(’48)」の引き直し版でありジェーン・ラッセル:轟、ボブ・ホープ:森繫なんですよ、これ。ただ作品そのものは換骨奪胎どころか脱線転覆...いや脱線ほどではないけどグダグダな展開が進み上映時間の短さもあってあっという間に終劇。この映画の見どころはやはり舞台(喜劇)役者として脂の乗り切った彼のコメディ・ミュージカル演技。映画への経験値が無い分未熟な感は否めないけど、戦後芸能史に多大な影響を与えた、「スピード感ある軽妙洒脱さ混じった演技」の一端が見られるところは最初の主演作から感じられるのではないだろうか。あと同年にデビューした香川京子の出演もさることながら、清川虹子の登場にはちょっとビックリ。 [映画館(邦画)] 5点(2023-05-17 21:16:41) 26. 悲情城市 《ネタバレ》 初見時(ロードショー公開:私は浪人生)「何でこれがキネ旬1位なのか...さっっぱりわからん」だったこの映画、評価が変わったのは20代になって中国/台湾の人と仕事で付き合う様になってから。・同じ台湾人なのに台湾語を好んで喋る人もいれば、全く喋らない(喋れない):標準語(北京)語のみ喋る人がいる。・中華思想を礎とする台湾人:国土である台湾も中国の一部なのに頑なに「取り込まれたくない」台湾人の感覚が中国(本土)人はわからない。・他のアジア圏の日本人に対する初見時の反応と比べて台湾の親日ぶりは、ある意味異質。この作品はそういった疑問:戦後史なんて禄に勉強しなかった自分にとって「映画によって世界を知った」1本。台湾現代史をグダグダ書いても仕方ないのでここは皆様調べてもらいたいのだけど、ポイントとしては「敵であった中国人同士が統治をしなければならなかった悲劇」であり、「日本の植民地統治が台湾本省人(戦争前から台湾に暮らしていた人達)にとって外省人(中国国民党の台湾移動に伴い、中国各地から移住してきた人達)から迫害される原因の一因になってしまった」事。ホウ監督自身は「日本を糾弾するつもりは全くなく、80年代までタブーであった題材を撮れる様になったので作品にしてみた」とコメントを出してるけど、戦後40年経って、現代台湾の混乱を招いた原因の一因に日本の植民地支配が有った事を始めて白日の下にさらした作品だから、そりゃぁインパクトはあるよなと今は思ってる。 映画としては歴史上の事件そのものが描かれている事は全くなく、ただある一族:四兄弟の生活に影響を及ぼしてゆく情景を映し出しているだけ。ただ各シーンを注視してみると実は深い、深ーい内幕が描かれていて胸にくる。(個人的には2・28事件において、弾圧の選別基準となったのは「台湾語/日本語をしゃべるかどうか」だったのがショック)あと香港人のトニー・レオン、この当時は広東語オンリーで標準(北京)語が喋れなかったので口が利けないという設定にしたらしいのだけど「目は口ほどに物を言う」彼、妻となる女性と筆談でやり取りを交わしそのシークエンスのみ字幕表記になるところ、卓越した演技力で私にとって好きな男優になりますた。(だからこそラストの家族での写真後降りかかる悲劇が切ない) MCUユニバースでマンダリンやってるよ、て当時の俺に言ってあげたいよ、ほんとう。2・28事件と台湾近代史の勉強が必要と思うので少々ハードルは高いけど、機会があればって...だからなんでDVD廃盤+現時点でサブスクも無しなのさ、んとうに。長文失礼しました。[映画館(字幕)] 8点(2023-05-10 21:17:27) 27. 陽のあたる坂道(1958) 《ネタバレ》 日本「青春」映画のエバーグリーンですよね、この作品。今回神田神保町シアターにおける「デビュー70周年/芦川いづみ」特集で初めて劇場にて鑑賞。実は私、今回の特集に当って芦川いづみの別作品(今回は「あした晴れるか(’60)」「乳母車(’56)」)を鑑賞してたのですが、この作品上映時は明らかに観客層が違う。つまり芦川いづみだけではない、石原裕次郎/北原三枝/川地民夫ファンにとっても思い入れのある一本ってことなんでしょう。戦後日本青春映画のビッグバンは日活+石原裕次郎の登場=「狂った果実(’56)」と考えてる自分ですが、不良性を強調し過ぎた演技、くどすぎてあんまり好きじゃない。但この作品においては「(マーロン・)ブランドじゃなくて(ジェームス・)ディーン的」な心に陰のある若者、というスタンス/演技が私だけではない、当時の老若男女に受け入れられ俳優石原裕次郎が大スター、ブームとなる後押しとなった1本としてご年配の映画ファンから愛されているんだなぁ、と感じたわけっすよ。あともう一点思ったのは、若手のフォローに回っているベテランの役者があっての日活青春映画であったという事。主演4人の魅力以上に彼らを支える小杉勇/千田是也/森川信/小沢昭一の演技が上手なので3時間半の長い映画も意外と退屈せずに鑑賞出来た。その中でもMVPは轟夕起子。1967年、49歳という若さでこの世を去ってしまう彼女にとっても、この作品は記憶に残る名演技としてもっともっと評価されてもいいはず。そういった事を念頭にいれつつ、50年代末~60年代中旬の日本芸能社会を牽引していた日活青春映画(大門軍団とか七曲署のボスだけではない石原裕次郎の魅力)を堪能していただきたいということで、機会があれば。あとスクリーンで見る北原三枝+芦川いづみ、良かったなぁ...。結局そっちかい。[映画館(邦画)] 7点(2023-04-02 19:14:16) 28. みんな~やってるか! 《ネタバレ》 長い事映画ファンしてると、「今でこそ『名作』とされてるけど上映当時は?だった」映画をスクリーンで鑑賞する恩恵というものはあるもので、例えばタランティーノ「レザボア・ドッグス(’93)」とかとデ・パルマ「カリートの道(’93)」なんかはロードショー時に観てる。「ヒッチャー(’85)」もそう。これ『映画ファンの自慢』。反対にどうしてこんな映画をスクリーンで見てしまったんだろう、という「悪魔の毒々モンスター(’84)」「メガフォース(’82)」「死亡の塔(’80)」なんかは「おれこんな映画ミチャッタ!どMだぜ!」という『シオシオ鑑賞眼』もある。(「スペースバンパイア(’85)」は大スクリーンの鑑賞:いろんな意味で満足したので『自慢』)『My鑑賞眼、失墜』もあるだろう。観客の期待値と実際の鑑賞に乖離が有りすぎて駄目だコリャなヤツ。 それは皆様の方がご存じのはず。...でレビューに戻る。 実はこの映画もちゃんとロードショー時にスクリーンで見てる。なんてチャレンジャーなんだろ、俺。そりゃぁ20代で鑑賞した際はくだらなさすぎてあっけにとられましたよ。友達から感想を求められた際、「まだ見てないからわからないんだよね~」でごまかしたし。黒歴史みたいなもんだ。ただ最近再鑑賞し馬鹿馬鹿しいほどのくだらなさはともかく、この作品は人間北野武の述懐:「エラそーな事言っても結局人間なんて性欲/食欲/金欲、煩悩の塊じゃねーか、ケセラセラ」いつの間にかトップに上りつめた、自分自身への嘲笑なんじゃないかな、この作品。この後彼はバイク事故で生死の境を彷徨った挙句「一時はうつ病であった」旨の発言をしていた事もあって、そんな思いを私感じたわけですよ。なので『失墜』から『シオシオ』へこの作品は格上げ。ま作品そのものは時間の無駄的くだらなさ満杯なので、この点数なんだけど。あと感心したのは才能の無駄遣いじゃなくて、才能を「洗練された」無駄遣いで起用してた(小林昭二/岡田真澄/ちゃんばらトリオ)点。[映画館(邦画)] 2点(2023-02-12 09:49:46)(良:1票) 29. あゝ声なき友 《ネタバレ》 「もっと上手くできたんじゃないのかなぁ」というのが率直な感想。戦没兵の遺書を遺族へ届ける為、日本各地を旅する男を渥美清が演じたロードムービー。役者渥美清が映画化を熱望し、個人プロダクションを立ち上げてまで作品化した意図は明白。復興に沸く社会の光が届かない、戦争の影や闇に未だ苦しみもがいている人達に焦点を当てるなんて題材は戦後四半世紀が経ち、少しずつ記憶が薄れつつあるこの時期だったからこその上映だったんだろうな。がこの作品、評論家からは酷評・興行的にも失敗。渥美清にとってはこの映画の失敗によって、役者スケジュールを「年2回の寅さんと松竹大作へのゲスト出演」にシフトし、観客の求める「寅さん(もしくはそれに近いキャラクター)」に専念する事を決定づけた1本になっちゃったと自分は思ってる。70年代は戦争体験者が社会構成上まだ多かったであろう時期、「戦争がもたらす悲劇」を描くのはリアル過ぎると不快を覚える観客もいたろうし、といって現実から離れた絵空事みたいに描けば作品を世に出す意味は薄れる。個人的には最近の調査で「太平洋戦争下における兵士の死亡原因の6割は飢餓・もしくはそれに伴う戦病死である」旨を知っている分だけ、その背景にはもっと奥深い、闇の深淵が広がってる題材と思うのだけどすべてを映すのには限界があり、その点が自分の感じる「もっと上手くできなかったのか」につながる。(同じ1972年に深作欣二が東宝で「軍旗はためく下に」を先に上映してるのも大きい)NHK等のドキュメンタリーでも「届かなかった兵隊の遺書」テーマは扱う様になってはいるがそれでも90〜2000年代。やはり早すぎた企画だったんだろう。この映画のポイントは「渥美清の役歴上、もっとも陰のある役柄」。世評では「拝啓天皇陛下様(’63)」などが挙げられるが個人的にはこっち。この題材こそ現在リメイクしてあげるべき、なんだろうな。機会が有れば。[映画館(邦画)] 7点(2023-01-28 12:25:06)(良:1票) 30. 銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲<オーヴァチュア> 《ネタバレ》 OVA第二部(バーミリオンの戦い/銀河帝国の統一)が終わったこのタイミングで何故この作品を制作上映したか考えると多分、今の「鬼滅の刃」的セールスマーケテイング=映画のヒットを狙いOVAの販売促進につなげる+柳ドジョウで映画第2・第3弾も、と目論んだけど思ったよりもヒットしなかった+バブルが弾けて予算も無い、でスクリーン上映機会がこれ以降なかったのは残念でもあり、また当然かなと思ってました。(OVAは物語最後まで完走した点は良かった)だから2022年末にリバイバル上映、ってのはビックリ。この機会もたぶん「(リメイク)銀河英雄伝説 Die Neue These」の販促も兼ねて、何だろうけどおじさんとしては約30年ぶりのスクリーン鑑賞と大音量のクラシックだけで満足。(点数はともかく)あと個人的な感想なんだけど、国家と政治/戦争と平和/民主主義を考えるとっかかりとして、中学生以上の若人にこの作品体験を通過してもらいたい。というわけで順番は小説→OVA:Die Neue These→OVA:石黒版→漫画(道原かつみ版でも藤崎竜版でもOK)かな。てなわけで、小説版の後で興味があれば。[映画館(邦画)] 5点(2023-01-15 19:35:06) 31. あいつばかりが何故もてる 《ネタバレ》 「渥美清の魅力は寅さんだけにあらず」常々から言いまくってる私としては、今年1月から始まってる神田・神保町シアター「俳優・渥美清:「寅さん」だけじゃない映画人生」この企画が全くもって我が意を得たりでジャストフィットなラインナップなんですよ。喜劇役者であった彼だからもちろん人情劇・喜劇は良い。ただ私としましてはそういった枷に組み込まれる前、人間の「業」みたいな、暗い面を演じていた渥美清に物凄い魅力を感じ「寅さん休んで、極悪非道の大悪人とか性犯罪者とか詐欺師みたいな役柄、やってくんないかな」と思ってました(ファンの皆様、本当にすみません)。その位渥美清、という役者には人間が持つ心情の振幅を演じ分けられる技量というのかポテンシャルがあったんだ、とも一回力説いたします。(と同時に最後まで寅さんに徹し、彼の演技の「闇」を見せる機会はついぞなかった事も賞賛に値します) 初めての主演作品となったこの作品に関していえば、テレビ界(この当時テレビは生放送が主流だった)に慣れてるからか、演技が急ぎすぎというのか「間」の取り方が後年の名人芸までは至っておらずそこがマイナス点。但し「人情味溢れる」スリ役という彼の役柄は喜劇的なペースにはあるものの、目の奥に見える漆黒というのか闇というのか、という雰囲気が早くも見受けられそこはポイント。それ以上にもっと大事なのはその後邦画界を支える「国民的兄妹(今回神保町シアターのパンフより)」倍賞千恵子との初?顔合わせ。個人的には三木のり平・田中春夫・森川信・清川虹子のフォローもうれしいが、やっぱり寅とさくらだよね、この場合。[映画館(邦画)] 5点(2023-01-15 14:57:42) 32. ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~ 《ネタバレ》 私はドキュメンタリーに啓蒙的要素を求めるひねくれ者。 であるからして、「才能がショウビジネスの闇に潰される」 という没落セレブに良くありがちな題材だし、 内容も想像の範疇内なので作品の評価はこんなもん。 彼女の生涯最後のワールドツアーである、 さいたまでの2010年2月ライブを見ている。 たまたまファンの友人(彼は1988年のライブを両親と 鑑賞しそのスケールとテクニック、まさに「天下を掴む」 直前の彼女を見て大感激したのだそうだ)と同行。 ライブ終了後、友人の表情に漂う「見なきゃよかった」 感は忘れられない。彼女はMCで語ってた。 「ステージが久しぶり過ぎて、ドキドキものなのよ」 観客はわかってた、緊張でなく限界だったこと。 但自分、このライブには満足というか、感動した。 何というのかこのツアーにカムバックをかけ、 声が出なくとも必死にステージをこなそう としてる彼女にテクニックとかスケールとか を越えた、一途さを感じたのだ。 あの頃には戻れない、だけど 酸いも甘いも味わった彼女には 新しい魅力・未来があるのではと。 でこの映画だよ。 歌が喜び/幸せを表すものではなく、苦役/義務となった事、 自分の幸せよりも愛情を与えてくれた周りに恩恵を施すこと を生きがいとしてしまった事。(だから夫のボビーもこの 映画目線でいえば、悪人ではない気がする。個人的だが) たぶん私がステージで見たのは、彼女が歌の喜びを 取り戻そうとするリハビリの一環だったのだ。 (その後彼女の体調不良は次のツアー場所:ヨーロッパで 顕著になり、結局ツアーは中止、生涯最後のものとなる) そんな感想をこの映画を鑑賞してつれずれに書いてみた。 長文ですが気障に終わらせます。ありあした。 And if, by chance, that special place That you've been dreaming of Leeds you to a lonely place Find your strength in love[映画館(字幕)] 6点(2023-01-04 07:32:05)(良:1票) 《改行有》 33. 空の大怪獣ラドン 《ネタバレ》 2023年初・映画館鑑賞はこの作品。 スクリーンで特撮映画を見るのは、いいもんだ。 「ゴジラ(’54)」が(核)戦争体験、「モスラ(’62)」が神話/御伽話 という点を観客に想像させる作品としたら、この映画で自分が 感じたのは身近にある恐怖=人間社会に被害を及ぼす 害獣(それこそ熊とか虎とかワニとか)の存在。 なので個人的にはメガヌロン発生~ラドン出現に至る、 前半パートの方が出色、と思ってる。 とはいえ後半、ラドンが北九州を衝撃波で蹂躙してゆく 一連のシーンはゴジラ(’54)からわずか2年しか 経ってないのに、カラー映像も含めて特撮技術の 進歩・当時の映画業界の隆盛ぶりが垣間見え、 これはこれで一見の価値はある。 上映時間の短さが不満なのと 前年の「モスラ/4Kリマスター」に感動しすぎて インパクトという点では今回レビューとして この点数なんだけど、ちゃんと入場料金分の モトは取れた。機会があれば是非。[映画館(邦画)] 7点(2023-01-02 14:01:40)(良:1票) 《改行有》 34. 蜘蛛巣城 《ネタバレ》 オーソン・ウェルズ版('48)やロマン・ポランスキー版('71)、 ジャスティン・カーゼル版('15)も見てる(ジョエル・コーエン版は未見) 自分としてはキリスト教の教義がわからない分、単純に 「野心と欲望に満ちた男の破滅」を日本的(能や狂言みたい表情演技) なテイストで味付けしている、「マクベス」の映像化として一番面白かった。 好きなのは2点。まず女性の使い方が黒澤明作品史上一番うまい。 女性の美貌というより情念に重きを置いてるのが彼らしいっちゃ彼らしい。 山田五十鈴と浪花千栄子なら当然か。 あとは黒澤明の演出するアクション場面・演出力はこの当時 世界映画史上の才能をもっていた事がわかる、という点。 森林の中を駆け抜ける馬のダイナミズムや有名な弓矢の ラストシーン。それを担っていた三船敏郎の素晴らしさもあるけど 弓矢が一本壁に刺さる、からのあの矢衾(やぶすま)は単純に凄い。 あえて難点をいうと、やっぱり音質。 今回「午前10時の映画祭」での4Kリマスター版で鑑賞。 映像は素晴らしいし、30年前に場末の映画館で感じた時の 「台詞がさっぱりわからない」頃から比べれば凄い改善なのだが、 これは出来たら字幕つけて欲しい。自分の鑑賞時は無かったけど 他のところはどうなのかな。老年に至る映画ファンの為にも、 いろんな意味でのバリアフリーを![映画館(邦画)] 8点(2022-12-11 08:54:43)《改行有》 35. 牛久 《ネタバレ》 我々は本当に「良識のある国際人」と言えるのだろうか? 入国管理センター職員達の行為は、日本人の心情を写す鏡の 様なものではないか。「異文化・異人種」に対する怯えを 振り払う為の行動としての威圧。日本人社会からの村八分。 彼らは我々、自分達自身でもある。 そして管理センターの行動規範は「難民=不法入国 してきた犯罪者」という前時代的なもの。臭い物には蓋 で、何十年とほったらかしにしてきた政府政策のツケが、 この混迷した世界には対応出来てない事を証明してるわけだ。 どうすりゃいいの、この状況? ドキュメンタリーとしては製作者の意見の押し付けが目立ち、 作品としては率直にいって自分は好きではない。レビュワー皆様 の捉え方によっては1点とか2点もあり得る作品だろう。 だけどこの作品に関しては私Nbu2レビューの 絞めパテーン、「~機会が有れば鑑賞下さい」とは書けない。 好き嫌い良し悪しはともかく、このドキュメンタリーは、 現代に生きる我々にとっての「踏み絵」たる作品だから、ちゃんと見るべき。 【追記】今回映画上映後にトーマス・アッシュ監督の挨拶があったのですが、 無知こそが最大の問題であり「この事実が何とか伝わって欲しい」、 「映画を鑑賞した人々が考えるきっかけになって欲しい」点を私は強く感じました。[映画館(字幕)] 8点(2022-09-11 06:29:57)(良:1票) 《改行有》 36. 教育と愛国 《ネタバレ》 国民の意思統制という点において「国威掲揚・愛国教育」がどれほど効果的なものであるかを若い頃の駐在経験で何となく認識してる自分でも、このドキュメンタリーで描かれている現在の日本政治と教育/宗教の結びつきを告発してるこの内容にはちょっと驚いてしまった。①度が過ぎるほどの愛国心教育は視野の狭窄化を招き、他国民への偏見を生み出す土壌となりかねない。それを情操教育時に組み込む時点でどうかしてる。(お花畑、と言われるかもしれないが私は「国民あっての国家」を信じたい)②人間の営みが積み重なったものが歴史上の出来事なので、関わる人一人一人に言い分やそれぞれの観方があるはず。なので「歴史教科書に書かれている出来事は100%真実ではない、一つの事象には多面性/多様性があるのだ」という授業・教材こそが歴史教育に絶対必要と思ってる。ところがこの国の教科書検定に携わる方々はそういった多様性/多面性を遮断するような方針に力を注いでいるどころか、「目にすると不快だから」みたいな感覚で戦争の惨禍や他国への侵略の歴史といった出来事を矮小化した記載で済ませてしまってる。そんな出来事すら記載しない、「薄っぺらい」教科書ってなんなのだろうか。③最大の問題は思想と政治が結びつく危険性を全く認識しないまま「得票数と政治資金」の為に喜々としてそういった団体に協力している日本の政治風土・風習、と合わせてそんな彼らに投票してる我々国民なんだろうな。あの事件があった後、報道各社はあら探しに邁進してるけどどうせのど元過ぎれば、であんな事があったよねで終わってしまうんだろう。 その前に皆様、心の防災ベルがぬるま湯につかったまま動かないなんてならない様、良し悪しはともかく鑑賞ください。長文失礼いたしました。[映画館(邦画)] 8点(2022-09-04 18:48:14)(良:1票) 37. 電撃フリントGO!GO作戦 《ネタバレ》 金もあり、女にも不足せず、尚且つ凄腕のスーパー・スパイ、デレク・フリント:という触れ込みで始まるこのスパイ映画の冒頭、ジェームス・コバーンの空手の型から(なにせ彼は一応ブルース・リーの弟子だし)「多分、この人は煩悩溢れすぎて『感じるよりも考えやすい』キャラなんだろうな」と観客に思わせてしまう位の緊張感のなさがこの映画の魅力なんだと思う。敵の組織に侵入する方法として「自分の心臓を止める」という民明書房にやり方が掲載されてそうな体術の持ち主にも関わらず、美女を侍らすフリントは下腹部がぽっちゃり気味でビキニパンツを着用、というある意味拷問なシーンもあり。しかも結構長い時間。 後年の「オースティン・パワーズ(’97)」シリーズは007というより、この映画にインスパイアされたんではないかな?と思うのですが如何でしょうか。 ...でもってこの映画を日本人にとって更に記憶に残したのはコバーンの吹替えフィックス、小林清志さんの演技力。毒針に付いていた料理の匂いから「ブィヤベィ~ズ!」=フランスからの刺客、と叫ぶコバーンは眉唾ものなんだが、小林氏の声で「ブイヤベースだ!」と言われるとなんか説得力が増す。贔屓目もあるが、コバーンの軽妙洒脱さをより強調する事でこのある意味くっだらない作品をちゃんと成り立たせてしまう「声優マジック(小林氏ご自身はあくまで「俳優」としてのスタンスを保ち続けられていましたが)」を堪能できる作品として、この点数。氏自身も印象的な吹き替えとして挙げておられるこの作品をもって、追悼文とさせていただきます。小林清志さん、本当にお疲れさまでした。 [地上波(吹替)] 6点(2022-08-08 17:17:54)(良:1票) 38. 結婚のすべて 《ネタバレ》 邦画界隈における「新人監督のデビュー作」という点では、増村保造「くちづけ(’57)」の次に好きなこの作品。成瀬己喜男/マキノ雅弘/本多猪四郎等の助監督業をしてた岡本監督のデビューのきっかけは、当時文学界における脅威の新人石原慎太郎が「自作を監督として映画化する」という企画を東宝経営陣が立てた事。素人が映画を撮る事に猛反発した所属助監督たちがストライキを起こしそうになった為、上層部は助監督の中から監督デビューをさせる折衷案を示し、岡本監督が推薦を受けたという流れらしい。ただ準備にはあまり余裕の無い状況で(手間がかかるだろう)好みである西部劇/フィルム・ノワールでは無く、急ぎで脚本を書いたこの艶笑劇が第一作となったわけだ。 この映画の欠点を話してしまうと「新しい恋愛のかたち」を求める新劇女優の卵/雪村いづみを主演とし、その姉役として朴念仁である夫(上原謙)から得る愛情の薄さに悶々としている人妻/新珠三千代、二人に巻き起こる理想の恋愛・結婚の行く末を描いた話なのだけど、主演の雪村いづみよりセックスレス(どうみても)に悩み、周りの状況によろめきやすい新珠三千代の話の方が流れとしてメインになってしまっている為、「で新しい恋愛は?」と解決しないままラストになるのが自分にはちと惜しいのでこの点数。但し私がこの作品が好きだ、というのはまず「喜八節」と呼ばれる細やかなカット割り/マッチカットの鮮やかさ、そしてユーモア溢れる可笑しさが処女作から見受けられるところ。庵野秀明にも多大な影響を与えた点、楽しんでいただきたい。そして最後に新人監督の作品にしては物凄く配役が豪華な事。小林桂樹/ナレーターだけで笑えるのに中丸忠雄/三橋達也/藤木悠/佐田豊/田崎潤/ミッキー・カーチスといった、後の喜八組の面々。三船敏郎+仲代達矢には驚かされた。天本英世とか岸田森がいないかなと探しちゃったよ。今年2022年10月に初の廉価版DVD発売。機会が有ればぜひ。[映画館(邦画)] 6点(2022-07-31 18:31:04) 39. 宮本武蔵 一乗寺の決斗 《ネタバレ》 事前に町山智浩・春日太一「日本映画講義 時代劇編 (河出新書)」を読んだ上で、2022年GWに4Kリマスター・リバイバルを鑑賞。黒澤明「用心棒('61)」を起点とするリアル時代劇の流れによって制作されたとは言え、個人的な感想としては「のんびりとした東映時代劇らしさが残ってしまっている」このシリーズ。ところがこの作品における一乗寺の死闘=カラー画面がモノクロに変わり汚泥の中で多人数と闘う宮本武蔵、このシーンだけは物凄い緊張感と迫力があり、このシーンを見るだけの為に映画館鑑賞の元は十分取れた感がある。町山氏+春日氏の本の中で印象的だった記述はまず、監督内田吐夢の戦争体験。満州国の設立に参加した彼が敗戦による混乱を経験・戦後残留民として約7年間、極貧の中で生きてきた、という=この白黒シーンはそんな重苦しい戦争体験を表したのではないかという感想を私、持ったわけですよ。そしてもう一点、正月ロードショーとして公開されたこの映画、その年の興行収入6位だったにも関わらず東映上層部の評判よろしくなくこの作品でシリーズ打ち切りの可能性もあった、という事。藤子・F・不二雄先生のオバQだと思ったら実は「劇画・オバQ」だった、位の観客の戸惑いが東映上層部には映ったんだろうなぁ。...え〜、とにかく日本の時代劇史上屈指の名作ですので機会がありましたら。特に1作目(新免武蔵=中村錦之助のギラギラ感が素晴らしい)と4作目のこの作品は必見。[映画館(邦画)] 8点(2022-06-25 07:12:46) 40. 愛のコリーダ 《ネタバレ》 吉蔵演じる藤竜也にレビュー点数全振り。 70年代の修正版リバイバル→2000年完全ノーカット版 →2009年クライテリオン版無修正ブルーレイ→2021年2Kリマスター、が私の鑑賞履歴。 因みに無修正度は丸見え順に無修正ブルーレイ>2021年リマスター>2000年>修正版。 この映画の困った点はあまりにも性器のクロースアップ・性交描写が露骨過ぎるので どんなに大島監督が芸術作品である、とうたっても、周りからは「わいせつじゃん、これ」 と片づけられてしまう事+性描写に尽力注ぎ過ぎで肝心のストーリーが薄い、という事にある。 阿部定事件を描いた作品としては前年に制作された監督田中登/主演宮下順子の 「実録・阿部定('75)」の方が事件の背景・心情もわかりやすい。 ただ私はこの作品、「性愛の行く末」を描いた映画として当時の世界映画史上 徹底的にやり切ったという点に評価をしてあげたいし、何よりも藤竜也のキャラクター に尽きる一本だと思う。「女からの狂おしい愛情を受け止め、死に至るまで付き合う」 という概念は当時の男尊女卑の風潮から考えたら有り得ないだろう感覚で、 『この出演依頼から「逃げちゃいけない」と思った』という藤竜也の想いがちゃんと 表れている事に(実際、彼はこの映画出演により所属事務所を退社し、 約2年間、映画界から締め出される=休業)感心しつつこの点数。 個人的には大島監督の小難しい主張が炸裂する「日本の夜と霧('60)」、 「絞首刑(’68)」「儀式(’71)」よりは好き。機会があれば、と言いたいけど 兎に角露骨でございますので、その点はどうぞご勘弁。[映画館(邦画)] 7点(2022-06-22 13:21:54)《改行有》
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