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21. ビッグ・フィッシュ 《ネタバレ》 10数年ぶりに視聴した。 ホラ吹きと言わんばかりのありえない展開の数々。 でも、ファンタジーだからこそできること、見えるものがある。 父が辿った人生の足跡には、数多くの人たちとの出会いがあり、数多くの宝物を作り出した。 自分をよく見せるためではなく、誰かを幸せにするための優しい嘘。 ぎこちない関係だった父子の最後の願い、そして語り継がれていくもの。 クライマックスのおぼろげだった記憶が甦り、涙を流していた。 自分も親に家族に対して、そこまで向き合えるだろうか。 本作製作当時のティム・バートンは家庭を持ち、父親を亡くしたことから、 彼のパーソナルな要素が多分に含まれているだろう。 その輝きが詰め込まれた代表作の一つと言っても良い。 近年ヒットはしてもピンとこない作品ばかりなので、特大ホームランをもう一回打って欲しい。[インターネット(字幕)] 8点(2025-01-31 23:59:47)《改行有》 22. Chime 《ネタバレ》 『CURE キュア』ver.2.0 と言えば良いのか。 ある異物が気付いたら存在していて、"恐怖"という名のウイルスがじわじわ広がっていく。 45分の中編である分、ストーリー性も含めて無駄な要素が徹底的に排除され、 如何に演出力だけで恐怖を伝えるかに注力している。 爬虫類顔の吉岡睦雄が適役。 料理教室の一生徒が異常のように見えて、後の面接シーンでは自分のことばかり延々と喋っていて不気味。 いや、妻も息子も唐突なアクションを起こし、どうしてそうなったのか説明されない。 黒沢清が追求する根源的な恐怖とは、この"分からない"にあるだろうか。 『関心領域』と同様に、本作でも音響が要。 BGMがない分、包丁で肉を切る音、空調設備の異音、空き缶を潰す音、その環境音がより際立ってくる。 気付いたら何気ないことでもストレスが蓄積されて、魔が差したように防衛本能としての暴力に走る。 音に敏感で神経質である分、避けたくなるような、悪いことが起きるかもしれないという恐怖と不安に共感してしまった。 外界の物音からシャットアウトされた映画館で観たかった。[インターネット(邦画)] 7点(2025-01-31 23:42:23)《改行有》 23. ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語 《ネタバレ》 いやぁ、最後までシュールだった。 映画と演劇と小説を合体させた演出手法で、作家から富豪へ、富豪から医師へ、医師から導師へ、 語り手が入れ子のように代わっていく構成が面白い。 徹底したセット撮影と仕掛け絵本みたいなアーティスティックな美術に、 これぞウェス・アンダーソンの映像センスが光る。 嘘みたいな話をみんな真剣な表情で淡々と語るのが何とも可笑しい。 映画の中心人物であるヘンリー・シュガーが意図も簡単に透視能力を得てカジノで大儲けするも、 働いたことのない金持ちのボンボンだから心の充足感がなくて、 イカサマで世界を渡り歩きながら慈善事業に奔走するのがどことなくシニカルで味がある。 40分で気楽に見られて本作でしか得られない栄養素がそこにあった。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-28 22:28:48)《改行有》 24. ジャックは一体何をした? 追悼デヴィット・リンチ。 長編デビュー作の『イレイザーヘッド』を彷彿とさせる粗めのモノクロ映像に、 尋問する刑事と猿の会話の噛み合わなさがコントのやり取りみたいでもあり、 深く解釈しようにも意味の無いような感じだったりが原点回帰とも言える。 明らかに猿の口元が合成臭さ全開でより歪さを際立たせる。 人間と動物が上手く共存しているかのように見えて、 それぞれの価値観の尺度に齟齬が発生する様は『ズートピア』的である。 このフィクションの世界で"正しさ"とは何か、それは誰が保証して、どこまで許容されるべきか。 現実世界の差別と偏見の本質はそこにある。 …とは言え、変に雁字搦めに考えるよりは、 この意味不明さを堪能することがデヴィット・リンチらしさとも言える。 唯一無二の世界観を作り出した監督の逝去に、一つの時代の終わりを迎えた。[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-27 22:52:07)《改行有》 25. 劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ THE FIRST GAME 《ネタバレ》 ふと思い出して検索してみたら、本作が登録されていたのね。 視聴時期はテレビアニメが流行っていた当時のものになります。 原作漫画もテレビアニメも本気で見てはいけない類のものだよ。 全国大会前後からテニスの形をした"テニヌ"という格闘技を描いた能力系バトルギャグ作品です。 中盤の不二の必殺技の演出からギアが入ってきて、ますます現実離れした展開に。 特に手塚ゾーンは腹を抱えて笑いっぱなしの歴史に残るシーンだろう。 テニスの試合で豪華客船が沈没して、水中で球の打ち合い、 終いにはドラゴンボールみたいに空を飛んで、服がビリビリに破れて全裸でスーパーショット。 あれってイメージですよね?演出ですよね? そういうツッコミを入れながら見る映画です。 なお、続編の『新・テニスの王子様』になってからは、予想の斜め上をいく能力系バトルギャグ漫画になっており、 あまりの開き直りっぷりと、連載から25年経っても勢いが一向に落ちないのは凄いとしか言いようがない。[DVD(邦画)] 5点(2025-01-26 18:45:56)《改行有》 26. 逃走中 THE MOVIE 《ネタバレ》 本音を言えば、作品の新規登録なんてしたくなかった。 誰かが身代わりになって酷評して欲しかった。 公開当時、あまりのクオリティの低さで、 映画系YouTuberから格好のおもちゃにされてお祭り状態。 興行成績も348スクリーンの大規模上映の割に初登場5位、次週圏外という悲惨さ。 邦画恒例の『○○・ザ・ムービー』という題名のTV番組の映画化と聞けば、 粗製乱造のネガティブなイメージしか湧かない。 そう、見る前から地雷原以外の何物でもなく、本作はその中でもそびえ立つク○の中のク○映画だ。 手抜き、子供騙しでもヒットするだろうという観客を馬鹿にした姿勢が透けて見える。 TV番組自体はよく知らないが、セミドキュメンタリー要素により、 結果がその後のストーリーを反映させているという(ある程度の台本はあるにせよ)。 ただ、この劇場版は100%台本ありきで動いているため、 要である「逃走中」要素に臨場感が全く伝わらない。 ゲスト登場のヒカキン、クロちゃん、ガチャピンをはじめとする着ぐるみキャラが 時折画面に挿入され、バラエティのノリをそのまま映画にした姿勢に安っぽさを禁じ得ない。 後半の異空間デスゲームでは前半のロケ撮影で製作費が尽きたのか、 クライマックスをひたすら引き延ばすグダグダが延々と続く。 主人公の青年たちが一人一人脱落するも即ではなく、 これでもかと青春のぶつけ合いみたいな陳腐なドラマを引き延ばす。 もはや「逃走中」ではなく「会話中」だ。 ワイルドハンターに捕食されるグロ描写など一切なく、 量子化されて吸収されるCG演出に、振り切って観客を楽しませる気などないらしい。 全体的に友情物語が薄っぺらすぎてバラバラになった絆が一つになっていく説得力も感じられない。 女子高生と口の利けない弟の存在は要らないし、番組を乗っ取った謎の組織の詳細も投げ出したまま。 ケバケバしい衣装やら、チープなセットやら、本作の評価を決定付けさせるマズい予感しかなかった。 アイドル映画として需要はなくはないが、誰もが魅力も演技力も感じられず、 一週間も経たずに忘れ去られるだろう。 無許可撮影で近隣住民とのトラブルが発生し、 クルーが「あなたたちとは違うんです」と開き直る始末。 過去の栄光と成功体験にしがみつき、その選民主義と言わんばかりの傍若無人さが、 まともで才能のあるスタッフを流出させ、下請けに任せてばかりで番組制作能力を失い、 やがて大御所タレントのスキャンダルから始まった局ぐるみの大問題に繋がったのは当然と言える。 総務省が庇ってでも、偏向報道、質の低い手抜き番組しか作れないフジテレビに存在価値が果たしてあるのか? 最悪、倒産によりサブスクで見れなくなる可能性があるが、駆け込み需要で見るほどの価値すらない。 かつて、ドリフのお笑いやごっつええ感じ、トリビアの泉で楽しませてもらったが、 東日本大震災直後の粗製乱造の手抜きとゴリ押しとフジテレビ抗議デモで見限ることになった。 それから10数年して落ちるだけ落ちたフジテレビには何の感慨もない。 本作はフジテレビ末期を象徴する世紀の大愚作と言えよう。 実写版『デビルマン』のように歴史に残さず、存在自体を抹消したい。[インターネット(邦画)] 0点(2025-01-24 23:53:22)(良:1票) 《改行有》 27. 太陽の法 エル・カンターレへの道 《ネタバレ》 昔だったら信者でもない限り、レンタルでの視聴も困難なはずが、 今やサブスクでも見れる良い時代になったものだ。 隆法の代表的経典をアニメ化したものだけあって、 歴史番組をそのままなぞっただけのストーリー性のない代物であり、 さらに思想強めの説法が延々と続き、一体何を見せられているんだ? 如何にもなアレな映像の洪水に、映画館で観ていたら気が触れていただろう。 何度見てもついていけない。 『UFO学園の秘密』で登場した宇宙侵略者のレプタリアンは既に本作からいたのね。 隆法亡きいま、関連のアニメ作品のほとんどがサブスクで見れるとのことで、 あとは『永遠の法』と『宇宙の法 黎明編』を見るのみ。 どの作品もネタで見てるにしても時間が勿体ないと感じる。 生活していくために嫌々請け負ったアニメーターと出演声優たちに労いの1点を献上します。[インターネット(邦画)] 1点(2025-01-23 22:21:07)《改行有》 28. トランス・ワールド 《ネタバレ》 YouTubeで誤ってネタバレを見てしまったのが残念に思える。 しかし、それを差し引いても無駄が一切ない脚本で、 ほぼ小屋と周辺の森だけの展開なのにも関わらず一気に"魅せる"。 一つ一つの台詞が伏線になって、4世代にわたる壮大な家族の物語になっていく。 映画としての粗やツッコミどころはなくはないが、 運命を変えようと奔走する登場人物のドラマに見応えがあった。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-22 21:00:16)《改行有》 29. サタンタンゴ 《ネタバレ》 7時間半かけて描かれる、ある寒村の死。 建物は朽ち、壁が剥げかけ、あぜ道には止まない雨が降り続け泥土に覆われる。 酒に溺れる年寄り、歳を食った売女くらいしかおらず、互いに足を引っ張っているだけ。 閉塞感に満ちた村に死んだと思われる青年の帰還と孤独な少女の顛末が物語を大きく動かす。 ただ、そこに至るまでの一日を各登場人物の視点でゆったりと進むため、 一枚の地図ができあがるまでに4時間強を要する。 一瞬が永遠に感じられるほどに引き延ばされた緩慢な長回し、虚構が現実の時間と同一化する。 秩序の中に当て嵌められた支配者と被支配者の狭間に、自分はどこに属するのか? 行きつく先にあるのは"搾取"である。 搾取する相手を失った者には絶望しかない。 自らを強者と思い込み猫を殺し、自ら命を絶った少女もそうだろう。 一方で、不安を煽り、信頼を獲得しようと村人の心に付け込む青年は救世主の顔をした詐欺師だった。 金を巻き上げ、いったん疑心に陥らせた後で脅しに近い言葉で信頼を強固にさせる念の入れよう。 ただ、そんな彼も警察のスパイ網を作らせるために釈放されていることから、 真に搾取している存在とは……言うまでもないだろう。 外敵から虐げられるままのハンガリーの被支配者側の歴史が本作に反映されている。 希望をチラつかせては絶望に叩き落される不条理は世界中どこでも普遍的だ。 配信ではなく、ストップボタンを押せない映画館で"体験"する映画。 どこに向かうか分からないあやふやさを含めて、わずか150カットの画の吸引力にしても、 ダラダラ撮っただけの映画ではないことをタル・ベーラは証明してみせる。[インターネット(字幕)] 6点(2025-01-17 23:26:42)《改行有》 30. Away ゆっくりと少年を追う、死の象徴である黒い巨人。 港町に向かってバイクにまたがり、巨人から逃げ続ける少年。 非常にシンプルなストーリーと一切の台詞なしで、 僅かに読み取れる背景からいくらでも解釈ができるだろう。 ただ、台詞なしで突き進むにはより映像の緩急が欲しいところで、 睡魔に襲われそうになったため、75分で締めたのは正解だと思う。 寝る前に白昼夢として静謐な世界観に浸るのが正しい見方だろう。 パソコンのスペック次第で一人で長編CGアニメを作れる。 CGのクオリティはともかく、 クリエイターの明確なビジョンと作家性があれば天下を取れる。 本当に良い時代になった。[インターネット(字幕)] 6点(2025-01-11 15:39:29)《改行有》 31. ザ・テキサス・レンジャーズ(2019) 《ネタバレ》 時代に取り残された老いた二人のテキサスレンジャーの目を通して、 『俺たちに明日はない』で暴れ回ったボニー&クライドというアンチヒーローに縋り付くしかなかった、 大恐慌下の絶望の中にいる人たちと背景をディテールを以て描き出す。 治安維持という仕事のためとはいえ、過去に多くの悪党を殺してきた男二人がその業を背負い、 アイドル的存在のボニー&クライドが持て囃される時代の流れに抵抗しながら、 与えられた役割を全うしようとする。 禿げた頭に弛んだ腹、小便は近く、早く走ることもできず、かつて引退したのもあり銃の腕も衰えている。 若造の捜査官が使うハイテク機器に負けない二人にあるのは長年培われた経験と勘。 二人が追う間にも、ボニー&クライドは警察官たちを情け容赦なく至近距離から顔面を撃ち抜く。 『俺たちに明日はない』で描かれていたボニー&クライドの反骨的なアイコンは虚像でしかない。 追跡側のヒューマンドラマなんだから、凶悪犯の素顔もドラマもほとんど映さない潔い姿勢は正解だろう。 捻りもないオーソドックスさで中弛みがあるのは事実だが、製作陣の誠実さが伝わってくる。 かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだったスターのケビン・コスナーとウディ・ハレルソンのいぶし銀の魅力と共に、 過去の存在になっていったテキサスレンジャーの枯れ具合に哀愁を添える。 結末は既に誰もが知っている。 ボニー&クライドが死に、遺体を載せた車には遺品を自分のモノにしようと群がる人々、 葬儀には2万人ものファンが参列した裏側で、カップルによって落ち度のない人々の人生が壊されたのも事実。 1000ドルを受け取る代わりにインタビューを求められるも、「恥を知れ」と断る二人。 殺さないと自分たちが殺される、こうするしかなかったと虚しさと無力感に苛まれるも、 車で帰路につく途中、運転を交代するまでに信頼関係を築いた二人に誇りと感慨を覚える。[インターネット(字幕)] 6点(2025-01-03 12:47:17)《改行有》 32. 俺たちに明日はない 《ネタバレ》 強盗カップルによるロマンチックな逃避行だと思ったら、 「バロウ・ギャング」として複数人で犯行を重ねていたことを初めて知った。 (史実だと幾度か入れ替わりがあったので、多少の脚色はあったと思うが)。 秀逸な邦題通り、軽快で、刹那的で、破滅的。 '30年代当時の禁酒法と世界大恐慌という不安定な時代に鮮やかに犯行を重ねる二人に、 貧しく抑圧されていた者はある種の"義賊"として羨望の的、神格化しているのは大きいだろう。 主演の二人がカッコ良く美化されて、表現の自由の限界に挑戦しているあたりも、 本作製作当時のベトナム戦争等の国家への不満、 反体制・反権力のアイコンとして持て囃されていた暗い時代が重なる。 昔の映画らしくテンポはもっさりしていて、見ていて集中力があまり続かなかったし、 犯罪集団にさして魅力的にも感じなかった。 ただ、リアルで鬱屈や疲弊を抱えている人ほど共感するのは分かる気がする。 アメリカン・ニューシネマの定義通り、どう足掻いても最後は権力によって屈服して潰えていく。 「言いなりになって死ぬくらいなら最後にデカい花火を打ち上げよう」と言わんばかりの、 無敵の人たちが生まれゆく、悲惨で腐敗した時代への嘆き。 因果応報と言えばそれまでだが、唐突なハチの巣状態で崩れ落ちる、 二人が駆け抜けた生き様を永遠のものにさせるラストが鮮烈。 あれを見るだけでも十分お釣りは取れたと思うようにしよう。 追跡側の映画もあるようなので、そちらも見て当時の事件を立体的に俯瞰したい。[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-03 00:28:05)《改行有》 33. シティーハンター(2024) 漫画の実写化と聞けば地雷のイメージでしかなく、それも邦画なら尚更だろう。 過去にフランス実写映画版が好評ともなれば、 その高すぎるハードルを乗り越えるためにも入念な準備を重ねたと見た。 事実、本作は懸念材料を見事払拭している。 鈴木亮平演じる冴羽獠の作り込みは圧倒的で、 コミカルな時はとことんコミカルで、シリアスな時はとことんシリアス。 どちらが本心か分からないくらいに複雑な二面性を持ったキャラクターを、 神谷明寄りの声質も肉体的なアクションも余すことなく自分のモノにしている。 フランス版に比べるとシリアス寄りで血生臭さが目立つものの、 原作への熱意もリスペクトも伝わる、"本家実写版"ならではの矜持を感じた。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-02 15:58:37)《改行有》 34. バード・ボックス:バルセロナ 《ネタバレ》 マンネリを避けるため、感染者側の視点と世界観の拡張を推し進めた姿勢は買う。 ただ、主人公の姿勢と葛藤がブレブレすぎて、正体がバレてからの行動には「何を今更」と醒めてしまうことも。 極限状況でカルト宗教が跋扈して、家族の喪失感で狂っていた自分の行動に疑問を抱き、最後は自己犠牲の展開もありきたり。 感染者側のドラマはいいから、もう少しミスリードしたり、先が読めない展開にシフトした方がまだマシだった。 過去のトラウマとその感情変化が"何か"に対処できるとして軍が実験・研究をしており、続きを匂わせるラスト。 期待はしてないが、3部作としてキチンと完結させてほしい。 暇ならどうぞ。[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-02 15:27:49)《改行有》 35. 哀れなるものたち 《ネタバレ》 胎児の脳を移植され、甦った女性の魂は胎児のものか、それとも生前の女性のものか。 そのどちらもはっきりしないまっさらな状態のまま、彼女は知恵を得て、世界を見て、猿から人間に変化を遂げる。 そして支配欲に満ちた男が恐れるだろう、凝り固まった既存の常識をなぎ倒し、 愚かな所有物から独立して一人の女性としてのアイデンティティを確立する。 その成長過程をエマ・ストーンが余すことなく演じ切り、主演女優賞は納得。 ところが社会正義に目覚めようが、貪欲に知識を吸収しようが、倫理観と慈悲の心は身に付かなかったようだ。 フェミニズム映画のように思えて、"哀れなるものたち"とは一体誰だったのか。 現代における"正義の顔をした悪"の台頭に、本作はそれすら笑い飛ばしているように思える。 ルールを取っ払えば、男も女も悪知恵だけはある本能に従順な猿に過ぎないのだから。[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-01 23:58:00)《改行有》 36. レイジング・ブル 《ネタバレ》 オープニングの掴みがあまりに美しく完璧すぎる。 荒々しいボクシングの世界にカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲が効果的に流れる。 孤高故に狂暴であり、病的なまでの嫉妬と猜疑心で弟も妻も去っていく、 苦悶のジェイク・ラモッタのありのままの姿をデ・ニーロはストイックに活写する。 リアルに近寄りたくない男ではあるが、 ここまで狂わなければ世界ミドル級王者に上り詰めることなどできなかっただろう。 だからこそ引退後の幸福は長くは続かなかった。 聖書の一節「私は盲であったが今は見えるということです」。 かつての過ちを受け入れ、今日も人生というリングで贖罪を背負うラスト。 贅肉だらけで精巧さはなく、チャンプの栄光は過去のもので知らない人、忘れた人も増える。 家族に暴力をふるっていた"獣"は長い月日と後悔でとうとう丸くなった。 ボクシングを舞台装置にして、人生の真理を鋭く突いた芸術作品。[インターネット(字幕)] 6点(2024-12-30 23:57:32)《改行有》 37. ドライブアウェイ・ドールズ コーエン兄弟でおなじみのイーサン・コーエン初の単独作品。 LGBTQへの理解がまだ発展途上中の1999年を舞台に、 レズビアンのカップルが車両配送で危険な物品の入った車を受け取ったことから始まる珍道中。 兄ジョエルが撮った重厚な『マクベス』とは対照的に、 超一流の監督と超一流の俳優で撮られた犯罪映画の中身がお下劣B級テイストという落差で、 物凄い無駄遣いしているというか、あれほどの実績を築いたからこそ肩の力を抜いた映画を作りたかったのかな? 徹底的に最後まで下らない内容でもコーエン兄弟らしい含蓄を挟み、 対照的なキャラクターである主演二人は魅力的で、ありきたりなストーリーを乗り切る。 また、一歩間違えば政治利用されやすい同性愛要素はギャグの応酬で深く考える暇すらなく、 85分でコンパクトにまとめたのは正解だった。 でも、自分には合いませんでした。 イーサンの力量なら下ネタ控えめでもう少しサスペンス寄りにできたはずで、ちょっと期待しすぎた。 次回作は兄弟合作に戻るのか、単独で続けていくのかそこが気になる。[インターネット(字幕)] 4点(2024-12-30 23:01:46)《改行有》 38. ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 「良い映画を見たなあ」って素直に思える。 クリスマス映画の新たな古典誕生。 '70年代を意識したフィルムの質感と演出が、当時のベトナム戦争が影を落とす格差と差別を背景に、 傷と孤独を背負った者たちが如何に現実と向き合うかというテーマを普遍的なものにさせている。 三人が不本意ながら休暇を共に過ごしたことによって救われていく過程に、 たとえほろ苦い幕切れでも前向きに生きていく今後に思いをはせた。 大本命の『オッペンハイマー』がなかったら、アカデミー作品賞はこの作品だったかもしれない。[インターネット(字幕)] 8点(2024-12-27 23:13:26)《改行有》 39. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 《ネタバレ》 予想以上に淡々と描かれていく先住民オセージ族への静かな虐殺。 そこには西部劇における憧憬が完全に失われ、強欲と搾取がただの日常になった。 当初、ディカプリオが捜査官役だったそうだが、ヒーロー物語になることを恐れ、本人の希望で断ったという。 そのため、デ・ニーロ演じる有力者の叔父とオセージ族の妻との板挟みで苦悩する、 "平凡な男"という美味しい役どころではあるが、流されるがまま犯罪に加担してしまう時点で感情移入もない。 妻を愛しているのは事実だとしても、家族のために真っ向から抵抗しようとした時には既に手遅れで全てを失ってしまう、 そんな愚かな男の顛末を生々しく炙り出していた。 『羊たちの沈黙』でおなじみのFBIの原型はこうして生まれたのか。 エドガー・フーヴァーの名が台詞で登場したので、彼の伝記映画はいつか見てみたい。 前作の『アイリッシュマン』に並ぶ、3時間半に及ぶ大長編だが、スコセッシのテクノカルな演出と編集は冴えていて、 静かながら最後まで見届けるパワーは相変わらず。 トレンドの若者受け推しキャラアニメ映画、漫画実写化の対極に位置する"骨太な古典"が時代の流れと共に失われていく、 かつての黒歴史が風化されていく、その現実に対して必死に抵抗する巨匠の矜持が伝わってくる。[インターネット(字幕)] 7点(2024-12-21 12:51:09)《改行有》 40. AKIRA(1988) 15万枚のセル画に込められた、破壊、破壊、破壊、……そして誕生。 かつて遠い昔に見たまま、理解できないまま終わった物語に再び触れた途端、 新たな神話と繰り返されて来た歴史の環が浮上する。 モノであふれかえり、精神が荒廃し、閉塞感打破のために暴力に回帰していく。 "アキラ"という概念に振り回され、大義名分として暴走がインフレしていくカオス。 当時の時代が生み出したこの圧倒的エネルギーは現在では絶対に模倣できないだろう。 超能力のぶつかり合い、アメリカンな台詞の応酬、 緻密なディテールに裏打ちされたメカニックとサイバーパンクな世界観。 日本アニメの一つの到達点であり、先行きの見えない現代において破壊の先に何があるのか、 自分自身で答えを見つけるしかない。[インターネット(字幕)] 8点(2024-12-06 23:37:52)(良:1票) 《改行有》
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