みんなのシネマレビュー |
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501. 十二人の死にたい子どもたち 《ネタバレ》 連帯保証人にはなるな。夜中にラーメンを食べるな。と同じレベルで、『堤監督のサスペンスに期待をするな』との自身の中の鉄の掟を破って、久々の劇場鑑賞でありましたが、これが思いの外面白くて。正直びっくりいたしました。オフザケを封印した堤監督やるじゃんと(イニシエーションラブでも同じような感想を書いてましたね。監督、本当に失礼しました陳謝)。と前置きはほどほどにして、本題の感想に入りましょうか。集団自殺志願者の中に、紛れ込んだ殺人犯は誰か?この謎解きが主軸となって物語は展開いたしますが、まるで『金田一少年の事件簿』の如きノリ。ちゃんと探偵役までいるという親切設計です。種明かしをしてしまえば何ということも無いですし、そもそも推理が成立しているかも怪しいのですが、サスペンスミステリーの空気感創出は見事なものでした(監督、よくぞいつもの悪戯を我慢してくれました!)。真摯に役と向き合ってくれた若手役者の皆さん全員に拍手を送りましょう(個人的にはロリータパンクの子の方言と、金髪今どき娘が好印象!)。また、12人全員にバランス良く見せ場が用意されていた事にも感心しました。メッセージも定番ながら良いんじゃないでしょうか。ひとりで死ねない時点で、本当は生きたいと願っているのは明白ですから。最近いろんな面で行き詰まっていたので、元気を貰えた気がします。そんなこと全然期待してなかったのにね苦笑。エンディングスタッフロールでの時系列整理は秀逸なサービス。ジャッキーのNGシーン集のように不要なサービスとは違い、本当の意味での心遣いを感じました。エンドクレジット最後の注釈『未成年者の喫煙は、法律で禁止されています。』の皮肉が最高に効いていたので、座布団1枚ぶん点数上乗せします。[映画館(邦画)] 8点(2019-02-10 13:24:59)(良:1票) 502. キングスマン: ゴールデン・サークル 《ネタバレ》 前作鑑賞後、居ても立ってもいられず本作を観る為にレンタルショップへ急行しました。いやーこれまた面白いッ!!続編映画として、ほぼ完璧な出来。最初から前編・後編で製作するつもりだったのでしょう。私がシリーズ作品で重要視するのは、築かれた人間関係がきちんと継承されているか否か。エグジーと王女様が恋愛関係に発展していることも嬉しい驚きでしたが、死んだはずの主要キャストが復活というミラクルなご褒美つき。敵役で再登場の元キングスマン候補生チャーリーにしても、復活にあたり十分納得できる説明がなされています。緻密な脚本は、流石マシュー・ヴォーン監督。偉大な魔術師と同名、愛すべきマーリンを退場させた件は残念でなりませんが、花道を用意してくれたので我慢します。エージェントの散り際はこうあるべし。矜持の『カントリーロード』に涙しました。次作ではロキシーをちゃんと復活させてくださいね。伏線は確認していますので。「礼節が~」からの輩退治や、水責め試験の再現、実用品型スパイアイテムの数々と、シリーズファンなら大満足の充実したコンテンツ。ゴンドラ大回転やデタラメ銃撃、馬鹿誠実な主人公の性格も好きだなあ。グロテスク過ぎる悪趣味描写や、セレブの本人役出演は個人的には歓迎しませんが、これも本作の味と捉えれば余裕で許せます。美味い料理ほどクセがあるものです。王女様がドラッグに手を出したり、自発的麻薬摂取者にも救いの手を差し伸たりと、日本とは違う(?)社会背景や価値観が見え隠れ。今の日本が一発レッドカードの即罰・再起不能社会なら、とりあえずイエローカードから入る寛容さがアメリカの流儀と見て取れます(良識派の政権幹部が自身のドラッグ摂取を正当化したのはお笑いですが)。この空気感の差異は興味深く、大統領やウィスキーの考えを完全否定するのも違う気がします。だから面白いのですけれども。『ミッション・イン・ポッシブル』とは一味も二味も違うエンタメスパイ映画であり、基本的には馬鹿映画、そしてメガネ映画。『暴れん坊将軍』も真っ青のリアル王族スパイ『キングスマン』誕生の序章が見事に終結しました。監督交代なんかしないで、このまま突っ走ってください。続編が待ち遠しくて仕方がないです。[ブルーレイ(吹替)] 9点(2019-02-05 00:28:24) 503. オー・ルーシー! 《ネタバレ》 (長文失礼します)ダイナーでジョンとハグした時のルーシーの顔!目を見開き、唇を結ぶ様は、まるで子供の顔でした。実を言うと、私の二女も同じ顔をするのです。ハグというより、一方的な抱き付き。ここからは私の妄想です。もし節子が、当時も同じような顔で彼氏に抱き付いていたとしたら・・・。彼は尻込みしたのかもしれません。彼女の全てを受け止める度量が、若い彼氏には無かったのではないかと。だからと言って姉に乗り換えるのは在り得ませんけども。もし大切な人を取られたくないのなら、節子は戦わなければなりませんでした。彼とも、姉とも。でもそれをしなかったから、過去の恋愛を引きずるハメに陥ってしまった気がします。モノで溢れかえった部屋は、彼女が区切りを付けられていない証。姉との関係性をみても、泣き寝入りをしたことが窺えます(当然の絶縁案件ですよ!)。その後悔の念が節子を突き動かし、ジョンをアメリカまで追わせたとも言えます。ただ、時すでに遅し。節子は四十路。ジョンにとって、彼女は恋愛対象にはなりませんでした。おそらく彼女も、年下の姪と張り合えるとは思っていないでしょう。だからこそ、ジョンと関係したことを美花に顕示したかったのだと思われます。あるいは姉への怨みを、姪へ意趣返しかも。愛のままに我儘に、節子は自分を傷つけました(ん?)。やり残した宿題。自殺の一歩手前まで追い込まれる程、必死になって、馬鹿になって、自分の人生と向き合う必要が、節子にはあったのだと思います。小森と抱き合う節子の顔は、明らかに変化しています。自分の思いを預け、相手の気持ちを受け止める。対等な抱擁でした。この恋が成就するかどうかは分かりません。しかし、この縁を引き寄せたのは、彼女が必死に足掻いた結果に違いありません。人生の希望が此処にありました。本作の表テーマが“抱擁”とするなら、裏テーマは“身投げ”でしょうか。物語冒頭の衝撃描写。列車への投身自殺は、全体を通じた伏線となっています。駅ホームに佇むお局さんを取り巻く不穏な空気。誰だって、何時だって、すぐ傍に崖があるワケです。列車に飛び込んだ男、海へ身を投げた美花、そして修羅場の人間関係に身を投じた節子。待っているのは地獄です。ただし自暴自棄で身を投げた前者に対し、節子は“自身の欲望に従い”飛び込みました。どちらも賢い選択とは言えません。でも、人としてマシなのはどちらでしょう。私は愚かな節子が愛おしく思えます。満たされない中高年女性の“リアル”を演じせたら、寺島しのぶの上手さは抜きん出ています。見事なまでの“閉塞感”。凄い女優さんです。ルーシーは、あなたの横にいる、あるいは、あなた自身。だから沁みるのです。(以下余談)映画ポスターコレクターとしての視点。センスが悪いことでは定評がある邦画ポスターの中にあって、本作のデザインは上等です。あのシーンを切り取るとは。メッセージ性、インパクト、ともに抜群でした。というより、ポスターデザイン先行で該当シーンを挿入した気さえしてしまいますが。[CS・衛星(邦画)] 8点(2019-01-30 00:29:27) 504. キングスマン 《ネタバレ》 BSで放送していた続編『ゴールデン・サークル』のオープニングカーチェイスをたまたま(およそ5分ほど)観て、画面に釘づけに。これはシリーズ初作から追わねばと本作鑑賞に至りました。やや、やや、何なんでしょう。この面白さは!!カーチェイス、ガンアクション、バトルシーン、どれもアイデア豊富で小気味良いったらありゃしない。教会での壮絶な殺し合い。クライマックスの頭部爆破ショー。軽快な音楽に乗せて行われる虐殺は、まともな感覚なら完全にアウトです。道徳的な“後ろめたさ”は免れません。それでもなお、エンタメとしての爽快感が遥かに上回ります。ここで見逃せないのが演出上の気配り。例えば前述の頭部爆破では、真っ赤な鮮血をあえて見せません。ネオンチックな彩りで“花火”として処理。この印象操作を“不謹慎”と捉えてしまうと本作はオールNGとなるでしょう。しかし極めて道徳的な選択を事前に提示することで、観客のモラルの天秤を均しています。それは、主人公が最終試験で愛犬に引き金を引かなかったこと。“子供と小動物は殺してはいけない”映画の鉄則には、悪趣味映画のレッテルを回避する効用がありました(もしかしたら回避していないかもしれませんが苦笑)。物語序盤、ポリスとの追いかけっこでも、車はちゃんと犬を避けていましたし。そうなんです。派手なアクションに目が行きがちですが、本作の長所は脚本の巧みさにあります。例えばロキシーの高所恐怖症、ヴァレンタインのゲロ。重要なものから、しょうもないものまで、伏線はてんこ盛り。水責め試験では、参考書通りの正答例を見せるライバルに対し、物事の本質を突く主人公の素直な選択に感心します。ツボを押さえた良脚本に悪ふざけのスパイス。この面白さは、どこかで観た気がすると思ったら、なんと『キック・アス』の監督さんでしたか。なるほど面白いワケです。伏線確認も兼ねて、最低2回は楽しめる映画。もう大好きです!![ブルーレイ(邦画)] 9点(2019-01-25 00:27:48) 505. 高台家の人々 《ネタバレ》 物語の骨子は『ローマの休日』『プリティ・ウーマン』『ノッテイングヒルの恋人』と同じ格差恋愛もの。主人公の妄想癖は『赤毛のアン』や『アメリ』でお馴染み、愛すべきヒロインの定番キャラ設定のひとつ。平凡な主人公が、数々の障害を乗り越えて王子様と結ばれるまでを描くシンデレラ型ラブストーリーです。言わずもがな、本作最大の特徴は“王子様がテレパス”ということ。個人的には、DVや浮気癖に匹敵する無理案件だと思いますが、それを乗り越えるところに浪漫があるのでしょうね。さて、押さえておきたいポイント。それは木絵に対して語りかけた由布子の言葉「ちょっと妙な力があるくらい何よ」。母が子供たちの特殊能力に気付いていたことが判明します。2人の結婚を反対したのも、身内にテレパスがいる大変さを知っていたから。何となく流してしまいそうな事実ですが、これって結構重大な告白。何故なら、子供たちは両親に自身のテレパス能力を隠しているのですから。夫婦は“子のテレパス能力に気付かないふり”をして、育ててきたワケです。特殊能力など全く意識せず、丸ごと子供たちを愛してきた証。茂正Jr.の“空気を読まないほど馬鹿正直に思いを口に出す”人となりも、“何故そのような性格が形成されたか?”を考えると泣かされます。テレパス能力が無い人とだって、ちゃんと良好な人間関係が築けるのよ。だから自分の能力を否定しないで。それが父と母からのメッセージであり、高台家の教育方針。何という大きな家族愛でしょう。『高台家の人々』というタイトルの味わいが増します。この手の天然ヒロインをやらせたら、綾瀬はるかの右に出る者なし。素敵な“家族愛”の物語でありました。[DVD(邦画)] 7点(2019-01-20 00:28:43)(良:1票) 506. 夜明け告げるルーのうた 《ネタバレ》 巨大な御陰岩は、「既成概念」や「古い価値観」あるいは「主人公の内なる心の壁」の象徴と見て取れます。つまり御陰岩の崩壊という結末には“変化を恐れるな”というメッセージが込められていると考えます。カイ父も“結果を恐れるな”と。自ら人型に変態し、かつ他者に人魚化を促すルーは、変化のシンボルです。今回の一件を通じ、まさに人生の分岐点にあった主人公は勿論のこと、貝類採取の激減が見込まれる漁港の人々の生活、そしてルーを含めた人魚族の行く末も、否応も無く変化が訪れるでしょう。そう、変化には痛みが伴います。それでもなお、環境や状況に適応し、変化し続けなければ生きていけないのが人間です。というより、全ての生物に架せられた宿命。歩みを止めたものは消え去るのみです。都会で成功しかなった伊佐木先輩が、故郷で新しい夢を見つけたこと。老若男女で力を合わせて開けた水門。途切れ途切れ、ゆっくりでないと伝わらない屋外放送。そして人間と人魚族のチームプレー。己が人生に立ちはだかる“壁”を打ち破るためのヒントは、ふんだんに出されています。覚悟なく、安易に変化を望んだ『人魚ランド』なる目論見が失敗したことも見逃せません。チャレンジの先に未来があります。日本アニメーション界の巨匠であり、神とも言える宮崎駿監督の代表作のひとつ『崖の上のポニョ』に真正面から対抗した本作にも、先述のチャレンジ精神が隠されている気がしてなりません。躍動感と疾走感あふれるアクション、デフォルメと記号化で印象強化、そして豊かな想像力。観客の心を突き刺す湯浅政明スタイルは、宮崎監督とは違う新たな価値観を呈示しています。日本アニメーションの新たな“夜明けを告げる”本作の心意気に対し、私は『ポニョ』と同じ10点満点というかたちで応えたいと思います。[DVD(邦画)] 10点(2019-01-15 18:55:44) 507. 来る 《ネタバレ》 極端な物言いをするなら、本作の是非を決定付ける分かれ目は、松たか子さんのキャラクターに魅力を感じるか否かに尽きると考えます。完全無欠のプロフェッショナルとして、ある種の冷酷さを漂わせていたスーパー除霊師が、最終決戦で露にした”愛“や”情“すなわち”人であるが故の弱さ“に価値を見出だせるかどうかが鍵。(ちなみに、“何か”が姿を現したシーンの衝撃は絶大でした。絶望は美しいです)あれ?この感想って中島監督の『告白』の時と同じですね。やっぱり中島監督は、松たか子さんの使い方がお上手なようで。そして終わり良ければ全て良しと(ハッピーエンドという意味ではなく)。王道のオカルトでありながら、ホラーを観ている感覚はありません。これまた不思議な味わい。怖いというより、面白い、興味深いとの印象です。ちなみに”何か“は、難病や麻薬中毒なんかと置き換えても成立するでしょう。恐ろしい敵と対峙したとき、人の値打ちが明かされます。[映画館(邦画)] 8点(2019-01-12 17:37:14)(良:1票) 508. 獣は月夜に夢を見る 《ネタバレ》 DVDに収録されていた予告編には、トーマス・アルフレッドソン監督の『某作品』を彷彿させるとのコメントが。ああ、それ言っちゃうんだという感じ。おっしゃる通り、基本設定は『某作品』(後にヒットガールちゃんでリメイク)を連想せずにはいられないもの。言葉を選ばなければ二番煎じです。ただし、オリジナリティ云々を理由に低評価を付けるつもりはありません。そんな事言い出したら、ゾンビ映画なんてほとんどパクリですし。問題なのは尻切れトンボのような終わり方。彼女の素性は知れました。さあそこからどうするかって話が知りたいんです。確かに彼氏から意思表明らしき言葉は発せられました。でも行動が伴ってこそ初めて価値が生まれるのでは。ピロートークの「愛している」と、クロちゃんの「守るから」を信じられるほど、お人好しではないもので。寒々とした空気感はさすが北欧の映画。見慣れた米国製映画のそれとは違う新鮮味を感じましたが、ちょっと残念な仕立てでした。[DVD(吹替)] 5点(2019-01-10 19:18:22) 509. 犬猿 《ネタバレ》 私は長男で、妹が一人。また三姉妹の父親でもあります。本作は個人の経験(人間観)と照らし合わせて楽しむタイプの映画。同じ兄弟でも、異性と同性では当然ながら関係性は異なるワケで、私の場合は比較対象とするサンプル=娘たちとなります。車の座席、おやつの分配、お風呂の順番、外食先の店選び。全然すんなり決まりません。その一方タッグを組んで強力なおねだり作戦を敢行することも。仲が良いんだか悪いんだか。絶対的に頼れる友であり、最高に苛立つ永遠のライバル。今はまだ幼い娘たちですが、大人になったらあんな風になるのかと思うと、感慨深いことで(苦笑)。本作のタイトルは『犬猿』。これは愛あるタイトルと捉えましょう。嫉妬しようが煙たかろうが、本作の兄弟姉妹はいずれも相手を認めています。同じ桃太郎チームの一員です。桃太郎=親が不在となったとき、どのように関係が変化するか(あるいはしないのか)興味深いところですね。現実には全く相容れない『水と油』な兄弟もざらに存在しますので、充分微笑ましい兄弟関係の物語と感じました。あのシチュエーションで厄介者の兄を見捨てなかった弟は尊いというか、お人好しというか。監督の人の良さが現れていると思います。その一方、コーヒーカップに乗るニッチェに豚鼻の効果音を入れたりと、嫌らしい(悪戯な)一面も。実に吉田恵輔監督らしい映画であったと思います。最後にキャストにも触れておきましょうか。男の方は人気と実力を兼ね揃えた俳優コンビであるのに対し、姉妹ペアは芸人とグラビアタレントの組み合わせ。本職役者組と比べると演技面では流石に敵いません。しかし、彼女らは彼女らなりに、生々しい犬猿姉妹の空気感を見事に作り上げてくれました。何より顔の造作が似ているところがポイント高し。コント上手のニッチェ江上は兎も角も、筧ちゃんが予想外に良くてちょっと驚きました。決して演技が上手いわけではないですよ。でも自らのリアル芸能人生をキャラにダブらせ、身を削った心意気や良し。根性もありそうです。要するに、筧ちゃん=二代目磯山さやかという結論でファイナルアンサー。[DVD(邦画)] 8点(2019-01-05 16:58:05) 510. 百円の恋 《ネタバレ》 デビュー戦が決まった晴れやかな表情の主人公に、冷や水を浴びせる会長の言葉「10年遅いよ」。全くもって正論です。『人はいつだってやり直せる』。巷に溢れるのは、希望に満ちた心地よいフレーズ。でも実際はそんなに甘くありません。ピークを過ぎれば、坂道を下るように人の能力は衰えていきます。知力、体力、そして気力さえも。それが自然の摂理。一子はもう32歳。元引きこもりニートがボクシングの真似事をしたところで、高が知れています。しかし、思いもよらぬ出来事が転機となるのもまた事実。主人公の場合は、男の裏切りに対する“怒り”がキッカケでした。自堕落な生活を送っていた頃の“逆切れ”や“八つ当たり”とは違う“本気の憤り”は持続力を有し行動原理となり得ます。ボクシングに打ち込む主人公は素晴らしく魅力的に映りました。人は変われる。これならデビュー戦勝利も夢じゃない気がしたものです。しかしリングの上で待っていたのは、一発のパンチさえ当てられぬ厳しい現実でした。いくらシャドウが様になっても、所詮仮想の敵は自身。ままならぬ他人との対戦は別物です。経験が物を言う世界。それは恋愛も同じですよね。ボコボコにされ、血反吐を吐くみじめな姿は、彼女が無為に過ごしてきた人生の中間決算と言えましょう。長年己が人生から逃げてきたツケが、一時の頑張りで完済できるはずもなく。でも、それでも、崖っぷちで繰り出した渾身の左フックは、彼女が積み重ねた努力の結晶に他なりません。遅過ぎる頑張りだとしても、しないよりずっとマシ。勇気を出して手を出さなければ、ラッキーパンチさえ望めません。泣けました。それはもう泣けました。主人公がこの先“客を呼べるプロボクサー”になるのは難しいでしょう。でも観客(家族や元彼)の思いを背負って戦えたのなら、もう立派にプロだと思うのです。一子、凄いよ。前言撤回。まだ32歳。まだまだ、これからです!彼女がリング上で見せた闘争心は、自らの人生と対峙する際にも役立つはずです。その彼で大丈夫ですか、そうですか。今度は逃がさないように。思う存分、真正面から、ヤツと戦いましょう。KOして尻に敷いてやりましょうよ。 キャラクター造形は繊細で、前フリのドラマが長いこと。いつまで経っても主人公がボクシングを始めやしない(苦笑)。でもその分、どっぷり主人公の内面に潜る時間が持てました。なんという丁寧なつくり。その上で、これまた丹念にトレーニングシーンを描いてくれるのですから、感情移入するなって方が無理な話。デビュー戦のカタルシスは絶大でした。安藤サクラの女優としての非凡な才能なくしては成立しなかった、正しいボクシング映画。傑作です。[DVD(邦画)] 9点(2019-01-01 00:00:01)(良:4票) 511. ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 《ネタバレ》 承太郎の髪型と服装、億泰の顔のバッテン。これがダメ。本当に駄目です。原作に忠実であれば許される(褒められる)と思ったら大間違いです。この部分について、製作チーム内で問題にされていないとしたら、それこそが問題。この(ある意味些細な)不具合だけで、余裕で不合格点が付いてしまいます。キャスティングについては、仗助ママに観月ありさはグレートでしたね。[DVD(邦画)] 4点(2018-12-30 19:57:04) 512. 曇天に笑う 《ネタバレ》 大事なコトを登場人物が全部台詞で喋ってしまうB級以下の映画で時々みられるズッコケパターン。でも本作を観ると、それでも説明があるだけ有難い気がします。原作ありきかもしれませんが、一見さんに優しくないつくりと感じました。3兄弟の立ち位置(職業)は?5人組(やまいぬ)の家系と特殊能力は?曇天が続くとき、大蛇が復活?その器となる人間がいるらしい。そいつを殺す?それとも守る?沢山の疑問を抱えたまま、ぬるりと進むストーリー。最後まで見れば解るからOKって話でもないような。リアルタイムで問題を共有したいじゃないですか(そう、いみじくも次男が長男に言っていたように)。そういう意味では確かに難しい設定であったとは思います。一般常識では処理しきれないのがファンタジーの弱点。さらに陰陽道系。そもそも胡散臭いったらありゃしない。明治初頭という知ってるようでよく知らない時代背景も難解さに輪をかけます。間口はことのほか狭いです。また、最初からいきなり強い主人公にも感情移入が叶いません。修行もなくクライマックスのボス戦突入ですか。ジャッキーチェンだって、孫悟空だって、強敵と戦う前は修行するんですが。だから一緒に燃えることが出来るんです。更にいうなら廃刀令後だから、刀じゃなくて鉄扇なんですよね(これは常識で分かる範囲)。でもそれでゴロツキの巣窟に乗り込むって、流石に無茶が過ぎてロマンとは言えないですよ。全体的に中二病な雰囲気アリアリの物語は『トュームレイダー明治維新版』といった趣。キャラクター名は皆なかなかのキラキラぶり。白子で「しらす」。当て字じゃないですけど、普通は「しらこ」では。ほら、海苔の。伊東四朗の。『ニンッ』の。人件費は相当にかかっているのは間違いないので、豪華なつくりの映画だとは思います。[DVD(邦画)] 4点(2018-12-25 21:26:57) 513. 悪女 AKUJO 《ネタバレ》 女殺し屋リベンジ系バイオレンスアクション。セールスポイントは、ノーカット長回しの主観映像でしょう。オープニングとクライマックスで、これでもかと言わんばかりに、撃ちまくり、斬りまくります。確かに臨場感は絶大で、インパクトは強烈。ただし、視認性には難ありで、動きをまともに追うと酔ってしまうかもしれません。既視感あるベタな復讐劇は、古今東西の同カテゴリーの有名映画のエッセンス満載で、さすが韓国映画の面目躍如といったところでしょうか。外連味のある演出は、良く言えばエンターテイメント、悪く言えばマンガチック。最終的には『ターミネーター』みたいになっていましたが、流石にやり過ぎてはいませんか?[CS・衛星(字幕)] 6点(2018-12-20 19:17:11) 514. ライフ(2017) 《ネタバレ》 個人的にSF映画は理系(科学)-文系(哲学)軸と、派手系(アクション)-地味系(ドラマ)軸で分類できると思っています。理系-派手系の代表作は『スタートレック』『インターステラ―』、理系-地味系は『ガタカ』『メッセージ』。文系-派手系は『スターウォーズ』、『エイリアン2』文系-地味系は『E.T』『コンタクト』。(有名・名作で作品名が挙がっていないのは、観ていない(観そびれている)か、恐れ多いから。『2001年~』とか『ソラリス』とか。カテゴリー別けの異論は認めます。考えているうちに自分でも解らなくなりました苦笑)。で、本作は理系-地味系に分類しておきましょう。傑作の多いジャンル。観始めたうちは同カテゴリーの『エイリアン』を彷彿とさせる雰囲気に、好意的に観ていたのですが次第に尻すぼみに。何が悪かったのかと考えてみたのですが、筋立てに必然性が感じられなかったのが要因かと。例えば結末。『ミスト』くらい袋小路に追い込んでくれれば、バッドエンドも納得出来たと思うのです。サプライズのためのサプライズでは、残念ながら心は動きません。[DVD(字幕)] 5点(2018-12-15 21:59:36) 515. 銀魂 《ネタバレ》 これはね、アレですね。『オールスター新春かくし芸大会』の味。一流のスター(あるいは年末年始限定で稼ぐタレントさん)が、普段は決して手を出さないオフザケ設定の余興ドラマでハメを外す、かつての年始の風物詩。本作はそのグレードアップ版。演者がそれぞれの役割を完璧に理解しているのが素晴らしいです。福田組のレギュラーの佐藤二朗やムロツヨシのアドリブ強めのオモシロ演技は勿論のこと、岡田将生や堂本剛はお笑い抜きの生真面目演技(という体裁の実はギャグ)で、物語に筋を通します。そう、そうなんです。外側はとことん悪ノリギャグでコーティングしながら、作品の本質は実にオーソドックスなヒューマンドラマ。まるでカステラに挟まれた羊羹のような(・・・その名はシベリアという)。観終えて何故か「良いものを観たな」という気にさせられる福田マジックをご堪能ください。私は原作未読ですが問題なく楽しめました。というか、最高。[ブルーレイ(邦画)] 8点(2018-12-10 20:26:04)(良:1票) 516. バッド・ガール(2012) 《ネタバレ》 凌辱を受けた女性が加害男性に復讐を果たす“リベンジサスペンス”は、そこそこ目にするジャンル。カタルシスが魅力です。ただ、本作については“爽快感”は皆無でした。確かに主人公が受けた屈辱は(本人にしてみれば)理不尽なものだったかもしれません。しかし“加害者”が受けた報復が、主人公が受けた痛みに見合うかと問われると疑問です。復讐の原則は“目には目を、歯には歯を”の等価報復。先に手を出した方に原因があるので、個人的には倍返しでも問題ないとは思いますが、それでも殺人はやり過ぎ。完全に別件の痛みや苦しみも上乗せした上での復讐となっています。もう普通に殺人鬼としか思えません。ルームメイトとか同級生は完全にとばっちりですよね。満たされぬ家庭環境、幼少期の性的虐待、ジェンダーにジャパンカルチャーと、物語にハクを付ける装飾要素は垣間見えますが、本質的に物語に深みを与えるものではありません。[DVD(字幕)] 3点(2018-12-05 21:54:18) 517. ジェーン・ドウの解剖 《ネタバレ》 広げに広げた大風呂敷。嫌な予感はありましたが案の定といいますか、オカルトで畳むなら、そりゃ畳めるでしょうよというのが率直な感想。また生還要件が付されていないのも個人的にはマイナス査定でありました。最初からオカルトホラーと知っていれば、もう少し好意的な感想になった可能性はありますが。『ジェーン・ドゥ』の言葉の意味を知れたので、ひとつ勉強になりました。[DVD(吹替)] 5点(2018-11-30 22:57:11)(良:1票) 518. いぬやしき 《ネタバレ》 流し読み程度で原作は既読。詳細は把握しておりません。ですから「原作と比較して云々」はナシの感想でお願いします。 『デスノート』と同じく(いやそれ以上の)“絶対的な生殺与奪権”を手にしたとき、あなたならどうしますか?と。現実問題として「死ねばいいのに」な奴は掃いて捨てる程いるワケですが、獅子神のような能力があったとしても、大多数の人はその力を使わないでしょう。何故なら「死ねばいいのに」と「殺したい」は似て非なるものだから。社会生活を営む人間は“隣人を殺さない”ことを原則として生きています。そう教育されてきました。深層心理に刷り込まれた鉄の掟。それにいつでも殺せるなら、今殺す必要がないとも言えます。究極の「金持ち喧嘩せず」状態。それより“治癒能力”の方がよほど魅力的に思えます。他者から圧倒的な称賛を得られる快感。こりゃ気持ちがいい。これが一般的な感覚と推測します。一方、獅子神は能力を使っていとも簡単に人を殺しました。おそらく彼はサイコパス。ただ、私たちが一般的にイメージするサイコパスより、ずっと人間味がありました。母や直行、しおんに対する態度をみるにつけ、何故あそこまで冷酷に人を殺せるのか疑問なくらい。さらに超が付くイケメン。ギャップは絶大で(これを魅力と言ってよいのか悩みますが)、惹きつけられるものがありました。彼の対照に位置するのが本作の主人公、犬屋敷。獅子神=悪とするなら、犬屋敷=善。典型的ダメおやじキャラがヒーローという構図は俄然燃えますが、キャラの魅力という点では獅子神に劣ります。やっぱり憲さんは違うんじゃないかと。身長178㎝で実にスマート。もっとしょぼくれ感が欲しいです。物語全体を通じても、より獅子神の方にスポットが当たっていた気がします。結局、守りたい人は誰一人として守れなかった獅子神に対し、家族を守り抜いた犬屋敷。能力の差異ではなく、その使い方の違い。自分だけ守れても、虚しいだけです。犬屋敷は手に入れた能力を使って娘を守りました。いえ、彼は特殊能力を持つ前から、ちゃんと家族を守ってきました。家族を養うことがどれほど大変か。衣食住の保障が当たり前と思うなかれ、子供たちよ。そういう意味では母親がダメ。本当にダメ。あなたが夫を馬鹿にするから子供が真似するんです。反省しましょう。伏線放置(娘の漫画家志望の件)など、脚本は今一つという気はしますが、空中戦闘シーンの見応えはなかなか。ネットの匿名掲示板で暴言を吐く輩への報復が、一番カタルシスがあったりします。[インターネット(邦画)] 6点(2018-11-25 10:53:52)(良:1票) 519. 小川町セレナーデ 《ネタバレ》 本サイトの投稿ネームにマイナー漫画(おおひなた先生ご免なさい)のサブキャラクター名を拝借している私が言えた義理は無いのですが、子どもの名前をスナックの店名に付けるのは、やはりオススメしません。そりゃ、からかわれます。思慮の浅い子どもは残酷ですから。さぞ、幼い小夜子ちゃんは辛い思いをしたことでしょう。ただ戸籍上の命名と違い、店名ならば何時でも変えられたはず。仮に小夜子ちゃんが恨み言を口にしなかったとしても、娘の気持ちに母が気づかないはずがありません。しかし、それでもなお、娘の名前のスナックに拘り続けたことに胸が締め付けられます。シングルマザーを選んだお母さんの覚悟。また、その思いをちゃんと受け止め成長した小夜子ちゃんも偉いなあと。そういう意味では、お父さん(?)はもっとしっかりしろと言いたい気分。ただ夫婦が決めた関係性を、外野がとやかく口を挟む筋合いはありません。男運の悪さは如何ともし難いですが(母譲りかな?)、小夜子ちゃんは立派に育ちました。本当に家族のかたちに正解は無いですね。スナック閉店のピンチにオカマバーへリニューアル。素人がダンスショーを披露したくらいで店が繁盛するほど水商売は甘くないでしょうが、これはエンジェル父さんに“親の務め“を果たさせるチャンスを与えたものと考えましょう(おそらく借金は経営不振というより、生活費を捻出するためのもの。つまり、父ちゃんは借金返済計画に協力するかたちで、間接的に娘の養育費を負担したワケです)。コメディとしても、人情ドラマとしても、オカマさん映画にしては淡白な味付けなれど、過激で濃いドラマばかりでは胸焼けします。こんな優しいドラマもいいんじゃないでしょうか。エンディングテーマ『幸せの貼り紙はいつも背中に』はドラマの世界観にピタリとハマっていてイイ感じです。(以下余談)作品登録から、感想投稿まで随分と時間がかかってしまい大変失礼いたしました。前述した『幸せの貼り紙~』は私立恵比寿中学の楽曲で、個人的に気に入っている歌。主題歌として採用いただいた本作の登録をお願いしたのですが、映画自体の鑑賞を失念しておりました。不手際お詫びいたします。[DVD(邦画)] 7点(2018-11-20 18:59:46) 520. トウキョウ・リビング・デッド・アイドル 《ネタバレ》 アイドルちゃんでホラーというだけで、最早定番という気がしますが、本作はさらに『ゾンビもの』でもあり『セーラー服で日本刀振り回しもの』でもありました(注:そんなジャンルはないっすか)。要するに、人気ファクター全部乗せ。お得感はあります。エンドクレジットによりますと、本作はクラウドファンディングを用いた模様。なるほど、出資者を口説くならセールスポイントは多い方が好ましいでしょう。で、興味深いというか、なるほどと思うのは、主人公がセーラー服をまとい日本刀で戦わないところ。殺陣ができる若手女優さんを別途用意しておりました。効率重視の分業制。昨今のアイドルビジネスに例えるなら、成果が出るのに時間を要する歌のレッスンは省略して、口パクで代用みたいな。効率性や採算を重視するなら、この手法もアリなんでしょう。ただ誤算だったのは、ゾンビものとソードアクションの噛み合わせが意外と良くないこと。本作では殺陣の美しさを優先させた結果、“ゾンビ退治=頭部の破壊“という鉄の掟が形骸化しています。腹を斬られて絶命するゾンビ。ん?これで『ゾンビもの』を名乗って良いのかしら?理性を持つニュータイプゾンビってのも大概だと思いますが、最低限の約束事が守られていないと駄目なんじゃないかと思ってしまうのは、私が古いタイプの男だからでしょうね。何せ自分、不器用ですから(気分は高倉健で)。安心のロリ顔、見事な巨乳、意外と確かな演技力と三拍子揃った浅川梨奈さんはヒロインの資質充分。アクションパートを担った星守紗凪さんも頑張りました。個人的に贔屓している亜紗美嬢は、ほとんどお顔を隠しているのに存在感バッチリ。加藤雅人さんには、小林歌穂さんをはじめ、エビ中のみんながいつもお世話になっております。基本的にチープなC級ホラーであることは間違いありませんが、前述したお得感と、役者さんの力量のおかげもあってか、そこそこ満足できる作品に仕上がっていると考えます。[DVD(邦画)] 6点(2018-11-15 18:26:38)
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