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581. 帰ってきたヒトラー 《ネタバレ》 移民問題がナショナリズムを煽り、極右政党が躍進している現在ヨーロッパにおいてタイムリーに作られた本作。初めのうちは笑って、最後には冷やっとするという、まさに制作の狙い通りの反応をしてしまった。 いや、総統さすがというか、どんな突っ込みにも質問にも堂々と揺るぎない政治信条で相手を論破しちゃうんだもんな。ほんとのとこ、実在の政治屋など小物にすら見えてしまう。おおすごく頼れるリーダーだ、とうっかり感想を抱きそうになって慌てた。 歴史学者の先生によると今の時代って30年代に似ているんだそうな。ヒトラー総統(比喩であっても)が戻ってきたとして、さてまた歴史は繰り返すのだろうか。映画はその答をこちらに投げて終わります。21世紀の我々は30年代の人々と違って、第二次大戦を知っている。またあの惨禍を繰り返すほどに学習能力の低い種であるとは思いたくないのだが。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-20 17:08:52)(良:1票) 《改行有》 582. ハード・ウェイ(1991) 《ネタバレ》 マイケルはともかく、ジェームズ・ウッズがコミカルな芝居ができるとは思わなかったなあ。これがなかなか良いんですよ。見るからに畑違いのマイケル・J・フォックスとジェームズ・ウッズを両立させてコメディとして成功させた、これもちろん脚本も良いんだけどウッズの役者スキルの高さがモノを言ったと思います。 マイケルは自身のハリウッドイメーをまんまなぞった役柄で、それを自分でおちょくっててこれまた安定に巧くてコメディの基本ネタと分かってても笑ってしまう。バーで、マイケルが女役になって強引に話を進めるくだり、ウッズと痴話げんかになりそうなトコで必ずバーテンのおっちゃんがドリンク持ってくるんだよね。複雑な顔のおっちゃんと閉口してるウッズ、ここ声出して笑ってしまったよ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-14 16:28:09)《改行有》 583. ブレードランナー 2049 《ネタバレ》 おお、暗い。湿度も高い。いいですね。これぞブレードランナーの世界観。続編を作るのなら、この雰囲気は絶対に死守してくれないと。もちろんヴィルヌーヴ監督はちゃんと心得ているうえ、彼の暗いけれど粒子の細かい画のセンスはブレードランナーと相性が良かった。僥倖なことであります。 力の入りまくった隙の無いSF世界は初めて見る光景。現代の映像技術の最高峰を堪能できます。 美術は満点ですがやはり偉大な前作を越えるのは難しい。「自己とは何か」という問いを美しいレプリカント達の苦悩に変換した前作にあふれていた情緒が、なんだかとても薄い。ライアン・ゴズリングも悪くはないけれど、彼のつるっとした顔はどことなく無痛気味。”記憶は他者のもの”という事実を前に落胆して机を殴るライアンより、静かにうつむき写真を破り捨てたショーン・ヤングの後姿の方がより強く悲哀が伝わる気がする。事実40年経った今でも忘れられない場面の一つであります。 あとはねえ、細かい諸々への不満。ハリソンが死ぬわけないと分かっている海面不時着時の戦闘が長い。レプリカントレジスタンス達の登場もとってつけた感。口頭説明が長いのも辟易しました。一作目のファンてウルサイなあ我ながら。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-10 16:49:11)《改行有》 584. オン・ザ・ミルキー・ロード 《ネタバレ》 これは・・、珍しいというか唯一無二というかジャンルでいえば「反戦寓話」とでもいうんでしょうかね。これまで観てきたどんな映画よりもこの世界観はとびぬけて独特で、初めての手触りでした。 画は明るく牧歌的、そんな中、弾よけ(!)の傘をさして牛乳を仕入れに来る主人公や砲弾降り注ぐなかギリギリまで卵を割る作業の手を止めない人々とか、戦争が日常になっちゃってる村人たちがシュールです。何の意味があるのか、でっかい壁時計に手を挟まれる家人やら豚の血に飛び込んで真っ赤に染まるアヒルやら描写の一つ一つがのっけからこんな風に「?」の連続で、きっと東欧というなじみの無い土地柄の風土だからぴんと来ないのだろうと無理やり納得して観続ける序盤であります。 ところが描写は落ち着くどころかどんどんシュールさを増してゆく。危機を寸前で救ってくれる動物多数。こんなんだからコレはおとぎ話的に上手く行くようになってんのかな、と思ったら崖から飛び降りたらちゃんと脚を骨折するのだった。そこは数日前みたく宙に浮かないんかい! 銃弾の連射も火炎放射も惨たらしい所業であるのに、この監督が描くと何故だかファンタジック。炎を纏って空を飛ぶアヒルは目に焼きつきました。美しくて。 ところで、美しく不可思議な画の中を逃げる二人がおっさんとおばさんというのどんなもんだろう。モニカ・ベルッチも絶世の美女と言うにはピークを過ぎているし、ここは是非とも16才くらいのボーイ&ガールであってほしかった。未熟さと必死さが反戦のテーマを訴えるにもより効果的だったと思うのだけど。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-06 17:24:46)《改行有》 585. アンストッパブル(2010) 《ネタバレ》 今さら暴走列車モノかあ、しかもこのストレートなタイトル、と期待値は低かったのですが、これがもう観始めるとペンシルバニア周辺の住民と同じくらい緊迫しました。無人の貨物列車が暴走するだけのシンプルな話ながら、そのヤバさをリアルに伝えるスコット監督の手腕は只事ではないです。「速さ」に「怖さ」をプラスさせるにあたっての、踏み切りに立つ女の子の前を風を切って過ぎるデカイ車体や連結の衝撃で飛び散り雨あられの如く降りかかる穀物の粒といった目に見える演出は効果抜群でありました。 特に最初の作戦失敗の画は、人間が人形のように車体に弾かれるショッキングなものですが、これがすごくリアルで「ああそりゃそうなるよ」と頭を抱えてしまいそうになりました。さらに状況は悪化し、大曲りに入ってかしぐ777号が弾く鉄路の火花はこちらのメンタルを追い詰めるのに充分。いやあもうおっかない。 と、緊迫映像で魂を抜きにかかったスコット監督なのですが、織り込んできた人間ドラマ部分はちとベタでいらんかったのでは、と思いました。よくある夫婦の危機と忘れてた子供の誕生日。なぜアメリカの子供はいい年になっても親に誕生日を祝ってもらいたがるのだろうか。そしてたいてい高確率でその日を忘れる父親。 でもまあ列車停止と同時にすっとエンディングを迎える潔さは好みです。良かったです。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-10-23 00:24:23)(良:1票) 《改行有》 586. コンプライアンス 服従の心理 《ネタバレ》 これ、かなり怖いです。自分も素直なタチですからこの店長の立場になったらどうしたやら色々考えてしまったけど、少なくとも「裸の女の子の見張りに男をつける」ことには抵抗していると思いたい・・。 人間がいかに権威に弱いか、この話は有名なドイツの実験とかでなく実社会で起こった実話であるということが恐怖を増します。 実事件の防犯カメラに記録されたことを下敷きに、各人物のキャラの肉付けや置かれた立場の説明が簡潔になされていてすんなり入り込めます。ダントツに上手いのが店長役のおばさん。初めこそ突然の警察からの指示に戸惑い、ターゲットの女の子に気遣いを見せていますが、犯人の口車にどんどん乗せられすっかり丸め込まれてゆく様子はこちらの絶望を増幅させます。気の利かないバイトを使う苦労への共感を示されたり、リーダーとしての資質をほめられたりするたび相好を崩すその表情、ああーすっかりニセ警官に心を開いちゃってるよ・・。外野から見てる分には引きますけど果たして自分ならあんな顔にならずに済むかどうか。 「不服従の男」が現われ、騒ぎはあっという間に収束するけれど、それまでの長いこと。2時間も無かったのか・・。雑なホラーなんかよりオソロシイと思いましたよ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-10-14 00:51:19)(良:2票) 《改行有》 587. スリーピー・ホロウ 《ネタバレ》 ティム・バートンとJ・デップの相性の良さがいかんなく発揮されていますね。ゴシックぽくてもどこかPOPな風合いのバートンに、ガチな二枚目を放棄するデップのヘンな軽さ。変わり者二人が融合してなんとも独特な味わいの一本になってますよね。 特筆すべきはやはりかっこ良いんだか悪いんだか絶妙のジョニデ。「NYでは人が人を殺すんです!」と言い切るがかっこええのは前段部のここまで。その後はショックで気絶すること数回、18世紀の英国小説に頻出するご婦人方のごとし。子供を前に押し出して後ろに引っ込むわ、首なし騎士の出現に布団をかぶって震えてるわ、で実に珍しいヘタレタイプの主人公像がただただ斬新でありました。 幽霊VS科学の様相で幕開けしたのにまさかの科学完敗。まあ科学を背負ってたのがジョニデだったのでしょうがないか、と思わしめるのもキャスティングの計算の内か。違うかな。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-10-04 17:43:07)《改行有》 588. 背徳の囁き 《ネタバレ》 製作年はやや古い。聞いたこと無い。苦手なリチャード・ギア。ということでさして期待せず観たら、これがわりと良かったです。R・ギアは私の中ではハリソン・フォードと並ぶ「演技力は大して無いのに主演作の多いベテラン・スター」の位置付けなのですが、皮肉なことに彼の唯一ともいえる今作のロクでもない悪役がギアのキャリアでベスト1なんじゃないかと思えるほどの出来でした。 ギア演じるのは悪徳警官。組織の中のグレーゾーンを老獪な判断力で泳ぎ切り、そこそこ部下の面倒見が良くて女には手が早く、ピンチになったら部下をも切り捨てる冷酷さ。こんなのがギアにハマるとはねえ。 クレバーな役どころのA・ガルシアは恋女房への思いが強すぎて泣き所をギアに看破され、「言葉」で翻弄されちゃう。ざっと三度もギアにフルボッコにされてるじゃないですか。キミにとってああいう老練な色魔は天敵だ。もう喋るんじゃない。 ふてぶてしいギアと嫉妬妄想で泣きっ面のアンディ・ガルシア。普段のイメージとはがらりと違う役をこなした二人が見事な共演を見せる一本です。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-09-30 16:37:06)《改行有》 589. トラベラー 《ネタバレ》 イラン版「手を焼く小僧」の冒険譚。この場合はテヘランまで夜行バスの旅。大人から見ればさしてどうってことない旅程だけど、10歳の子供にとっては、旅費集めからそれはそれは大変難儀なタスクなのである。 ごく普通で非力な人間のささやかな日常の起伏を映画一本分のストーリーにして見せる、いかにもキアロスタミらしい視点。ハリウッドでは商売にならないかもだけど、これがとても面白くできている。 まーとにかくこの子の生命力の強いこと。かなりの強引さで目的を果たそうとする貪欲さ。大人に叱責されるとそこはすぐ泣いて降参、でも大事な物は手放さない。この手のガキは日本にも戦後の混乱期にはいっぱいいたんだろうなあ。生きるために最大限知恵を絞って世の中を渡るような。 ああ、この子どうするんだろうと大人の心配をしながら見守ること70分。なんともキビシイ旅の結末となりました。勉強代だな、坊主。嘘ついて人からお金を集めてはイカンのだよ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-30 00:44:10)(良:1票) 《改行有》 590. スーパー・チューズデー ~正義を売った日~ 米国大統領予備選における全然美しくないお話。派手な仕掛けが無いので人によっては淡白に感じられるかもですが、他人の顔色を気にしいなワタシにとってはあけすけな解雇通告やら手の平返しやらがこうもばんばん飛び交うと、もうそれだけでスリリングでした。あちこちに気使いすぎて疲れちゃったよ。 選挙参謀たるもの、そんなチキンはいないとばかりに気迫のこもった顔ぶれが揃います。P・ジアマッティにP・S・ホフマンにR・ゴズリング。ホフマンの腹なみにどかんと重量級の面子。それに負けないスターの佇まいを見せるG・クルーニーもさすがです。 G・クルーニー「監督」は観る者の気分を乗せた上で引っ張ってひっくり返す、といった演出をあまりしない印象があります。オーソドックスな作りは時に淡々としすぎに感じることもあるけれど、今作は話の面白さと役者陣の巧さが活きてて彼の携わった作品ではベストかと思います。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-24 23:45:13)《改行有》 591. エル ELLE 《ネタバレ》 ヒロイン選出にあたって、声をかけたハリウッド女優に軒並み断られたんだって。え、イザベル以外の候補がいたの?嘘でしょう?とまず思った。だってこれ、この脚本この主人公、イザベル・ユペール一択じゃないですか。他にハマる女優なんかいないよ。イザベルのために書いたようなホンじゃないか。 イザベル・ユペール、彼女の過去作品はどれもアクの強い役で強烈に印象に残るものばかり。美人だけど屈折しててある時は病んでいたり、または暴力的だったり。今作ってそんなイザベルが演ってきた”まんま”のキャラなので、ミシェルを見てても今さら驚くこともなく、その突飛さや冷たさが「なるほど」と腑に落ちちゃったりしましたよ。レイプ犯を手玉に取るあたりなんざ、おおさすが、とすら思ったり。ミシェル、まあ並みの役者ではとうていこなせないキャラクターです。大量殺人者である父親の側杖を食った形で安寧な人生は学童期に崩壊。社会から偏見と敵意にさらされ続けてきた結果性格はキツイし嫉妬深い。あと意地も悪いしモラルも無い。 面識のない人間からゴミを浴びせられる人生を送ってきた凄絶なキャリアの持ち主であるから、レイプごときでこっぱみじんになるメンタルではないのだ。 そしてここがポイントなんだけどイザベル・ユペールに代表されるフランス女は年をとってもすんごく女度が高いのだ。細身のスーツを着こなし、黒のストッキングにハイヒール。フェロモンが尽きることが無いみたい。想いを寄せる男を覗き見しながら自慰行為。この場面が、どういう現象なのかそこはかとなく文学的な香りなのがスゴイ。うん、たしかにアメリカ女優では無理かも。そして日本人のワタシはほぼ共感度ゼロの話でありました。面白かったけど。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-06 21:57:27)(良:1票) 《改行有》 592. プリデスティネーション 《ネタバレ》 *ネタばれしてます。未見の方は御注意。や、あまりに予測不可な話だったので、もっと説明がほしくて「えっこれで終わり?」とエンドロールを眺めながらうろたえた。でも録画していたのを幸いに何度か観返してみるとちゃんと全部言い尽くしているんですよね。伏線もすっかり回収してて謎を残さない。 ぐるぐると還って始まりも終わりもない物語を巧みに整理できている構成力は満点です。 ちょっと物足りないのは仕組みの説明に終始していてドラマとしての広がりが無いこと。タイム・パラドックス系の他作品に見られるような、他者(両親とか殺し屋とか)が関わってきてそこから事件スタート、という展開じゃないので「ああ、そういうことだったんだ」で感想が終わっちゃう。登場人物がほぼ一人の話なのでそれも仕方ないのですが。 あとねえ、個人的に腑に落ちないのが「自分」に恋するかなあ~というところ。子供まで作るかなあ。わが身に置き換えるとどうにもキモチ悪くてちょっとそこはノレなかったです。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-07-26 00:15:26)(笑:1票) (良:2票) 《改行有》 593. ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 《ネタバレ》 これぞ資本主義の行き過ぎた見本。ザ・弱肉強食。こんなのどうしても創業者サイドに立って見ちゃうよ 人間の情をもってして考えるなら。レイ、何もアイデア出してないじゃん。 人の考案を使ってこんなに成功するんだなあアメリカは。もちろん「権利」についても世界一法的に守られる国だとは思うけど、その法的解釈のグレーゾーンを巧いこと出し抜けるレイとそのブレーンの賢しいこと。哀れお人よしで田舎者のマクドナルド創業兄弟は何もかも取り上げられるのだった。契約破棄の和解金を得たからヨシ、ということではないですよね。彼らの誇りと生き甲斐を横取りしたんですから。 ほぼ共感を得られないであろうレイ・クロックをマイケル・キートンが怪演。冒頭から誠意の無い顔つきでこちらを圧倒。良心も躊躇も無い、あるのは図々しい野心だけという凄い人格のキャラですな。糟糠の妻から仕事仲間の嫁へと乗り換え、私生活までヒドイ。M・キートンのことまで嫌いそうになっちゃったし、マクドナルドもがぜん下品に見えてくる。店側としてはこの映画を公認していないとか。そりゃそうだろうねえ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-06-05 17:16:00)(良:2票) 《改行有》 594. アンドロメダ・・・ 《ネタバレ》 終始一貫してソリッドな作り。まるでNHK特集の生真面目な再現ドラマを見ているようです。 ちょっと色気のある制作者なら、未知のウィルスにパニックになる市井の人々だとか、スクープを抜こうとする記者とかの描写を入れそうなものですが、もう頑固なまで科学者サイドべったりの目線。たまにホワイトハウス側の「どうなってるんだよ」という外野の声も入るには入りますが。 スター不在の地味なめんつが地味に(そして必死に)原因を探すのに付き合わされる130分。全身消毒を繰り返すくだりはさすがに飽きますが、派手さは無くともこれが意外にサスペンスフル。特に冒頭の”死の町”描写は淡々としてるが故にぞっとする光景が現実味ありでとても怖いですし、赤ん坊の泣き続ける声というのもこちらの気持ちをざわざわさせます。 そして本作は71年の作品ながら、コンピュータ等の機器に古臭い感性が少ないのも観やすかったです。66年の「ミクロの決死圏」のメカは正直「未来風な」デザインを目指しすぎてヘンテコになった感がありましたから。テレビ電話やタッチ画面など、やけに正確に技術予見してるなあ、と驚きました。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-05-29 16:46:52)(良:1票) 《改行有》 595. ラッキーナンバー7 《ネタバレ》 サスペンスが好き、でも勘は悪いという(つまり私だが)タイプはとても楽しめると思います。いやーわかんなかったな。前半までのJ・ハートネットの善良ぽさにまんまと騙された、とも言えるし L・リューが彼女らしくない普通の女子を演ってるのが違和感だったのでスパイかも、と思ったり あげくB・ウィリスの不思議な佇まいに人外の存在かもしれない(彼の別作品が影響した)とお門違いに勘ぐったりで、それら全部外しても楽しかったな。 伏線に嘘や無理やり感がないんですよね。筋としては極めてシンプルだから。言われてみれば大して込み入ってない話なんだけど逆再生のように組み立てたことで謎がいっぱいあるように見える。よくある作りではあるけど、目まぐるしく挿入されてきた過去映像もとりこぼさず説明してくれる丁寧さは観客に親切だし、ずらーっと並ぶ重鎮演者の顔ぶれはいやでも重厚感漂わすし、良かったですよこれ。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-05-16 23:35:59)(良:1票) 《改行有》 596. オー・ブラザー! 《ネタバレ》 いやあー、馬鹿ばっかり笑。コーエン兄弟の、世間一般とややズレてる周波数な感性と合う人なら楽しめること請け合い。ワタシは彼らのコメディに反応する体質らしくて、ホメロスのオデュッセイアは未読だけどとても楽しかったな。 だいたい主演3人の顔が皆いいもんね。良い「ボケ」の顔をしている、という意味で。なんと二枚目G・クルーニーまでがのびのびと間抜け面をさらしているのが素晴らしい。ファイティング・ポーズ虚しく、相手のパンチ受けっぱなしじゃないですか。いや素晴らしい。 シュールにすっとぼけながら、さくさくとエピソードを展開してゆくスピードがちょうど良いのと、金色に輝く木々が心に沁みるアメリカ南部のロケーションの美しさ、それに音楽も素敵だときては全体に漂うなんとなく散漫な感じを差し引いても、この点数になりました。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-04-24 19:54:20)《改行有》 597. コーラス 《ネタバレ》 ストーリーはとてもオーソドックスな上、細部に突っ込みたい所が色々あります。ヨーロッパの感性との違いでしょうか、一人の子どもを譜面持ちにさせっ放しとか、凶悪な問題児に特に対応しないんかい、とか校長の横暴ぶりがてんで甘い、とか。紆余曲折もなしに合唱の仕上がりが県優勝レベルに上手い、とか感激してるわりに生徒の手紙を全員分拾わない、とか。モランジュったら人生を変えてくれた恩師の名前を忘れてるって、そりゃないだろうよ、とか。そもそも回想式にする意味あんのか、とか。 ところがですね、こんだけ文句を言いつつも、全編に流れるユルイ空気はなんとなく心地よくさせるのです。ジェラール・ジュニョ演じるマチュー先生、この手のお人よしで善良なキャラクターに私はめっぽう弱くて、彼の苦労が報われてほしいと願わずにいられませんでした。悪ガキらに先生の素朴な愛情が伝わるのを見るのは嬉しいものです。 それに、プロ合唱団による美麗なコーラスは耳を介しての至福そのもの。アマチュアの歌声じゃないじゃん、というプロット上の齟齬についても、まあいいじゃないかという気持ちになります。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-04-21 00:25:13)《改行有》 598. マドモアゼル 《ネタバレ》 自分の情欲や憤懣やらを周囲に撒き散らかしておいてお天道様からも成敗されない妖女のお話。うへえー、となりました。 男を破滅させてしまう女の話とくれば、日本製の人情話なら女側にもそれなりの事情なり、汲んでやりたくもなるいきさつを抱えてそうなものですが、フランス女にはそんなもの無いんだねえ。ただただ悪い。冒頭からいきなり水門開けて村の民家水浸し。理由は特に無し(!)。 顔が仏頂面のJ・モロー。教師として生徒にアカハラする場面などはただのおっかない中年女なのですがイタリア人の林業労働者の男と情交にふける終盤は色欲全開。艶っぽいというレベルを超えてもはや禍々しさすら感じましたね。いやオソロシイ話でした。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-04-10 16:02:13)《改行有》 599. 真実の行方 殺人事件と真犯人探しのミステリー、さらに法廷劇の要素もあって濃い脚本ではあります。描くことが多いわりにはちゃんと整理されてテンポの良い展開も見易い。面白かった、と思います。 だけどこんなに手をかけているわりに、この映画猟奇系ジャンルの「羊」や「セブン」ほどの格を獲得していない(個人の感想)のは、妙に軽い喉ごしだからでしょうか。そしてその”軽さ”の責任はほぼR・ギアにあるような。ローラ・リニーの肩に力入りすぎの演技もちょっとどうかなと思うけど、とにかくギアが敏腕弁護士に見えないのがつらい。女と見ると目じりを下げてべたべたしたがる。これではいつものリチャード・ギアじゃないか。こうへらへらされては事件の深刻さが三割減してしまいます。 E・ノートンとF・マクドーマンドのキャスティングはそのままに、検察と弁護側の二人を別キャストで撮り直してはいかがでしょうか。どちらも男性でいいと思う。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-04-06 17:15:51)《改行有》 600. ワールド・オブ・ライズ 《ネタバレ》 ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロング。三者ともまるきり個性の違う存在感を創出してて上手いけれど、いやこれ頭一つ飛びぬけてるのはラッセル・クロウでしょ。地味で小太りの。この男はね、片手でわが子をあやしながらもう片方の手で人を殺すんです。顔色ひとつ変えず。物を食べながら衛星ではるか上空から敵を捕捉し、撃つ。そして何も感じない。 ディカプリオは現場にいる。前時代的に生身で戦って傷を負い、同僚を目の前で殺される。無実の者を陥れる残酷なプランを立てはするけど、肉体的な痛みや良心の呵責が機能しているので完全に捨て駒にすることができない。 M・ストロングのレバノン人もしかり。現場の人間は殴られれば痛いということを身体でわかっている。 しかしラッセル・クロウ演じるCIAの上級職はずーっと死んだ魚のような目をしながら子供の写真を撮り、そのかたわら証人を見殺せと指示を滑らかに出すのだった。この非人間的なこと、心の死んでいること。自らを世界平和の掌握者と言い切る傲慢さは近代のアメリカそのものに感じる。嘘ばっかりの世界で一人勝ちしている(と思っている)アメリカ=CIA、その寒々しさを座った目つきと鈍重な所作で演ってのけたラッセル・クロウにすっかりびびった。[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-03-24 22:59:31)(良:2票) 《改行有》
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