みんなのシネマレビュー |
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1161. 七夜待 《ネタバレ》 ハセキョウガエロイ。[DVD(邦画)] 3点(2011-02-09 17:53:03) 1162. ルート225 《ネタバレ》 2人が迷い込んだ『A’』の世界とは何処でしょう。いや、より重要なのは、エリ子は“何者か”ということかもしれない。(以下妄想炸裂の個人的解釈です。未見の方は先入観なく鑑賞することをオススメします。ご注意ください。)本作を読み解く唯一のヒントはタイトルに在ると考えます。『ルート225』。225=15の2乗。言い換えるなら、15歳の少女の事情。本作は少女の身の上に起こった一大事。これが前提。エリ子は母に促され、弟を探すために国道225号線の歩道橋を渡ります。ここから彼女は異世界に。子が頼るべき父と母の居ない世界です。ポイントは、国道が何を意味するか。ルートを記号に直すと“√”。この形、何かに似ていませんか。2つ並べて右に90度回転。うち一つは鏡開きに反転。保健体育の教科書に載っている、女性の体にある2本の道。ズバリ国道225号線は“卵管”と推測します。卵管を通るのは、もちろん卵子。つまりこの物語は“初潮を迎えたエリ子の卵子が卵管を通り子宮に辿り着くまで”を描いたものではないかと。卵子初めての冒険。世界が違って見えて当然です。そう考えても、結構納得できる。エリ子ファーストカットの赤らんだ表情と気だるい雰囲気。突如現れた海は母性の象徴で、にわか雨は経水の暗示。傘はさしずめタンポンか。最初は上手く使えない。赤い花もね、そういう意味。成長した卵胞のうち、排卵される卵子は一つだけ。姉弟が離れ離れになるのも摂理です。そして何より結末が腑に落ちる。もう彼女は子供に戻れないのだから。この前提で物語を検証すると、あらゆるアイテムがメタファーに見えてくる。どのシーンも意味深。例えばバッティングセンター。バットでボールをパカパカ打つ友達と、かすりもしない主人公。ホワイトシチューの味見では顔をしかめて見せる多部ちゃん。無茶苦茶エロくないっすか。ないッスね。戯言妄想、失礼しました。少女の危さと強かさを多部未華子が好演。白木みのる2世、弟くんのキャラも愛おしい。高橋由伸や門@等の小ネタもツボ。笑えて切ない、でも爽やかな少女の成長物語でありました。続編を作るならぜひ男子版を。さぞかしドリーミングなエロパラダイスが展開されることでしょう。[DVD(邦画)] 8点(2011-02-06 00:56:31)(良:1票) 1163. アンストッパブル(2010) 《ネタバレ》 一度失敗したとはいえ、ヘリで運転室に乗り込むのが最も確実に列車を止める方法でした。然るに、何故2度目のチャレンジは行われなかったのか。それは対策本部に責任を取る覚悟がなかったからです。一度目の失敗は言い逃れできても、2度目はそうは行かない。出て来るプランは惨事を防ぐための最善策ではなく、経営陣保身のため次善策。だから決断が後手に回る。デンゼルとクリスがいなかったら、手をこまねいて最悪の事態を眺めるだけでした。かといって、2人は善意で命を張ったワケでもない。デンゼルに有ったのは解雇に対する怒り。彼は経営陣に言ってやりたかったのだと思う。「お前らの判断は(いつも)間違っているんだよ!」と。要するに意地です。手柄を立てれば、解雇が取り消される目論見もあったのかもしれない。若造の方はプライベートのゴタゴタで判断が鈍っていたところを言いくるめられた。美談ではありません。彼らは賭けに勝っただけ。でも、結果的に多くの人命や財産が救われたのは事実。それで十分。ヒーローが生まれる時って、案外こんなものだとも思う。事態終結後のインタビューは本来であれば無粋な描写です。でも冒したリスクの分、見返りは欲しい。誰だって良い事をしたら褒められたい。そんな人間の本音をさらけ出したラストだったと思います。キレイ事で終わらせなかった。でもそこがイイ。[映画館(字幕)] 8点(2011-02-03 20:52:29)(良:2票) 1164. サロゲート 《ネタバレ》 不老不死は人間の究極の願い。とりわけ“不老”は魅力的です。10代、20代の若さを維持できるとしたらどんなに素晴らしいか。ですから、もしサロゲートが技術的に可能になったら、それを拒否できるほど人間は賢くない気がする。本体の健康管理や生殖活動、サロゲートの犯罪使用防止策等の諸問題がクリアされれば、人類総サロゲートもあながち在り得ない話ではない気がしてきました。ただし、自分だったら主人公のように若かりし頃の自分を模したサロゲートは使わない。日々衰えていく自分とのギャップに打ちのめされるだけだから。全く別人のイケメンを操作して、社交的で積極的な「もう一人の自分」の人生を楽しむでしょう。現実の自分とは正反対の。あれ、でもそうなると何処に自分のアイデンティティを置いたらいいのか判らなくなりますね。シュミレーションすればするほど、怖くなってきました。やっぱりサロゲートはいらないです。物語の方も、全世界のサロゲートが活動不能になり、人生の主権が人類の手に戻りハッピーエンド。でも一度取得したテクノロジーを破棄出来ないのが人間の性。いや業です。歴史が証明している。だから後味は良いようでほろ苦いのです。[映画館(字幕)] 6点(2011-01-31 18:28:27)(良:1票) 1165. 無防備 《ネタバレ》 ぴあフィルムフェスティバル受賞作品を観ていつも思うのは、値の張る駒でなくても将棋は打てること。主役を演じた森谷文子という女優さん。今まで存じ上げませんでしたが、素晴らしかった。表情、体型、佇まい、その全てが律子という女性を物語ります。何処にでもいる脆い女。でも誰でも演じられるワケじゃない。彼女の功績は大きいと思います。嫉妬に心を蝕まれたのは、傷ついた心を守る鎧が錆付いたから。身動き出来ないから、気持ちの持って行き場がなくなる。誰の身の上にも起こり得ることです。身につまされました。そんな主人公を救ったのは、妬ましい彼女の子の誕生。命は全てを肯定する力強さを放つ光。律子の心は解き放たれました。もう鎧はいらない。無防備で結構。あるがままの自分で、己が人生を勝負すればいい。いいお話だったと思います。ちなみに本作は18歳規制。鑑賞前は出産シーンを直接映すことに少なからず抵抗がありましたが、見終えてその思いは消えました。百聞は一見にしかず。生命誕生の素晴らしさを伝えるには、その場を見せる事が一番です。問答無用で感動的。胸を打ちます。監督の奥さんは偉かった。それに監督の腹の括り方も流石です。出産だけでなく妻の排尿まで晒すとは。売れるものは何だって売るお笑い芸人の心意気をみた思いです。元『髭男爵』という肩書きは伊達じゃない。プライバシーに“無防備”なのは心配ですが。監督のこれからの活躍を期待いたします。[DVD(邦画)] 7点(2011-01-28 18:29:30) 1166. エクスクロス 魔境伝説 《ネタバレ》 同ジャンルの作品としては、『片腕マシンガール』が思い浮かぶのですが、本作の方がバイオレンス・ホラー・ギャグの各要素の配合割合が程よく、取っ付き易いと感じました。スベリ笑いに逃げていない感じもいいです。“混ぜるな危険”で、やっと本作がコメディだと認識したくらいです。センスも悪くなかったですよ。例えばクライマックス。敵を相手にアミーゴが手にする最終武器は、巨大バサミでもチェーンソーでもなく、携帯電話。確かにキーアイテムではありますが、いかんせん殺傷能力はゼロ。どう使うのかと思ったら、まさかの写メ攻撃。“ペンは剣よりも強し”ならぬ“電子データ流出は斧より怖い”。結構ハイブローなギャグじゃないですか。ネット社会の恐ろしさを監督は知っているようです。もしかしたら以前にネットで叩かれたことでもあるのかな。初メガホンは『バトルロワイアルⅡ』ですか…なら納得。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの松下奈緒と、もはや何処を飛んでいるのか分からない鈴木亜美コンビのミスマッチぶりは新鮮だし、2人のサービスカットにもニンマリ。小沢真珠が悪ふざけに付き合ってくれたのも嬉しかったです。あとはキーファー・ザザーランドが出てくれたら完璧でした。だけど、岩尾はナイなあ。ただのブサイクオチじゃもったいないです。同じ芸人なら、どきどきキャンプの岸じゃないと。とはいえ、自分は本作を気に入りました。結構な珍作。深作ジュニア、もしかして侮れない?![DVD(邦画)] 7点(2011-01-25 17:57:06) 1167. キック・アス 米国人にとってのアメコミヒーローって何なのでしょう。想像するに、日本人にとっての水戸黄門じゃないかと思う。あるいは桃太郎侍とか暴れん坊将軍とか。ソウルフードならぬソウルヒーロー。絶対正義、完全懲悪、国民の希望…。基本的に拍手喝采・大歓迎しますけど、全面支持ってワケでもない。さっさと印籠出せよ、なんてツッコミは当たり前。愛しているからね。甘えているからね。本作は、そういう映画だと感じました。倫理道徳的観点に立てば、少女の殺戮など許されない。力を持たぬキック・アスは役立たず。でも彼らが無性にカッコ良く見えてくる不思議。人間は、頭と心で相反する基準を持っていることが分かります。好きだけどキライ。批判したいけど認めてもいる。銃社会、ラブ&ピース。結局、アメリカ人はヒーローが大好きで、アメリカという国を愛しているのだと思います。もっとも、こんな分析をしたところで、本作の魅力は微塵も伝わらない。ていうか、これアメリカ映画って訳でもないのか?まあ、どっちでもいい。とにかく見てもらわないと。ヒットガールちゃんを!めくれた唇は瀬戸朝香より100倍魅惑的で、黒アイマスクの下のたれ目は萩本欽一を超えた。それに加えて見事なアサシンぶり。初登場シーンのインパクトは絶大で、BGMもキマッてた。ココロ鷲摑み状態です。バイオレンスアクションムービー史上、最強ではないが、最高のヒロインが誕生したと言い切ります。スプラッターやロリコン趣向は無かったはずなのに、面白すぎて涙を流した自分が怖くなる。名作、ヒット作へのオマージュ満載。クソ映画には違いない。それも超ド級のクソ映画。でも、感謝の言葉しか出てきません。ありがとう。心の底からありがとう。『シン・シティ』等の映画のネタバレがあったので1点引いておきますが、それでも10点です。[映画館(字幕)] 10点(2011-01-22 17:29:15)(笑:1票) (良:2票) 1168. 花よりもなほ 《ネタバレ》 江戸下町風俗の再現は見事ですし、個性豊かな長屋住人たちの人物造詣も悪くありません。オチもイイです。クソを餅に変える発想転換とあだ討ちビジネスの痛快さ。個々の要素は本当に素晴らしいと思います。自分好みです。でも1本の映画としてみると、不思議なくらい面白みを感じません。何故か?たぶん核となる岡田くんのあだ討ちエピソードに問題がある気がします。一芝居打って、みんな幸せ。この着地点はOKです。だだ、岡田くんが決闘という勝負から逃げたように見えてしまうのはマイナスでした。宮沢が岡田の心情を代弁するべく熱弁をふるうのですが逆効果です。言い訳がましい。それに宮沢の言葉は、彼女自身に向けられた言葉でもあります。同じ仇持ちでも、岡田と宮沢では立場が違います。前へ進むために仇への憎しみを断ち切る宮沢の決意と、憎くめない相手との戦いに二の足を踏む岡田の心情を一緒にしてはいけません。同一視もほどほどに。個人的には、碁が発端の遺恨なのだから碁で決着をつければスッキリしたと思います。ケジメをつけた上で丸く収まるよう、偽装工作でも何でもすれば良かったんじゃないかと。[DVD(邦画)] 5点(2011-01-19 19:49:14) 1169. 女優霊(1996) 《ネタバレ》 古典怪談『牡丹灯篭』『番町皿屋敷』、あるいは同監督の『リング』にしてもそうですが、成仏出来ずに幽霊となること、ましてや他人を呪い殺すほどの怨念を溜め込むとなれば、それ相当の理由があるはずです。その説明を省略したのは、ホラー映画としてのハンディキャップと考えます。ストーリーで恐怖を訴えかけられない分、視覚に頼らざるを得ないから。もっとも本作の画づくりは冴えていました。フィルムに焼きついた霊、不自然に折れ曲がった転落者の脚。中でも一番ブルったのは、ロケバスの窓に映った人影でした。在るはずのないもの、理解不能なものに私たちは怯えます。そういう意味では、クライマックスの女優霊出現シーンはちょっと弱い。“顔色の悪い白衣装の女”と認識してしまえば、別段怖くありません。幽霊を怖く見せるのは至難の業で、なかなか満足のいく描写には出会えません。『リング』の貞子は、その奇妙な動きが恐怖に結びついた稀有な例です。(個人的には、黒沢清監督の『回路』の幽霊の描き方がベスト。『呪怨』の白色坊主などはギャグにみえます。)尺をもう20分か30分足して、女優霊の怨念の正体に迫れたら、もうワンランク上のホラー映画になったのではないかと。[DVD(邦画)] 6点(2011-01-16 00:48:25) 1170. その男は、静かな隣人 《ネタバレ》 (ネタバレあります。ご注意ください。) 床に落ちた銃弾を拾う主人公を同僚が探す場面が2度ある事から、その間の出来事は主人公の妄想と見て取れます。つまり一躍ヒーローになった事件や出世、女副社長との恋愛等、物語の大部分は現実では起きていません。彼が撃ち殺した銃撃犯は、彼自身の願望が作り出した幻だと思います。ただ気になるのは、前述のシーンが全く同じではないこと。主人公の服装やクリスマスデコレーションに差異がある。これをどう捉えるか。病んだ心は、自分を殊更惨めに、そして他人を幸福に見せてしまうもの。彼の瞳には、有りもしないクリスマスの飾りが映っていたのではないか。“クズどもがクリスマス気分で浮かれやがって”。ここで重要なのは現実か否かではなく、彼に見えているかどうか。それは彼の“体験”にも言えることです。単なる妄想で片付けられない。恋愛の日々は彼の心を癒しました。たとえ空想の中であったとしても、彼を変えました。だから同じ場面でも、1度目と2度目は同じじゃありません。その結果、愛する彼女を含む5人に命中するはずの銃弾は、放たれずに済みました。これは避けられぬ悲劇における救いです。彼にとってのクリスマスキャロルだった気がします。彼女の笑顔が言わば精霊。でも、彼自身に向けた引き金までは止められませんでした。空想は薬になります。上手く使えば、自分を救う手助けをしてくれます。でも効果があるのは軽症のうち。すでに彼の心は瀕死の状態にあったのでしょう。心が流している血に本人は気付けないもの。 そのシャツの染み、本当にケチャップですか?[DVD(字幕)] 6点(2011-01-13 19:28:08) 1171. ブレーキ(2009) 《ネタバレ》 “ブレーキを踏んだら、捕らわれの恋人に毒が注入される死のドライブゲーム。あなたならプレイヤーにブレーキを踏ませるために、どんな仕掛けや障害を用意しますか?”大喜利でこんなお題が出たとしましょう。とりあえず小遊三あたりが「道路に穴を掘っちゃう」。続いて好楽が「バイクや車で邪魔するってのは」。まあ、前菜はこんなもの。この後の頭脳派円楽の理詰めのトラップ、木久扇の天然ボケがメインディッシュですから。ところがこの大喜利はいつまでたってもメインが出てこない。似たような前菜が何皿か出て終了。円楽や木久扇はおろか、昇太の未婚ネタ、たい平の嫁話さえなし。山田君いじりや歌丸のデスネタも観たかったのに。これでは大喜利として成立していない。本作はそんな映画でした。原作が『リアル鬼ごっこ』の作者と知っていたので、期待値のハードルは目一杯下げておいたのに、見事にコケました。これはちょっとナイなあと。一応どんでん返しはありますが、座布団十枚の賞品がボーナスだったのに、棒とナスが出てきたみたいな失笑レベル。そうそう、谷桃子のベッドシーンも酷かった。彼女が脱がないのは承知していましたが、まさかシーツでグルグル巻きとは。80年代のアイドル映画かと。そんな格好でセックスする奴を見たことあるのかと。こんな事なら、ちゃんと“お仕事”が出来る恵比寿マスカッツに発注してやってください。[DVD(邦画)] 1点(2011-01-10 17:27:05) 1172. バリア 《ネタバレ》 4人に地図を渡したのがトラヴィスの仲間だとしたら、何故そんな回りくどい遣り方をしたのでしょうか。人を雇って送り込む方が手っ取り早い。城の出現と入城には、作中語られていないルールが存在すると推測されます。まず考えられるのが、城の秘密を知らない者が自発的に赴くという行為自体が城出現の条件になっていること。時間に余裕がある好奇心旺盛な若者なら、打ってつけと言うワケ。次に人数の問題。救出を考えるなら、送り込む人間は少ないほどいい。1人なら有無を言わさず代わればいいのだし、2人でも騙すのは容易。4人組を選んだ事にも意味があるのでは。この城はきっと“団体様のみ大歓迎”なのです。つまり男が単身で探し回っている限り、城には辿り着けないということ。親友が囚われてから早2年の月日が流れた。それが次元の狭間に存在する城で換算すると何年分に相当するのか。死にはしない(というか死ねない)のだろうけど、廃人になってしまう。早く同じ手順で罠を仕掛け、身代わりを送り込まないと。アンチエイジングに興味があるマゾ体質なら少しは良心が痛まない。自分ならエステティックサロンとSMクラブに潜入し、身代わりを探します。オマケでお肌キレイキレイになって、新たな世界に目覚めたりして。…とまあ、設定が面白いので不明部分を想像して楽しむ分にはイイのですが、純粋な物語としての出来はイマイチ。無駄に長く、作りこみが甘い。タレント本でもあるまいに、余白を取り過ぎです。『世にも奇妙な物語』の1篇で丁度いい感じ。あるいはリメイクで良くなりそうな映画です。[DVD(字幕)] 5点(2011-01-07 19:29:35) 1173. 七人の侍 《ネタバレ》 子どもの頃大好きだったTVアニメ『ガンバの冒険』と同じプロット。当然本作が元ネタです。導入部で早くも胸が熱くなりました。弱きを助ける好漢7人の英雄譚に期待を膨らませました。ところがどうも様子がおかしい。農民たちは野伏せりの襲撃に怯える無力な羊ではなかったからです。菊千代が言うように、狡猾で、強か者だった。野伏せりが狼なら、7人も狼。そして農民たちもまた狼でした。お上によって飼いならされているだけ。勧善懲悪の娯楽活劇ではなく、農民と野伏せりの生存権を賭けたリアルな戦争と捉えるのが正しい見方だと感じます。例えば何故侍たちが農民に加勢したのか。農民たちの必死さと勘兵衛の人柄にほだされたのは事実。でもそれだけじゃない。武士は戦いが本分。剣を振る機会があれば振るいたい。それが証拠に久蔵は益の無い立会いでも刀を抜いている。外科医が技術維持のためにオペを望むように。あるいはスポーツカーのオーナーが愛車を乗り回したいように。利害が一致したから侍たちは農民の話に乗ったのです。戦の有様にもリアリティを感じました。農民VS野伏せりの戦が、国同士の合戦と違うのは大将が居ないこと。野伏せりは1匹狼が徒党を組んでいる状態。いくら戦いの玄人でも、個々の力はタカが知れている。素人でも団結をすれば玄人を凌ぎます。ましてや潰し合いともなれば、頭数がモノを言う。地の利もある。あとは竹槍を突く勇気があるかどうか。この戦の性質を見抜いていた勘兵衛の作戦勝ちでした。農民たちは十分な勝算のもと、勝つべくして勝った。日常を取り戻し、農作業に勤しむ農民たちの生き生きとした姿を前に、勘兵衛の胸に去来したものは何だったか。飼いならされていたのは農民だけか。いや侍たちとて同じこと。生きる糧を得る術を奪われている彼らの方が、より事態は深刻かもしれない。勘兵衛の最後の台詞「今度もまた負け戦であったな」は、実の無い生き方を強いられている武士全てに向けられていると感じました。もし、自分があの村の百姓だったらどう決断したか。米と女を差し出し命乞いをしたか、土地を捨て逃げ出したか、はたまた彼らと同じように戦ったか。平和を望むなら刀を抜いてはいけない。そう私たちは教えられてきました。その考え方は間違ってはいないと思う。でも刀を捨てるのが正しいのだろうか。農民たちを観て何も感じなかったらウソだと思う。日本人は全員この映画を観るべきです。[DVD(邦画)] 10点(2011-01-04 21:26:13)(良:2票) 1174. 秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3 ~http://鷹の爪.jp は永遠に~ 「俺たちは後世に残る名曲に興味はない。楽曲は使い捨てで結構」とは電気グルーヴの言葉(違ってたらゴメンナサイ)。自分はこの考えが好きです。鮨屋の心意気。この握り、今はご馳走だけど明日になったら生ごみよ。そんな潔さに痺れます。本来「笑い」(電気の場合は音楽だけど)の真髄は即時性にこそ在る。ですから、ギャグ漫画が短命なのも、お笑い芸人に一発屋が多いのも当たり前。時代は移ろうのだから。『鷹の爪』からは、廃れることを恐れない覚悟を感じる。徹底した話題づくり、劇中コマーシャルの浅ましさ。足の早い「もう中学生」ネタなんて、日持ちを考えたら使えない。刹那の笑いに全力を注ぐ姿は、愚地克巳VS花山薫、あるいはアイアン・マイケルVS柴千春を彷彿とさせます(byグラップラー刃牙)。凄まじくカッコイイ。たとえ数年後、本作が世間から忘れ去られたとしても、今この瞬間、心動かされた事実は決して消えません。それで十分なのです。本作は100%名作には成りえません。でも後世の人々を惑わす珍作にはなるかもしれない。生ゴミだって化石になればお宝です。ですから、遥か未来の人類に向けて、この映画を理解するためのヒントを残しておきたいと思います。★ジョン・ジョローリン…FOXドラマ『24』ジャック・バウワーのパロディ。★もう中学生…本当はもう大人。ダンボール業。★ばんどうえいじ…ゆで卵を主食とし、忘れた頃に野球の話をする。天敵はクロヤナギ。★ドウマリコ…堂真理子。テレ朝の女子アナ。8代目Mステ。右投げ右打ち。★スーザン・ボイル…歌の上手いおばさん。茹でられてはいない。★オババ大統領…オリジナルはオバマ。アメリカのジャイアン。アメリカは世界のジャイアン。[DVD(邦画)] 8点(2011-01-01 00:00:02)(良:2票) 1175. インスタント沼 監督の劇場作品の中では最も毒気が薄く、笑いも分かりやすいと感じました。起承転結もちゃんとしている方。映画として、こなれて来たというか。ただ、小ネタの乱発ぶりはいつも通りで、良くも悪くも三木映画という感じがします。多分映画通の方からしてみれば、相変わらず「何だこりゃ」なつくりだと思うのですが、これが監督の味。自分も含めて、この味を楽しみにしているファンにとっては、十分合格の出来かなと。三木映画入門編としてもオススメ出来ます。常連のふせ、岩松、松重の3人に直接の絡みが無かった点がやや物足りないものの、前作『転々』の三浦同様、風間杜夫や松坂慶子といった大御所の転がし方は滅法上手い。三木作品の“正ヒロイン”麻生久美子嬢もノリノリで、加瀬とのマッチングも抜群でした。三木のキャラクターはみんな心根の素敵な奴らばかり。今回も気持ちよく作品世界に入り込めました。点数的には7点ですが、これは満点で7点の映画。ちょっと心を軽くしたい時に、うってつけだと思います。[DVD(邦画)] 7点(2010-12-31 17:24:39)(良:1票) 1176. GONIN 《ネタバレ》 画面に食い入るようにして鑑賞しました。ただ、惹きつけられたというよりは、分からないモノを理解しようと必死になった感じ。作品にパワーが無ければこの作業自体が困難な訳で、ダメ映画だとは思いません。事実、多くの方から高く評価されている。しかし自分にとっては“どこをどう楽しめばいいのか分からない”映画でした。これはもう監督とセンスが合わないとしか言いようがない。脚本も演出も心に響かなかった。誰が死のうが生きようが感慨なし。キャラクターは悪くなかっただけに、勿体ないというか、不思議というか。目が離せなかったのは本木。どこまで演技指導があったのか知りませんが、自分なりの三屋をつくり上げていたと感じます。役者としてのポテンシャルが高い。竹中の狂人演技もお見事。ただ含み綿までして中年太りを演出する必要性があったかは疑問。もう一人のキチ、たけしの存在感は群を抜きます。でもこの味ならば北野映画の中の方が映えるとも思う。核となる佐藤がもう少し頑張ってくれたなら、印象も変わったかもしれません。[CS・衛星(邦画)] 4点(2010-12-27 19:56:28) 1177. 映画 レイトン教授と永遠の歌姫 《ネタバレ》 レイトン教授が納屋にあった道具で小型ヘリコプターを作ったところで不安になりました。それがOKなら、何でもアリになっちゃう。要するにヤッターマンと同じテクノロジーですから。爆発してもチリチリ頭の煙プシューで済んでしまう世界。ギャグコメディなら勿論アリですが、本作でソレをやって大丈夫ですかという話。クライマックスも同じです。一番弟子くんの空中ダイブ。普通の男の子があんな真似をして無事でいられるワケがない。レイトン教授の玉砕にしてもそう。“ファンタジーだから”あるいは“主要キャラだから”という言い訳でしか説明がつきません。これでは白けてしまう。手品のタネを明かすようなものだから。観客が手品に望むのは本物の魔法ではなく、見事な騙しのテクニック。映画においてもそれは変わらない。ルークを飛ばせるには観客を納得させる設定と理由付けが、レイトンにはせめてパラシュートが欲しかった。「未来の英国紳士ですから」なんて上辺を飾る台詞は要らない。宮崎アニメのアクションだけ真似てもダメ。同じアクションでもコナンやルパンに“許されて”、何故彼らには“許されない”のかを考えて欲しいです。どのキャラも基本的に薄口なのは、キャラにプレイヤーを投影させるゲームゆえの特性でしょうか。絵柄も含めて、心掴まれる何かが本作にはありませんでした。[CS・衛星(邦画)] 4点(2010-12-24 18:26:38)(良:1票) 1178. 空気人形 《ネタバレ》 男は何故、のぞみにもう一度空気を抜いて欲しいとお願いしたのでしょう。空気が抜けることは、彼女にとっては死を意味します。彼は死に触れたかったのではないかと思うのです。「自分も君と同じようなものさ」空虚な心の内を見せる男。おそらくは、写真の中で微笑む女性が原因。彼女の死に際を彼が看取っていたとしたらどうか。写真の彼女にもう一度会うために、彼はのぞみを利用したと考えられます。のぞみはここでも代用品だった事になる。男の思惑など知らぬのぞみは、その息で恍惚の表情を浮かべます。それはそうでしょう。空気を吹き込まれるのは、命を注がれるのと同じなのだから。彼女にとっては、紛れも無い性交です。偽りの性器では得られぬ本物の悦びを感じる空気人形。自分と同じ幸せを相手に与えたいと思うのは当然のこと。それが愛です。男を“切った”のぞみは、何も悪くない。それにもし男が生きることを望んでいたのならば、助かることは容易だった。彼は自分の意思で死んだのです。何も知らぬ空気人形に多くのことを教えた男。潮の香り、ガラスのきらめき。美しいと感じる心、恋する楽しさと切なさ。限りある命の意味も伝えたのに、何故尊さを教えてやらなかったのか。あの男が憎いです。最後に男が教えたものは、愛する人を失う痛みでした。深い悲しみに耐える術を知らぬのぞみは、自ら男の後を追いました。方や燃えるゴミ、方や燃えないゴミ。2人の魂がこの先、交わることはあるのでしょうか。この作品はペ・ドュナに尽きます。外国人であるが故の“違和感”が良い方向に作用しました。役柄とは正反対、彼女の代わりになる役者は居ないと思わせます。本当に素晴らしかった。そのほかのキャストも概ね良好。ARATA、板尾、岩松、いいですね。ただ、星野真里の存在意義だけがイマイチ薄く、惜しいなあと。生と密接な関係にある“食”パートを担当した彼女が本筋にきっちり絡んできたら、より一層深みのある物語になった気がします。[DVD(邦画)] 8点(2010-12-21 20:58:26)(良:2票) 1179. わたし出すわ 《ネタバレ》 走れないランナーに再び走る足を与えもすれば、慎ましく生きてきた夫婦の歩む力を奪うことも出来る。僅かなお金でツキを呼び込む男もいれば、大金で不幸を引き寄せてしまう女もいる。お金にまつわるエトセトラ。本作のエピソードは基本的に明暗・正負が対になる形で綴られています。お金の魔力に慄くのが小池だとすれば、その威力に気づいていないのが小雪です。彼女はランナー母に株価の値上がり情報を教えました。素人に株の快楽を覚えさせてしまう事がどれほど危険か、彼女は気づいていない。それは、小雪がこれまで負けてこなかった事を意味します。天賦の才なのかもしれない。大金を所有する小雪は、強大な力を有しているとも言える。そんな彼女でもままならぬのは、母のこと。どんなに金があっても、最先端の医療を持ってしても、母親の健康は取り戻せない。資産を全て手放したとき、母の身の上に神の奇跡が舞い降りるというエピソードは、お金至上主義に対するアンチテーゼと見て取れます。カネという人が作り出した価値観の中で生きる虚しさを描きたかったのでしょうか。ただ、そうだとするならば本作の踏み込みは甘いと感じます。男に狂った路面電車奥は、単純に彼女がバカだっただけ。殺された女も金を得たから命を落とした訳ではない。負のサンプルとして提示されるエピソードは、どれも筋違いでピンと来ません。それ以上に、ランナーが再び表舞台に立てるようになった事や、引越し屋に起業のキッカケを与えた事実の方が大きい。小池の判断や最後の奇跡が霞みます。本作を観た人は「小雪みたいなお友達が欲しいわ~」としか思わないのではないかと。[CS・衛星(邦画)] 5点(2010-12-18 19:24:38)(良:2票) 1180. ゴールデンスランバー(2009) 《ネタバレ》 青柳にとっては、アイドルを助けたことが運のツキでした。いや遡れば、宅配のバイト、大外刈り、ファーストフード同好会、全てが間違いだったのかも。こんなネガティブな運命論が頭を過ぎるほど、主人公が追い込まれた状況は絶望的でした。でも彼のピンチを救ったのも、これらの経験。オセロのコマが裏返るように、個々のマイナスがプラスに転じていきます。胸を熱くしました。晴子の「だと思った」。父親の「ちゃちゃっと逃げろ」。その一言で救われる。青柳と晴子はリアルタイムで言葉を交わす事はありません。でも友情という絆で繋がっていました。このことが数々の奇跡を生みます。しかしご都合主義だとは思いません。そう観客を納得させる仕掛けが施されていると感じます。以心伝心のカローラの件は、「自分も思い出していれば向こうも思い出してる」という轟の言葉で補足されているし、打ち上げ花火も初キスのエピソードが無ければ出なかったアイデア。そもそも轟さんをロッキーと呼べる信頼関係を築いていた事に意味があります。礎のある奇跡は大歓迎。では、キルオはどうでしょう。彼は助っ人として、突如青柳の前に現れました。その後の動きも神出鬼没。何故こんな芸当が出来たのか。ショットガン男と因縁があること、劇中一般人を殺めていないことから、「通り魔」という肩書きの信憑性が疑われます。彼もまた別件のオズワルドではなかったか。キルオも当局と戦っていたのなら、その立ち回りに説明がつきます。世間に顔が売れていた青柳が生贄に選ばれた妥当性も含め、全編を通して“説得力”を感じさせる脚本でした。エンターテイメントでは、リアリティより価値があると考えます。結末も秀逸です。青柳は手足を失う大事故に遭遇したようなもの。以前と変わらぬ生活を望むのは無理な話。この結末で最善です。彼と仲間の勝負手が、未来を手繰り寄せたのです。「長引かせると厄介だ」そう思わせたことが値千金。当局にとっての安全策、“代替による早期幕引き”を引き出せたのだから。人生は思い通りには行きません。打ちのめされる事もある。そんなとき、どう振舞うかでその人の値打ちが決まります。満点じゃなくても花マルは貰える。「たいへんよくできました」。青柳にはこの人生を誇って欲しい。[CS・衛星(邦画)] 9点(2010-12-15 17:50:50)(良:2票)
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