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1281. パラノーマル・アクティビティ 《ネタバレ》 この手の主観映像ものも、ちょっと飽きが来るかと思っていたが、けっこうまだ楽しめてしまった。どうも映画の楽しさの核に触れている気がする。主観映像ではあるが、カメラが第三者として夫婦の間に割り込んでいるようにもなっていて、そこに新手の面白味が感じられた。こうやって夫婦でカメラを交替しながら撮影し合っていると、普段より喋ることになる。ほとんど喋り合っている。この第三者としてのカメラを意識して、微妙に演じ合う感じになる。そこで夜や留守の時の沈黙がひときわ浮き上がり、カメラの記録係としての役割が生きてくる。この設定が悪くない。早回ししていた時間表示が普通のテンポになると、さあ来るぞとドキドキする。やってることはたわいなくても、神妙に耳を澄まし目を凝らした。ケイティはカメラを憎悪していても、旦那が一人で階段を下りようとしているときなんかけっこう撮影を手伝っていて、そこらへんはもうちょっと自然な段取りがほしいような気もするが(ほかにも不自然なとこはいっぱいあるけど)、そうさかんに「映さないでよ」と言っていたカメラに自ら近づいてくるというラストは、それなりに落としどころとして正しい。ああそうか、旦那にはカメラ・妻には悪魔、という二つのノリウツリの話でもあるわけか。まだまだこの手の手法は開拓できそうだ。[DVD(字幕)] 7点(2010-09-07 09:37:45)(良:1票) 1282. トリコロール/赤の愛 これは三部作の中ではまだ分かりやすいほう。趣向がはっきりしているので。時代を超えた触れ合いというか、ちょっと怪異譚めいた世界。若きトランティニャンである青年とヒロインが出会うまで、ということか。老いたトランティニャンは夢の中で50代のイレーヌ・ジャコブを見る。犬も老若の橋渡しをする。国際電話の距離と隣人の盗聴の距離の対比、などなど。室内の照明はいつもながら美しい。一番思ったのは、キエシロフスキ、イレーヌ・ジャコブが好きなんだなあ、ってこと。クールにクールに作ってるけど、年若い娘を恋してしまった初老男のいびつな恋情が脈々と感じられる。偉大な男性監督は常に女優に恋していなくてはならないのかも知れない。思えばかつて『ある党員の履歴書』なんて非常に公的な硬い手触りの秀作を作っていた人が、最後にこうグッと私的な世界に凝縮していったのも、東欧開放の一つの流れなんだろう。でも「裁判所=裁くこと」が、よく出てくるのは体制の新旧で変わらない。[映画館(字幕)] 7点(2010-09-06 09:59:36)(良:1票) 1283. ブロードウェイのダニー・ロ-ズ ウディ・アレンの映画で時々カチンときちゃうのは、本人がお人好しの役をやっていい気なものだと思ってしまうとこなんだけど、でもここまでやられるともうマイッタって感じ。許しちゃう。褒めちゃう。昔語りの枠の中に収めてあるので、臭くならないんだな。邦画の芸道ものにもこんな設定ありそうな話だが、あちらだとこうなって、こうすると臭くならないのか。むちゃくちゃに災難が襲ってくるおかしみ。5歳の子も文句を言う腹話術師。圧縮ヘリウムの中での叫び合い、などなど。ロングでセリフの聞こえない立ち話っての、この人好きみたい。けっこうしみじみなトーン。[映画館(字幕)] 7点(2010-09-05 09:13:34) 1284. クヒオ大佐 《ネタバレ》 政治的なアメリカコンプレックス風刺の大枠を設定したため、観てるほうが方向づけされてしまって、せっかく俳優たちは好演しているのに膨らんでくれない。堺雅人のキャラクターを生かし、前半はひたすらうさんくさく、後半はそれに卑小さも交えて、クヒオを見てるぶんには楽しい映画。とりわけ見抜かれているにも関わらずたどたどしい喋りを崩さない後半のおかしさ。キョトンとした目がいい。あるいは見抜かれて自分の過去を話し出しても、また嘘が入り込んでくる映像と言葉との乖離のスリル(ここでレストランでの暴発の理由がわかる仕掛け)、と部分的にはより膨らんで受け取れる部分もあるのに、逮捕時の幻想で内野聖陽が出てきて、また政治レベルに縮小されてしまう。もちろん、大きなアメリカコンプレックスの一部分として政治を描いているのだろうけど(強請られてわざわざドルで払う)、最初と最後の両端にブックエンドのように重々しく政治を立てられると、それを越えづらくなってしまうのだ。それにしても、たどたどしい日本語って、なんであんなにうさんくさく聞こえるのだろう。これを詰めるほうが面白いテーマじゃないか。[DVD(邦画)] 6点(2010-09-04 09:49:41) 1285. 四畳半襖の裏張り しのび肌 《ネタバレ》 よくあんな気持ちの悪い少年を見つけてきたな、ほんとにタイコモチになれるのかいな。セピアの画面からサーッと川の青い水が広がるのが美しい。長回しでゴチャゴチャからむとこにこの監督、独特の粘り気があってよく、本作では映写技師の家のシーンがいい。『土と兵隊』の大きさに画面も縮まり、その狭い中で蒲団のかたまりがうごめく。脇で旦那がうつろな表情でただ横たわっている、なんて構図。ニヒリズムのようでいて、人懐こいようでいて、蒲団とはこういう味わいがあるものなのか、としみじみ眺めさせてもらった。少年が「デデンデンデンデンデン」と練習しながら、階段風の渡り廊下をゆくところなんかも印象深い。結局みんながオモチャのつもりで遊んでいた少年に、オモチャにされてしまったというようなラストがおかしい。それで男たちは満州に行ってしまう。時代に対してひどく閉じている世界を描いてきて、あの少年なんかもそういう閉じた環境の気色悪さを引きずっているんだけれども、その閉じていった果てにヒョイと向こう側に抜けてしまうもの、それが「男」であり、そうはならずに微温的に全体に通じ合っていってしまうもの、それが「女」、ってことか。[映画館(邦画)] 7点(2010-09-03 09:59:47) 1286. ワイアット・アープ(1994) 愛あり悲しみあり、挫折あり立ち直りあり、厳しすぎたりしても人間味ありと、中庸へ中庸へと導かれていくつまらなさ。ワイアット・アープという名前がなければ、前半は総崩れになるのではないか。つまり西部劇としてでなく伝記映画として見ろ、ってことか。そう思うと、多民族国家アメリカにも、やはり民族的英雄が生まれてしまうという悲劇を目撃することになる。せめて、もっと皆に「愛されなかった」彼を詰めれば面白くなったかもしれない、自殺未遂を繰り返す「妻」の目を通すとか。でもケビン・コスナーって複雑なキャラクターを演じられるタイプじゃないんだよね。美女が登場しない3時間11分、ワルのほうに魅力がないのも致命的欠点。ラスト近くでズルズルとヤマ場が絞り切れない。OK牧場のあともだらだらと続く、「伝記映画」だから。トウモロコシ畑から始まってバッファローの走りがあり、コスナー作品を回顧しているようなところがあった。唯一映画らしかったのは、無法地帯と化した町を弾痕だらけの看板で見せたとこか。[映画館(字幕)] 5点(2010-09-02 09:58:19) 1287. スペル ちょっとおばあさん出過ぎ。風に舞ってくるハンカチとか、気配が高まるあたりはいいんだけど、そこでおばあさんがガンと出てくると、まあ最初のうちはそれなりに唸ったりするけど、次第に「また婆さんのアップか」という気になり、コンと狙いなのか脅かし狙いなのかどっちつかずで、観てるほうも笑いも恐怖も落ち着かない。もっとおばあさんはおばあさんの貫禄で、ここぞというときに絞って出て来ていただきたかった。代わりにやってくれる下っ端の家来はいないのか。主人公は白人で、彼女を脅かすのは(おばあさんからライバルの同僚まで)ロマや東洋人と非アングロサクソン。ヒロインをアドバイスする霊媒師も非アングロサクソンだけど、つまりけっきょく白人を取り巻く非日常の住人で、その意味ではおばあさんの世界に近く、平穏な日常は白人だけの特典なの。これ潜在的な白人の世界観なんじゃないのか。そして非アングロサクソンに恥をかかせてきたという歴史上の疚しさみたいなものが無意識下に沈澱していて、それがおばあさんの「恥をかかせたなあ」に凝縮し…。いや、そんな殊勝な気持ちはないな、彼ら。[DVD(吹替)] 5点(2010-09-01 09:59:58) 1288. 赫い髪の女 にっかつロマンポルノは70年代初めに青春の終わりを描くことから始まったが、ここに至ると、もう青春の終わりでなく、中年まっただ中。いいかげん落ち着かなくちゃいけない、って年頃も過ぎている。もうよそに働きに出ていく気にもなれないし、若いもんのようにカケオチなんかも出来ない。半分はそういう状況を受け入れてるんだけど、あとの半分でわだかまりを残している。やたら雨が降る。ガラス戸はずしちゃって室内にまで雨は流れ込んでくる。若いもんに赤髪女を貸してるときにも雨は降っている。狭い飲み屋のシーンなんか良かった。室内はひっくり返った電気ごたつの赤。若いもん同士は廃船で密会するのだが、この監督、船好きみたい。これまたうらぶれた風情を強めている。弱者を描くんだけど、そこからは強者への恨みも妬みも感じられない。革命の気配などトンとない。「わしらはわしらでやってんのや、ほっといてんか」ってことでしょうか。こういうニヒリズムに沈んでいく世界観が間違いなく70年代末のもので、60年代末の高揚から10年でここまで来てしまったという記念碑のようなフィルム。[映画館(邦画)] 7点(2010-08-31 09:51:50) 1289. ハレルヤ ヴィダー監督が音を得て、まず黒人音楽こそアメリカの音だ、と判断したのは正しい。この時代にそう判断するのが、どの程度画期的なことだったのか分からないけど、ジャズの時代にそれ以前の音楽に注目し、スクリーンを黒人で埋め尽くしたのは凄いことなんじゃないか。少年たちのタップ、霊歌ふうのコーラス、ほとんど音楽映画と言っていい。熱狂している中を主人公の男が踊り子を追ってこちらへやってくるあたりは、鬼気迫るものがあった。あとはラストの無言の追いかけ。実に粘っこい。小細工のない監督、骨太の世界。沿道でのののしりも、変に堂々と続く。その彼女がしだいに引き寄せられていく感じ。簡単に言ってしまえば、一つのシーンに掛ける時間が長いってことなのか。聖人伝説的なタッチがあった。[映画館(字幕)] 7点(2010-08-30 09:46:52) 1290. イングロリアス・バスターズ 《ネタバレ》 ナチと連合軍の争いを描いたハリウッド映画で、「正義」のイデオロギーがまったく感じられないのは珍しい。狂気と復讐の殺戮のみが展開していく。レジスタンスはあっさり密告し、仲間を裏切らないナチはバットであっさり撲殺される。今までのドラマだと助かる立場の人、子どもが生まれた兵や心の呵責を覚える狙撃兵も、仲間を裏切らなかったナチと同じく猶予されない。この「あっさり」感が、この人の持ち味(かつてのタランティーノだと、ブラピも中盤であっさり死ぬ筈なんだけど)。善悪を判断する余地がない狂騒の場に観客は拉致される。多言語が行き交うのも、その善悪が渾然としている状況にふさわしい。言葉のなまりや、映画が通じないことなどが、次に続く殺戮のステップになっている。とりわけいいのは、地下酒場のシーン、ここにこの監督のエッセンスが詰まっていた。作られた笑顔の中でじわじわと高まっていく緊張、殺意と殺意とが寄りかかって固まっている状況。このキングコングを当てるナチ役の俳優もよかった、この映画でおそらくユダヤ・ハンターの次に記憶に残る、笑顔の不気味な二人だろう。ここのところタランティーノ監督、映画中毒者のための映画遊びにのめり込んでいた印象で不満だったんだけど、私でも楽しめる世界へ戻ってきてくれたようだ。[DVD(字幕)] 7点(2010-08-29 09:45:50)(良:2票) 1291. マルサの女 伊丹監督の一番の業績は「情報映画」って新しいジャンルを作ったこと。一斉査察がドキドキさせたけど、調査の部分が興味深い。シーツの洗濯数から調べていったりする。それらの情報が大きいうねりを作ってくれないところがちょっと不満だけど、こういう題材を見つけてくる才能は抜きん出ていた、もっと大手会社の製作部に見習ってもらいたかった。ただせっかくドライに行ってんのに、山崎と宮本を人情で繋げようとしたりするのが分からない。この人はひどく自分の意見が映画に出ちゃうのを怖れているみたいなところがあって、ドライにいくか、さもなければ紋切り型でいくかってことになる。でもこういう「社会」を扱った作品だと、やはり自分の立場ってのがどうしても反映してしまう方が本当じゃないだろか。どっちかの側につけっていうんじゃなくて、両者の執念がキリキリと詰め寄ってるところをヒョイとかわすような視点があってもいいんじゃないか、などと思ったものでした。山崎努の役名が、『天国と地獄』でさかんに電話を掛けていた相手の「ゴンドウさん」というジョーク。[映画館(邦画)] 7点(2010-08-28 09:59:58)(良:1票) 1292. ハンナとその姉妹 《ネタバレ》 この人は、街角での立ち話ってのが好きだね。建物から街路へ出てくる人のフルショットとか。建物の中では濃密な人間関係のドラマが成り立つが、こういう他人の流れのなかでの「かぼそいつながり」の方が一種の奇跡であるかのように見え、そっちでドラマを動かしたくなる。そういう下地があるから、マイケル・ケインがリーに「偶然」出会うために走り回るあたり、笑える。モノローグとそれを裏切る行為、って笑いもある。キスをする段取りを考えていて、結論に達した途端に、突然しちゃうとか。うじうじベッドで考えてて、よしっ電話しようと思って行くと、向こうから掛かってきちゃうとか。[映画館(字幕)] 7点(2010-08-27 09:43:46) 1293. 螢川 雪・桜・蛍とくれば、ディスカバージャパン的な定型の情景が連続するんではないかと心配していたが、そこは避けてある。雪はボタ雪と違い湿り気のないサラサラしたもので清潔。桜もそれらしい観賞用のカットはなく、自転車の車輪に貼りついた花びらがカラカラと宙を回転している。色も白・黒・赤という日本の伝統的な美意識に通じる三色の配置がしばしば使われるが、白い雪に黒い学生服、そこに赤い血や赤い傘が飛び込んでくるというような感じで、驚きのある新鮮な使用法。とても日本的な気分にあふれている物語を、情緒に流れないようにと監督は細心の注意を払って進めている。奈良岡朋子のエピソードなども、十分に溜めてから激情を爆発させるので、ジメジメしない。こういった演出上の抑制が、まわりの善意に溺れまいとしている少年の爽やかさと重なった。ただラストの蛍のシーンでの合成音は安っぽかった。赤い傘につけた鈴の音の効果などが素晴らしかっただけに残念。[映画館(邦画)] 7点(2010-08-26 09:47:01) 1294. 全身小説家 奥崎謙三もそうだったけど、この監督は対象とする相手に、あんまり「お近づきになりたくない人」を選ぶ。どこか精神主義の匂いのする人。文学伝習所の、宗教組織というかハレムのような空気が苦手だったし、とにかくこういう「意志」の人って疲れる。井上光晴がコウルサイ小男に「出ていけ」と怒鳴ったりする(埴谷雄高がボソボソと「出ていくことはない」とつぶやくのが傑作)。文学組織というより「井上教」という宗教団体みたいで、教祖に、君は耳がきれいだね、と言われておばあさんが感激したりしている。こういう不可思議な世界を前半でミッチリ展開したあと、この強い作家に、弱さが寄り添って見えてきて、映画は俄然身近になった。「うそつきみっちゃん」があばかれていくスリル。映画としてもフィクションを織り交ぜていた仕掛けが生きてくる。現実は癌である。しかしその周囲に嘘が振りまかれる。だいぶいいようです、という医者の気休め。特効薬を売り込む「燃える赤ひげ軍団」いう男のうさんくささ、それへのリアクションの瀬戸内寂聴のナントモ言えん表情(癌死をめぐる厳粛なドキュメンタリーなのに、ここで場内は爆笑)。ああいったものが癌という生々しい現実の周りに付着してきてしまう。小説家という、虚構を構築する仕事をしている者の周囲で、本当と嘘が絡まりあい、しかし癌という現実だけは確実に進行していく、そういう世界観。もっともリアルだったのは、摘出される肝臓。そうか原一男は『海と毒薬』の助監督だったんだ。そして熊井啓の出世作が井上光晴の『地の群れ』だったことも思い合わせると、なにか一つの大きな円環が見えてくる気もする。作家は正月の客を送り出したあと、階段をゆっくり昇天していった。ここは感動的。[映画館(邦画)] 7点(2010-08-25 09:58:22) 1295. ブロンクス物語/愛につつまれた街 《ネタバレ》 勝手に、もっと神経質っぽいものを想像してたんだけど、アタタカイのね。なにしろ「心から笑ってない笑顔」をやらせると天下一品の俳優だから、サイコパス系の映画でも作るのかと思ってた。つまりそういうふうに見られることがやで、「本当は僕ってほのぼのした人なんだよ」とアピールしたかったのかも知れない、泣いた赤鬼みたいに。映像のリズムと音楽をシンクロさせて楽しんだりしている。ヤクザもんとカタギとの、二人の「父」のもとで育つ少年の話。別に「悪」と「善」という分けかたではない。ソニーも少年をヤクザもんに育てようとしているのではなく、彼なりの「教育」で筋を通している。ここらへんカタギもんのデ・ニーロに一目置いているわけ。ほんとのチンピラと付き合おうとすると忠告するし。「好かれることと怖れられることとどちらかを選べというなら、怖れられるほうを選ぶ。持続するから」と。実の父のほうは「才能を無駄にするな」という。こういう環境の中で息子を育てるのは大変なことなんだ、と思う一方、どんな環境でもその地ならではの教育があるってこと。黒人ガールとの恋愛は、イマイチ不燃焼。ニガーと言ってしまったあと、もうワンクッション和解との間にほしい。とはいえ、教育を巡る映画として秀逸。[映画館(字幕)] 7点(2010-08-24 09:53:24)(良:1票) 1296. 犬の生活 パントマイム芸が見事。たとえば職安の窓口をすぐ奪われてしまうギャグ。行列の先頭にちゃんと立っていたのに、二つの窓口交互にうろついて、ついに締め切られてしまうまで、同じパターンを繰り返すんじゃなくて、ちゃんとそれらしくやっている。それと店先での盗み食いギャグ。これも至芸。もっていった手をわけもなく払うしぐさしたり、後ろ手でつかんだり。もう一つ、悪漢二人の一方を殴っておいて、二人羽織するギャグも傑作。気を戻しかけたとこを、もう一度相棒が見てない隙に殴ったりしてるの。とまあパントマイムの連続で描かれるものは、社会に対する「要領の悪さ」と、逆に「したたかさ」と言うようなもので、マルクス社会学者が見れば「民衆の底力」ってなことになるのだろう。冒頭の要領の悪さで共感させといて、それに活躍させ、ほどほどの成功へ至る。当時の多くの人々にとってリアリティある夢だったのだな。あの「ほどほど」ってのが大事で、あれぐらいの成功なら俺にだってチャンスがあるかも知れない、って気にさせる。夢と現実の連続感を大事にしている。[映画館(字幕)] 7点(2010-08-23 09:49:02) 1297. ウルフ 《ネタバレ》 スクリーンに登場する怪人たちの中で、ドラキュラ・フランケンシュタインの怪物、の大物ぶりに比べ、狼男はやや弱い。アピールポイントが「満月になると顔に毛が生えます、遠吠えもします」と内向きである。「おまえはけっきょく何をやりたいんだ」と詰め寄りたくなる(日本の昔話で、桃太郎・一寸法師に比べ影の薄い金太郎と同位置にあるようだ。桃太郎らは業績がはっきりしているが、金太郎は子どものときに熊と相撲をとったこと以外はボンヤリしていて、どこか狼男と似ている)。で、この映画。そのぼんやりものの狼男に一本背骨を入れた。狼男とは「中年が若返る」なのだ。疲れが消え、気分爽快、生き生きとなるのである。人間関係の中で疲弊していた中年に、野生の血が紛れ込むのである。匂いに敏感になり、遠くの会話が聞こえるようになる、とリフレッシュとしての狼男化が面白い。あちらキリスト教圏の話は、つまるところ悪玉と善玉の展開になっちゃうところが物足りないけど、何か新しい視点・解釈を導入しようとする姿勢は偉いと思う。主役の二人は『バットマン』シリーズ1作目と2作目の仇役、ジョーカーとキャットウーマンで好演したもの同士、ラストは美女と野獣でもある。J・ニコルソンってこういう役になると本当に楽しそうにやってる。[映画館(字幕)] 6点(2010-08-22 09:53:21) 1298. エース・ベンチュラ 《ネタバレ》 なんと言うか、三流に徹している潔さみたいなもの、感じますなあ。それを過大評価するつもりはないけど、でもこういうの観ると、映画が誕生した初めの時代、ほとんど1世紀前の、舞台芸人の芸を実写していたころの記憶に脈々とつながっているような気がして、ウーンとうなったりしちゃう。ステージ芸人の芸って知ってるわけじゃないけど、倍速逆回しのところなんかそんな気がした。芸人の芸の記録から始まって、やがて映画の芸が誕生していく、その現場に、なぜか1世紀後れて立ち会っているような感動が、なくもない。オシリがしゃべるの、とか。一番笑ったのは、もと選手たちの指輪を調べていくあたりか。無茶な運転して相手に指を突き立てさせるとか、殴らせて跡を見るとか、一緒に走っているだけではダメで、とうとう麻酔をかがせるとか。郵便ポストの中ってのもあった。ここたへんになると、舞台芸から映画の芸へ若干進化しかけている。[映画館(字幕)] 6点(2010-08-21 09:55:10) 1299. アンナと過ごした4日間 《ネタバレ》 男が忍んでいるときのアンナの顔が初めてはっきり見えたのは、ヘリコプターのシーン。鏡越しにこちらで隠れている男と目が合うんじゃないか、とハラハラさせつつ、指輪をうっとりと眺め男の心を歓喜で満たしている場面。それまでは、ただいればいいという役どころで、スタッフの一人を使って演出しても安上がりに済んじゃうんじゃないか、などと思っていたが、このシーンから彼女は「対象」として生命を吹き込まれ、終盤やはり演技の力を見せる。裁判の場のアンナが素晴らしい。視線のそらしと凝視だけなんだけど。ああ東欧の女優さんの顔だ、と思う。なにか耐えに耐えて硬くなったなかに、人間味を潜めている顔。風景も久しぶりに、旧体制下の東欧を思い出させる陰鬱な静まりを見せてくれて、とても美しい。裁判の場で、寡黙だった男が「愛」という言葉を口にする。その場違いな唐突さ、驚き、その上で「この言葉以外にないな」と深く得心させられる。これレンタルビデオ店では「ラブストーリー」に分類されていたけれど、間違いなくラブストーリーなのだ。同じ姿勢でレイプされたもの同士の共感からスタートしたのかも知れないが(皿洗いから記憶がよみがえる趣向)、「愛とはこういうものだった」と、すごく極端な設定で普遍の本質を提示されたような感動があった。[DVD(字幕)] 8点(2010-08-20 09:57:42)(良:1票) 1300. 四十七人の刺客 陰謀合戦に絞ったホンにしなくちゃならないのに、どうでもいい役をオールスターキャストのために作ったりして、フヤかしちゃう。ワイロの噂を赤穂側が流すなんてのは面白いんだけど、おびき寄せておきながら室内に入るまで反撃を全然しないってのは、吉良側がトンマに見える。つまり、吉良が要塞を作っていく経過が見どころになるはずなのに、いままでの忠臣蔵ものに影響されてか、「討ち入り=ヤマ場」にこだわりすぎたせいだろう。「塩」の字が旧漢字でなかったなあ。市川映画ではどんな役者も崑の世界に染まったものだが、健さんだけは、とうとう最後まで染まらなかった。主税が、藤純子の息子という思いやりはある。崑らしさが出たのは、宮沢りえの数カットのみだった。『ビルマの竪琴』のようないくつかの例外はあるものの、やはりこの監督に男集団の世界は合わないのだ。[映画館(邦画)] 5点(2010-08-19 09:59:21)
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