みんなのシネマレビュー |
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1441. ひなぎく 《ネタバレ》 まるでゴダールの脚本をソフィア・コッポラが撮った様な映画、と言うのがこの映画の説明としては相応しいかも。とくにストーリーらしきものはなく、強いて言えば“不思議ちゃん援交姉妹のオヤジ狩りの日々”とでも申しましょうか。とても40年以上むかしの映画とは思えないぶっ飛んだ映像と不思議ちゃん姉妹の強烈なキャラ、そして鮮やかな色彩感覚はもう奇跡としか言いようが有りません。「映画の表現とはとことん自由なんだな」とつくづく思いました。AKB48の『ヘビーローテーション』のPVが全篇本作へのオマージュになっていると言うのは一部では有名な話だそうです(監督は蜷川実花)。[ビデオ(字幕)] 8点(2014-01-03 10:37:46) 1442. アルマゲドン(1998) 《ネタバレ》 数ある小惑星激突もの映画の中でも、発見から地球衝突までの時間が18日と言うのは最短記録じゃないでしょうか。政府から早期発見に失敗したと責められるビリー・ボブの言い訳がまた凄くて、「発見に必要な予算の3%しかもらっていない」とは恐れ入りました。そのせわしなさを反映して物語の展開も急スピードと言うか雑で、良くも悪くも2時間半なんかあっという間に過ぎてしまいます。でも小惑星で穴を掘り始めてからの時間感覚は逆に超スローで、あと18分で核爆弾を起爆しなければいけないと言う切羽詰まった局面でくじ引きなんかふつうしないでしょ。バラバラと幾つもの隕石が地球に降ってきたとしても、それがパリや上海をピンポイントで直撃する確率はどんだけだよ。 と、怒りがこみ上げる様なシーンのてんこ盛りですが、正月にボーっと観る様な映画としては最適なんでしょうね、今回は比較的平穏な気分で観ることが出来ました。ブルース・ウィリスもおバカ映画としては味が有る演技だった気がしますし、これでラジー賞受賞とはちょっと可哀想な気もします。でもこの人、この年には『マーシャル・ロー』と『マーキュリー・ライジング』でもラジー賞ゲットして前人未到の単年度三作で受賞という偉業を成し遂げていて、これはこれで凄いことです(笑)。[CS・衛星(字幕)] 4点(2014-01-02 00:24:31) 1443. リミットレス 《ネタバレ》 脳細胞を100%活性化したら人間なにが出来るか、という命題には「透明人間になれたら何をする?」というお決まりの妄想にもつながる面白さがあります。そこを如何に巧みに映像として表現してくれるのかというところに興味が有りましたが、その才能を使って投資で金儲けに奔走するというお話しとは、ちょっと夢がない様な気がしました。脳細胞をフルに使えることのメリットは記憶や知識の断片をすべて活用できることだとしているのは判るけど、それが投資の成功につながるとはちょっと思えないんですがね、あれじゃほとんど超能力ですよ。 スピーディな映像はハンドカメラを使ったグラグラ揺れる画を多用されるよりもずっとマシですが、脚本のボロを隠すにはこういうスタイリッシュな撮り方は有効です。ブラッドリー・クーパーを追いかけてくる謎の男なんて陰の組織が背後にあるのかと思いきや、まさかボスがあれとは肩すかしも良いとこでした。けっきょくあの新薬自体についてはほとんど説明皆無で、映画の後半は薬をめぐって三つ巴の争奪戦になっちゃいます。その挙句に“脳のシナプスが進化した”というあのオチは賛否が分かれるところでしょう。続編を撮る気は満々という印象は有りましたね。[CS・衛星(字幕)] 6点(2013-12-30 11:55:40)(良:1票) 1444. ザ・ウォード/監禁病棟 《ネタバレ》 精神病院が舞台のサスペンス・ホラーなのでスコセッシとディカプリオが最後に組んだあの映画に似ているなと思い、そこで思考停止してそのまま鑑賞してしまったので、あのオチには「またヤラれた!」と叫びたくなりましたよ。この手の映画はふつうの監督なら色んな映像的な伏線を張りまくるものですけど、カーペンター御大がそんなせせこましい事に拘るはずもなく、客観映像でアレを見せられちゃったらふつうにこれは亡霊系のホラーだと思っちゃいますよね。もうこれは“信頼ならざる語り手”ならぬ“信頼できない監督”とカーペンターを呼びたくなりました(笑)。 映画の撮り方自体はカーペンターらしからぬオーソドックスな洗練さを感じますが、ファンとしてはそんなこじんまり纏まったカーペンターなんて求めていないと思いますよ、少なくとも私はそうです。あなたもいい歳で映画を撮るチャンスは少ないんだから、最後にド派手な花火を見せてください、期待してますよ。[CS・衛星(字幕)] 6点(2013-12-27 20:24:23) 1445. チャーリー(1992) 《ネタバレ》 伝記映画としては、チャップリンが自伝のために作家に人生を回想する、最後はオスカー受賞式のところで閉める、など非常にかっちりしたオーソドックスな撮り方がリチャード・アッテンボローらしいところです。正直なところ『ガンジー』の時の様な主人公に対する思い入れは感じられず、平凡な映画と言う印象は否めませんでした。でもこの映画の意義は、ロバート・ダウニー・Jrにチャールズ・チャップリンを演じる機会を与えてくれたことに尽きるんじゃないでしょうか。もう上手い、としか言いようがない素晴らしいパフォーマンスです、さすがに老年期のチャップリンについてはちょっと苦しいところがありましたが。 私生活の乱れで俳優キャリアの低迷時期が長かったのは残念ですが、この人は現在のハリウッドでも屈指の演技力を備えたアクターだと思うんですけど。まだまだ若いし、ダニエル・デイ=ルイスを超えられる可能性すら秘めた人だと思うんですけどね。[ビデオ(字幕)] 6点(2013-12-26 22:16:30) 1446. 雲霧仁左衛門 《ネタバレ》 何とも豪華というかムダに絢爛なキャストでしょうか! 八代目と九代目、松本幸四郎の親子共演なんて映画じゃ滅多に観れないもんですよ。でもこんだけ脇役にまで大物俳優が出ていると、かえって目移りはするしお話しが散漫になるので副作用が強いんだと良く判りました。女優の扱いがまた露骨で、岩下志麻(ミエミエのボディダブル・ヌード)、倍賞美津子(手拭いで胸を隠して入浴シーン)、宮下順子(ロマンポルノの人だからと言っても、初登場シーンはあまりにムダ脱ぎ)と監督の脳内での女優格付け順が露骨に判って失笑ものです。と言うことは、ただ一人エロに無縁な役だった松坂慶子がいちばんの大物女優だってことなんですかね(笑)。 せっかく“大江戸版ワイルド・バンチ”な食材なのに、下手な料理人のおかげで恐ろしく不味い料理が出来ちゃったと言うしかありません。チープな音楽に安直な脚本、この監督は撮り方がTV時代劇と基本的に変わっていないのが良く判ります。池波正太郎もさぞやご立腹だったんじゃないでしょうかね。[CS・衛星(邦画)] 4点(2013-12-23 20:13:56)(笑:1票) 1447. 狂えるメサイア 《ネタバレ》 故双葉十三郎氏の『外国映画ぼくのベストテン50年』という500本の映画を紹介している本の中で、唯一リストアップされているケン・ラッセル映画が本作です。ケンちゃん映画から一本となって、『Tommy/トミー』や『恋人たちの曲/悲愴』ではなくて本作を選ぶという双葉さんのセンスにはびっくりです、この映画のどこが気に入ったんでしょうかね? 音楽家の伝記映画には拘りを持っているケンちゃんですがこの映画ではアンリ・ゴーティエというフランス人の彫刻家を取り上げています。作品が評価される直前に若くして第一次世界大戦で戦死してしまった彼の、20歳も年上のポーランド人女性との破天荒な恋愛生活と創作活動を描いています。この女性を演じるのがドロシー・テューティンで、たしか『クロムウエル』でヘンリエッタ王妃だった人ですが、そこそこ美形だったはずなのに醜女好きのケンちゃんに徹底的にブスにメイクをされてちょっと可哀想でした。ケン・ラッセル映画のヒロインにしては珍しいことに彼女は脱ぎません、その代わりにチョイ役出演のヘレン・ミレンが全裸演技で気を吐いています。当時20代半ばなのに、17年も後で撮られた『コックと泥棒、その妻と愛人』で見せたヌードとほぼ一緒の体型と言うのが、また凄い。若いころからムチムチ豊満だったんですね。はっきり言って本作では必然性の全くないシーンでヌードになっておりもうムダ脱ぎとしか言いようがないんですが、けっこう本人も脱ぐのが好きなんじゃないでしょうか。 デレク・ジャーマンが手掛けたナイト・クラブの頽廃的なセットと踊りなんかはケンちゃんらしさが良く出ていました。ふつうの感覚ではちょっと(大いに?)変ですが、まあこれは彼なりの純愛物語なんだと思いました。[ビデオ(字幕)] 6点(2013-12-20 20:45:07) 1448. ジャンゴ 繋がれざる者 《ネタバレ》 ジャンゴとDr.シュルツがキャンディ・ランドに着いてストーリーの本筋が始まるまで1時間超、でも全然尺の長さが気にならないというのはたいしたものです。実際のところ自分が今までに観たことのある上映時間3時間前後の映画で、これほど一瞬たりとも退屈させられることがなかったのは初めてです。緊張感のない会話で笑いを獲ろうとするタランティーノの得意技もビッグ・ダディ一味が覆面のことでウダウダするシーンだけで、全篇堂々たる撮りっぷりでもはや巨匠の貫禄すら感じられます。 クリストフ・ヴァルツのために書かれた脚本の様なものなので、もうこのおっさんのダンディズムと言うかカッコよさには痺れちゃいまいした。タランティーノは前作でナチスというかドイツ人をさんざんコケにして痛ぶったので、Dr.シュルツでヴァルツにはその罪滅ぼしをしてあげたのかな。何と言っても異様な迫力があったのはサミュエル・L・ジャクソンで、あの目つきでガンつけられたら間違いなくちびっちゃいます。“Mother Fucker !”なんて卑語が19世紀に有ったとは思えないけど、やっぱ“Mother Fucker !”と叫ばないサミュエルなんてクリープのないコーヒーみたい(古くてすみません)であり得ません。[DVD(字幕)] 9点(2013-12-19 21:59:41) 1449. 合衆国最後の日 《ネタバレ》 ロバート・アルドリッチが撮ったポリティカル・アクションですが、いろいろと突っ込みどころも多い作品です。アカ狩りの嵐を生き抜いてきたアルドリッジの熱いメッセージは伝わってくるんですけどね。■まずバート・ランカスター、味方を殺し過ぎ。金庫を開ける特技を持った男を射殺して後で苦労することになるけど、当直士官が金庫の番号を知っていると判っているなら、始めからこいつらを締めあげて聞き出そうとした方が良かったんじゃないかな。■離れた場所にある装置にキーを差し込んで同時にまわさないとミサイル発射は出来ない。つまりランカスター単独ではミサイルをぶっ放せないわけです。でも襲撃に参加した仲間は刑務所でリクルートしたカネ目当ての連中で、誰もランカスターの真の目的を知らなかったし彼の同志でもない。だから一度は発射寸前まで持って行けたけど、次は当然のごとくポール・ウィンフィールドに拒否されてお手上げ状態。こんな大それたことするなら、リーダーは目的をちゃんと配下に理解させとかなきゃダメでしょ。■政府と軍の不正義を暴き国民を覚醒させるというランカスターの高邁な目論見は判るんだけど、その取引材料が核ミサイルの発射というのはちょっと常軌を逸してるんじゃないでしょうか。もし発射したら間違いなくソ連も撃ち返してきて、けっきょく何千万人も米国民が死ぬことになるでしょう。政府高官も死ぬかもしれないけど、なんで国民が巻き添えにされなきゃいけないんですかね。と考えると、ランカスターはもう立派な狂人だと思います。■チャールズ・ダーニングの大統領は、アメリカ映画とは思えないほどリアルに人間味があって、これは良かったです。エア・フォース1内でテロリストを一人ずつ仕留めたり、戦闘機に乗ってエイリアンを攻撃する様なバカをやらないことだけでも評価が高い。ずっと大統領にため口をきくまるで幼なじみみたいな将軍を見て気がつきました。オマージュなのかパロディなのかは判断に悩みますが、これは『未知への飛行』のヘンリー・フォンダとダン・オハーリヒーの関係と良く似ていますね。ラストの二人の生死は『未知への飛行』とはまるっきり逆になっていますけどね。大統領のために泣くのはこの将軍だけ、他の高官たちは遠巻きにして近づこうともしないというラスト・カットはもう男泣きです。[ビデオ(字幕)] 6点(2013-12-18 00:06:45) 1450. 恐怖と欲望 《ネタバレ》 キューブリックが生前に封印して再上映を許さなかったという商業映画幻の初監督作がついに陽の眼を見ることになりました。製作から今年はちょうど60年、パブリック・ドメインになっているのかは知りませんが、きっと色々な大人の事情があるんでしょう。 一応プロを使っているけどセリフのある俳優はたったの6人(この中には後に監督として活躍することになるポール・マザースキーもいます)、キューブリックは撮影やら録音までひとり五役をこなしていますが、この映画のスタッフは総勢たったの13人だったそうです。 架空の世界の戦争で戦場は森の中、低予算で戦争映画を撮るには最適のプロットでしょう。敵勢力範囲に降下したパイロットと三人の歩兵が敵の軽飛行機を奪って脱出すると言う単純なお話しなんですが、キューブリックの高校時代の親友が書いたという脚本が韜晦すぎてヘンな映画になってしまった感じです。登場人物たちの心象をモノローグで引っ切り無しに流す、クローズ・アップを多用しているところなど後のキューブリックからは想像つかない演出スタイルでもあります。良く言えば詩的なんだけど、正直言って登場人物たちの行動が理解できないのは難点でしょう。でもキューブリックのカメラさばきはさすがにシャープで、とくに室内の映像は陰影が濃密でもう完全にキューブリック印になっていました。飛行機を奪うために敵の将軍と将校を殺すシーンがありますが、襲う側の二人と同じ俳優を使っているというのは意味が判らないけど印象には残りました。 というわけで当然のように興行的には惨敗したわけですが、NYタイムズの取材に「痛みとは良き教師だ」と答えている当時のキューブリックの言葉がこの映画のすべてを語っています。[DVD(字幕)] 3点(2013-12-16 18:36:46) 1451. 愚か者の船 《ネタバレ》 批評家からの評価も高く群像劇としての完成度は高いけど、なんか小ぢんまりと纏めましたという感じがする作品です。舞台が英米仏の豪華客船でなくて、いかにも二流感が溢れるドイツの客船としたところはうらぶれたムードが出ていて良かったです。 登場人物はみな善人かせこい悪人というわけですが、この連中は“fools”と呼んでしまうにはあまりにも普通の人間すぎる気がします。誰が「君たちは愚か者だ」と言っているのかというとそれは神様で、映画の冒頭とラストで観客に語りかける“神の子”マイケル・ダンが天上の代弁者ということなんでしょう。 この映画のいちばんの悪人は反ユダヤ主義に凝り固まったオーストリア人のホセ・ファラーになるんでしょうけど、彼の演技が魅力的なんで誰も憎む気にはなれないでしょう。シモーヌ・シニョレとオスカー・ウェルナーの悲恋がストーリー展開のメインではありますが、出番は少ないながらもヴィヴィアン・リーのエピソードにはすっかり喰われてしまったみたいです。リー・マーヴィンとのからみとその前後の狂おしいまでの演技、やっぱこの人は凄い女優だったんですよね。[DVD(字幕)] 6点(2013-12-15 20:08:51) 1452. ピクニックatハンギング・ロック 《ネタバレ》 このお話が実際におこった出来事を元にしているというのはどっかの三流雑誌が流布した与太噺で本当は完全なフィクションなんだそうです。でもそんなことは本作の価値をいささかも損ねるものではありません。 これだけ色々な伏線を配しておきながら結局謎のままで終わらせてしまう映画も珍しく、おかげで色んな解釈を愉しむことが出来ます。事件が起こったとされるのは1900年、つまり19世紀最後の年です。400万年も少女たちが訪れるのを待っていたハンギング・ロックは、やっと来てくれた彼女たちを新世紀に渡すことを拒み永遠に我が庭に留めておきたくなったんじゃないでしょうか(まあおばちゃん数学教師は計算外でしたが)。失ったものの大きさに苛まされた校長先生は彼女たちの世界(19世紀)に自分も逃げ込もうとしたけど、ハンギング・ロックに拒絶されて転落死してしまった。 「実はマイケルが犯人の殺人事件なんだ」なんて解釈まであるのは面白いところです。とにかく私は、イースター島のモアイ像を思わせるような人面相似形の岩肌を映すところがとても気になりました。 なんか凄く後に残る映画でした。[DVD(字幕)] 8点(2013-12-12 20:44:02)(良:1票) 1453. ほぼ300 <スリーハンドレッド> 《ネタバレ》 元ネタ『300』が過剰なまでに劇画チックで大げさなので、パロディになってもあんまり違和感がないのが可笑しいところです。ペルシャ軍との合戦パロディにしても、元ネタが過剰なまでのCGづけ映像だったので、CG抜きの撮影風景はたぶんこんな感じだったんじゃないでしょうか。『アメリカン・アイドル』などのTVヴァラエティをギャグネタにしているので、観てないとイマイチ笑えないのも困ったもんです。それにしてもエンド・タイトルが長すぎ、本編が72分ぐらいなのに延々15分近くなんですから。 よく観てみると、王妃役のビッチ系グラマーはカーメン・エレクトラじゃないですか。自分には彼女の初期作『宇宙で最も複雑怪奇な交尾の儀式』以来のご対面ですが、この10年間にラジー賞2回受賞という輝かしい実績を残していますね。フィルモグラフィを眺めても見事にクズ映画ばっかり、ハリウッド女優として生き残るにはこれもひとつの芸なんでしょうかね(笑)。[CS・衛星(字幕)] 3点(2013-12-10 22:26:45) 1454. 三文オペラ(1989) 《ネタバレ》 クルト・ワイルの有名なオペラの四度目の映画化です。このオペラの下品でアナーキーなところは他の追随を許しませんが、ボビー・ダーリンが唄って50年代に大ヒットさせた『マック・ザ・ナイフ』のメロディーは誰もが一度は耳にしたことがあるのでは。監督はキャノン映画の総帥メナハム・ゴーラン、イスラエルのロジャー・コーマンみたいな人で、ゴダールをして「映画を撮っているマフィア」と言わしめた男です。 “三文オペラ”を観るのはこの映画が初めてですが、映画の流れ自体は原作や過去の作品とほぼ同じみたいです。意外だったのはメナハム・ゴーランが監督という悪イメージを吹き飛ばすようなダイナミックな撮影と豪華なセットです。19世紀ロンドンが舞台ということもありますが馬車のカーチェイスまで有り、これがけっこうな迫力でした。 主役のメッキー・メッサーはラウル・ジュリアで、過去にはローレンス・オリビエも演じたキャラですが、これがまた堂々としてほれぼれさせられます。狂言まわしの辻歌師はロジャー・ダルトリー、この役はセリフが全部歌なんですが、演技させると暴走しがちなロジャーにはちょうどいいんじゃないでしょうか(笑)。 驚いたのはラストの展開で、あわれメッキー・メッサーは絞首刑となった瞬間ロジャー・ダルトリーが登場「やっぱハッピー・エンドじゃなきゃね」とウィンクするといきなり世界が劇場で上演中のオペラに変わるというメタ・フィクショナルな構成、そしてフィナーレへ。うーん、メナハム・ゴーラン、あなどり難し![ビデオ(字幕)] 7点(2013-12-08 21:20:43) 1455. ハンガー・ゲーム 《ネタバレ》 もし自分が不幸にしてこのゲームの参加者になってしまったら、ゲーム中はどこかに隠れていて残りの23人がひとりになるまで待ちます。その最後のひとりがとてつもなく強いリスクはありますが、そいつと勝負するのが最善の選択だと思います。たぶんみんな同じこと考えて隠れてしまい、ゲームが成立しない可能性が高いのではないでしょうか。劇中ではゲーム開始早々に集団が出来てあぶれ者を狙うようになりますが、これは事前に予想できたはずで開催者としてはこうならない様な工夫が絶対に必要でしょう。と考えると、やはりこの映画(というか原作小説)の設定は×でやはりタイマンのトーナメントかリーグ戦でしかこのゲームは成立しないんじゃないかと思います。ここら辺の詰めの甘さは原作がジュブナイル小説だということも関係あるかもしれませんけど、映画として観せるならもっと毒味がなければいけません。原作通りなのかもしれませんが、あのルール変更だけは何とかして欲しかったところです、どっとシラけました。 どう見ても『バトルロワイヤル』と数多あるデストピア系映画を融合させた様な作品ですが、原作者のスーザン・コリンズは“『バトルロワイヤル』は原作小説を読んだこともないし映画を観たこともない”と言い張っているそうです(笑)。[CS・衛星(吹替)] 4点(2013-12-07 23:25:54)(良:1票) 1456. 唇からナイフ 《ネタバレ》 ヘンな映画だとは聞いていましたが、確かに噂に違わぬ珍作でした。もしなんの事前情報も持たずに本作を観せられて監督は誰だと思うか聞かれたら、ジョセフ・ロージーが監督だと答えられる人は皆無でしょう。社会派で硬派なロージーがなんでこの映画を撮ったのかは大いなる謎ですけど、きっと生活のためだったんでしょうね。 だけど峰不二子チックなヒロインであるモニカ・ヴィッティの奇抜なファッションと色っぽさはもう絶品で、あの太もものサソリ・タトゥーはイイ目の保養になりました。敵ボスのダーク・ボカードは銀髪なこと以外はいつものボガードなんですが、この人のホモチックなキャラは訳のイマイチ判らない悪の組織の首領には良く合っていたと思います。 と、ここまでは一応褒めましたが、突っ込みだしたらキリがありません(笑)。①モニカ・ヴィッティ、テレンス・スタンプの脇が甘過ぎ、行動がバカ過ぎ②ボガードの悪の組織も運営方針が判らな過ぎ(側近が帳簿係で経費をかけずに悪事を働くことに腐心しているのは理解できました)③ラスト、モニカとアラブの王様にダイヤを横取りされたのに、なぜ「作戦成功」と英国情報部はご満悦なの? でもこの映画のカラフル&サイケデリックな美術は観てお得感満点で、明らかにピーター・セラーズの『カジノロワイヤル』に影響を与えているし、『オースティン・パワーズ』のセットも本作をパロってます。 ひょっとして、ただのおバカ映画ではないのかも…[DVD(字幕)] 5点(2013-12-05 21:56:49) 1457. その場所に女ありて 《ネタバレ》 最近『悪の階段』を観るまでは恥ずかしながら鈴木英夫監督のことを全然知らなかったのですが、昭和30年代にこんなにハードボイルドでしかも女性が主人公のサラリーマン映画を撮っていたなんて、本作を観てさらにぶっ飛びました。昼は会議室や応接室、夜は酒席でビジネスが進む、営業系サラリーマンの仕事ぶりが実にリアルに描かれています。 そして司葉子のカッコいいことと言ったら、さすが昭和を代表する美人女優のひとりです。現在はすっかりふっくらしたおばあちゃん(失礼)ですが、この映画で見せるショートヘアのいかにも出来そうな営業ウーマン姿にはもうほれぼれとしてしまいます。それまでお嬢さん女優だった彼女にこういうシャープなキャラを演じさせるとは、『悪の階段』で団玲子に悪女を演らせた鈴木英夫ならではの手腕にもう脱帽です。 ライバル社の広告デザインをこっそり手掛けて報酬をもらう主任デザイナー(完全な背任です)、社内で金貸しをやって月三分の利子を取る女子社員(超高金利!)、こういったまだ生きてゆくのに精いっぱいだった時代のホワイトカラーの生態には考えさせられるものがあります。最近『ALWAYS 三丁目の夕日』なんかで昭和30年代が過剰に美化される風潮がありますが、高度経済成長前期までの日本はまだまだ喰うのに精いっぱいだったのです。司葉子が査問に懸けられてクビになりそうになるシーンでも、「私が生活し生きてゆくにはこの会社が必要なんです」と毅然とした態度で訴えます。現代で重要視される「やりがい」とか「自分らしさ」なんて御託を並べる余裕は誰にもなかったんです。 社長シリーズや無責任男シリーズを量産していた陰で、こんなリアルでカッコいいサラリーマン映画が東宝で撮られていたとはほんと驚きでした。[CS・衛星(邦画)] 9点(2013-12-02 23:44:44) 1458. 雨に唄えば これぞまさしく“ザッツ・エンターテイメント”、やっぱ本作が史上最高のミュージカル映画と言うことになるんでしょうかね(個人的には『キャバレー』がトップなんですが)。“Singin’in the Rain”という曲は、『ザッツ・エンターテイメント』のオープニングを観ればMGMのミュージカルで何度も使われてきたことが判ります。でももちろんジーン・ケリーの躍動感あふれるダンスに勝るものはないし、本作以降のミュージカル映画でも彼のパフォーマンスは越え難い壁となって挑戦を跳ね返している気がします。コメディとしても秀逸ですし、「ミュージカル映画は苦手だ」とおっしゃるあなたも一度は観ておくべきですよ。[CS・衛星(字幕)] 9点(2013-12-01 21:44:22) 1459. 俺は都会の山男 《ネタバレ》 公開されたのが新東宝倒産の半年前ということもあってか、タイトルクレジットには大蔵貢の名前が消えています。この映画は“山”や“登山”とはいっさい関係がなく、吉田輝雄の演じる乱暴男のキャラが“山男”と言うわけです。 この男、就職面接で居眠りをした挙句人事部長をぶん殴ってとうぜん就活は失敗、チンピラと組んで“喧嘩商会”なる商売を始めます。要は腕っ節の強さを活かして喧嘩の仲裁(というか助っ人)でカネを稼ごうというわけですが、この“山男”が超硬派なのに女には滅茶苦茶モテて若いのから熟女まで七人もの女が金魚のフンみたいにまとわりついてきます。まあそこは“ハンサム・タワーズ”の吉田輝雄ですから納得しましょう。彼は菅原文太や宇津井健と違ってアクション演技にキレがあってボクサー役でも務まりそうな身のこなしです。 本作は新東宝には珍しいドライでC調なギャグが連発され、ひょっとして東宝の喜劇シリーズより可笑しいんじゃないかと思わせるところもあります。豪華と言うか、コロムビア・トップ・ライトや江戸家猫八といった当時のお笑いのスターたちがワン・シーンずつ登場する構成なのが新東宝にしては珍しく、中でも由利徹の裁判官と南利明の書記のギャグには笑ってしまいました。警察を徹底的にバカにしたり当時の池田政権の政策を名指しでおちょくったりするアナーキーなところもプログラム・ピクチャーとしては珍しいところです。 さて実はこの映画には奇妙な部分があります。留置場の担当警官というホントのチョイ役なんですけど、制帽をま深に被っていてアップショットもないので判りにくいのですがどうも丹波哲朗みたいなんです。その警官にむかって「お前最近トップ屋なんかして稼ぎやがって」なんて言う楽屋落ちなセリフがあったのでこれは丹波だと確信しちゃいました(彼は当時TVドラマ『トップ屋』で活躍してました)。とすれば、そのころは大蔵貢と喧嘩して丹波は新東宝をクビになってたはずで、大蔵貢に無断でノン・クレジット出演させたってことでしょうか。なんか新東宝末期の混乱が透けて見える様な気がします。[CS・衛星(邦画)] 4点(2013-11-29 20:40:17) 1460. 料理長(シェフ)殿、ご用心 《ネタバレ》 料理がテーマの映画は出てくる皿が美味しそうに見えるかどうかが大きく映画の印象を左右しますが、この映画では偉大なるシェフであるポール・ボキューズが腕をふるった実物が撮影に使われており、どの料理も実に美味そうです。パリのマキシムなど超一流のレストランを使って撮影しているのもゴージャスです。ジャクリーン・ビセットが創る“爆弾ケーキ”はクリームを盛り上げて創ってゆくところはもう涎が出そうなほどですけど、オッパイの片割れみたいな完成形はちょっとねぇ(苦笑)。 スクリュー・ボール・コメディとしてはセリフ・音楽・テンポのバランスが絶妙で、文句なしに楽しめます。ジャクリーン・ビセットはうっとりさせられるほど美しいし、ドンフェルドの衣装がまた素晴らしいんですよ。ジョージ・シーガルはあまり好きな役者じゃないけど、コメディを演らせたらやっぱピカイチであるのは確かです。 シェフたちの殺されかたが、「料理とは食材を切り刻み火あぶりにすることである」と言うアイロニックなブラック・ユーモアとシンクロしていて、往年のイーリング・コメディに通じるところもある秀作だと思います。[DVD(字幕)] 8点(2013-11-26 23:50:26)
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