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【製作年 : 2020年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
1. ザ・ベビーシッター~キラークイーン~ 《ネタバレ》 前作があまりにツボにはまって当然の如く観賞。 今回はピンポイント的に好みのジェナ・オルテガさんがヒロイン。これだけでも観ない訳にはいかないところを、今作も終盤になってあのキュートなサマラ・ウィービングさんが登場。これは至福でした。繰り広げられる血みどろシーンは本来は好まないのですが、そんなこたぁ全て忘れさせてくれるキャスティング。ほんの2年余りでグッとイケメン度が上がったジュダ・ルイス君も相変わらずイイ味出してますね。 前回は時としてキュート、時として大人びてといった雰囲気が魅力だったエミリー・アリン・リンドさんは今回は随分と成長して、やっぱこのぐらいの年齢だと女子の方が大人びるのかな、などと作品とは関係ないところに思い至ったりして。ちなみにこれも作品とは全然関係ありませんが、彼女の顔の輪郭を見ているとロビン・タニーさんを思い浮かべてしまうのですがどうやらアカの他人のようで。 で、本作はどうかと言うと前作同様大いにハマりました。ヒロインたちの活躍は勿論のこと、復活した悪魔崇拝者たちも相変わらずのグロいながらもトボケた役回り。スピーディな展開に惹かれっぱなしで大満足。肩の凝らない娯楽作として出来上がっていますね。流石のマックG監督です。 エンディングは更なる続編を期待させる雰囲気モリモリですが、どうやら今のところネット上に情報はないようですね。是非是非製作して欲しいところです。そして、次なるヒロインにはクロエ・グレース・モレッツさんを持って来てくれればなどと超個人的に夢想しております。[インターネット(字幕)] 8点(2025-03-20 09:49:09)★《新規》★《改行有》 2. DOGMAN ドッグマン(2023) 《ネタバレ》 見事なダークファンタジー。敢えてファンタジーと呼びたい作品。ダーク版ディズニー作品と言っても良いかも知れません。 犬が賢すぎるとか主人公がどうやって犬たちを養っているのかとか(一応種明かしはありますが)野暮な疑義は呈しません。勿論主人公が犬を操っているなんて間違っても言いやしません。人間社会が失いかけている純粋な連帯感を犬との共同生活の中で確実に得ている主人公。ご都合主義的展開は多々ありますが、決して教訓的にならずに一人の人間の生き様を描き上げた作り手の手腕には脱帽です。 そして出演者(特にケイレブ・ランドリー・ジョーンズさん)の優れた演技は言うまでもなく、犬たちの存在感が半端ないったらありゃしない。なんと表情豊かに語ってくれることか。涙モノです。 主人公の犯罪行為は許されることはないでしょう。それ故、ラストシーンはある意味ベストチョイスに思えます。彼は神の元に召されたのか?まるで「フランダースの犬」の逆バージョンを観たような錯覚。感動的でした。 最後にもうひとこと。犬が犠牲になっていない。「犬は死にません」をキャッチフレーズにしたサメ映画はありますが、犬を犠牲にすることなく感動出来る犬が主役の作品。これは特筆モノです。[インターネット(字幕)] 9点(2025-03-20 00:12:38)(良:2票) ★《新規》★《改行有》 3. 犬人間 《ネタバレ》 何とも気持ち悪いお話。 何かの拍子で心が入れ替わってしまった人間と犬のお話とか、生まれ変わったら犬だったとかだったら既視感はあるのだけれど、これは正真正銘人間を犬として扱うお話。 お金持ちのイケメンボンボンが強烈な支配欲を満たすために幼馴染をペット化している。そもそもクリスチャンはフランクのことを人間と思っておらず、普通の?神経の持ち主であるシグリッドには到底理解出来ない関係性であっても、クリスチャンはそれを理解出来ないシグリッドが理解出来ないわけで、同じ世界に住んでいても精神は別世界にあるという感じ。それは極めて危うい均衡を保っている関係性であって、ほんの小さな出来事によってでも脆くも崩れ去ってしまう。だからバットで殴られた日には一気に崩壊。折角同じ人間として扱っていたのに犬とツルムなんておかしいじゃないか。あ、そか。シグリッド、お前も犬だったんだ。じゃあちょうどいい。フランクは寂しかったんだ。二人で仲良くしなさい。おうおう仲良しだね、子犬が出来たか。じゃ、三匹で暮らせるようにボクがその子犬も飼ってあげるよ。ボクは優しいだろ?犬好きなんだよ。そんなお話でしょうか。 北欧のホラーとしてはそれほど生々しくはなく。目を覆うような暴力シーンもない。ある意味物足りないようにも思える作品。でも、よーく考えてみると相当コワい。サイコパスがペットとして誰かを拉致監禁しているとか、変態野郎が女の子を捕まえてオモチャ扱いしているとか、そんな作品は多々あれど、本作のコワさ気持ち悪さはある意味それらを上回るかも。 昔、確か永井豪さんの短編だったと思うのだけれど、もっと惨たらしく残酷に人間を犬として扱うシーンが出て来る漫画があって、半世紀以上経った今でも心の奥にトラウマ的に引っかかっています。本作はビジュアル的にはそこまでのものではないけれど、当分は気持ち悪く心に残ってしまいそうな作品でした。 ちなみに、邦題はストレート過ぎていかがなものか?原題の方がひとひねりあって良い感じです。[インターネット(字幕)] 7点(2025-03-18 13:40:47) 4. リゾートバイト 《ネタバレ》 正直な話、Jホラーには殆ど期待していないのですが、朝ドラ等に出演していて気になっていた伊原さん目当てに観賞しました。ダンスで有名になった印象が強いのですが、朝ドラ等で見かけた演技に間違いなし。本作でも(少々残念な役柄ながら)頑張ってますね。個人的にはそこが一番の見どころでした。 とは言え、作品の内容に触れない訳にはいかないでしょう。話題作を数々手掛けて来た永江監督の作品。プロット的には結構ベタだし、登場する怪異は思わず笑ってしまうような造形だし、ラストの入れ替わりドンデン返しはオリジナルアレンジが施されているとは言え既視感が無きにしも非ずと言った感じですが、ホラー部分のみに集中してみれば、(お約束感のオンパレードですが)なかなか手応え十分の出来映えとも思えました。 それだけに、無理無理ツッコんだような唐突感のあるコメディ要素とか、これまたお約束感のあるコイバナ的要素とかは、ホラー作品としての魅力を削ぎ落してしまっているように思えてならず、改めて考えると結構雑な部分もあったりして、そのあたりは完全にマイナス要素じゃないかと。 なので、5点を献上するに留めておきます。[インターネット(邦画)] 5点(2025-03-17 23:11:33)(良:1票) 5. パンダザウルス 《ネタバレ》 サメ映画の巨匠?マーク・ポロニア監督のサメじゃない映画。なんと今回も邦題は原題のまま。そしてキメ台詞は「パンダこりゃ?!」(汗) いきなりのティラノ風恐竜登場と主人公喰われシーン。そこに続くパンダザウルスと恐竜の死闘。無敵のパンダザウルス。なんとオープニングからフルスロットル?!かと思いきや、なんと夢??いきなりの夢落ち? そして、いつもはさり気なく(でもないか)登場する監督がインタビュアー的に登場するモキュメンタリータッチの構成。果たしてこれは夢か現実か! まぁパンダザウルスの作り込みはいつものサメと同様のトンデモなさですし、DVDのジャケットに至ってはオリジナルと国内版が全く別物(ちなみにオリジナルは全然本編と関係ないじゃん!)ですし、出演者はほぼレギュラーだし等々、ある意味期待を裏切らない出来映え。 ただし、よくよく考えてみるとストーリーや構成はいつになくヒネリがあったりして、監督には申し訳ないところですが、予算かけて別スタッフが別キャスティングでリメイクしたら結構イケるんじゃないかと。実現はしそうもないように思えますが…。 何はともあれトンデモZ級作品であることは誰の目にも明らかでしょう。本作ではサメは一瞬登場するだけ。監督がサメに飽きたのではないことを祈りつつ3点献上します。[インターネット(字幕)] 3点(2025-03-15 09:45:19) 6. 終わらない週末 《ネタバレ》 明るく楽し気な雰囲気を包む不穏な重低音。視覚と聴覚の不協和音が印象的でした。何が何だか明かされないままに描かれていくデストピア感からは、最近で言うとアリ・アスター監督とかM・ナイト・シャマラン監督あたりの作品を思い起こさせられるような作風(あくまでも個人的に抱いているイメージですが)を感じました。 そして、まるで共感出来ずイラつくばかりの登場人物のキャラ、発言、行為に只管に鬱々とした気分にさせられてしまう。ところが、物語が進むにつれて少しずつ誤解が溶けて行くと言うか次第次第と登場人物たちの本来の姿・人間性が明かされて行き、やがては感情移入さえしてしまう。作品世界に見事に取り込まれてしまいました。 作品全体としては、現代の国際社会を覆う不穏な空気、とりわけ米国の立ち位置の危うさを皮肉交じりに描きつつ、豊かな世界に生きる人々が意識するしないに関わらず常に晒されている危機的状況への警鐘を鳴らしているといったところでしょうか?SFデストピアものでは定番的な、核戦争や天変地異、或いはAI等の先端技術の暴走や原因不明の疫病の蔓延といった要因ではなく、より現実的で今すぐにでも起きてしまいそうな世界の崩壊のシナリオ。これは恐いです。 奇しくも行動を共にすることになった二組の家族。その一人ひとりの身勝手な思考・言動とそれによる歪な関係は物語が進むうちに次第に収斂していくものの、幼い少女のみがある意味平静を保ったままにラストシーンを迎える。それは不穏な物語が辿り着く唐突なハッピーエンドとも思えるものの、あくまでも個人的で一時的なものであって次の瞬間には悲劇に見舞われてしまうのかも知れない脆い幸福。作り手からの問題提起なのか、単に観る者に丸投げされた結末なのか。 近未来SFという体裁によって描かれる不条理劇。好みの作品に8点献上します。[インターネット(字幕)] 8点(2025-03-14 23:59:02) 7. JOLT ジョルト 《ネタバレ》 美しくキュートなヒロイン。痛快なアクション。スピーディな展開と適度な尺。程良いコメディ感。いいですね、肩の凝らないエンタメ系作品として申し分ありません。強いて言わせていただくならば、少々ストーリーが薄いと言うか意外性に欠けると言うか、類似の他作とはココが違う!という魅力があったらいいなとは思います。(電気ショックで自制しているヒロインというだけでも十分かも知れませんが) ヒロインの強さの秘密や今まで一体どんな訓練を積んで特別な存在になったのか?等々、いろいろと明かされなかった気になる背景があったりして、これからTVシリーズものが始まるのかな?というパイロット版的な雰囲気に満ちていますが計画はあるのでしょうか?ラストの謎の女性(CIA?)の登場でエージェントとして生きて行くことが確定?是非是非シリーズものとして楽しみたいところ。そんな期待を込めての7点献上です。[インターネット(字幕)] 7点(2025-03-13 23:13:04)《改行有》 8. キラー・マネキン 《ネタバレ》 邦題からも明らかなように?これぞB級ホラーといった趣たっぷりの作品ですね。この邦題を見て一級品のホラーを期待する方はまずいらっしゃらないのではないかと。(ネタバレな原題もどうかとは思いますが) ちなみにallcinemaで「キラー」を検索するとエライ数の作品が出てきます。そのうち「キラー・○○」という邦題を数えたら85まで数えて飽きました(汗) で、そのうち原題が「KILLER ○○」なのは多分25作品ぐらい(邦題と完全一致を含む)に留まりますので、やっぱりB級ホラー配給にあたっての邦題の定番ネーミングと言っても良いような…。 で、はなっから鉄板B級ホラーという前提で観始めるとこれがなかなかの面白さ。常に同じ姿勢(きをつけ状態)のマネキンがどうやって人を襲うのか?どうやって瞬間移動するのか?だいたいからして、そもそもどういう曰く因縁があるマネキンなのか?潔いまでに全く説明なしの作品。それでも結構見入ってしまうのは、ある意味完成度が高いと言えるのかも知れません。 それにしても不気味な顔立ちのマネキン。デパートとかで売り場に立ってたら幼き少年少女は泣き出すだろうしトラウマ必至の顔相です。ニッコリ笑って人を殺める連続殺人鬼のイメージ?人に見られると動けなくなるというダルマさんが転んだ的な弱点は笑えます。そうか、本作はどのシーンでも殆ど通行人や通過するクルマが見られない。エキストラ代節約なのかと思ってましたが、目撃者がいると動けない(殺せない)からという点に整合しているのですね。でも、だったら何でクラブで大量殺戮?あぁそうか、停電してたからか。納得。ラストはミラーマジックで捕獲&ミラーマジックで逃走というアイディア。そこは結構気に入りましたが、待てよ?マネキンの視線でも動けないのならミラー使わないでも縫いぐるみでも吊るしとけばいいんじゃね?と言ったら野暮でしょうか。ま、続編製作意欲満々といったところですかね? マネキン以外にもツッコミどころ満載(いきなり死亡事故を起こした血塗れのクルマでヒロインが帰宅するとか)ながら、バカバカしくて思いのほか楽しめたので甘めの評価と致します。[インターネット(字幕)] 6点(2025-03-12 09:40:30) 9. エスター ファースト・キル 《ネタバレ》 これは無理でした。気になって仕方ない。え?再びイザベルさんがエスター役?前作製作から14年ほど経ってる訳で、20歳だったオネーちゃんが34歳のオネーさんになって20歳の役をやるってのならまだしも、12歳だったオジョーちゃんが26歳のオネーちゃんになって12歳の役をやるってのには無理があり過ぎる訳で(例えが解りにくくてゴメンなさい)、そのまんまじゃなくて様々の技術を駆使してるにしてもキビし過ぎる訳でして、そこに来て当のイザベルさんがどっちかっていうと少々実年齢以上に見えてしまうタイプじゃないかっていうのもあって、そこばっか気になってやっぱ作品世界に集中し続けるのは無理でした。 とは言え、冒頭からのエスター、てかリーナのファーストキルはいつのことだか忘却の彼方的な無敵ぶり(脱出劇はエントランスまでがコント的ですが)と、ママの豹変と兄貴のクソっぷりの露呈以降の疾走感は見応えがあり、矢鱈と批判的にはなれない娯楽作。仕掛けもいろいろあって惹き込まれることは惹き込まれる訳で、ヒロインの年齢問題で切って捨てることは到底無理とも言えるところです。 まぁあまり現実的に捉えてはいけない作品であることは間違いなさそうですし、多々ある御都合主義的展開やツッコミどころは概ね目をつぶって観るべき作品なのでしょう。強いて言えば、兄貴のバカ友達とかもっと血祭対象がゾロゾロ登場するのかと思いきや意外と少ないってところが物足りなかったかもです。 さてさて個人的には情報を聞いたことがないのですけれど更なる続編はあるのでしょうか?前日譚の前日譚によってリーナの強さの秘密が明かされるとか、実は瀕死の状態で救われていたリアルエスターにも兄貴同様凶暴ママンの血が流れていて、暗躍する偽エスターの前に現れエスターvsエスターの死闘が繰り広げられるとか。ただし、イザベルさんの再登板となると今作以上の厳しさは必至。さてどうなることやら、などと妄想しつつ甘めの6点献上です。[インターネット(字幕)] 6点(2025-03-04 22:18:07)(良:1票) 《改行有》 10. アメリカン・フィクション 《ネタバレ》 人種差別をテーマに社会の在り方や生きて行くことの苦しみが描かれた作品ではあるものの、決して貧困層の生活苦を前面に押し出している訳ではなく、寧ろ主人公はインテリ層で小説家兼教員、家族には複数の医者がいて昔から住み込みのメイドを雇用しているという中流以上の所得層。それでもそれぞれの人生は順調ではなく、離婚や死別が続いていたりゲイであることで生きにくかったりアルツハイマーが急速に進行したりと、少なからず問題山積。このある意味チグハグとも思えてしまう雰囲気が全編通して続きます。 そういったシチュエーションを踏まえた上で、直接的な差別的な発言であったりオブラートに包まれて当たり前の日常のように存在する差別であったり、ある時は白人から黒人に向けて、ある時は黒人から白人に向けて、またある時には黒人から黒人に向けてと、向きや温度を変えながら言葉も表現も巧みに織り込みコメディとして仕上げた脚本と演出は見事だと思います。 英語や米国内の空気への理解が不十分な自分故、理解度は相当低いとは自覚していますが、それでも、決して強烈ではないもののローブローの如くジワジワと効いて来る社会問題へのアプローチには感銘するものがありました。 答えを明らかにせずコメディタッチで締め括るラストは好みです。全編通じて最も直接的に辛辣な演出ですね。タイトルが意味するところが垣間見えるエンディングでした。[インターネット(字幕)] 8点(2025-02-25 10:46:07)《改行有》 11. 奈落のマイホーム 《ネタバレ》 予告編からはここまでのコミカルさは予感していなかっただけに少々肩透かし感。ただし、全編通じたありえねー感を払拭する(してないかも)にはコメディは必要不可欠だったのかと。 とは言え、コメディ作品になり切れていないことが本作の一番の残念なところ。どう考えても理に適わない展開な訳ですから、そこは笑って誤魔化すことに徹して欲しかった。 そしてそれ故、犠牲者は出しちゃダメです。最早、人知を超えたスーパーヒーローと化した「兄貴」を始め、奇跡的な生存のオンパレードな訳ですから、何も部分的に現実に拘泥することはなかったでしょう。そのあたりの感覚はお国柄なのでしょうか?喜劇と悲劇をセットにするのが定番?彼の国の作品をさほど見ていない私には理解出来ない部分です。 災害発生以降はスピード感が途切れませんし、部分部分で観ていれば緊張感や高揚感を感じることが出来る演出(CGは少々ハメ込み感がありますが)と脚本。決して面白くないとは言いません。てか寧ろ面白い。 ただ、つい最近も規模は違えど国内で類似例が実際にあっただけに、観進めて水が入ってきた辺りからはかなり複雑な気分になりました。コメディに徹していないだけに笑いでは締め括れなかったです。改めて、コメディならコメディ、デザスターならデザスターに徹して欲しかったとつくづく思う作品でした。 ちなみに邦題は、コメディ作品として見れば原題より良いように思えます。[インターネット(字幕)] 5点(2025-02-23 11:15:50)《改行有》 12. 怪物(2023) 《ネタバレ》 タイトル、予告編、そして本編鑑賞時の印象。全てに強烈なミスリードを感じてしまいましたし、実際されてもしまいました。ただ、そのこと自体は否定しません。他者の主観を表現し理解を得るにはデフォルメは不可避かと思います。 母親の視点で語られる冒頭部分における愛息子や教師の見え方は母親本人にとっては間違いなく現実であり、保利教諭の視点で語られるパートでの母親の表情や言動は彼自身にとって紛れもない現実です。そこに固有の主観がある限り、誰一人として他者と同じ理解や価値観をもって物事を観察したり考証したり出来る訳はありません。少なくとも一般的な人物である限りは。 映画という手段によってあるテーマを語り、なおかつより多くの観客の理解や感銘を得るためには、作り手は自らの主観を越えた表現を求めなければならないように思えます。(というのも私の主観に過ぎない訳ですが) なので、本作である意味過剰とも受け取れる人物表現やその表情や言動等の齟齬・矛盾は必要不可欠だったのではないでしょうか。 その上で本作を語らせていただければ、登場人物一人ひとりの人物像が丁寧に語られ、子を持つ親の悩み・苦しみ、人の子を育てる教師の悩み・苦しみ、そして自我の目覚めと性の目覚めの年頃を迎えた少年たちの悩み・苦しみ更には夢と希望、それらが丁寧に描かれた佳作であると思いました。 シングルマザーに至るまでの熾烈な過去を愛息子の前ではひた隠しにし、只管彼の「普通」の幸せを求める母親。ある意味守りに徹している姿には力強さより悲壮感を感じました。 新任教諭として赴任し、子どもたちとのコミュニケーションを大切にし、退勤後は恋人との甘い生活を送る「普通」の青年である保利教諭。追い詰められ、全てを失っても飼っている金魚に残酷な仕打ちをすることは出来ない優しさは心に遺している。(当たり前に捉えれば一番の被害者かも) ひとり親世帯になった原因を漠然と知りながらも、愛する母親のために平静を装おうとする湊少年。優しさ故に依里君をかばうもののそれに徹することの出来ない自分への内省と、親友的に思っていた彼との距離が縮まった瞬間に性的感情を無意識化に得てしまい身体の反応に狼狽えてしまう「普通」の少年。 自らの性的違和感を理解しつつある中で、それを理解するどころか消し去ることしか考えない父親からの虐待に耐えるしかない日々を送る依里。それはやはり父親への愛なのか優しさなのか。学校で繰り返されるいじめ行為にも、クラスメートを達観することで耐えているように思えます。その姿からは怪物感は得られません。 クライマックス。母親と保利教諭が半分こじ開けた車窓から見たものは何だったのか?湊君と依里君が敢えて通過し直した廃車両の先に広がっている世界はどこなのか?単純に受け止めてしまえば土砂崩れで亡くなってしまった二人の魂が次の世界へと旅立っていく姿と捉えられないこともありませんが、だとすればそれは希望ではなく現世に絶望を遺したままの旅立ちであり、二人が真に求めていた世界とは乖離しているように思えてしまいます。 かと言って、実は二人は無事だった、母親と教師が救出した、というのも無理と言うかそこに至るまでの作品の世界観とは異なるのではと思えてしまう。結果、自分なりの納得いく結論は得られていません。 強いて言うならば、「怪物」は決して特定の個人ではなく、個人個人が生きる社会のシステム全体の中に浮遊しているものなのかなと思えた次第です。幾度か鑑賞し、作り手の意図するものとそれを受け取って得たものについて熟考することを求められる作品でした。 (追記) 校長の葛藤と夫の真意。依里の父親の苦悩。これ以上の長尺化は好ましくはないと思いつつ、このテーマに不可欠な登場人物とエピソードであるのならば、もう少し掘り下げて欲しかったなと思いました。[インターネット(邦画)] 7点(2025-02-22 11:41:14)(良:1票) 《改行有》 13. ピンク・クラウド 《ネタバレ》 シチュエーションとしてはSF的な作品ですが、ハッキリ言ってコレはSFではないような。SFにしてはあまりに非科学的と言うか都合良過ぎと言うか、十分な根拠を示すこともないままにグイグイ進んでいきます。雑と言うか適当と言うか細部の詰めはほぼ見受けられません。始めのうちこそ自分なりのコダワリを持ってSFとして観ていましたが、中盤辺りからは「これはSFテイストのヒューマンドラマだ」と受け止め直した上での鑑賞にチェンジ。 もしSFであるならば、研究者たちが雲の正体を調査・分析していくとか、政府による物資補給のシステムを微に入り細に入り解説していくとかの展開が必要でしょう。それとも人知を超えた存在による予測不能な未来をほのめかすとか?結局宇宙人による攻撃だったとか? ところが本作では、肝心要のピンクの雲について殆ど何も説明されないし、数年もの間続いていく人間たちの生き残りに向けたライフラインの礎となる科学技術等についてもほぼ触れられることはありません。この際詳細は考えないようにね、ということなのでしょうか?呆れるほどに雲のことは触れられない。ピンクの雲は概念とでも言うのでしょうか?否、もしかしてそうなのかも。 それとも、そもそもがファンタジーなのかも知れません。ファンタジーテイストの世界観で語られる人間の愛と苦悩、そして生と死。究極に追い詰められた(あまりそういう雰囲気でもありませんが)環境で、人は他者を愛せるのか?更には自らを愛せるのか?希望を失わずにいられるのか?悲観的にも楽観的にも寄せることなく生きていけるのか?そんなテーマが語られているように感じました。 ラスト。死を覚悟した彼女を10秒後に出迎えたのは生だったのか死だったのか?彼女の立ち姿や表情を見ていると、そのまま頽れるようにも見えるし、思いもしていなかった結果に唖然としているようにも見え、そこについては観客に投げて来たのかなと思えた次第です。個人的には、曖昧のようでいて曖昧ではないこのラストは好きです。「生」だったとすれば相当な無理筋。けれども全編無理筋な非SF的展開からすればそれもありとも思え、「死」だったとすればそれはそれで想定内の結末に留まるばかりで少々拍子抜け。結局自分なりの答えは見つけられずといったところです。 総じて言えば、捉え方次第で佳作とも駄作とも言えてしまえそうな作品でした。個人的にはいろいろ考えさせられたという点でやや佳作寄りの1本です。[インターネット(字幕)] 6点(2025-02-21 00:53:27)《改行有》 14. アヌジャ 《ネタバレ》 彼の国の実情は詳しく知りませんが、おそらくはこれが全てではないにせよ同様の実態がある程度恒常的にあるのでしょう。恰もドキュメンタリーの如く物語は進みます。主演の少女は実際に支援団体の援助を受けているということで、自然な演技は「素」なのではないかと思えます。 ラスト。アヌジャはどちらを選ぶのでしょう?姉の幸せ?それとも姉が心から願う自分の幸せ?幼い彼女の選択がどちらなのか、或いはどちらにすべきかは俄かには分りかねます。彼女の表情からは決心は読み取れませんでした。それは演技出来ていないからではなくて、読み取れない演技なのだと思います。 観ている者に問いかけて来るような眼差し。エンドロールの背景で本作を観る現地の子どもたちの姿が映し出されますが、それこそが本作製作の意図のようですね。一緒に考えて欲しい。そして自分たちなりの結論を得て欲しい。そういう意味では教育映画的に思えました。 静かな展開の中に、貧困に苦しむ子どもたちの将来に向けた力強いメッセージを感じました。[インターネット(字幕)] 7点(2025-02-20 23:18:24)《改行有》 15. 帰ってきたエクソシスト・シャーク 《ネタバレ》 長い長~いオープニングロールで始まる本作。異様に長いのは何故?それは40人以上(だいたいです)にものぼるエグゼクティブプロデューサーの数が主たる原因のような(プロデューサー数もそこそこ多いのですけれど)。どうやらクラファンの出資者のようですね。 で、やっと本編かと思いきや主役は誰?出演時間からすれば次々登場するおねえさん方なんですがそりゃないですよね。では弟を前作で殺された神父?十字架パワーで触れもせずに悪魔ザメを撃退するツワモノ。にしては活躍しないし。かと言って修道女でもないだろうし…。 登場するおねえさんたちが激しくポッチャリでタトゥいっぱいというのも作風ですね。そのおねえさんたちの絡むサイドストーリー(遊園地とか水族館とかパーティダンサー)がほぼ無駄。関係無さ過ぎです。このあたりの作り手の感覚が理解出来ないのは前作以上かも。 脚本・演出について言えば、滅多にないというか他には記憶にないのですが、何と同一作品内の台詞使い回し。まったく同じ台詞が登場するカットが複数あります。更には、二人の人物の会話のシーンで何と背景も違うし天気も違うという別撮りを強引に編集という力業。これには笑いました。 エンドロールがオープニングの使い回しではなかったのは一安心。と言っても「3」作るんですか?と言いたくなるように背景で繰り広げられるやりとり。最初っから最後まで途切れることのないトンデモなさを満喫いたしました。 サメ映画フリークス界隈では「クソシャ」と呼ばれる(勿論否定的ではありません)「エクソシストシャーク」。正直キライではないのですがとりあえずお腹いっぱいです。 あ、肝心のサメですが、今回も実写の人物とCGが共演することはなかったような…。[インターネット(字幕)] 2点(2025-02-20 22:58:06)《改行有》 16. ルックバック 《ネタバレ》 原作未読です。なのであくまでも本作を鑑賞しての感想です。ただ、本作は原作を読むべきという気もします。原作者の意図を読み違いしたくないから。 物語自体は(衝撃の展開までは)結構ベタな展開だと思います。主人公の慢心、思いもしない存在との出逢いによる挫折、その対象から得る意外なエネルギー、そしてあざとさ、更には後悔の念。結構ベタです。 ただ、作画表現と言えばいいのでしょうか、そこが非常に繊細で惹き込まれます。恰も実写作品の中で生身の俳優が演じているようなリアリティがあります。正直なことを言えば、この画風自体は好みではありません。画風を見て鑑賞を止めてしまうぐらいに好みではないです。しかしながら、それを忘れて魅入ってしまいました。個人的な好みを忘れさせてくれるだけの魅力あふれる世界でした。 なので、二人が道を違えてそれぞれの夢を追っていくくだりまでは一定のアルアル感に包まれつつも感情移入を惜しむことなく没入していました。 そして衝撃の悲劇的展開。と言っても、具体は兎も角としてこの悲劇はある程度予想していたと言うか、シンプルに再会して新たな希望の未来を手にするなんていうベタベタな展開などあるはずもないとは思っていました。しかしながら実在の事件をモチーフにしているかの如きアクシデントに見舞われるとは。 原作者の思い入れは知りません。本作の作り手の思い入れもまた然りです。なので、不用意に無責任なことを言うべきではないと思いますが、それでもやはり今ここに実在の事件を想起させる事態を挿し込んだことには疑問を禁じ得ませんでした。 一つの道に邁進する方にとっての感覚と、蚊帳の外の人間が抱く感覚が異なることは止むを得ないことでしょう。ですから勿論否定も肯定もしたくありません。ですが、正直疑問でした。 ただし、そうは言いながらも、終盤の(ちょっぴりタイムリープ感が漂い運命論的でもある)マルチバース的視点に基づく展開は感動的でした。人は誰も身近で何か重大なことが起きると「自分のせい」と思ってしまいます。寧ろ思いたくなります。自己の客観視は容易ではありません。ただしそれは両刃の剣。本作では主人公は悲劇とそれに伴う自責の念をバネにしてこれからの人生に力強く踏み出して行くのだと思いました。 いろいろと書きましたが、総じて言えば佳作であることに間違いないでしょう。ただ、ある意味観る人を選ぶのかなと思えてしまいました。私にとっては「感動的なアニメですが感涙はしなかった」という作品でした。[インターネット(邦画)] 7点(2025-02-17 18:35:23)《改行有》 17. 砕け散るところを見せてあげる 《ネタバレ》 手放しで傑作と称賛するのはどうかとも思えますが(結構観る者を選びそうなので)、ワタシ的には大好きなラブコメと大好物のサイコホラーを、お膳立てはキチンと見せてはくれるものの相当ちゃぶ台返し的に転換するところがツボではありました。 なかなか姿を見せないヒロインのお父さん。見せたと思ったらクルマがイキナリ猛スピードバックという攻撃行動だったり、主人公のお母さんの執拗な質問攻めに表情ピクついてたり(ありゃ私でもイラっとするが)、ヒロインのおばあちゃんの実態がよく解らんのは多分お父さん絡みの死亡フラグと匂わせたり、陰惨な苛めが背景にあったとしてもそれをカバーして余りある学園ラブコメ的な中盤までの空気の中に終盤の惨劇がチラリチラリと見え隠れ。この見え隠れの塩梅が非常に好みで、ホンワカラブラブ感がどこでひっくり返されるのかにビクつきながら観ている快感はなかなかのものでした。 ヒロインを始終抑圧し続けるUFO、当然それは父親なのでしょう。主人公の頭上にまで迫り、ついには具体的攻撃行動に出る。なかなかどうして素敵なサイコっぷりの堤さんが恐かったです。お母さんはある日突然家を出てお父さんは居場所を知ってる?当然アヤシイところです。洗濯屋さんのオバさんが見たという学校では誰にも殴られてはいなかった筈のヒロインの身体にあったいくつもの痣。当然アヤシイです。サイコ堤さんが次第に影を延ばし、最後の最後に一気に正体を現す演出は緊張感がありました。タイトルの「砕け散る」は主人公が叩き壊したUFOのことなのでしょうね。ヒロインが叩き壊した誰かさんの頭部ではなく。 見ようによってはモタツキ感があるかも知れません。主役二人がどちらもスムーズに感情を出せない設定故の台詞回わし。トイレのシーンなんか結構イラっともしました。でも、観終わってみれば無駄なシーンや演出はなかったと思えます。 強いて言わせていただければ、もう少しヒロインのお父さんの中にある闇を描いて欲しかったこと。それと、敢えてヒロインが過去を捨てた設定にする必要があったかな?数年後の偶然の出逢いは不自然過ぎるんじゃない?あれだけの外傷と心理的ダメージを負ったのだから、二人そろって長期入院の後にやっと会うことが出来て、とかでも良いような?と思えたこと(蛇足ですが、主人公の外傷からして卒業式に包帯巻いて出席出来るわけないし…)あたりに少々消化不良感があったかもです。 ちなみに、物語には関係ありませんが人命救助シーンで堤防沿いを走っていた男性はカメ止めの監督役さんですね。気付いちゃうとついつい口にしたくって。いや、ホントに関係ないことで失礼。 (追記です) 思い返してみて、ヒロインが血まみれで主人公宅に辿り着いたところで警察に通報するのがどう考えても常識的で、彼女の根拠不明瞭な「ダメ!」の一言で自ら遺体捜索してしまうところがどうにも無理筋。だいたいからして危ないから逃げなきゃって状況で玄関先で話してないでせめて早く家の中に入りなさいって! あの段階で警察に連絡していれば、否、百歩譲って池から交番なり知人宅なりに直行して助けを求めてれば、二人とも無事だったしお父さんももしかしたら捕まえられたし、そもそも相当パニクってても、てかパニクってればこそ助けを求めるのが筋かと。だいたいからして真っ先にお母さんに連絡入れなさいって。もっともそれだとエンタメ的には見せ場が減ってしまいますけれどね。 などと思った次第です。[インターネット(邦画)] 7点(2025-02-17 00:23:52)(良:1票) 《改行有》 18. ジョーズ MEGAモンスターズ 《ネタバレ》 数少ない中国発サメ映画。海洋パニック作品とB級サメ映画の中間的な出来映えですね。 物語としては、海難事故で船を失って漂流する若者たちが、何とか生き残ろうと助け合いながら戦うものの、立ちそうな順に死亡フラグが立って一人ずつサメに食われていくという海洋パニックものの王道的な展開(ほぼ同じ内容の作品の既視感あるかも)。ですが、襲われる側の行動や言動が「ホントに生き残りたいの?」みたくどうにも理解・納得出来なかったり、肝心のサメはCGとしてはそれ程チープではないものの行動パターンが不自然過ぎて時間稼ぎ感があったり、全体的に矢鱈尺が長く感じてしまうような繰り返しの連続だったりして、いかにもB級感に溢れています。 ヒューマンドラマ感を込めようとしてかラスト近くの救助シーンは妙に引っ張るし、おまけにリベンジですかというラストシーン。あれ?あなた海洋調査隊とかなんかしらの海関係の人でしたっけ?って感じ。結果、自分的にはビキニ美女登場が必須条件?のB級サメ映画にカテゴライズさせていただいた次第です。[インターネット(字幕)] 3点(2025-02-15 14:47:16)《改行有》 19. 蛇の道(2024) 《ネタバレ》 元ネタ未見です。あくまでも本作のみについての感想です。 物語の中心をなす復讐譚を少々トリッキーに語った作品ですね。主軸に力点を置いて装飾は省いたような。まともに考えてしまったら、例えば拉致の方法が杜撰過ぎて、目撃者不在だったりスタンガンの効果が過剰だったり都合よく意識失ってたりとか、クライマックスで武装した相手が戦闘能力ゼロでヘタレ過ぎだったり等々、「んなわけないだろ!」的な曖昧さとか物足りなさが相当数見受けられます。なので、作品世界を楽しむためにはいろいろと目を瞑らなければならないです。そこまでして観るべきかという根本的な問題はありますが。 結局、ヒロインの復讐譚は帰国した夫を始末して完成なんですか?私は最後まで観ててっきりアルベールの件を含めて真犯人はヒロインなのでは?などと思ってしまいました。だって死体にナイフを突き立てる姿とかドライバーを手にした表情とかが鬼気迫り過ぎていて常軌を逸しているような。あくまでも極度の復讐心がなせる業なのかも知れませんが。 それと西島氏の登場。黒沢作品に多数出演している御縁ですか?の如き唐突感が否めませんでした。ヒロインのマインドコントロール的台詞によって死を選んでしまう役処は、彼女の持つ恐ろしさを浮かび上がらせる上で重要だとは思いますが、サイドストーリーとして必要だったかどうか疑問。それもネームバリュー的に釣り合わないようなキャスティングに思えてしまったりして。だから「御縁ですか?」と思ってしまったのですが。 元ネタの邦画作品を観れば様々な疑問は解消されるのかも知れませんが、やはり1本の作品は独自に存在意義や感動を放って欲しいところ。本作だけを見た印象としてはかなりの消化不良でした。柴崎さんの熱演に+1点しても5点献上までかなと。[インターネット(字幕)] 5点(2025-02-15 11:49:13)《改行有》 20. ムクドリ 《ネタバレ》 深い哀しみから夫婦の愛が立ち直っていくという心温まる良い話だとは思います。でも、何かしっくりと来ない。いまひとつムクドリとの交流が生かされていない?否、取って付けた感があると言った方がいいかも。 確かに、ある意味孤独と戦うリリーに生きる力を与えたのはムクドリでしょう。たまたまテリトリーに入って来た彼女を追い払おうとしたことがきっかけとなって敵対関係になったリリーとムクドリ。ただ、かと言ってリリーは毒を盛る気もなく(結果、犠牲は出てしまった)、雛を見れば巣を壊すのを躊躇う(ソックス故かも)、彼女の優しさと母性はムクドリ一家を心から憎んでいる訳ではない。挙句、成り行きからムクドリを傷付けてしまった彼女には贖罪の意識さえ芽生え、介抱を通じてムクドリと心を通わせようという(もしかしたら自らの心を落ち着かせようとする意味の方が大きいかも)行動に向かう。そしてそれは、次第にジャックに向けた感情にまで影響していく。 一方ジャックは、服薬を拒否し妻を拒み周囲の全てに心を閉ざしているものの、そんな自分がどうしたら良いのかという課題に対して本心から背を向けてはいる訳ではない。以前から発症していたという告白から考えるに、(不安定この上なく決してよろしくないことだとは思いますが)彼は良きにせよ悪しきにせよある程度自らの症状をコントロール出来ているのかも知れません。結局彼は自らの力によって前を向き始める。勿論リリーの存在はこの上なく大きなものではありますが、ムクドリとリリーの関係が、間接的であっても何かしら影響しているかどうかは作品からは読み取りにくいところです。 なので、あくまでもこの物語はムクドリの存在を意識することによって変容していくリリーの物語のように思えました。強いが故により一層悲しみに打ちひしがれてしまった人間が、より強く生まれ変わり立ち直っていくという。言い換えれば、決して動物が主人公(擬人化や象徴化を含む)の物語ではないように思えた次第です。そのあたりで作り手の意向と私の願望がすれ違ってしまった感があります。そっちを期待していたと言うか。 ちょっと作り物感が強い行動をとるムクドリのCG(自宅に営巣された経験のある身としては違和感あり過ぎ)、(現実的過ぎて)何か煮え切らないように感じてしまったカウンセラーや心療医の行動や言動。印象的・感動的な台詞やカットの数々が散りばめられている作品であるにも関わらず、個人的には妙な消化不良感が残ってしまいました。 ファミリー向け、お子様向けの作品、或いは全編アニメで作られていれば随分と印象が違っていたように思えます。作り手と少々気が合わないままに観終わってしまった1本でした。[インターネット(字幕)] 5点(2025-02-09 09:47:01)《改行有》
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