みんなのシネマレビュー |
|
【製作年 : 1950年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
1. 山椒大夫 《ネタバレ》 安寿と厨子王が波路の霜除けの草屋根の為に枝を折って転んでしまうシーンは勿論彼等が幼い頃のそれを彷彿とさせ、奴、端女として過ごした時の長さの無情さを感じさせますし、山椒大夫の所から厨子王を逃がすシーンでおばあさんが安寿に「私を縛っておいき」と言う意味を前の台詞から読み取ると「お行き」ではなく「お逝き」だと分かるとその後に「さようなら」と何度も言い合う2人の姿はこれ以上ないくらいに切なく映ってしまいます。 しかし、安寿を厨子王の妹にした為に逃亡シーンでは2人のキャラクターが機転の効いた利発な妹と不甲斐ない利己的な兄となってしまい、本来なら慈愛的な犠牲として安寿の死を捉えたいのに戦略的な犠牲という印象が強くなってしまっていると思います。 原作に沿った姉が弟を守るという年長者の慈悲というような見せ方なら収まりが良いのですが、強い者による自己犠牲の構図が壊れてしまい年上の男が年下の女を犠牲にして助かるという描き方では心に響くものがなくなってしまい、安寿への哀れみだけが残りこの後行動を起こす厨子王へは肯定的な感情移入が難しくなってしまいます。 原作者のこの設定を制作者が変えた理由は解りませんし腑に落ちなかったです。 その為断片的には感動できるのですが全体的に見ると少し感動が薄れた印象になってしまいます。 厨子王が佐渡に渡り船頭に中君(母親)の所在を尋ねるシーンがあります。 ほぼ何も無い砂浜の手前に人物を置いていますが、フレームに対しての人物のサイズと位置が絶妙のバランスとなっていて彼が僅かなコントラストのある白い砂浜に足跡を一つ一つ残しながら奥に歩いて行く姿は絵画的な美しさが有りもう少し見ていたい気持ちになりました。 しかし、先に見た約半年後に公開される「近松物語」との相対的な評価になってしまいますが、フィルムのラチチュードが狭い為なのか最暗部の黒の締りが弱いので画にそれ程力強さを感じられません。 構図自体は「近松物語」同様素晴らしいカットが多々あるので非常に勿体無く思いました。 獅子王が山椒大夫の元から逃げる決意を安寿に表した時にほんの一瞬だけ彼女の顔が緩みます。 それまでの彼女の人生とその後の運命を思うとあの一瞬の笑顔は言葉にならないくらい印象に残りました。[CS・衛星(邦画)] 7点(2015-07-18 18:09:02)(良:1票) 《改行有》 2. 近松物語 《ネタバレ》 話は面白く映像は美しく役者は魅力的です。 主役の2人が登場人物達の波のように幾重にも重なった利己的な思惑に翻弄されながら話は進んでいきますが、お互いの愛を確認した所から利他的な行動を取っていた2人も徐々に自分達の幸せの為に周りが見えなくなりお互いを求め合うようになる話は、作中の時代と制作された時代の両方を考慮しているようで村社会から個人主義への変貌を表しているようにも見れます。 話自体も非常に良く出来ていますしストーリーの展開も俊逸です。 近松門左衛門の原作では2人はかなり強引な展開により助かってしまいますが脚色されている本作の流れから言えば、あのラストがベストだと思います。 茂兵衛とおさんが川を渡るシーンではフレームの右手前に朽木を配してそれを舐めるように2人が右奥から左手前に抜けていきます。 構図の良さは勿論ですが川を渡る2人とシルエットになっている山とそれより幾分明るい空の実像と、カメラアングルをローポジションにしている為にそれらをはっきりと映している水面とで上下でほぼシンメトリーとなっている画にわざとバランスを崩すように上記した朽木が配置されているカットは美し過ぎます。 2人が川を渡るだけでこんなにも美しい映像を堪能させて貰えるとは贅沢過ぎる作品です。 また、以三と助右衛門が障子と柱の後ろや前を見え隠れしながら行ったり来たりして密談している姿は、以三の腹黒さをまだ掴みきれていない助右衛門の不安な心境を表す十分な効果となっています。 そしてこの映像や構図の美しさを支えているのが的確なバランスで作られているライティングです。 ほぼ全てのシーンで違和感なく仕上げられている映像はこの照明に起因している所も大きいと思います。 南田さんの快活さと香川さんの品から色に変わっていく女性の演技はとても魅力的でした。 特に香川さんに関しては全編通して美しいの一言です。 長谷川さんの事はなんとなくは知っていましたが作品を見るのは初めてだと思います。 主役を貼れる人だとは物凄く良く分かりましたが職人さんには見えませんでした。 存在感が有り過ぎるのと演技としての所作が堂に入り過ぎている感じがしましたが、演出を少しだけ歌舞伎風にしているのでギリギリ作品には馴染めていたと思います。 ラストの馬上の2人の表情は見ている女中に台詞として説明させるのではなく、彼等の尺をもう少し長目にして表情を丁寧に撮る事によって2人の演技で語って欲しかったです。[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-06-30 23:13:41)(良:1票) 《改行有》 3. 雨に唄えば 《ネタバレ》 本作を見ていると今の時代に映画を作る事が気の毒にさえ思えてきます。 大袈裟に言うとほぼ一通り出尽くした感がある創作表現の世界では、如何に今までにない話にするかで脚本や設定で裏の裏の裏までかいて奇抜なものにしなければ認めて貰えない様にも感じてしまいます。 まるで隅々まで発見し尽くされたこの世界で現代の冒険者と言われている人達がリヤカーを引いての世界一周やエベレスト登頂の最年長記録等、自らにハンディを与えたり、本質ではない所に拘ったりしているのと同じに見えます。(それらを否定している訳では有りません) 本作が作られた1950年代等は映画そのものに開拓の余地がまだまだ残されていたようにも思え、本作の様にミュージカルを真正面から撮る事が出来た余裕のある時代に感じられます。 それは大航海時代にマゼランやバスコ・ダ・ガマが「とにかく船を走らせろ、そうすれば見た事もないようなものを見せてやる」といった様な時代にも重なります。(彼等がそんな事言った史実は有りません) しかし勝利要因は時代に恵まれていたからというものだけでは決してなく作品そのものの質も非常に高く、それを裏付ける様に出演者達の表情や演技から「この作品は絶対に間違っていない、絶対に傑作になる」という自信が伝わってきます。 そんな自信に満ち溢れた彼等の演技が活き活きと表情豊かで魅力的になるのは当然です。 私自身も作中のそんな彼等に無条件で自分自身を委ねてしまいますし、その瞬間からG・ケリーやD・オコナー、D・レイノルズと一緒になって楽しむ事が出来ました。 作品を見ていて気が付いたのはハンナ&バーバラの初期のトムとジェリーに似ていると思った事でした。 勿論追っ掛けっこはしませんし、アニメと実写、猫とネズミと人間等違いは有りますが演出や音楽の使い方、音楽そのものが作品を通して結構似ています。 冒頭のレッドカーペットからドンがコズモとの捏造された下積み時代の回想シーンまではそれを彷彿とさせる演出(見せ方)になっています。 インストゥルメンタルの音楽等は同一人物がスコアを書いたのではないかと思う程そっくりです。 制作は何方もMGMなのでスタッフがリンクしていたのかもしれません。 何方が何方をマネをしたかどうかとかはどうでも良い事です。 大好きなトムとジェリー同様にお気に入りの映画が一本増えただけの事です。[CS・衛星(字幕)] 9点(2015-06-27 01:40:56)《改行有》 4. 幕末太陽傳 《ネタバレ》 学生の頃に夜中なんとなくテレビを見ていたら本作がやっていました。 フランキー堺さんは名前が格好悪かったり、彼の四角い顔が生理的にダメだったのでかなり嫌いな俳優でした。 見終わった後にテレビの前で「ヤバい、これマジでヤバい…」と声を出して1人で呟いた事を覚えています。 映画好きになら解って貰えると信じて書きますと、とんでも無い作品を見終わった時に、リミッターを超えた満足度から来る高揚感で脳みそがゾワゾワして体全体が吹っ飛ばされそうになって叫びたくなるアノ感覚です。(私だけだったらかなり恥ずかしいです…) その頃からおっさんの様に落語と時代劇が大好きだった自分には、ど真ん中でした。 生理的に受け付けない役者さんの作品を見て180度見方が変わって最高評価になった人は私の中で3人いますが、フランキー堺さんはその中の1人です。 侍、女郎、客、使用人、楼主、居残り等のそれぞれの欲や思惑が乱れ舞う品川遊郭相模屋で、立川談志さんが言っていた様に人間の業を肯定しながら話は軽妙に進みます。 その中でも、堺さんがとんでもなくカッコ良いです。 台詞回しからは粋で破天荒な人間を感じ、所作は軽快で無駄は無くそれでいて不思議と品や優雅さの様なものが漂うシーンもあります。 相模屋の1・2階を動き回る姿はまさにバレエのプリンシパルです。 死に向き合いつつ抗い、全力かつ狡猾に生きているメメント・モリ佐平次は相模屋では無双です。 他の連中とでは素養と覚悟が違います。 堺さん自身もまた然りです。 左幸子さんや南田洋子さん等も好演していますが、堺さんと周りの役者さんとではレベルというか正直演じている次元が違う様に感じました。 バカみたいですが毎回見る度に、堺さんが前に見た時と違うことを言ったり、違う演技をするのではないかと本気で思ってしまう程、作中では活き活きと自由で自然に見えます。 ラストシーンは自分の意を汲んで貰えなかった川島監督が会社に対しての当て付けでわざと質を落したのではないかと思う程、テンポも編集もよく有りません。 加えて、作中にもカット割りや音声、編集の稚拙な所は有るのでマイナス3~4点になると思いますが余裕で10点です。 それらのマイナス要因は、この評価が揺らぐ様な事では有りません。[DVD(邦画)] 10点(2015-05-02 22:32:23)(良:2票) 《改行有》 5. 七人の侍 《ネタバレ》 様々な映画の要素を真っ暗な部屋にある鍋の中にドバドバッと放り込み、ぐつぐつ長時間煮込んで電気を点けたら凄いのが出来ていました、という作品ではないと思います。 3人の凄腕の料理人がレシピを書き、その中の1人の天才が最高のシェフを集め、最高の厨房で最高の食材と最高の調理器具を使い、たっぷり時間を掛けて完成させた最高の大衆料理の様な作品だと思います。 時は戦国時代です。槍一本、己の武勲で素浪人から一国一城の主にも成れるようなジャパニーズサムライドリームの真っ只中で「ゴハン奢るから、野武士やっつけて」って言われても断られるのは当然です。ハイリスクウルトラローリターンです。 しかし、何時の世にも実利を選ばない奇異な人は居ます。20億円以上のオファーを蹴って4億円の年俸に応えるプロ野球のピッチャーのように…。 難航する侍集めをおざなりにせずに、時間を掛けて描くことにより、当時の世相や百姓が侍を雇うことが如何に無謀な事であるかを理解させてくれますし、それぞれの侍のキャラクターの説明や、彼等の個々の行動の説得力にも繋がります。 また、後半の怒涛の乱戦での決して大団円といかない結末に対する濃厚な前フリとも言える巧妙なプロットになっているとも思えますし、これらをサラッと描いていたら底の浅い作品になっていたと思います。 私にとって最高の作品のひとつですが、完璧なそれでは有りません。粗はあります。古さも感じます。しかし、それらを軽く凌駕する高揚感だったり、突き抜けたカッコ良さや、感情をジャイアントスイングされるようなダイナミックさがあります。 要因として特筆すべきは三船敏郎さんの演技力です(勿論、他にも沢山の要因は有りますが、書いていたらきりが無いので…)。 まさに水を得た魚のようにフレームの中を縦横無尽に動きまわり、台詞も何を言っているか聞き取れないほど吠えまくります。 また、彼が劇中で見せる豊かな表情や子供達を相手にしての演技などは、彼自身の人間的魅力とも感じさせられます。 しかし、彼がどんなに全力で演技をしても、決して画面からは窮屈さは感じません。三船敏郎さんの激情を伴った演技を、勢いそのままに映画に昇華させる黒澤監督の懐の深さは、孫悟空とお釈迦様の関係のように感じました。 本作のスタッフやキャストの方々へ、「七人の侍」を作って頂きありがとうございました。 [DVD(邦画)] 10点(2015-04-12 12:35:53)《改行有》
|
Copyright(C) 1997-2025 JTNEWS