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【製作年 : 1960年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
評価順1
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1.  シェルブールの雨傘 《ネタバレ》 この演出にする為にこの話を選んだのか、この話だからこの演出にしたのか。 どちらにしても役者の台詞が全編歌になっているという映画としては希有な演出方法にバッティングさせないという意味では本作ぐらいの話が調度良かったのではないかと思います。 発想としては特徴的ですが造りとしては余り丁寧さを感じる事が出来ませんでした。 冒頭のタイトルバックの俯瞰の映像でカメラの存在を感じさせる雨垂れを見て「初っ端から結構雑だなぁ」と思ってしまいましたし、シークエンスが変わる場面々々でも編集のタイミングが抜群に悪い所があるので全編歌っているミュージカルなのにテンポの悪いものになってしまっています。(後半になると幾分改善されてきます) 作中で歌われている曲も主役の2人が駅で別れるシーンのものが良かったぐらいで、その他の曲は殆ど印象には残りませんでした。 勿論私がフランス語を殆ど分からないという理由も有りますが(サルとサバぐらい…)、メロディーというより台詞に対して音程を不自然に上下させているだけではないかという所が多々あったと思います。 また、映像ではセットや衣装の色に拘っていたと思うのですが、それらを強調させたいが為にべったりとした正面からの工夫のない光の当て方になっていたので、奥行きの感じられない教育テレビの人形劇の様な安っぽい画になってしまい色見だけが無駄に散らかっていた印象でしたし、壁紙と衣装をシンクロさせても、そのアイデア以上の効果を感じる事は私には出来ませんでした。 ラストのガソリンスタンドでの雪と建物の白と夜空の黒に差し色の様に原色をポイントで配した画は唯一非常に美しかったです。 最終的な印象としては、音楽と映像による演出を軸にした作品だと思うのですが、それが活かされているシーンがあまり無く実験的な試みとして終わってしまっていて演出というレベルにまで具現化されてはいない様に思いました。[CS・衛星(字幕)] 3点(2016-06-24 21:55:59)《改行有》

2.  荒野の用心棒 《ネタバレ》 オープニングで流れている曲を聞いて「ああ、この作品のサントラだったんだ」と、いきなりスッキリさせて貰えました。 エンリコ・モリコーネのメロディーラインや編曲は全編を通して素晴らしく、音楽で作品に別の表情を付けていたと言える程の印象でした。 訴えた側が勝訴した結果に何の疑問も抱かないくらい忠実に話の内容は似ていますし、何箇所かはそっくり過ぎて逆にクロサワへの敬意の表れでは無いかと思ってしまう程でしたが、『用心棒』では、ほぼ全てのカットが伏線や何らかの意味を持たせていたり、映像的にもパンフォーカス等を多用して拘っていたのに対して、本作はそこ迄作り込んではいない為に結果として見易いものになっていたと思います。 しかし、登場人物達の設定や彼等の関係性が作品の中で上手に説明されていなかったように感じました。 特に主人公は三十郎の方の人格を複雑なものにして彼に深みを出していたのに対して、本作の主人公ジョーのそれを解らせるようなシーンがあまり無いままに本家の奇抜な行動をなぞっているのでジョーの行動原理が掴めず底の浅い印象になってしまい、この差がそのままそれぞれの作品自体の差になってしまったように思います。 既存のウエスタンの様式美を半壊させるような演出や幾何学模様を配したポンチョを羽織ってサラブレッドでなく敢えて寸胴のラバに主人公を宛がう少しおかしなセンス等は見ていて非常に惹き付けられる所が有りますし、盗作と解っていてもオツリが来るくらい楽しめました。[CS・衛星(字幕)] 7点(2015-10-08 17:02:21)《改行有》

3.  ワイルドバンチ 《ネタバレ》 地球上の半分の人間が否定しても残り半分の人間は肯定する映画、要するに男の為の映画だと思います。 付き合う時に女性が相手に対して気にするのは清潔感だそうです。 サウナ風呂に入っているシーンですら綺麗に見えないのですから本作に出てくるメインキャスト(特にサイクス爺さんの顔は汚れなのか酒焼けなのかメイクなのか本物なのか分かりません)は女性にしてみれば論外だと思います。 見終わった時に潔癖症の人だったらTVの画面を消毒したくなるのではないでしょうか(最後まで見られない可能性の方が高いかもしれません)。 しかし、汚くないワイルドバンチはワイルドバンチではありません。 もし登場人物達が汚れていなかったら絶対に作品の評価は今より低くなっていたと思います。 彼等が下ネタで爆笑している時に一体全体何なのか分からない(分かりたくもない)物体で汚れている歯が見えるから良いのです。(私は汚いもので興奮する性癖ではありません) そんな汚くて暴力的な本作ですがそれらと対極にある女性と子供のカットが意外と沢山出てくる所は興味深くも有ります。 冒頭の白人、黒人、ヒスパニックの男の子や女の子が笑いながら蠍と蟻を戦わせて最後には焼き殺してしまう様は、ラストシークエンスの暗示と同時に闘争本能や残虐性は全ての人間の中に先天的に潜んでいると語っているようでイントロダクションとしてはこれ以上ないくらいに作品の説明になっていたと思います。 また、血が飛び散る銃撃戦の中に子供を立たせてみたり、その他残虐な作品には似つかわない程に沢山の子供達が出てきますが、実世界ではここに出てくる何倍もの子供達がここで表現されている何倍も残酷で暴力的な現実を目の当たりにしているのではないかというペキンパーのアイロニー的な主張を感じてしまったりもします。 製作が1969年でベトナム戦争真っ只中という事も影響しているかもしれません。 そう考えると女性の無残な死や子供達は本作では単に映像的背景以上の要素が有るように思えます。 容赦のない銃撃戦や汽車でのアクションもマルチカメラで撮っているのでカット割りがかなり細かくされています。 その為もあってスピード感と迫力を存分に感じながら状況を見失う事なく把握できます。 アクションシーンで相反するスピード感や迫力と見易さを双方擁立させる事の出来るペキンパーの手腕は流石ですし、映像からはカッコ良さを通り越して美しささえも感じます。 そして美しいといえば林の中のエンジェルの故郷の村でのシークエンスのカットは全て美しかったです。 ロケーション自体かなり奥行きがあるうえに焚き火の煙の効果で一層パースが強調された構図に、フレーム上方の鮮やかな空の青と木立の緑が配置された所から木漏れ日となって暗い地面や水面、人物に落ちてくる光がアクセントとなり画全体のバランスを取り、寒色から中性色寄りの画面構成によって涼し気な透明感を感じさせてくれるお陰でパイクとその仲間達の汚さも40%OFFくらいに見えます。 好きな作品なので何回か見ているのですが最初の頃は早撃ちや射撃の名手と言った西部劇の様式美の皆無な銃撃戦にアドレナリンが出まくっていましたが、回を重ねるにつれドラマ部分の脚本の質の高さが分かり始め、今では洋画の中では最も哀愁を感じる事が出来る作品の1本となっています。 勿論結末が分かっていての事なのですが彼等の笑い合う姿を見ると何とも切なくなってしまいます。[CS・衛星(字幕)] 10点(2015-09-16 01:56:36)《改行有》

4.  夕陽のガンマン 《ネタバレ》 タイトルの原題は主役のモンコの為に有りますが邦題はダグラスの為に、そして内容的にはダグラス中心と言っても良いくらいです。 冒頭のメインキャストの登場シーンの順番や各人への時間配分等をみても作品に対してのダグラスの重要性は明らかだと思います。 イーストウッドに思い入れを持っている人には面白く無いかもしれませんが、別段そうでない私にはこの構図は非常に面白かったです。 イーストウッドをメインにしてリー・ヴァン・クリーフを完全な脇役にしても成り立つくらいイーストウッドの存在感と渋さは確立されていた印象でしたが、敢えて2人を立たせる事によりお互いに対する新たな緊張感が加わるのと同時に若干の人間味のようなものを感じて作品に厚みが出来たと思います。 容姿もキャラクターもそれ程違わない2人がお互いの存在を潰し合わずに擁立出来た理由は調度良い演出と脚本だと思います。 勝手にポーターに荷造りさせたり、足踏んだり、帽子を撃ったり、作戦から逸脱したりと先に仕掛けてくるのはいつもモンコですがダグラスがそれをしれっと往なしつつ力を見せつける様は見ていて心地良かったです。 また、この演出と脚本の調度良さは勿論作品全体にも及んでいて2人が渋すぎるのに重くなり過ぎずに、ガンファイトが多くても軽くなり過ぎない等と話自体が結構丁寧に作られている事を認識させられます。 2人の賞金稼ぎが存在するだけで不安定で破綻確定な設定ですがインディオを仕留める彼等の目的を別のものにしたお陰で収まりの良い纏まり方になっていますし、それに付随して出てくる途中の話や小物等もかなり効果的だったと思います。 出演者のカッコ良さ、的確な演出と脚本、そして音楽の使い方と楽曲自体も素晴らしかったです。 100年以上前のアメリカが舞台の話を50年以上前にイタリア人が映画にして日本人の私が今見て喜んでいます。 単純に『良いものは良い』という事だと思いますし、色々な壁を超えて楽しませて貰えて何となく嬉しくなってしまいます。[CS・衛星(字幕)] 8点(2015-09-13 18:58:00)(良:1票) 《改行有》

5.  戦うパンチョ・ビラ 《ネタバレ》 タイトルからメキシコ革命を扱ったものと推測出来たので硬派な作品と思っていましたが、そんな事はなくかなり楽しいものに仕上がっている印象でした。 盗賊あがりの革命家ビラ、しかも彼の右腕フィエロも実在して作中宛らの凶悪性を持ち合わせていたとの事らしいので直接描けばかなり血生臭いものになっていたと思いますがアーノルドという打算的というか掴み所がないアメリカ人を通して見せた効果により見易すいものになっていたと思います。 ユル・ブリンナー、ロバート・ミッチャム、チャールズ・ブロンソン、この3人の特出した演技力は勿論単体でも各人魅力的なのですが、それぞれが絡むとエンターテイメント性がグンと増し、台詞やシチュエーションで良い具合にクスっと笑わせて貰えます。 特にフィエロとアーノルドのお互い相容れないが何処と無く認め合っているような関係性は良かったです。 また、無慈悲なフィエロが50人近くを銃殺処刑した後に手が痺れてしまうシーンは、その後また捕虜を大量に処刑する時に効率的に行う為に威力の有る銃で3人ずつ一遍に撃っていく伏線となっている云わば前フリ程度のシーンなのですが、手を水に浸し痺れを取るフィエロの姿はチャールズ・ブロンソン特有の自己陶酔ぎりぎりで見せる自分の内側に向かって表現される演技によりメキシコの乾燥した舞台とは対照的に少し不思議なしっとりとした哀愁を感じさせ印象に残るシーンになっていました。 制作された1968年がベトナム戦争真っ只中だという事を考慮するとメキシコをベトナムにアーノルドをアメリカそのものに置き換えて見る事も出来ると思います。 ビラがアーノルドに言った「元々何も無いお前は女の為でもなく大義の為でもなく自分の為に生きてきた」という台詞はネイティブアメリカンから奪った土地に国を作り不安定な政治情勢の他国に介入して好き勝手やっている建国以来アメリカがしてきた事に重ねているようにも見られます。 しかし、メキシコ革命等の歴史的な事情をそれ程知らなくても十分に楽しめるような娯楽作品になっていますし、サム・ペキンパーらしい男臭い話の流れでラストの締め方もなかなか良いものになっていたと思います。[CS・衛星(字幕)] 7点(2015-08-31 17:24:07)《改行有》

6.  アパートの鍵貸します 《ネタバレ》 淡い恋心が愛情に変わりますがその愛は普通の恋愛ドラマの様な絶対的な価値観として表現されてはなく相対的なものとして扱われていて、その比較対象も友情や人の生死と言った高潔なものではなく仕事(出世)や他の恋愛感情であったりとかなり下世話なものになっていますし、心優しい主人公が上司の不貞の世話をするとか、男運が悪いと言っておきながら不倫相手の部長と別れられないフラン等、登場人物達の内面にも多面性が伺われたりとコメディ要素満載の話なのですが結構実世界に即した設定のような気がしました。 「非の打ち所がない男女が愛とそれに見合う問題の狭間で悩んでそれなりの犠牲を払って最終的に愛を勝ち取る」といった話でなく人を思いやる事は出来るが打算的な2人が今までの自分達の負の行動の精算をしながらお互いの幸せの為に相手の所に辿り着くと言った感じでしょうか。 一見すると主役の2人を含めてエゴに凝り固まった人々の取り留めの無い話になってしまいそうですが、飽きさす事なくプロップを効果的に使い何とも魅力溢れる作品に仕上げてハッピーエンドで纏めるビリー・ワイルダーの手腕は流石としか言えません。 パンフォーカスを多用している為にコメディ作品らしいすっきりとして分かり易い画になっていますし、カメラワークも極力控え目でストーリー中心で見せていますが最後の主役の2人がソファーに座りカードをするシーンでは正面からフルフレームに2人を捉えて力強さを感じさせるラストカットに相応しい画になっていると思います。 無駄と隙のない脚本とそつのない演出が作品全体をがっちりと固めているので、人として欠点の有る2人も彼等の優しさや可愛らしさといった良い面をフォーカスしながら非常に好感を持ってストレスなく最後まで見る事が出来ました。[CS・衛星(字幕)] 10点(2015-08-11 21:11:46)《改行有》

7.  日本侠客伝 花と龍 《ネタバレ》 明治末期の北九州で前半はゴンゾウという石炭流しの一人夫として、後半は若松で棒芯を経て組の小頭として健さんが大活躍します。 本作より5年前に公開された一作目の日本侠客伝では些か小頭としては少し線が細くて若すぎるきらいが有ったように思いましたが、この時期の健さんは何方の役どころも違和感なくピッタリとハマっています。 後半の任侠映画特有の展開や立ち回りなどは作品的に特出する所はそれ程無く進んで終焉を迎えますが、前半の話は健さんの若々しさと相俟ってかなり楽しめます。 ゴンゾウの仕事は喧嘩も兼ねているとの事で、荷役を巡りライバル業者相手に負けそうになると当然のように実力行使の手段に打って出る展開を見て、仮にも近代日本の話なのにこんなバカな解決法でいいのかと思ってしまいましたが、軽く調べてみると荒唐無稽でもない事に改めて驚かされてしまいました。 友達を頼って新天地に着き徐々に周りの信頼を勝ち得ていく玉井金五郎という若者を若さと渋さが調度良く混在している当時の健さんが見事に演じきっています。 そんな彼の魅力を感じさせて貰えるのが友達の新之助を傷めつけた相手のいるヤクザの親分達の酒宴に単身乗り込みに行くシーンです。 真っ直ぐな眼差しで相手を見据えて歯切れの良い台詞で啖呵を切る健さんは利他的で曲がった事が許せないが故に他人を惹きつける主人公が持っているキャラクターの説得力を増すと共に高倉健という人そのものを見せつけられた気がして高揚感と同時に爽快感を味あわせて貰いました。 また、このシーンではここでしか出ていない若山富三郎さんの淡々として大袈裟では有りませんが確かな存在感も堪能できます。 個人的には山本麟一さんが特に良かったですが、他の脇を固める役者さん達も地に足を付けた演技で安心して見る事が出来ますし、テンポは速くないのですが話が面白いのでリズム良く加えて心地も良く進んでいきます。 台詞などで説明せずに映像や情景で状況や心情を表しているのもその要因のひとつだと思います。 タバコの件や薬と一緒に菊の花を持って行くおマンの行動で見せる彼女の玉井への恋心が芽生える表現等は的を射た丁度良さが有り、見ていて演出の上手さを感じると共にとても気持ちが良かったです。 唯一、品と優しさを拭い切れない二谷英明さんが肉体労働者とヤクザの役というところに無理があった気がします。 本作を含めてこの様な義理人情全開の任侠映画を見たのはまだ3本目なのですが、それが持っている典型的な展開等は私の想定内に収まっていましたが、どの作品もドラマ部分の質の高い作りには正直驚かされてしまい嬉しい誤算でした。 当時、任侠映画の人気が高かったのは実はこの様なドラマとしての面白さにも起因しているのではないかと思える程楽しませて貰いました。[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-08-10 22:52:52)《改行有》

8.  日本侠客伝 《ネタバレ》 冒頭からテンポ良く話が展開し分かり易く見ていて楽しめましたが、後半になっても勢いはそれ程付かずに討ち入りのシーンも迫力はあまり無く、見終わってみれば盛り上がりに欠けてしまったように感じました。 木場政の中に魅せるべき役者さんの数を増やした為に逆に印象が弱くなってしまったみたいで、討ち入りシーンに役者さんの数を掛けて迫力を倍増させる事が出来ずに、討ち入りシーンをみんなで割ってしまいそれぞれが淡白に仕上がってしまったかのようでした。 しかし、ドラマ部分ではそんな彼等の人間関係や男女の情などを上手に絡ませて木場政親分がいなくなってからの若い彼等の粋々とした姿を楽しむ事が出来ました。 鉄と粂次や清治とお咲の関係ややり取りを始め、お柳の姐さんっぷり全開の落ち着いていて慈愛に満ちた佇まい等良い所は沢山有りましたし、話自体も沖山一家に対する木場政の討ち入りに行く為のマイレージの溜め方も無理がなく良かったと思います。 木場政陣営の俳優さん達は勢い任せの人もいましたが、敵役の沖山兄弟は確かな演技力と滲み出るようなダークな雰囲気を感じられました。 また、お柳役の藤間紫さんの虎を留置場に迎えに行くシーンや鉄が質入れした事に対して諭すシーンで見せる柔らかい表情はかなり魅力的です。 熟しに熟した女優パワーにやられてしまい色々ウィキ等で調べてしまいました。 しかし、健さんの登場シーンでのインパクトの弱さや前述した煮え切れない討ち入りの為に任侠映画としては中途半端な出来になってしまったように思います。 長吉と沖山の立ち回りなどは弱い沖山に対してそれなりの時間を掛ける為に健さんの刀捌き(かなり大振りです)も彼に付き合いカッコの良いものとはなっていません。 それならば3~4人力強く切り倒して時間を稼いでから一瞬にして切り伏せて貰いたかったです。 この様に内容的にも迫力不足の立ち回りを前半のドラマシーンと同じようにミドルからロングに近いカメラアングルとスピード感がないカット割りで説明的な印象になっていたので緊迫感や高揚感は感じられませんでした。 内容的にも映像的にもラストのカタルシスが爆発しない任侠映画では一体何の為に前半にマイレージをコツコツと溜めていたか分からなくなってしまいます。 作中で健さんが「仏作ったからには魂だけは入れときたい」と言っていましたが、任侠映画の不文律を踏襲して頂いて娯楽作品を作ったからには盛り上げる所は盛り上げて貰いたいと思いました。[CS・衛星(邦画)] 6点(2015-08-10 19:30:34)《改行有》

9.  続・荒野の用心棒 《ネタバレ》 ドラクエの死に損ないのパーティーの様に棺桶と人間がぬかるんだ荒野を旅するオープニングを見て「あれ?自分が想像していたのと違う…。本当に荒野の用心棒の続編なのかなぁ…。」などと思いながら見終わってから、ここの過去のレビューを読んでみるとやっぱり違いました。 まんまと騙されてしまいました…、酷いです。 ヤクザな配給会社です。 騙し討ちの様なタイトル同様に主人公も西部一の早撃ちと言われながら、ガトリングガンみたいな機関銃で敵を掃射してしまいます。 内容も登場人物もこの様に一貫性が余り有りませんが、世界観が一定に保たれていればそれらに一貫性がなくても問題はなく、逆に捻くれている私にはその方が楽しめたりします。 昨日の敵は今日の友などと人間や物事には一貫性などはそれ程無いと思います。 容赦の無い内容で登場人物の男性は主人公を除いてほぼ全員死にます。 ラストカットで主人公はヨレヨレとフレームの奥に消えて行きます。直後に野垂れ死んでも不思議はありません。 そうだとしたら男性陣全滅という、1960年代制作というまさにこの時代のウーマン・リブがマカロニ・ウエスタンにまで波及した証拠となる記念碑的作品で…、ないです。 50年近く前の作品という事もあり刺激的な映像は余りありませんが、酒場で主人公とリカルドの殴り合う技斗はカメラや展開を含めて引き込まれます。 ハンディを多用する事で臨場感を保ちつつ、斜俯瞰からのアングルでも人物を勢いをつけてフォローする事で迫力は失われません。 また、双方互角の展開で進むので最後まで何方が勝つか判りませんし、決着が意外な方法で着くところにも好感が持てます。 独特の世界観の中で展開される本作の中で一番興味を唆られたシーンが、主人公がヒューゴから奪った棺桶に入っている砂金を底なし沼に落としてしまい身を挺して拾いに行きますが棺桶は砂金諸共沈んでしまって、主人公も沈みそうになるところをマリアに助けられそうになります。しかし彼女は主人公を追ってきたヒューゴ一味の銃弾に倒れ(死にはしません)結局主人公を救ったのは砂金を盗まれたヒューゴだったという件です。 少し深読みして棺桶を死、砂金を欲望、底なし沼を地獄の象徴とそれぞれ考えると面白くなります。 死と欲望という相反するものを追っかけて地獄に嵌まり、そこから助け出そうとした人物は自分が捨てた女と、自分に欲望を奪われた男というところに三重構造とも言えるアイロニーを感じてしまいます。 そして、ヒューゴの「沼に飲まれた砂金なんかいらない」という台詞は「地獄に飲まれるような欲望に興味はない」と解釈出来ます。 作中では一番残虐なヒューゴですが実は仁義に厚い現実主義者として好意的に描かれています。 監督も私の様な捻くれ者なのかと考えてしまいました。[CS・衛星(字幕)] 6点(2015-06-13 22:41:50)《改行有》

10.  新選組(1969) 《ネタバレ》 馬上から切りつける殺陣のシーンや、伊東甲子太郎暗殺場面での一連の剣捌き等は流石に見ていて迫力を感じますが、動きが無くなり台詞メインになると三船敏郎さん演じる近藤勇は途端に硬くなります。 近藤勇の持っている素朴で愚直というイメージや、芹沢鴨が死んで新選組のトップになり、逆にその立場に縛られて苦悩している様な硬さではなく役者としての幅の無さを見せられている様でした。 三船敏郎さんの演技は体の動きと連動した時にその良さが発揮される様な気がします。 局長になった事をゴールと考えた芹沢とそれをスタートと考えた近藤の相反する様相を写した前半が私にとっては見所でした。 ガチガチな三船敏郎さんに対して、やりたい放題の芹沢を演じた三国連太郎さんのアウトローっぷりは見応えが有ります。 芹沢が暗殺されてからは個人的には可もなく不可もなくといった印象でした。 しかし、全体的には脚色を混じえながらも幕末日本の内戦と新選組の内ゲバをバランス良く描いていて見易い作品になっていたと思います。 埃まみれの着物で京の街に居を構えた時の結束力のあった新選組が、隊を纏めるために厳しい局中法度を設けて、着る物も良くなっていくのに隊内が最後までバラバラだったのは皮肉な事です。 最後に他のレビュアーの方も書いていた様に三船敏郎さんを近藤勇に据えた事で配役全体の年齢層が高くなってしまい、幕末という時代を駆け抜けたというよりも、時代とがっぷり四つを組んでしまっている位に風格を感じてしまう新選組には感情移入するのが難かったです。[CS・衛星(邦画)] 6点(2015-06-07 21:08:38)《改行有》

11.  網走番外地(1965) 《ネタバレ》 冒頭の如何にも顔見せ的な受刑者が順番に言う一言コメントや、風呂に入る前の一発芸大会や台詞等に違和感を覚えるシーンは多少有りましたが、本作を見ながらタイガーマスクや巨人の星を子供の頃に見た時にも「昔のアニメは言葉遣いや見せ方がヘンテコだなぁ」と感じた事を思い出しました。 制作されたのが共に昭和40年代前半という事なので、私が感じた違和感とは演出的な問題ではなく時代的要因から来る古さなのでしょう。 脚本自体のプロットは上手く出来ています。 回想シーンが唐突に入る等の印象は有りますが全体的にテンポは良く、如何にも弱々しい年老いた阿久田が鬼寅だったという一連の展開は俊逸です。 作品が始まる前の解説で鬼寅の正体を自称映画好きという元アナウンサーがしれっとネタバレさせていたのには本当にガッカリしました。作中の登場人物を軽く凌駕する一番の極悪人です。 俳優達も受刑者を活き活きと演じています。 田中邦衛さんはやっぱり田中邦衛ですし、嵐寛寿郎さんの前述のシーンには重厚な迫力を感じます。 権田の不愉快で気味の悪い人間性は見ていて本当に不快でしたが、逆に南原さんの演技力の高さという事だと思います。 モノクロというのも予想外でしたが、雪と対象物のはっきりとした強めのコントラストが美しく、ジム・ジャームッシュ作品の様なすっきりとした映像になっています。(勿論、本作の方が早く作られています) また、迫力溢れるシーンでの映像はこの作品を質の高いものにしている特筆すべき要素だったと思います。 トロッコでの追跡劇や汽車で鎖を切る一連の編集やカメラワークはスピード感や臨場感が有りましたし、食い入る様に見てしまうシーンは他にも多々有りました。 真っ白な雪の中でお互いに鎖で繋がれた、ある意味自由の効かない橘と権田が殴りあうシーンに、無限に広がる大空の中を自由に飛んでいるカラスが争っている様なカットが何度も差し込まれますが、まるで争う事は状況が原因ではなく闘争本能という逃れられない生き物の性が原因であると言っている様で虚しさすら感じてしまいます。 ラストでは大怪我をした権田を病院に連れて行ってくれるなら何でもすると人間的な良心を示す橘の要求に監察官の妻木が了承し、それに加え脱獄犯の2人に対して銃すらも携帯せずに同伴する妻木の行動に嬉しさが込み上げて来る橘が病院に行く為に馬を走らせる姿で終わります。 恐らく家族以外から信用を得た事のない橘が初めて他人から信用して貰えたであろう人間の根源的な喜びを、高倉健さんが子供の様な表情で見せているこのラストシーンはとても印象深いものになっています。 古くても時代を感じさせない優れた作品は有りますが、本作は時代の古さを感じつつも優れた作品になっています。[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-06-04 20:00:56)《改行有》

12.  ウエスタン 《ネタバレ》 ほぼセリフ無しで、たっぷりと時間を掛けた反面、結末は一瞬で決まるというまさにラヴェルのボレロを彷彿とする様なオープニングから痺れました。 ここまでカッコ良いオープニングのシークエンスは余り記憶に有りません。 映像の粒子にも粗さはなく、それぞれのカットのフレーミングも素晴らしいです。 編集もおかしな所もなく、メインとなるガンファイトなどは銃声やアクションを基に切り返すカット割りなど、スピード感や迫力の主要素になっていました。 西部劇には美しすぎると思うようなメインテーマ曲も映像の美しさに相まって良かったです。 セリフも最初の人と馬の算術問答のように全編を通して洗練されていました。  客観的に見ればほぼ完璧ではないでしょうか。 個人的に見ると、主人公がかっこ良すぎです。否、かっこつけ過ぎです。「ザ・ハードボイルド」と、言った感じでしょうか。しかし私には自分が考えている美意識という殻に篭った中二病に見えてしまいました。 コミュ力は著しく低く、人に何か聞かれてもハーモニカで「ピープーピープー」。 敵に捕まり縛られて、シャイアンに助けを乞う時も「銃だけか?ナイフも使えるか?」みたいな…、面倒臭っ!!人に物を頼むんだから「ロープ切って下さい。お願いします。」でしょ? だからハーモニカなんてダサいアダ名つけられちゃうんだよ、…と思ってしまいました。 この人ここに来るまでも、こんな感じだったら周りの人は大変だったろうなぁ…、若い頃に金八先生みたいな人に出会っていれば…、といった余計な事ばかり考えてしまいました。 自分としては、無機質な主人公より、人間臭い寅さんや椿三十郎みたいな人の方にカッコ良さを感じますが、作品全体の雰囲気は良かったです。[CS・衛星(字幕)] 7点(2015-05-01 05:15:16)《改行有》

13.  戦う幌馬車 《ネタバレ》 アメリカの人は作中のジョン・ウェインとカーク・ダグラスの様な、ライバルともケンカ相手ともバディとも取れるようなトムとジェリーみたいな関係性のコンビを描くのがつくづく好きなんだなぁ、という印象です。 そんな関係を邦画のように浪花節全開にしないで、ドライに描いているので見ていて肩がコリません。 派手なガンファイトや緊迫する一対一での決闘等はあまり無く、策略を持って敵と対峙します。 そしてそのイベントが結構多いので物語はサクサク進みますが、少し淡白にも映ります。 死んで欲しい人は死んでくれますし、くっつきたい人はくっつきますし、お金も程よく手に入ります。 ロールプレイングゲームの原作に丁度良さそうなお話です。 プレイヤーはジョン・ウェインとカーク・ダグラスのどちらかを選択できる、といった感じでしょうか。 ジョン・ウェインを選べば苦労なく簡単にクリアー出来ると思います。 一方、カーク・ダグラスを選ぶと色々と苦労しますがお色気シーンが結構見れそうです。 当時のアメリカ西部でのメキシコ人や中国人への見下した様な態度や、主人公グループと協力関係にあるが人種的に対立しているネイティブアメリカン達が最後に裏切った為に、彼等の多くが爆死してしまうのに対して、旧約聖書の出エジプト記のユダヤ人の様に荒野の中を彷徨っている別のネイティブアメリカンの集団が最終的に40万ドル相当の砂金を手にするのは何かを示唆しているのかテレビの前の日本人の私には解りませんでしたが、そんな事を考えずに見ていてもそれなりに楽しめた作品でした。[CS・衛星(字幕)] 6点(2015-04-29 16:41:37)《改行有》

14.  用心棒 《ネタバレ》 登場人物のキャラクターや話の設定はかなり自由ですし、脚本もギャンブル的な展開の所も有りますが良く出来ていると思います。 総じて面白くてカッコ良い娯楽映画に仕上がっています。 ハーフのチンピラ浪人が居たり、木槌を持った大男が居たり、マフラーを巻いてリボルバー拳銃を持ったヤクザが出てきたり、芸妓がみんな醜女で座敷に上がった彼女達がノリノリのラテンビートを奏でたり、話の舞台は周りから隔離された無法地帯のカオス的なシャッター通りと化した宿場町だったりと、問題だらけのチャンバラテーマパークのようです。 そんな所に行く先も名前も適当で、滅法強くて、お節介で、照れ屋で、天邪鬼で、情に厚くて、頭が切れて、物事に拘らなくて、ぶっきら棒で、掴み所のない浪人が来て、テーマパークのメインキャラクターになってしまいます。 この浪人を中心に、街は回り始めます。 正直この映画、この人で成り立っています。この人と言っても黒澤明の作った桑畑三十郎なのか、三船敏郎という人間なのかと聞かれると困ってしまいます。 本作で黒澤監督の描いたヒーロー像は他に例がない位にカッコ良くて魅力的です。 そんなキャラクターを、熨斗をつけて具現化出来るのは三船さん以外に思いつきません。 このコンビには毎回痺れます。 水を貰ったおじさんに嫌味を言われると困った顔をしたり、下衆な八州廻りを見て爺さんと笑い合ったり、女房を取られた悲観的な男を見て怒鳴ったり、でも結局助けてお金まで上げちゃったり、爺さんが捕まったと聞くと後先考えずに助けに行こうとしたりと、中二病を患っている様なハードボイルド映画の完全無欠の主人公ではなく、人間味に溢れている所に物凄く惹かれます。  また、ほぼ全編で効果的に使われているガチャガチャした音楽が世界観を重たすぎるものにせずに、調度良いテンポをつけ軽妙な作品にしています。 大満足の作品でしたが、ラストシーンの三十郎の後ろ姿も「金は全部やっちゃったし、途中で死ぬくらいボコボコにされたけど、タダ飯は食えたし、悪い奴は沢山切れたし、味方をしてくれた爺さんも救えて結構楽しかったなぁ。」と、私と同じくらい満足しているように見えました。[DVD(邦画)] 10点(2015-04-25 18:18:14)《改行有》

15.  切腹 《ネタバレ》 時系列を含む話の構成・展開や、重厚な映像に見入ってしまいました。 殺陣シーンは別としても役者さんの演技も素晴らしかったです。 しかし、見終わってから作品を自分なりに咀嚼してみると、「これって結局何なんだろう?」…みたいな。  井伊家に「ハラキリ詐欺」に行った求女は、井伊家の家臣に強要されて武士の面目に縛られ、竹光での侮辱的な切腹に追い込まれます。 武士の魂とされる刀を持たず、腰に竹光を差して「切腹させて。」では、武士である井伊家の人達からすれば怒るのは当然です。井伊家ナメられています。 それを受けて義父の半四郎も井伊家に「ハラキリ直訴」に行き、「介錯人が全員居ないのは、病欠じゃなくて自分が髷を切ったから出て来れないんだ。」と、武士の体裁を利用した仕返しで家老を追い詰めます。 結局、双方とも武士の面目を盾に相手の揚げ足を取り合って意地悪しているだけです。 その結果、半四郎も家老も、家族や家臣の否を省みること無く、相手への攻撃という行動を取ります。 面目とは保つことが重要であって、その内容や正当性などは立場や境遇によって勝手な解釈が出来てしまうのではないでしょうか。 また、家老の事件隠蔽も当時の幕藩体制下での君主、面目を絶対とする武士道からすれば、現代の倫理観で単純に判断できないと思います。  恐らく半四郎は自分を含めた武士の在り方全てを否定するに至ったのでしょうが、言動、行動には一貫性や整合性は感じられません。 彼がした事は、武家業界に精通した姑息なクレーマーが犯した身勝手なテロ行為で、町人の私からすれば支配者階級の自壊的喜劇に写ってしまいました。  仮に制作サイドが武家社会への皮肉を主題にしているとしても、貧しさが原因とはいえ、浪人親子の行動が利己的すぎて作品自体のカタルシスも無くなり、私自身の気持ちの置きどころが作品の中に見つからずに、消化不良で中途半端な印象に成ってしまいました。[CS・衛星(邦画)] 3点(2015-04-19 15:13:42)《改行有》

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