みんなのシネマレビュー |
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1. デーヴ 《ネタバレ》 大好きなケヴィン・クライン主演で内容にも魅かれて公開当時、2度映画館で観賞したが、今回DVDで再観賞した。 いわば“影武者ものコメディ”であるが、真面目でお人好しな一市民が米国の大統領の身代わりになるが、やる気と機転で「本物」と打って変わって魅力的なリーダーになっていくというストーリー。 「本物」はだいぶ政治家としては不出来だった。次期大統領の椅子を狙う首席補佐官は副大統領を追い落とそうと自らが主導していた汚職の濡れ衣を着せたり、勝手に大統領権限である拒否権を行使して福祉法案に拒否の署名をするなどやりたい放題である。そんな政府内のウミを「本職」ではないデーヴが「本職」も舌を巻く活躍で一掃していくところは実に痛快である。といってもリアリティを失わないように、ホームレス支援政策のために6億5000ドルもの財源を確保するために友人の会計士の協力を仰ぐなど割と堅実なやり方である。 そしてデーヴはただやる気があるだけではなく、人心を掴むのに長けており、そこは普段は人材派遣業で多様な人々に温かく接してきた経験がものをいうのであろう。 それについて象徴的なエピソードが二つある。一つ目は、「本物」の浮気が原因ですっかり冷戦状態だったファーストレディとの関係が好転することである。それはデーヴが飼い犬とじゃれ合ったり、施設で無口な子どもの心を手品や話術で開いたりする場面を見てこの夫は「偽者」であると見破ったためである。つまりお陀仏となった「本物」はそれほどツマラナイ人間だったわけである。 二つ目は警護役のデュエインとの友情である。彼は初めこそデーヴが何を言っても仏頂面でほぼ無言の反応を続けていた(これも「本物」の人間性に問題があったことを匂わせる)のが、デーヴの活躍とともに徐々に彼に心を開いて笑顔で話すようになり、最後には「君のためなら死ねる」と言い放つほどの信頼関係が出来上がっていた。ラストシーンを飾る彼の表情は絶品である。 クラインのニッコリ笑顔がみんなを幸せにしてくれる。この作品のテーマは、民主主義国家における理想の政治的リーダー像というよりは、沢山の人々を笑顔にさせる仕事こそが生きがいとして大切であるという人生賛歌である。何遍観ても一杯笑って心が温まる作品である。[DVD(字幕)] 10点(2022-08-12 21:22:53)《改行有》 2. 拾った女 《ネタバレ》 短編ながら中身の濃いフィルム・ノワールの傑作である。 スリ常習犯の男が地下鉄内で女の財布を盗むが、実は財布の中身は重要な国家機密が隠されていた。FBIは財布の中身の行方を追って必死の捜査に乗り出すが・・・。 その国家機密はもともと共産スパイが入手したものであり、それを押さえようとFBIが女を監視していたところにスリ事件が起きるという設定は、赤狩りが激しかったバリバリの冷戦時代という緊張感をよく反映している。その意味ではフィルム・ノワールとしてはイデオロギー色が強いといえよう。 犯罪のテクニックはもちろん、裏の掻き合いや同士打ちといった犯罪映画の醍醐味も詰め込まれていて80分などアッという間。カメラワークもよく、光と影の使い方も巧みであり、電車内のスリの場面は実にスリリング(スリだけに・・・苦笑)。ラブシーン、アクションシーンもともに楽しめる。 また、スリと被害者の女が恋愛関係に転じていったり、スリ専門情報屋の老女のがめつさとしたたかさが次第に愛らしくみえたり、老女はスリに母性的な感情を抱いたりと、主要人物3人の相関図がどう展開していくのかも見どころである。 主役のリチャード・ウィドマークは相変わらずの冷酷なニヤケ顔が気持ちいいが、今回は甘いムードも出していて二度美味しいのが嬉しい。そして人生の酸いも甘いも嘗め尽くしたような情報屋の因業婆を演じるセルマ・リッターが秀逸。彼女の最期を迎えるまでのモノローグがとても余韻を残す。 まさかのハッピーエンドに拍子抜け?いや、そこは見事に「裏を掻かれた」と拍手を送りたい。[DVD(字幕)] 9点(2022-08-12 21:09:47)《改行有》 3. トッツィー 《ネタバレ》 日本公開当時、たしか「彼はトッツィー、彼女はダスティン・ホフマン」というキャッチコピーで宣伝されていたはずだが、とにかくホフマンが毎回3時間以上も費やしたという女装がハイレベルである。だが、女装の見事さ以上に目を奪われるのはホフマンの熱演ぶりである。 実力はある(と本人は思い込んでいる)のに意固地な性格が災いして干されている中年役者マイケル。窮余の一策とばかりに女装し、「女優」として売り出したらまさかの大当たり。一躍スターの座に就くが、一生「女性」でいるわけにもいかず、また共演する女優ジュリーを好きになってしまい、真実をどう打ち明けるかで頭を悩ませる。 スター俳優の女装という部分が独り歩きしがちであるが、テーマは男が女を「演じる」ことで実感する、社会に遍在する「性差」であろう。女として過ごす時間の中で、マイケルは女ならこうあるべきだという要求の不条理をはじめて自覚し、それを芝居の中でぶっ壊そうとする。それが視聴者や共演者から意外な好評を博したから彼はスターに持ちあげられるのであるが、所詮それは「異色の」という形容詞を冠する存在でしかない。 まだジェンダーギャップという概念をはじめ、LGBTQだとかシングルマザーだとか今日では浸透している性愛や家族のあり方も「特殊」とみなされていた時代に、そうした問題群を堰を切ったように詰め込んだ上でコメディとしてまとめ上げた点は特筆すべきではないか。 マイケルが自らの正体を明かす手段として、生放送の本番中に自らの役柄の設定を勝手に改変するというクライマックスは意表を突かれたが、ホフマンらしいマニアックさが生かされていて好きである。 余談だが、マイケルと同居する友人の舞台作家を演じるのがデビル・マーレーであるが、ホフマンより13歳も年下と死って驚いた。ホフマンが若々しいのとマーレーが老け顔なのか、劇中では同年代としても全く違和感がない。[DVD(字幕)] 9点(2022-08-10 21:05:59)《改行有》 4. のるかそるか 《ネタバレ》 競馬というと、大学生の時に3回ほど挑戦してみたが、一度も勝てずに終わり、自分なギャンブルには向いていないと悟ってそれっきりである。したがって、競馬を題材にした映画と聞いてもあまり気乗りしないのだが、本作は大好きな役者であるリチャード・ドレイフスが主演だから観ようと思ったにすぎない。これが大きく予想を裏切られる快作であった。 競馬好きだが家賃も10年溜めこんで妻に愛想をつかされている中年のタクシー運転手トロッタ―が主人公。彼はたまたま入手したデマさながらの勝ち馬情報に乗っかってみたら見事的中。そこから「今日はツキがある」と勢いづいて大勝負(といっても倍率的には大穴ではないが)に挑み続ける。 この作品はいろいろと型破りである。第一に、始めから終わりまで物語が一貫して競馬からそれることはない。舞台も9割以上が競馬場で、しかもレース日のみ。それなのに全く飽きさせないどころか、観ていくにつれてテンションが上がり、画面にくぎ付けになってしまう。それも脚本の冴えとともに、何かに取り憑かれたようで踏みとどまるところはわきまえるというドレイファスの緩急自在の演技のたまものであろう。 第二に、最後まで主人公は負け知らずである。通常なら、ツキまくって調子に乗り過ぎて「その辺でやめとけよ」という大勝負に挑んでスッカラカンになってバッドエンドとか、逆に外しまくって「神も仏もないのか」と自暴自棄になりかけながら最後に勝利の女神がほほ笑むとか、ギャンブルを題材にした作品はラストのインパクトを際立たせるために成功と失敗を適度に織り交ぜるものである。しかし、本作はそんなセオリーなど意に介さないかのように主人公のバカバカしいほどに神懸かった快進撃で幕を閉じる。このまさかの展開には度肝を抜かれてしまった。 最初はとんだ穴馬を選ぶトロッタ―を狂人扱いしていた周りの人々が奇跡の連続にご追従(尊敬の念も?)へと態度が変わっていくのも現金であるが、トロッタ―が意外に堅実な人間でもあり、取り巻きと適度な距離感を保っている(大金が入って皆に大盤振る舞いしたりはしない)ので安心感がある。また、トロッターが苦労ばかりかけながら自分を愛してくれる妻に恩返しができるとしたら、やはりギャンブルで勝つことしかない。最後の大勝負は金のためというより妻への愛の証しとして挑むのである。 つまりギャンブルを通して、大事なのは金と愛情、金と友情、どちらなのか?といった人生哲学を問いかけるところに本作の味わい深さがある。とことん観る者の裏をかくことで快楽を与えてくれるコメディの傑作である。[DVD(字幕)] 10点(2022-08-08 21:33:58)《改行有》 5. カリフォルニア・ドールス 《ネタバレ》 この作品がテレビ初放送された時(1984年)、事前に「美人女子プロレスラーの話」だと知って「どうせエロい男性目線で撮った映画なんだろう」と観る前から決めつけ、結局は観なかった。だが、ピーター・フォークは大好きなのでいつかは観ようと思いながら40年近く経てようやくDVDで観賞した。 ご存知ロバート・アルドリッチ監督の遺作である。ドサ回りを続ける、芽の出ない女子プロレスラーのタッグチーム「カリフォルニア・ドールズ」と二人を支える中年マネージャーが一攫千金を夢見て七転八起を続けていくサクセスストーリーである。 フォーク演じるハリーは狡猾で行動力もあるが、肝心のところでツキに見放される。ドールズも容姿はそこそこ良いが、プロレス的な技術やセンスは未熟でなかなか買い手がつかない。それでも夢をあきらめないハリーはがむしゃらに奔走してビッグイベントへの出場のチャンスをものにする。 女子プロレスというショービジネスの世界で地べたをはいずり回りながら栄光の座へ向かって必死にもがいていく3人の姿には、底辺に生きる者の逞しさと図太さを看取できる。といってもフォークはじめ3人が陽性で我が身を呪うような場面もないので、洒落たコメディとして十分堪能できる。 その半面で、米国における女子プロレスラーの位置づけが現在よりもだいぶ低い時代であること、ハリ―が口達者なのは移民一世だった父親の処世術の影響であること、チャンピオンチームとそのマネージャーが有色人種であり、白人に対して敵愾心を抱いていることなど、当世の米国社会の抱える問題にも目配りしているのが、やはりアルドリッチである。 フォークはコロンボ警部とはひと味もふた味も違う軽妙洒脱な芝居で引き付け、勝負師としての「漢っぷり」も素敵である。ただドールズに関していえば、興行師に枕営業したり、あろうことかハリーと「男女」の関係になったりと積極的で一途な性格がうかがえるアイリスに比べると、モーリーの人物像の掘り下げが不足ではある。 本作を「スポ根映画」と評する向きがあるが、『ロッキー』のように血の滲むような特訓や稽古の場面はまるでなく、スポ根特有の「便所の100ワット」的暑苦しさは皆無である。その辺りも本作の基軸が「人間ドラマ」にあることの反映かもしれない。 だが、ドールズ役の二人は相当にプロレスの練習に取り組んだに違いない。試合の場面は彼女たちの体を張ったパフォーマンス(吹き替えは少しあるかもしれないが)迫力十分である。特にクライマックスのタイトルマッチが出色。彼女たちの練習の成果として技術とセンスが飛躍的な向上をみせ、実力的にも二人は立派にチャンピオンの器にまで成長するのである。フィニッシュがかつて対戦した日本人選手から盗んだ回転エビ固め(しかも二人同時に決めるルチャリブレ風!)というプロレスファンをニヤリとさせる展開も心憎い。 そして、セクシーな二人のコスチューム(むしろ今日以上にエロい。しかもまだハイレグブーム到来前)といい、まさかのポロリ付きの泥んこマッチといい、冒頭で述べたエロ要素は健全な装いで(?)しっかり盛り込まれている。テレビ初放送時の1984年というと、まだお茶の間で家族が一台のテレビを囲んで一家団欒、という時代だが、さすがに本作を家族揃ってブラウン管で観賞するのは気まずさ100%である。 ともあれ、そうした部分も含めた多様なエンターテインメント性に溢れているというべきか、何遍観ても手に汗握りながら面白く観られる珠玉の逸品をアルドリッチは最後に届けてくれた。[DVD(字幕)] 10点(2022-08-07 21:17:38)《改行有》 6. 太陽がいっぱい 《ネタバレ》 何遍観ても色褪せることのないサスペンスの名画である。主人公の不遇の生い立ちと、内に秘めたギラギラした野望は、まさにアラン・ドロンの実人生が投影されているかのようである。理不尽な社会の格差に抗い、おのれを解放する意味でもあった殺人劇。富と美女を手に入れ、完全犯罪を成し遂げて美酒に酔う主人公を待ち受ける大どんでん返し。とにかく、欲深さと繊細さが入り混じって、いろんな意味で危険度いっぱいのドロンの魅力あっての作品であり、男でもドロンの虜になること請け合いである。[DVD(字幕)] 10点(2021-01-24 19:41:25)(良:1票) 7. コレクター(1965) 《ネタバレ》 これほど有名な作品でありながら、あらすじを聞いて二の足を踏む作品もないであろう。自分自身がそうであった。今回、ようやくDVDで鑑賞した。観終わって率直に思った。もっと早く観ておくべき作品であった。そして、何度でも観たくなる作品である。 巨匠ウィリアム・ワイラーがなぜこのようなエキセントリックな犯罪作品を、しかも新人に近い若手キャスト二人を起用して製作したのか?実に興味深い。 貧困と孤独を背負って育った主人公フレディが画学生のミランダに対して抱く、ソフトでいてねちっこい征服欲。その背景にみえるのは、英国における階級社会の軋轢であったり、インテリに対する不信であったりする。例えば、ピカソの絵の解釈をめぐり、こんな絵は駄作だと唾棄するフレディに対し、傑作だと反論するミランダ。フレディはそれを権威になびいているだけだと一蹴するところは、“わかったつもりで優越感に浸っている”インテリの欺瞞性を衝いているようで面白い。いずれにしても、普段なら鼻も引っかけられないインテリ学生をここぞとばかり論破(?)することで権威や流行を貶め、留飲を下げているかのようだ。だが、現実にこんな風に紳士面を脱ぎ捨てて突然キレる男と二人きりで暮らさなくてはならないミランダの恐怖は想像を絶するだろう。その豹変ぶりを物凄い眼の演技で表現するテレンス・スタンプが素晴らしい(本作でオスカーを獲っても不思議ではないのに、ノミネートすらされていないのは首をかしげる)。 衝撃の結末には、「この世に悪が栄えたためしはない」という言葉が空々しく聞こえる。否、フレディはそれほどの「悪」ではないのかもしれない。ワイラーはフレディをおぞましき精神異常者として描いてはいないのである。例えば、フレディがミランダ誘拐に成功して喜びのあまり雨の中を駆けずり回るシーンは、サスペンスに不似合なほんわかしたBGMが流れ、まるで青春映画のひとコマのようですらある。ごくわずかではあるが、フレディの冗談にミランダが吹き出すシーンなどは、友好的なムードになるのかなと思わせたりもする。察するに、ワイラーは、誰もがフレディのような欲望を潜在させていることを暗示しているようにも思える。恐るべき青春映画である。[DVD(字幕)] 10点(2021-01-11 17:41:33)(良:1票) 《改行有》 8. 地獄の英雄(1951) 《ネタバレ》 新聞記者が主人公でこのタイトル、鑑賞前はどんな内容か想像もつかなかったが、マスメディアがいかに「英雄」を仕立て上げていくか、そしてメディアの情報操作によっていかに大衆は左右されるか、というところが物語の要である。裏取引やマッチポンプを駆使しまくり、一世一代の大スクープをものにしようとするゴロツキ記者の存在は、マスメディアという権力の欺瞞性と無責任性を象徴しているし、また彼の記事に踊らされる大衆の愚鈍さも強調され過ぎるほど強調されている。しかし、大挙訪れる野次馬相手に商売人が増えるのはわかるが、いくらなんでも一人の人間が生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのを横目に遊園地まで建設して事故現場がレジャーランドと化していく展開は、あまりに非現実的ではないか?そこはアメリカらしいダイナミックなジョークとして割り切るべきなのか? やはり腑に落ちないのは、他の方も書いているように、名誉欲の塊で人情や友情などクソくらえという人間だったはずの主人公が、終盤になって被害者を必死で救出しようとジタバタし、挙げ句の果てに肝心な締め括りの記事をすっぽかしてまで被害者を慰めに行くという豹変ぶりである。彼のスクープ計画は被害者が生還する前提だったからというのは理解できるが、死んだならまた計画変更してスクープを創作すればよく、彼はそういう転んでもタダでは起きない破廉恥人間として描き切った方がスッキリしたのではないか。 ラストは主人公の死を想像させるが、死ぬほどの深手を負ったようにはとても見えなかったので(刺されてから大勢の人と会っているのに指摘したのが一人だけ)、その後、病院のベッドで目を覚ましたのであろう。[DVD(字幕)] 5点(2021-01-11 17:09:50)《改行有》 9. 街の野獣(1950) 《ネタバレ》 数あるフィルムノワールの中でも屈指の傑作といってよい。賭博と詐欺に明け暮れてその日暮らしを続ける若い山師。プロレス興行で一攫千金を目論むが、彼を取り巻く腹黒い人間たちとのペテンや裏切りの応酬で徐々に自分の首を絞めていき、悪循環の沼にはまり込む。明瞭なストーリーとよどみないテンポで、緊張感が終始、途切れない。裏社会と結びついたプロレス興行の内幕を描いたところも面白い。 今回のリチャード・ウィドマークがいつにも増して素晴らしい。例によって死神のような憎たらしい笑顔で善人たちをはめていく、肝のすわったクズ野郎っぷり、そして鼻たれ小僧がそのまま大きくなったような夢見がちなチンピラが自業自得で追い込まれていく狼狽ぶりが秀逸である。 また、本作で特筆すべきは、20世紀前半のプロレス界の立役者であるスタニスラウス・ズビスコが往年の名レスラー、グレゴリウス役で出演している点である。プロレスマニアにはお馴染みのレジェンドであるが、現役時代の映像は未見であり、まさかこんなところでその姿を拝めるとは夢にも思わなかった。当時で70歳を過ぎていたとは思えない肉体で、やはり元レスラーのマイク・マズルキ演じるショーマン・レスラーとの道場での死闘は圧巻である(ただし、尺を取り過ぎた感はあるが)。 ギリシャ移民のグレゴリウス(演じたズビスコもポーランド移民)の息子が英国のプロレス興行を牛耳るマフィアであるという設定も、裏社会と移民の関係を通じて移民国家イギリスのひとつの実態を反映しているのであろう。 惜しむらくは、メアリーに横恋慕する芸術家アダム、フィルの遺産を独り占めする花屋モリ―、この二人の人物像が掘り下げられていない点である。そのため、二人が結末であっと驚く役割を演じるのが、だいぶ唐突に映る。 とにかく、犯罪映画の定番である「最後の笑うのは誰か?」という展開にならないところが、いい意味で観る者を裏切ってくれる。もっと多くの人にこの破滅の美学を味わってもらいたいものである。 なお、DVDで視聴したのは米国公開版であり、英国公開版を編集したものである。[DVD(字幕)] 10点(2021-01-03 20:28:30)《改行有》 10. 股旅 裏街道を当てどもなく旅する渡世人の世界。市川崑は『木枯し紋次郎』で描いた世界を、3人の主人公を用いて、趣向を変えてスクリーンに表現した。冒頭、戸籍をもたない無宿渡世人の説明を入れているのが、素晴らしい。若さを持て余しているのに、無宿となってしまったためにまともな職にも就けず、チンケなヤクザの下働きなぞで食いつなぐ。封建秩序からはみ出したアウトローは、こういうハイエナよろしく、さもしい生き方が関の山だ、という無常観が逆に観る者の心をつかむ。キャスティングもよいのだが、ショーケンはやっぱり紋次郎的な孤独な渡世人の方が適役ではないかと思う。、[DVD(邦画)] 9点(2020-09-29 20:06:10) 11. 地獄に堕ちた勇者ども 《ネタバレ》 ナチズムと戦時体制における人間の狂気と退廃をさまざまなキャラクターを通して毒々しく描き出す。権謀術数の果てに繁栄を掴み取ったかに見えた「勇者」たちが、ふとした運命のいたずらであっけなく「地獄」に堕ちていく。そのひとつひとつの破滅の姿が美しく映えれば映えるほど、そこに人間の底なしの愚かさがさらけ出されるという、ヴィスコンティの美学が凝縮されている作品である。 事実上の主人公といってよい、ヘルムート・バーガー演じるマルチンの一貫した狂いっぷりが見事としかいいようがない。この、およそ天下国家などよりおのれの欲望にしか関心を向けない人間が権力を握ってしまうところにナチズムの恐怖と悲劇があったのではないか。[DVD(字幕)] 10点(2020-08-10 19:07:42)《改行有》 12. 三人の妻への手紙 《ネタバレ》 経歴も性格も見事なまでにバラバラで、まさに三者三様の結婚生活を送る人妻三人組。アディという女性から三人に宛てられた「あなたたちの夫の誰か一人と駆け落ちする」という不穏な手紙に面食らい、おのおのの“思い当たるふし”が順番に回想シーンとして丁寧に描かれる。 騒動の張本人アディの姿を最後まで見せず、伝聞だけで想像をかき立てさせる脚本も素晴らしいが、この作品の一番の魅力は3組の夫婦が縦横無尽に繰り広げる会話であろう。とにかく機知に富んだジョークから、毒のある皮肉まで、お互いの腹を探り合う言葉のキャッチボールの妙を楽しませてくれる。そしてその会話の端々に、性別、人種、階級、家柄といった出自に関わる人間観の違いが吐露され、戦後のアメリカ社会でもまだ共有されていた価値観(結婚や軍人やマスメディアなどにまで至る)の対立が浮き彫りになるのである。 姿こそ見せないが、常にどこかからこっちを見ているような“恋敵”に右往左往する三人の妻がいずれも魅力的である。また、三組の夫婦を取り巻く人物もしっかり描写されており、とりわけ毒を吐きまくる家政婦のサディは強烈な存在感を放っている。 サスペンスタッチで、かつ人間観察と社会風刺に優れた上質のラブコメディである。[DVD(字幕)] 10点(2020-07-31 21:20:03)《改行有》 13. 暗黒の恐怖 現在(2020年)、世界は新型コロナウィルスの脅威に覆われ続けている。その70年前に製作された、この『暗黒の恐怖』は、感染症のパニックと移民殺人事件とを組み合わせた社会派サスペンスの傑作であり、現在に鑑賞することはまことにタイムリーである。 かつて黒死病と恐れられたペストの蔓延を食い止めようと衛生局の医師が奮闘する物語である。感染経路の追跡がそのまま殺人犯の捜索になるという筋立てが実に面白い。無駄のない展開で終始、緊張感が途切れることなく見入ってしまうのは、やはり名匠エリア・カザンの手腕である。 ペストの感染爆発を防ぐという共通の目的の下での衛生局、警察、市長、新聞の4すくみという構図も見ものである。特に、感染対策のために報道解禁を迫るマスメディアと、犯人確保のために情報管制を敷かねばならない当局の対立は、政治のリアリティを理解させてくれる。さらに、殺されたペスト患者が不法移民だったという移民大国アメリカならではの事情も浮き彫りになる。その反面、大の大人(しかも警察官)が予防注射に及び腰になり、特に警部が注射を打たれると聞いて部下たちが見物しようとする場面など、風刺の利いた笑いも盛り込まれているのが心憎い。 若き日のリチャード・ウィドマークが本作では正義のためには相手構わずごり押ししまくる猪突猛進人間の主人公役であるが、この顔で30㎝以内につめ寄られたら、さしもの警部や市長もびびってしまう。それでいて家庭ではものわかりのいい子煩悩な父親を演じているのには拍子抜けするが。ウィドマークに匹敵する犯人役に抜擢されたのがジャック・パランスであるが、正直どっちが犯人をやっても違和感がない。残念ながら、ウィドマークとパランスの絡みはラストの捕物でちょこっとあるだけで、ハリウッドきっての悪人顔対決は不発である。 数あるフィルム・ノワールの中でも、なかなかの異色作であるが、何度見ても色あせることのない傑作である。[DVD(字幕)] 10点(2020-07-27 21:42:15)《改行有》 14. 刑事コロンボ/二枚のドガの絵<TVM> 《ネタバレ》 本作の醍醐味は、シリーズ中、一、二を争う冷酷で傲慢な犯人が、おのれの犯罪計画を過信して勇み足したところを、百戦錬磨のコロンボの大バクチともいえる仕掛けに轟沈するという、大団円の爽快感にある。決め手になるコロンボの指紋が、今その場でつけたものだろうという犯人の言い逃れを封じるために、コロンボがご丁寧に手袋を着けていたのは手際がよすぎるが、そうしたご都合主義も娯楽作品ならではの特権であると思いたい。、 ただ不憫なのは、犯人から「愛している」だのと口車に乗せられて犯罪の片棒をかつがされた挙げ句、あっけなく惨殺される女子学生である。第二の殺人も犯人への容疑を強める材料となることが多いのに、今回は彼女の一件が犯人確定の糸口をまったく生み出さなかった。これでは彼女も浮かばれない、と脚本に不満を言いたい。 コロンボの「人をけなしてお金がもらえるなんて、いい商売ですな」というセリフに表われているように、インテリ(今回は美術評論家)という人種のもつ嫌味をコロンボが小市民の感情を代表するかのようにチクリとやるのも毎回の楽しみである。 [DVD(吹替)] 8点(2020-07-17 20:58:55)《改行有》 15. ソフィーの選択 《ネタバレ》 ナチスのホロコーストというと、ユダヤ人の悲劇が思い浮かぶ。だが、この作品では、ポーランド人でホロコーストの標的にされながら、何とか生き延びた女性が主人公であり、その生死の分かれ目を決めた「選択」とは何であったのかという回想を通して、ナチスの非人道性、異常性を浮き彫りにする。回想と現在とでソフィー役のメリル・ストリープの容貌が別人のように異なるのには全くたまげてしまう。 だが、どうしてもそれ以上に脳裏に焼き付いてしまうのが精神障害をもつネイサンの存在である。逆上した時も平常心の時も、ひたすらケヴィン・クラインが怖すぎる。この作品で初のオスカーを獲ったストリープといえども、正直言って、クラインとの絡みでは刺身のツマになってしまうほどのインパクトが彼にあるので、これは演出のさじ加減が間違ったというべきか。 深々と胸に刺さる、素晴らしいヒューマン・ドラマであるのは確かであるが、どうしても拭えない疑問がある。それは、あれほどの過酷な「選択」を経て自らの命を守った彼女が、なぜさんざん振り回されてきたネイサンと添い遂げることを最後の「選択」にしたのか。いよいよ発狂した彼に殺されるという恐怖のなか、何度も救いの手を差し伸べてくれた好青年のスティンゴの誘いを拒んでまで、ネイサンの下に戻って仲睦まじく最期を迎えるという結末は、彼女がネイサンのどこにそこまでの魅力を感じているのかが語られないため、モヤモヤしたものが残った。いかんせんホロコーストという肝心な主題との結合性がみえない結末になった感がある。まあ、そこはまだ自分の解釈が甘いのかもしれないが。[DVD(字幕)] 9点(2020-07-09 20:32:33)《改行有》 16. クレイマー、クレイマー 《ネタバレ》 1970年代後半、世界にウーマンリブの風が強く吹いている時代。女性の家庭からの解放、積極的な社会進出に寛容そうに思えるアメリカでも、主人公のように妻を”家に尽くす主婦”という型にはめようとする男性がまだまだ自然だったのかもしれない。 また、仕事と並行して個人のプライベートな時間も尊重するように思われるアメリカの企業も、家庭の問題にかまけて仕事に穴を開けた主人公を冷徹に解雇する。日本よりも「個人」が生きやすい理想社会と想いがちなアメリカ社会の実像を見せられた思いがする。 いつもよりは抑え気味な演技でダスティン・ホフマンが、離婚によってはじめて「父親」として成長していく中年を丹念に演じている。原題通り、タイトルは「クレーマーvsクレーマー」とした方が内容に沿っているのに、と思いつつ、裁判以外では妻の見せ場が思ったより少ないので、「vs」とするのも正直、微妙な印象ではある。 深刻な社会問題を扱いながら、軽妙な音楽とソフトな演出によって湿っぽくならず、後味のよい傑作に仕上がっている。 [DVD(字幕)] 9点(2020-07-04 16:49:34)(良:1票) 《改行有》 17. グッバイガール もう若くもなく、容貌も性格もあまり褒められたものではない上に、いろいろと運から見放されている男と女。衝突と接近を繰り返しているうちに二人の間に心の溝はなくなっていく。だからこそ、一見、「あれ、この先、大丈夫かな」と思わせるあの結末でも、「よし」と拍手できるのである。とにかくニール・サイモンはセリフの妙が素晴らしく、そしてそれを堪能させてくれたリチャード・ドレイファスとマーシャ・メイスンの芝居の力量に感心するばかり。主役がこの二人で本当によかった(特にドレイファス)。爽快感が半端ない、一級品のラブコメディ。[DVD(字幕)] 10点(2020-06-25 20:05:37)(良:1票)
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