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タイトル名 |
心の指紋 |
レビュワー |
鱗歌さん |
点数 |
8点 |
投稿日時 |
2024-12-21 09:33:32 |
変更日時 |
2024-12-21 09:33:32 |
レビュー内容 |
大赤字で映画会社を潰しかけたり、作品の内容が差別的だと叩かれたり、何かと物議を醸してきたマイケル・チミノ監督。結果的に、長編映画としてはこの作品が最後の監督作品となりました。こんなセンスの感じられない邦題をつけられてしまうくらい(?)、一見、穏当な作品で、もはや物議を醸すこともなく・・・いえいえ、充分、変な作品になってます。さすがです、チミノ監督。 わたしゃ、好きですよ、こういうの。 先住民の血を引く末期がんの少年が、人質にした医師とともに、自らのルーツとも言うべき“聖地”を目指して旅をする。まずこの少年がとても「16歳」には見えないイカツさで違和感ありまくり。医師が彼の元に向かうと、というかそれ以前に病院自体が(病院にしては)暗いように思ったのだけど、その少年のいる部屋へ入ると、そんな診察室があるかよ、というくらい異常に部屋が暗い。不気味過ぎ。 まんまと銃を手にした少年が、医師を脅して自動車で移動を始めると、その道中、この物語と全く関係のない「抗争の現場」があったりして、映画に対する違和感が募るばかり。こういう違和感が、たまらない(笑)。どうしてこういう描写が取り入れられているのか、製作サイドの意図を正確に汲み取ることはできないけれど、私は勝手に、現代アメリカ社会における対立の構図、みたいなものを織り込んでいるんだろうなあ、などと受け止めてます。というのも、その後も少年と医師が店に入るたび、だいたいイケ好かない客や店員がそこにいたりして。バラバラ、雑多な社会。医師の方も健康至上主義みたいなイヤな態度を取り続け、そのバラバラ感に輪をかける。ただし彼のこの態度は、一種の伏線になっている・・・。 少年は先住民の血を引いており、その先住民はこのアメリカ大陸に太古から住み続けていて、このアメリカ大陸というのは、こうやって多くの移民たちがバラバラ雑多な社会を作り上げる前からずーっと、先住民たちが根づく神秘の土地だった。今のアメリカ社会なんて所詮、ごく最近作られたものに過ぎず、都会を離れて車を走らせていくとやがて、峡谷がどこまでも連なる神秘的な「真のアメリカという土地」の景色が見えてくる。わざわざ物語に関係の無い「抗争現場」が映画に挿入されていたが故に、そういう対立とは無縁の、この不動の土地が、より神秘的に、しかし現実感を以て、感じられてきます。 一方で、それに比べりゃ矮小な存在たる人質の医師。少年に振り回され、少年と衝突し、ガソリンスタンドの場面で二人の対立は深刻なものとなるけれど、どんなに脅され、どんなに命の危機を感じようと、その手に嵌められた指輪だけは絶対に少年に渡そうとしない。このシーンを、これでもかという焦燥感をもって映画は描くのですが、この場面にグイグイひきつけられていくに従い、我々も「なぜ医師はあれほど頑なに健康至上主義のような態度をとっているのか」に気づかされます。彼がどれほどまでに、癌という病気を憎んでいるのか、ということに。 アメリカ大陸が長い長い歴史を抱えている一方で、それぞれの矮小な人間たちもまた、それぞれの歴史を抱えている、ということ。
最後に医師がその指輪を少年に渡してしまうのは、ちょっとセンチメンタルに過ぎるようにも感じたのですが、そう感じてしまう自分こそ、「その指輪がかけがえのないもの」だというセンチな気持ちにとらわれているのかも知れませぬ。やっぱりここは、断捨離、なんでしょうか。どうも馴染めぬ言葉だなあ。という、自分の弱さ。 少年は大地と一体化し、医師はそれは叶わないながらも精一杯、大地を駆け巡り転がりまわる。なんか、いいじゃないですか。 |
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