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ブラック・スワン - onomichiさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 ブラック・スワン
レビュワー onomichiさん
点数 10点
投稿日時 2011-05-31 22:27:36
変更日時 2011-05-31 22:29:13
レビュー内容
『ブラック・スワン』は、ナタリー・ポートマン演じるバレリーナの自己自身をめぐる物語である、という解釈はその通りだと思う。さらに言えば、この物語は、彼女の自己分析的な記憶そのものである。彼女が精神科医への告白の中で紡ぎだした彼女自身の経験と妄想の交錯した記憶こそが、『ブラック・スワン』の物語である、と僕は思う。

映画は、いくつかの視点によって物語を追う。ある時、それは彼女自身の視点として、そして、ある時、それは彼女の背後からの視点として彼女自身を含めた風景の中で捉えられる。演出家のトマも、ライバルとなるリリーも、彼女の記憶により、その性格を改変させられている。


映画とは「他者の視線から見られた世界の風景」である。だが、それはいったい「誰の視線」から見た風景なのだろう。(内田樹『映画の構造分析』)

『ブラック・スワン』の場合、それは彼女自身の視覚記憶に基づく視線であり、風景であり、物語である。それが映像の意味を決定している。私は、私の記憶(脳)によって完璧に騙される。彼女は、最後にPerfectと呟くが、ホワイト・スワンたる彼女が最後の最後でブラック・スワンに変身し、彼女の中の善と悪、可憐さと妖艶さ、超自我とエス、エロスとタナトスが融合することで得られた恍惚こそが彼女にとってのPerfectだったのだと思う。

最後のバレエシーン。彼女は、ホワイト・スワンの演技で決定的な失敗を犯し、ここで挫折してしまうのかと思いきや、楽屋でリリー(の幻想)を殺戮することにより、衝動的にブラック・スワンそのものに変身する。リリー(の幻想)を殺戮することで得たものは何か? 解放したものは何か?
彼女が求めたものは「美しさ」である。バレエとは、常に自分自身を鏡で映すことで紡ぎだされる肉体運動の美しさであり、自己規律訓練的、反自然的な「美しさ」への自己希求であり、その希求は、結局のところ、他者の承認を求めざるを得ない飽くなき欲望となる。それが彼女自身の変身願望に繋がる幼少時代からの無意識の抑圧であり、妄想の源泉だった。彼女がホワイト・スワンとして死を迎える時に彼女の視線が捉えるのは彼女の母親の姿である。母親の喜ぶ顔を瞼に浮かべながら、その承認を得て、彼女はPerfectと呟くのである。
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