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タイトル名 |
セッション |
レビュワー |
tonyさん |
点数 |
9点 |
投稿日時 |
2019-03-24 01:43:41 |
変更日時 |
2019-03-24 10:40:21 |
レビュー内容 |
アンドリューの勇気、決断力、実行力には驚いた。好きになった子には直接告白できるし、人生の帰路に立ったときも迷わず即決でき、彼女に事情を説明して別れることを選ぶ。一見冷たくて自分勝手に思えるが、本当の自己中なら、会いたいときだけ会おうとし、中途半端に彼女を縛りつけるだろう。事務的な別れの言葉でニコルを傷つけたが、自分を守るような偽善はみじんもなく、結果的に彼女は恋人未満のまま最小の痛手だけですんだ。彼のけじめはえらいと思う。
フレッチャーの指揮するウィップラッシュの出だしが素晴らしかった。全ての楽器がずれることなく爆発するような音を奏でた。彼が出だしの音に異常な執着を示すのもうなずける。アンドリューの鬼気迫る激しいドラムは、そうした師に引き出されたもの。無情なしごきに耐え抜いて奏でる音は、常人の領域を超える。たとえ、問題山積みの師弟関係であったとしても。絵画、音楽、その他何であれ芸術至上主義を貫いて表現されるものは、しばし鑑賞者を黙らせてしまう。 昔読んだ有吉京子の名作コミック『ニジンスキー寓話』を思い出す。不安な心を維持しなければ優れた踊りはできないと、気難しい振付師ジャンが舞踊家のルシファを厳しく指導する。常に変化することを強いられ、安住の地に住むことを許されないルシファは次第に精神を病んでいくが、独自の演奏を決行するアンドリューはフレッチャーに呑まれることなく、薄皮一枚で自己をしっかり掴んでいるように思う。
私には、甘さを徹底的に排除した気迫のみの芸術を、どう受け止めるべきかわからない。ただ、名誉欲に縛られているフレッチャーを、無条件ではやはり受け入れられない。例えば、一糸乱れぬ北朝鮮のマーチングは正確無比で素晴らしいが、心のどこかで何かが反発するのを感じる。強いていえば、そんな感覚だ。
フレッチャーが、故蜷川幸雄氏とイメージがかぶって仕方なかった。容姿も、ものをぶんなげるのも、罵声をとばすのも。 でも、蜷川さんには、底辺に深い愛があった。観客に対して、俳優に対して、何より舞台そのものに対して。 フレッチャーは、果たして音楽を愛しているといえるのか・・・・・・? |
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