|
タイトル名 |
ナビゲーター ある鉄道員の物語 |
レビュワー |
エスねこさん |
点数 |
9点 |
投稿日時 |
2007-05-18 15:21:56 |
変更日時 |
2007-05-18 20:03:23 |
レビュー内容 |
偽りようのない技術の真実を、ユーモアに包んでソッと差し出す。ジャズがとても心地よかった。 これに10点をつけずにどうする! …て気がするけど、とりあえず9点。
色のバランスがイギリス風にメカニカルな映画だ。画面の中で、常に白と青とオレンジがせめぎ合う。そして白い部分が、クライマックスでは全て闇に。この画面設計の意味がまだわからない。オレンジを赤に変えれば、この3色はユニオンジャックの構成要素。そして赤は血の色だ…ここまでは気付いているんだが。とにかく画面を圧迫する青が圧倒的で、美しい。ちょっとハネケ風の解釈をしたくなるかな。
内容はもう、技術的に足腰の弱っている現代社会の裏側、どうして病巣が広がったかというメカニズムを切り出した「再現ドラマ」だと言っていい。 福知山線の事故に留まらず、佐世保造船の大火災、福井原発・もんじゅの事故、北見のガス漏れ…全て源泉はここにあって、我々は安全な社会に住んでいるわけではなく、安全と報告されている社会に住んでいる事がよくわかる。社会インフラの保全技術はもう崩壊寸前で、あと1世代保てばいい方じゃないだろうか。 ケン・ローチはこの世界同時多発現象の根に、「連帯の崩壊」を置いた。 新人だった頃、とあるシステムに参加した事がある。こいつが10年後に事故った。もう独立して全然違う仕事をしていたが、原因がわかるまで飯が喉を通らなかった。3日くらいだったと思う。以来、人の命を預かるモノをやる時は、納得が行くまで上部組織に噛み付き続けるようになった。もちろん事故があって電話が来たら、何をしていても即座に飛べるよう日々覚悟をしている。でも結局、何かあっても個人にやれる事なんてたかが知れてるのだ。疲労困憊して、いつの間にか人情をなくし、自己保身に走っている自分に気付くのがオチだ。 ローチは人が人でなくなっていく、白が暗黒に塗り込められていく過程を批判的に描いているが、時代はまた巡るだろう。誰もが責任を持っている。それが「仕事」に対してではなく、「社会」に対してだと、再びみんなが気付く日が来るのを信じて、今も生きている。ちょっと愚かになってしまったシステムだが、捨てたもんじゃない。設計を見直せばまだまだイケる。
●追記: 調査不足でした。この映画、凄いわ! 詳しくは小ネタ欄に…。 |
|
エスねこ さんの 最近のクチコミ・感想
ナビゲーター ある鉄道員の物語のレビュー一覧を見る
|