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タイトル名 |
グレイテスト・ショーマン |
レビュワー |
ザ・チャンバラさん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2018-02-28 00:10:56 |
変更日時 |
2018-02-28 09:49:59 |
レビュー内容 |
IMAXにて鑑賞。 頭から尻尾まで歌とダンスの迫力と楽しさで貫かれたザッツ・エンターテイメントな作品であり、音響に恵まれたスクリーンで見る価値が充分にありました。とにかく楽しくてずっと見ていたいほどの幸福感があって、良い意味で実際の上映時間よりも体感時間の長い作品でした。 さらに驚かされたのは観客に余計な頭を使わせないよう無駄が徹底的に削ぎ落とされ、情報量がコントロールされた脚本の質です。例えば、生涯続くこととなるバーナムとチャリティの精神的なつながりの強さを序盤における以下の3つの描写で説明しきっています。 ・下層の出身だからという理由でチャリティの父親から蔑まれるバーナムと、そのバーナムに寄り添おうとするチャリティ ・海岸での二人の密会 ・廃墟の邸宅をファンタジーの世界に変えるバーナムの想像力とパフォーマンス、そして、それに魅了されるチャリティ さらには、その後のバーナムのすべての行動はこの3つの描写に象徴される彼の個性【上流階級に対する反骨精神】【男性としての魅力】【自分の夢に他人を取り込む力】を源流としたものであり、人物描写を実に簡潔に終わらせているのです。 全体的な構成も恐らく意図的に紋切り型を通しているのですが、そのことによって状況説明がほぼなしでも映画として成立するという効果が上がっています。歌が始まると物語の進行がピタっと止まってしまい、詰め込める情報量に限界があるというミュージカルの欠点を考慮した構成なのだろうと思いますが、これほど直感的な理解が可能な映画も珍しいと思います。
ただしこれって諸刃の刃で、製作者が意図的に切り捨てた深みという要素が本作の欠点にもなっています。鑑賞後数日経過してからこのレビューを書いているのですが、鑑賞直後には「傑作中の傑作!ここ何年間で最高の作品!10点満点!」と思っていたものの、現時点では私の頭の中に驚くほど何も残っていません。 後々振り返ってみると、ネタふりだけで明確な回答が出されていない要素もいくつかありました。ひたすらに上を目指して止まらなくなるバーナムと、今の成功を充分としてここに留まることを願う周囲の人々との間で起こる軋轢や、フリークスの味方として成功を収めたバーナムが無自覚のうちに差別者側に回る件については、当事者達がどう納得して元サヤに戻ったのかがはっきりしていません。 確かに放火や破産という大イベントはありましたが、でもそれってバーナム側の事情ですよね。重要なのは一時期バーナムに不快な思いをさせられた人達がいかにしてバーナムを再度受け入れるかなのに、彼らが心情面でどう折り合ったのかが見事に誤魔化されています。もしこの辺りをうまく扱えていれば美談の中の良いスパイスになった可能性もあったのですが、全体のテンポを重視してこれらが切り捨てられたために、どこか絵空事を見せられているような後味になっています。 この手の人生讃歌的な映画って、見たことが人生のプラスに働くほどの強烈なパワーを持ってこそ傑作だと言えると思うのですが、本作はそのレベルには達しておらず、よくできた娯楽作に留まっています。どこかに強烈なサムシングが宿っていれば問答無用の傑作になったかもしれないのですが、本作は鑑賞後数時間でほとんどの要素が流れ去ってしまうのです。批評面での苦戦も、この辺りに原因があるのではないかと思います。 |
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