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タイトル名 |
怪物(2023) |
レビュワー |
タコ太(ぺいぺい)さん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2025-02-22 11:41:14 |
変更日時 |
2025-02-22 13:30:57 |
レビュー内容 |
タイトル、予告編、そして本編鑑賞時の印象。全てに強烈なミスリードを感じてしまいましたし、実際されてもしまいました。ただ、そのこと自体は否定しません。他者の主観を表現し理解を得るにはデフォルメは不可避かと思います。
母親の視点で語られる冒頭部分における愛息子や教師の見え方は母親本人にとっては間違いなく現実であり、保利教諭の視点で語られるパートでの母親の表情や言動は彼自身にとって紛れもない現実です。そこに固有の主観がある限り、誰一人として他者と同じ理解や価値観をもって物事を観察したり考証したり出来る訳はありません。少なくとも一般的な人物である限りは。
映画という手段によってあるテーマを語り、なおかつより多くの観客の理解や感銘を得るためには、作り手は自らの主観を越えた表現を求めなければならないように思えます。(というのも私の主観に過ぎない訳ですが)
なので、本作である意味過剰とも受け取れる人物表現やその表情や言動等の齟齬・矛盾は必要不可欠だったのではないでしょうか。
その上で本作を語らせていただければ、登場人物一人ひとりの人物像が丁寧に語られ、子を持つ親の悩み・苦しみ、人の子を育てる教師の悩み・苦しみ、そして自我の目覚めと性の目覚めの年頃を迎えた少年たちの悩み・苦しみ更には夢と希望、それらが丁寧に描かれた佳作であると思いました。
シングルマザーに至るまでの熾烈な過去を愛息子の前ではひた隠しにし、只管彼の「普通」の幸せを求める母親。ある意味守りに徹している姿には力強さより悲壮感を感じました。
新任教諭として赴任し、子どもたちとのコミュニケーションを大切にし、退勤後は恋人との甘い生活を送る「普通」の青年である保利教諭。追い詰められ、全てを失っても飼っている金魚に残酷な仕打ちをすることは出来ない優しさは心に遺している。(当たり前に捉えれば一番の被害者かも)
ひとり親世帯になった原因を漠然と知りながらも、愛する母親のために平静を装おうとする湊少年。優しさ故に依里君をかばうもののそれに徹することの出来ない自分への内省と、親友的に思っていた彼との距離が縮まった瞬間に性的感情を無意識化に得てしまい身体の反応に狼狽えてしまう「普通」の少年。
自らの性的違和感を理解しつつある中で、それを理解するどころか消し去ることしか考えない父親からの虐待に耐えるしかない日々を送る依里。それはやはり父親への愛なのか優しさなのか。学校で繰り返されるいじめ行為にも、クラスメートを達観することで耐えているように思えます。その姿からは怪物感は得られません。
クライマックス。母親と保利教諭が半分こじ開けた車窓から見たものは何だったのか?湊君と依里君が敢えて通過し直した廃車両の先に広がっている世界はどこなのか?単純に受け止めてしまえば土砂崩れで亡くなってしまった二人の魂が次の世界へと旅立っていく姿と捉えられないこともありませんが、だとすればそれは希望ではなく現世に絶望を遺したままの旅立ちであり、二人が真に求めていた世界とは乖離しているように思えてしまいます。
かと言って、実は二人は無事だった、母親と教師が救出した、というのも無理と言うかそこに至るまでの作品の世界観とは異なるのではと思えてしまう。結果、自分なりの納得いく結論は得られていません。
強いて言うならば、「怪物」は決して特定の個人ではなく、個人個人が生きる社会のシステム全体の中に浮遊しているものなのかなと思えた次第です。幾度か鑑賞し、作り手の意図するものとそれを受け取って得たものについて熟考することを求められる作品でした。
(追記) 校長の葛藤と夫の真意。依里の父親の苦悩。これ以上の長尺化は好ましくはないと思いつつ、このテーマに不可欠な登場人物とエピソードであるのならば、もう少し掘り下げて欲しかったなと思いました。 |
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