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タイトル名 |
アキレスと亀 |
レビュワー |
枕流さん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2009-04-30 13:35:10 |
変更日時 |
2010-06-19 18:20:41 |
レビュー内容 |
「芸術」に憑かれた男の巻き起こす悲喜劇を、北野監督らしい観点から切り取った良作だ。この映画から感じられるのは、彼の「厳しさ」である。やっぱり自分の力で名声を勝ち得た人間の考え方は違うものだと思った。この作品で主人公の真知寿と関わった者の多くが非業の死を遂げている。少し大袈裟に言えば、彼の父、娘や美術学校の仲間は芸術(もしくはその申し子である主人公)に殺されたようなものだ。その主人公には才能が無い(と描かれている)のだから更に始末が悪い。彼らの死は犬死と言っても過言ではない。しかし、北野監督の視点には、ユーモアこそあれ彼らへの同情はほとんど無く、淡々と彼らの死を見つめるのみだ。監督にその点を質せば、「芸術とはそんなものだ」という実も蓋も無い返事が返ってくるのだろうが、私も全く同感だ。ひたすらに何かを追求することは独善的に生きることも意味する。それも仕方が無いことだ。しかし、同時にそれはどこ悲しい。人間じゃないものを愛するのは無理だ。幸子は根は温かい真知寿のことを知っているから、その彼のことを好きだったから、彼を一度は見捨てながらもラストで戻ってきたのだろう。芸術の愛情に対する敗北ととれるラストには賛否両論あろうが、私はこの結末でよかったと思う。「アキレスが亀に追いついた」という最後の言葉は、芸術を極限まで追い求める激しいが満たされない真知寿の生き方と、彼の思いは理解しながらも最後は常識的で愛情に満ちた現実世界に帰って行った幸子の生き方を比喩的に表した名言だ。 映画のコピー「スキ、なのに。スキ、だから。」からすると、配給会社としては一種の恋愛映画として売ろうという思惑もあったのだろうが、この映画は真知寿と幸子の二人から夫婦愛の素晴らしさだけを描こうとした映画ではない。そもそも主人公の少年時代に割かれる時間がかなり長いことからも明らかだ。身も心も何か(この映画では芸術)に捧げ尽くすことの功罪、その悲しさやおかしさをリアルに描いたこの映画はもっと深い地点まで到達している。作品内に出てくる彼の手に成る絵画も含め、「さすが世界のキタノだ」と改めて納得した。 一点だけ疑問があったのは主人公の子供時代の描写で、先生が「分母を同じに『してあげる』」という言葉遣いをしていたこと。戦後間もない時代にそういう言葉遣いがされていたのか、細かい部分だがちょっと気になった。 |
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