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タイトル名 |
M(1931) |
レビュワー |
S&Sさん |
点数 |
9点 |
投稿日時 |
2021-03-18 23:29:28 |
変更日時 |
2021-03-18 23:32:46 |
レビュー内容 |
史上初のサイコキラー映画と言う観方もできますが、そのストーリーテリングは今の眼で見ても古さを感じさせない斬新さで後世のスリラー映画に多大な影響を与えてるんじゃないかな。 まず、本作がフリッツ・ラングのトーキー第一作であるというところが驚くところ。BGMを一切使わず聞こえてくるメロディは、冒頭で少女たちが遊戯しながら歌っていた殺人鬼がテーマの時事ネタ(?)童謡とピーター・ローレが吹く口笛の『ペール・ギュント』のサビだけ。ほとんどのシーンがセット撮影ですけどクラクションや消防車のサイレンなどのいわゆる街の雑音が効果的で、街のギャングたちと警察がそれぞれ街頭で活動する二か所のシーンでは、音声が欠落してるのかと思ってしまうう無音での展開すらあり、その音響設計はトーキー初期らしい凝ったものです。ラングと言えば“ドイツ表現主義”の代表的な存在ですが、その構造的なこだわりは本作では商店のポップや飾りつけに見られます。中でも書店らしき店のウィンドウは、グルグル回る螺旋模様や上下する矢印のポップが現代でも通用しそうなセンスを感じました。映像も五メートルぐらいの高さに据えたカメラからの俯瞰撮影が多用されているのが印象的です。 そして何よりも先進的なのは、とくに物語後半は徹底的に犯人ピーター・ローレの視点で描かれているところでしょう。もっとも前半はローレや彼が犯す殺人はほとんど描かれず、連続殺人に振り回される警察と暗黒街の面々が巻き起こす社会不安がメインテーマになっており、優れた群像劇の様相を呈しています。ここら辺の展開には、ブレヒトの『三文オペラ』の影響を強く感じます。ピーター・ローレも優しそうな童顔のちょっとオタクっぽいキャラで、とてもサイコキラーには見えないところも上手いキャスティングだと思います。 “Ⅿ”のマーキングをされた彼が逃げ回るシークエンスは有名ですが、殺人者という設定は抜きにしてもそこには社会全体から迫害され追い回される恐怖がひしひしと伝わってきます。暗黒街裁判のシークエンスも法廷劇のパロディとしては秀逸で、高校生ぐらいに司法裁判の仕組みを教える教材に使ってみると面白いかも。 ラストは正式な法廷が映り判事が着席し『人民の名のもとに…』と判決を読み上げるショットで終わりますが、肝心の判決を聞かせないで映画の幕が閉じます。ここは「彼の裁きは観客の皆さんで決めてください。有罪=死刑ですか、それとも…」と問いかけられているような気がします。 |
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