|
タイトル名 |
下妻物語 |
レビュワー |
BOWWOWさん |
点数 |
9点 |
投稿日時 |
2010-07-22 17:20:29 |
変更日時 |
2010-08-27 15:05:56 |
レビュー内容 |
下妻と代官山の往復はちょっとした小旅行だ。そんな一人旅もステキなお洋服のためなら桃子にとって苦にはならない。彼女してみればむしろその距離は、誰にも邪魔されることなくロココ時代のおフランスに思いを馳せ、うっとりと夢見心地でいられる至福の時間ですらあったかもしれない。しかしイチゴと二人出かけた代官山から(水野晴郎のせいで)一人下妻へと帰らねばならなくなった桃子に、唯我独尊を突き進むいつものパワーは無い。それは至極単純な、けれどおそらく桃子にとっては革命的な、さびしいという感情だ。あの子がいなくてさびしい、という気持ち。そのさびしさは幸福の裏返しでもある。出先でケンカ別れしても結局は同じ駅に戻ってくる、別の電車で先に帰り着きながらも雨宿りを装い自分を待っていてくれる、かけがえのない友だちがそこにいてくれる幸福。このすばらしき幸福を前に桃子は、かつて家を出て行く母に幼い彼女自身がうそぶいた人生哲学そのままに、臆病に立ちすくむ。そんな桃子を一点の曇りもなく信頼し、大切な宝物=特攻服を託すイチゴ。そしてそのイチゴの宝物を胸に、自分の宝物=BABY, THE STARS SHINE BRIGHTのお洋服が濡れるのも構わず雨の中へと飛び出して行く桃子。意を決し今まさに幸福へと踏み出す桃子のその一瞬の後姿を、中島哲也監督は心憎いストップモーションで、ほんの少しだけ引き延ばす。一方、「会いたいよ」とガラにもなく弱音を吐く桃子のためなら地球の裏側まででも原付で駆けつけるイチゴ自身は、桃子に自らの弱さを決して見せまいとする。借りは絶対に返す主義のイチゴとって、自分の弱さを他人に曝け出すことなど御意見無“様”な恥にほかならないからだ。そんなイチゴが最後の最後、ついに桃子に打ち明ける。借りは返さないと。あまりにデカすぎて返せるわけがないと。それはまるで愛の告白ならぬ、友情の告白だ。かけがえのない友だちが心強くそばにいてくれること、そんなデカい借りを一体だれが返せるだろう。思えば当初イチゴに語られた桃子の主義は、自分は返さなくていいものしか人に貸さないというものだった。つまりは貸すのではなく、あげるのだと。冷淡なロリータ娘のこのねじくれひねくれた思想が、いつしか一転、まっすぐに友情の真理を貫く。そう、友情は貸すものでも借りるものでもなく、ただ互いに、あげるものなのだ。 |
|
BOWWOW さんの 最近のクチコミ・感想
下妻物語のレビュー一覧を見る
|