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タイトル名 |
誰も知らない(2004) |
レビュワー |
BOWWOWさん |
点数 |
8点 |
投稿日時 |
2010-06-04 18:07:43 |
変更日時 |
2010-08-31 18:07:54 |
レビュー内容 |
母は年端も行かぬ長女京子の爪にピンクのマニキュアを塗る。いいかげんなこの母にとってそれは悪ふざけの一環としての単なる遊びだっただろう。だが母のその気まぐれに、京子は顔をほころばせる。大人の女のように爪を赤く飾りたいから、ではない。そのマニキュアを塗れば自分も母とお揃いの爪になれるからだ。そして何よりも当の母が自分の手を取り丁寧にその「お揃い」を施してくれることに、京子は喜ぶ。だがこの至福に引き続き描かれるのは、手を滑らせ大切なマニキュアの瓶を床に落としたがため今度は母にこっぴどく叱られる彼女の姿だ。そして、ある日突然失われるこの母の存在。母との親密さの象徴たる誇らしい爪のマニキュアは日を経てあっけなくはがれ落ち、過ちの痕跡としてこびりついた床のマニキュアだけが拭い去れぬまま在り続けるその部屋で、京子は不安な母の不在に懸命に耐えなければならない。母が去ったのは、彼女にとってはマニキュアの瓶を台無しにしてしまった自分のせいなのだ。つまり、事の真相を知る長男明を除いた3人の子のうち京子だけは、罰を受けるように自分を責めながら、母の帰りを待つ。本来責めるべき母を罰すべくその服を売り払おうとする明を必死に阻止する役回りは、だからこそ、彼女でなくてはならない。今度こそ京子は母の大切な所有物をその身を呈して守らねばならないのだ。そうして彼女は母の代わりに罰を受け続ける。本作は、一般的に認知される通り長男明の映画だ。だがもう一方では長女京子の映画でもある。子どもが正当に子どもでいられぬ悲劇を、是枝裕和監督はこの幼き長男長女に託し、静かに見据え続ける。自分の過ちのせいで母を失い、またきょうだいたちからもその存在を奪ってしまった京子。やがて彼女は自らこそが母となることで、その罪を贖おうとする。妹を隠したスーツケースを不安に見送る弟のその手を確かな力で握りしめてやる「母の役割」を補い担うのは、やはり京子だ。その姿に私たちは、彼女が母の不在をついに永遠のものとして受け容れたことを知る。そして、子どもが子どもとして存在しうる正当な幸福を幼い彼女が痛みを伴いながらも自ら抛つその瞬間を、息を呑んで目撃する。照りつける日差しの下、もはや希望も絶望もなくサバイブし続けて行く子どもたち。生ある限り彼らは逞しく生き抜くだろう。だが、剥奪された彼らの尊い子ども時代がその手に再び還ることは、もう決してない。 |
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