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宮廷画家ゴヤは見た - 飛鳥さんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 宮廷画家ゴヤは見た
レビュワー 飛鳥さん
点数 5点
投稿日時 2014-08-09 22:48:15
変更日時 2014-08-09 22:48:15
レビュー内容
ゴヤが主人公かと思っていたら、狂言回しの役だった。
人の真の姿を浮き彫りにした絵を描くゴヤの目を通して、中世スペインでの人間模様が映し出される。
魔女狩りの拷問が神の名のもとに正義として行われていたことを思うとゾッとする。
見とれるほどに美しいナタリー・ポートマンが、15年間の牢獄から解放されたときのやつれ果てた変貌ぶりは驚き。
ポートマンは、裕福な商人の令嬢イネス、監禁後の廃人のようになったイネス、蓮っ葉な売春婦アリシアと、三つのキャラを見事に演じ分けていた。

イネスを救うために父がロレンソ神父に娘がされたのと同じような拷問をして自分が猿だとする告白書を書かせるなど、前半は面白い。
ナポレオンの進撃や、イギリス軍の反撃など、情勢が変わるたびに価値基準が一変する。
異端者を排斥していた者たちが、今度は弾劾される側に立たされる。
「正義」や「権力」がいかに危ういものであるか、人間社会への風刺がうかがえる。

唯一首をかしげたのが、ロレンスの終盤での人格の変化。
偽善者たるロレンソがなぜ改宗しなかったのか、どうしても腑に落ちない。
ロレンソは何の咎もない天使のようなイネスを異端審問所にぶちこんだ上、絶望の中で助けを求めてすがるイネスに協力する姿勢を見せながら性欲にまかせて孕ませた。
イネスとの子であるアリシアも、売春婦になっていたのを知ってアメリカに追いやろうとした。
死刑を免れるためなら平気で改宗しそうな、殉教者とは最も縁遠い俗物なのに。
人間が変化、成長することを描くのがドラマだけれど、何を経験して何を克服してそうなったのかが説得力をもって描かれていないと違和感を感じてしまう。
残念ながらロレンソの変化には、その裏づけがしっかり描かれてはいなかった。
だから、突然聖人にキャラが豹変したようで、ありえない無理筋に思えた。
この変化に説得力があれば傑作になったはずだ。

ゴヤの作品の数々が映し出されるエンドロールは、絵心のある人にはたまらないだろう。
自分にはそれがないのでピンとは来ないが、ゴヤという人間とその作風はぼんやりと伝わってくる。
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