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タイトル名 |
ミツバチのささやき |
レビュワー |
アラジン2014さん |
点数 |
9点 |
投稿日時 |
2025-04-10 12:52:12 |
変更日時 |
2025-04-12 23:00:24 |
レビュー内容 |
何十年も前に深夜放送で見たっきりでしたが、録画されていたので100インチスクリーンにて再見。やはりこの映画はよく出来ています。博識な人、そうでない人、また直感的な見方をする人であっても、、いかようにも解釈可能な映画に仕上がっているのは素晴らしいとしかいいようがありません。 この作風はフランコ独裁下での検閲回避の妙案だったと思うのですが、結果的にこの回りくどい作風が奇跡のエッセンスとなって、50年が過ぎた今見ても色褪せていません。私より少し上の世代ですが、ミニシアター系の先駆けとしてもこの映画は高く評価されているようで、30-40年前から既にオシャレでレトロな雰囲気を感じ取るファンが多かったことが伺えます。実際、音と字幕を消して映像だけカフェで流してもイケますし、幼い姉妹二人だけを見ているだけでも99分持ちます。 スペインといえばイビザ島に代表されるような温暖な避暑地という印象がありますが、この映画ではどのシーンも肌寒く寂しい。これはやはり市民戦争で国が二分した後に発足したフランコ独裁体制の歪さを表しているのでしょうか。作品の時代設定はスペイン市民戦争直後の1940年で、丁度第二次世界大戦真っ只中のヨーロッパ。フランコ政権は悪名高きドイツのファシズムに近いものがあったとされており、その恐怖感たるや凄まじいものだったと推察されます。
この映画が上手いのはアナ(アナ・トレント)と、姉であるイサベル(イサベル・テリェリア)らの純粋な表情を正しく記録している点です。演技が上手いと絶賛なさっている方もいますが、この姉妹、特にアナのほうはほとんど演技をしていないように見えます。5-6歳ではまだ演技は難しいはずですし、子供の感受性を煽って真実の表情を引き出すしかないことを監督はよく判っていて、アナが映画「フランケンシュタイン」を真剣に見ている表情、キノコの話などを真剣に聞いている表情など心底素晴らしいと感じました。 さらにアナの精神的な成長と死への葛藤に、映画「フランケンシュタイン」を絡ませた点も素晴らしく、もの心がつくギリギリの頃の幼少期の葛藤(特に死への)が非常に上手く表現されています。精霊だと信じたアナが姉の嘘を真に受けて小屋に通い、そして本当に出会うのです。この映画が唯一無二な点がここにあります。畳みかけるようにこの後の展開がドラマチックで、毒キノコのエピソードとフランケンシュタインが融合され綺麗に伏線回収されます。(父が踏みつぶした毒キノコ、アナがキノコに手を伸ばすシーンなどから、彼女は毒キノコを食べて水辺の幻覚に繋がったと解釈しました。また父を見て逃げ出したのは、毒キノコを踏み潰す流れからきっと父が精霊を殺したに違いないと感じたためだと思われます) 子供らのシーンは本当に素晴らしく、ここに書ききれないほど。列車のシーン、猫のシーン、火のシーン、アナが井戸の周りで行う儀式めいたシーン、石鹸のシーン、ミルクを飲むシーン、もちろん小屋でアナが隙間から精霊をのぞいているシーンの愛らしさったら!(リンゴや靴紐のシーンも!)
子供相手の演出の苦労もさることながら、大人のほうもフランコ独裁を声高に否定することもできず、随所に検閲回避の情緒的な演出が上手く使われています。こちらも演出がかなり大変だったと想像しますが、序盤母テレサ(テレサ・ヒンペラ)が手紙を書いて自転車で駅へ向かうシーンはとても印象深いです。手紙の内容は明らかに負けた側の視点で、落ち延びた前の恋人か友人か家族か同士に宛てた手紙であることが判ります。終盤返事が届いた手紙を読んで不自然に封筒に戻したうえで燃やすシーンも、下の【K&K】さんご指摘の通り確かにフランコの切手が見えるように燃やしていますので何か意図があるようです。また、父フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)がミツバチの研究という体で詩的な録音を行っていますが、こちらも慎重に言葉が選ばれていてなおかつ意味深で、暗に体制側を批判している内容なのは明らかです。(書いた文字を横線で無造作に消すシーンも、、そういうことなのでしょう) 序盤は寝たふりをしていた妻が、終盤旦那を労わるシーンで前向きな印象を受けますし、同時にアナの強いまなざしもまた未来への希望を抱かせつつ、この映画は幕を閉じます。本当に素晴らしい作品だと思います。(さて、フランケンシュタインも改めて見てみましょう) |
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