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タイトル名 |
ニトラム/NITRAM |
レビュワー |
Cinecdockeさん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2024-07-12 21:44:52 |
変更日時 |
2024-08-07 07:26:05 |
レビュー内容 |
「僕は、僕以外になりたかった」
先天的な軽度の知的障害を持ち、時折、強度行動障害を引き起こす青年の一挙一動に、 当事者・関係者ならではの胃のキリキリ感を思い出す。 衝動的な行為の数々に発達障害も持っていたと思うが、 早い段階で大規模な医療機関で治療を受けていれば症状を低減できた可能性はあれど、 舞台になった'90年代当時、その概念が今ほど定着しておらず、閉鎖的なコミュニティ故に周囲に理解者もいない。 両親は青年の対応の困難さにどこか諦めもあったかもしれない。
同じ孤独を抱えた元女優のヘレンによる無償の愛情によって、ひと時の安らぎを得られたと思うが、 仮に彼の悪ふざけによる交通事故死がなくても、二人の関係はいつか破綻していただろう。 それだけ彼は社会に害悪をなすシステムクラッシャーでありながら、 自分自身を上手く制御できず、一体どうすれば状況をより良く変えられるのかすら分からない。
青年は11歳ほどの知能しかなかったものの、 本名を逆さに読んだニトラムがシラミの卵(NIT)と掛けて軽蔑されていることを知っているし、 無免許ながら車の運転ができるし、単身でハリウッドに旅行することも、ライフル射撃もできる。 外見では分かりづらい"はざまのコドモ"ならではの疎外感が不意に差し込まれる映像美によって残酷に際立つ。
ボタンの掛け違いによる不運が次々に起き、家族とすれ違い、避けられない最悪の結末へ突き進む無常さ。 事件後、オーストラリアで厳しい銃規制が行われたそうだが、銃がなくてもやらかす可能性はあった。 なるべくしてなった事件のニュースの音声を母親は聞いているのだろうか。
上記の不運が重なることがなくても、彼が救われる要素はどこにもなかっただろう。 “ニトラム”という器から逃れられず、そういう存在に生まれてしまった男の悲劇。 では、どうしたら良かったのか、という重い自問自答が続く。 結局、最後は座敷牢に隔離か、現世からの排除なのか… |
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